お菓子と殺害予告
「殺害予告?」
武蔵野グローバルコーポレーション、会長室。
「うん、そう」
ずずっ
「今度の週末にある歌手のライブがあるそうなんだけど。それを爆破、歌手を殺害すると予告状が警察に届いたの」
もっちゃもっちゃ
「ほうほう、このご時世殺害予告なんかいたずらでもタイーホされるのによくやるでござる」
ごくん
「これ、この間送った剣の帯刀許可証。それと帯刀の為の特製の入れ物。あなたには帯刀して会場の警備に当たって欲しいの」
サクッ
「うーん、しかし吾が輩、その人の特別招待券当選しちゃったからお仕事はちょっと」
パクッ
「あらそうなの?なら女の子達に頼もうかしら。そうそう、その剣を入れる袋は洗濯機で洗っちゃダメよ?手洗いしてね」
もっちゃもっちゃ
「ところで」
ごくっ
「はい?」
「新しいお菓子、どう?」
「もうちょっと味が主張してもいいかなと思うでござる。マイルドですが、これは伝わりにくいですね」
珍しく会長のおばあちゃんから直接呼び出しを受けたでござる。用件はシオン・アスターの殺害予告と、新製品の味見。あのね、おばあちゃん。別にお菓子ばっかり食べてたから太っているワケではないでござるよ?デブだから舌が肥えてるとか決してそんなことはないワケでして。
「じゃ、次ね」
秘書の方が吾が輩のコメントをメモしては次のお菓子を出す。これじゃデブに拍車が掛かるでござる。
「それにしてもこんな直前に殺害予告とは」
ポリポリ
「そうねえ。ただ今回は差出人が既に犯行声明を出してるから、警察もただのいたずら扱いは出来ないの」
ポリポリ
「―――犯行声明? まだやってもないのに?」
「そう、犯行声明。差出人は第三の眼」
「サード・アイ! 国際犯罪組織で最も紳士、最も悪名高く過激な手段を選ばない連中でござる。なぜ彼らが彼女を狙うでござるか?」
ポリポリ
「この間あなたに行ってもらった中東で、あなたが捕まえてきた白衣の男。彼はサード・アイのメンバーだったの」
「なるほど。潰された研究施設と捕らわれた研究者の仕返しに、彼女を殺して我々に逆らったらどうなるか見せしめということでござるな。目立つ人間を狙えば再び吾が輩達が出ざるをえないだろう、と」
「核ミサイル強奪の裏にいたのも彼ららしいわ。それで、どう?スナックって初めて出す商品なんだけど」
「これは良いと思います。しかしこの塩の旨味は他の塩とは違うでござる」
「あらやだ、鋭いのねえ。どこから調達しているかはキギョウキミツね」
和菓子、スナックときたら次は洋菓子かな?
「次ね」
秘書の方が出したのは謎の物体だった。マカロン?シュークリーム?このどっちつかずな物体はなんなんでこざるか。
「一口サイズですが……、これはまた珍妙な」
「これは全くの新規開発なのよ」
上の生地だけ取って食べてみると、表はチョコレートパウダーで中は三層の作りだった。
「なんと。これはティラミス」
「はい、正解。ティラミスで挟んだシュークリームなの。どう?」
「甘ったるいですね。少し甘さを抑えた方が良いかと」
結局、何の緊張感もなくただお菓子の試食をして帰ってきたでござる。……リムジンで。
「ただいまー、でござる」
「ただいまー」
「おかえりー。チョコレートケーキ買ってきたから冷蔵庫に入ってるわよー」
「あ、結構です」
「えっ、お兄ちゃんがケーキに目の色変えないなんて! じゃあ二つ食べるー♪」
「体重」
「うっ」
偶然妹君と帰りが重なる。これ以上は虫歯になるでござる。テレビを見るとさっそく殺害予告について報道されているでござる。見ていると、情報の出どころはどうやら警察の公式発表ではなく、犯行声明がネットに流れてそこからという形だ。どーせ流したのも彼らサード・アイでござる。
「ね、世界一の会長室ってどうだった?」
「驚くほど質素だったでござる。言ってしまえば、THE・普通。豪華といえば豪華ですが世間一般で思いつく程度の豪華さだったのでござ」
「え? なに? お兄ちゃんどこ行ってたの?」
警備についてはサロンのメンバーでやるとのことだった。しかし本当に非常事態になる恐れもあるから帯刀はしていて欲しいと言われたでござる。なんもないといいけどなあ。