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22/202

マリー・アントワネット

ダラ…ダラ…。


(あぁ、平和って素晴らしいなあ)


いきなりアフリカ大陸に飛ばされることはなく、風呂桶が飛んでくることはない。もちろん核ミサイルだって盗まれたりしない。外は雪女さん達の一件が片付いてからは大雪も落ち着き、街はいつも通りの生活に戻ろうとしているでござる。世間もだんだんとあの事件を忘れつつある。それはもちろん根回しがあってのことだけど。


(静かで穏やかな日々を送っているでござる)

捕獲した白衣の男は事情を聞くために、楽しい楽しい拷問の毎日が待っているそうな。吾が輩は日がな毎日、こたつでスマホをいじって取引をいじって過ごすだけ。暇だしサロン行って温泉入って適当に揉んでもらおっかな~。


ゴロ…ゴロ…。


ギュッ。


「母上、抱きつくのやめて。動きづらいでござる」


「なら白状しなさい」


「さあ、なんのことでしょう」


不意に重たい雰囲気に包まれる。それは冬の冷たい空気を嫌って窓を開けないことによる、リビングの空気の淀みではない。不穏な空気だ。人の意識が加速するとき時間を越えて走ることがある。思考が不可能を可能にする。ほんの一瞬のことでさえも永遠に感じるという途方も無い現象。都合の悪いことを話すときほど時間が早く過ぎ去ってほしいと思うもの。


「出すものがあるてしょう」


「さて、なんのとこやら」


すっとぼけてみせる。もちろんそれはこちらが正しいからである。問いただされたところでやましいことなどない。いやむしろ健康的な生活を送るという意味では感謝すら要求してもいいくらいだ。


「こたつのコンセントどこにやったのよー!」


「ちょっ、スマホ揺れるからガクガクしないで。母上こたつから出なさ過ぎだしこたつとエアコン両方なんかいらないでござる。電気代考えろ」


寒さは落ち着き、降っていた雪はどこへやら。まあ雪女さん達のアレで寒すぎただけだったのかもというのもあって、暖かい日が続くので隠したでござる。というのも母上が暖房はつけっぱなし、こたつはつけっぱなし、お湯は使いたい放題してくれたので先月の光熱費水道代が結構な金額になってたでござる。


「よよよ、いつからこんな反抗的に……」


「専業主婦ならもうちょっと節約することを考えてください」


「お金が無ければ稼げばいいじゃない」


「老後の資金がカバーできなくなるでござる」


「まだ30年以上先だからいーのっ」


眠い。丸々四時間も動きっぱなしは初めてだったからか、未だに疲れは取れない。帰りも結局回収地点までは自力で飛んで敵の戦闘機にケツに火をつけられながらだったから本当にもうマジで疲れたでござる。輸送機の中でさんざん寝たけど軍用機なんかデブにはお察し下さいの椅子しかないし、かと言ってヘシン!を保ってもいられなかったでござる。家に帰ってきてからもまだふとした瞬間眠くなる。やろうと思えば布団の中で暮らすことだって出来るでござる。


(長時間変身しっぱなしということ自体、吾が輩には初めてだったし。とんでもない負担であったことも確かでござる)


何事も初めてのことは疲れるものだ。自動車学校に行って初めて車を運転した時はぐっしょりになったものでござる。乗車教習が終わるたびにトイレに駆け込んだ。そこ、デブだからいつものことだろとか言わない。


「あ、そろそろお昼を食べるでござる」


「そーねえ、なにかあったっけ~?」


「適当に余り物で誤魔化すでござる」


こんなダラけた毎日が続けば平和ボケしてしまうでござる。ま、実際平和なんだけど。戦う力はあっても出番が無い。正直運動とかしたくないからこのままフェードアウトがいいかなと思っている。絶対に働きたくないでござる!絶対に働きたくないでござる!


「そういえば今日金曜日ね」


「そうでござるなあ」


「お姉ちゃん夜に帰ってくるって言ってたから、夕飯のおかず多めにしなきゃね~」


…………………。


「ぐあっ」


「あら〜、スイカ割りが見られるわね~」


すっっっかり忘れてた!週末帰ってくるから首洗って待ってろよって脅迫されていたでござる!やばい、そんなに買い物してないから四人分もとなると一晩で冷蔵庫の中身が寂しいことに……。っていうか姉上も姉上だ。今日帰ってくるなら教えてくれればいいのに。


「…今のうちに姉上の好きなものたくさん買っておかなければ」


「贈収賄ね。タマちゃんが受け取るかどうかは知らないけど」


はあ…、また買い物に行かなければならないでござる。お昼を食べたらか、夕方のセールを待つか……。たかが割引シール、されど割引シール。吾輩とて寒いのは好きじゃないでござる、しかし頭をスイカ割りされるよりはずっとマシかと。ちょうど冬だし早めに行ってきてすき焼きでも仕込んでしまったほうがいいのかもしれないでござる。


「母上、お昼作るからそろそろ離れてもらえますかな?」


「ああんもう? ダメ~、まだもう少しこのままで~」


「聞こえようによってはいかがわしいでござる」


「ござるくんのえっち~」


このまるでダメな主婦はどうにかならんのでござるか。というか主婦なんていうのは自称で家事なんかまるでやってないただのニートでござる…。美女とパンダ、なんつって。

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