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羊羹はよう噛んで

「さて、行きますか」


「うっす」


 私達はロシアの極東に来ていた。日本はもうすぐ春だってのに極東に置いてもロシアは相変わらずロシアだった。四季というものはどこの国にもあるものだけど、その様子は経度緯度によってずいぶん変わる。アイツのおかげで私は世界を飛び回るアイドルになって色んな国も色んな人も知った。


「しっかしこんなところに幽霊出ますかねぇ」


「まー出るってんだから出るんじゃないの?」


 今回は武蔵野に入ったSOSについにタケの姉まで巻き込むことになった。タケが戦闘不能に陥った今、奴の存在が消えたことによって抑圧されていた雑魚が急にイキがって人手が足りなくなったからだ。なによりこのヤロウ、いやこのアマ全部知ってて黙ってたってのが気に食わない!


「話蒸し返すようだけど…、アンタなんで黙ってたのよ」


「生前の…、転生する前のタケとの約束でしたから。家族に危険が迫ったときは仕方ない、しかしその時までは、と」


「はぁ…、ため息しか出ないわ。私らだけが知ってたと思ってただけに馬鹿みたいにだわ」


 懐かしい銀色に輝く雪原に足跡を着ける。SOSが来た洋館の持ち主はリゾート開発事業を手掛ける企業で、曰く付きの物件でも利益の見込める土地や建物でも買い取って改装し必要なら周辺の土地再開発まで一手に担う。ところがどっこいそれが今回は悪手だったとか。普段は除霊師やらを雇ってそれなりの儀式で済んでたのが今回は上手くいかなかったらしい。


「まあまあ姐さん」


「姐さんてアンタねえ、アンタのが歳上でしょ」


 まだ私はピチピチの21だっての!


「いやあアタシのが歳下ですよ」


「歳下って…、アンタ達この期に及んでまだ何か隠してるつもり?!」


「言うてたいしたことじゃないんスけど」


 コイツら…。


「それでも、アタシらがイビツな家族でも、それが真実だとしてもそれを嘘にしてみせるためにって皆思ってたんでさあ。誰が口にするワケでもないに」


「…チッ、全部終わったら全部ゲロってもらうからね!」


 まさかとは思っていたけどコイツらはおそらく家族がその気になれば私らはおろか私らを含む全てを敵に回しても勝つほどの訳の分からない強大な戦力を持っている。それが野心も持たずに潜んでいたとは…。


「今は黙っている代わりにやることやってもらうわよ」


「りょーかい! えっへっへっへっへ、荒事は久しぶりでねえ。腕が鳴るってもんでさあ!」


「ったく…」


 洋館は周辺の村民からの通報でやたらとアブナイ噂ばかり。幽霊、洋人形、ゾンビ、怪人。不審な目撃情報の大安売りと言わんばかり、完全に誘われてんのを知らん顔しろってのが無理なくらいの話の数。


「…」


「お出まし…」


「ウーッ、ウーッ…」


 洋館に入った途端ドアは勝手に閉まり突然明かりが落ちたかと思ったらゾンビの群れ。


「どいつもこいつも…、極楽へ送ってやるわよ!」


「姐さん! コイツら全部ブチ殺していいんですよねえ! ブチ殺しでさあ!」


「喰っちまいなあ!」


「粉砕!爆砕!大喝采ィィィィ!」


「死ぃぃぃぃねぇええええええええ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ィィィィねええええ!」


 ええい数が多すぎる!胡散臭い通報だとは思ってたけどこれほどの数とは!


「キリがない!」


「チィィィィィ! レイミの姐さんに貰った札の効きが悪い!」


「コイツら中身入ってない! ゾンビなんざ半端な黄泉がえりにしても中身の魂が無ければ除霊も慰霊もクソも無い! これが中身がないならそりゃ効きも悪いわ!」


「中身が無いゾンビってそりゃ姐さんアンタ…、バイオハザードじゃ…」


「作り物の兵隊か…ますます胡散臭くなってきたわね」


「次! 来ますよ!」


「アオオオン!」


「ゾンビの次はゾンビ犬! 私はねえ! 犬が大っ嫌いなのよぉ! どいつもこいつもヘラヘラしやがって尻尾振って媚び売りやがってぇ!」


「タイミングが良すぎる!」


 窓から扉から犬っころ如きがあ!


「塞げばいいんだろ塞げばさあ! 氷瀑!」


 どいつもこいつもぶちのめして進めば進むほど数が増えるし札は効かなくなってついには直接武力による制圧に移り変わっていく。実に分かりやすい!


「分かってないんだね、なんで私らが寄越されたのか」


「あひょっ?!」


「はっ?!」


 あんた何落ちてんのよ! 落とし穴って嘘でしょ?! 今どき小学生にもウケないっつーの!


「おああぁあ!!」


「この忙しい時に何やってんのアンタはぁぁぁぁ!」


「……なんて、ね」


 コイツ、あの構え…! あれ、アイツの必殺技の構えじゃないの!








「爆掌、…天雷!」








 ちょ、待てばかあ!


「ぎえええ!」


「だーっはっはっは!」


「馬鹿かアンタはァ!」


 ちくしょう巻き込みやがって! なんなのコイツのデタラメさは! 明らかに構えは奴の一撃必殺のあのパンチなのにケタも威力もダンチじゃないの! 変身してなけりゃこっちが穴あきチーズだわ!


「なにやってんの!」


「…バイト?」


「確かにギャラは時給制だけどさー、疑問系でヤバいのぶつけんのやめて欲しいかなー」


 ヴーッ! ヴーッ!


「今度は何! 電気的なモーター音カマしやがってコラァ!」


「姐さん! 床と天井!」


「舐めんなよコラァ! こんなもんで止まる変身ヒーローアイドルやってねーっつーんだよオラァ!」


「天地大爆掌!」


「アンタが決めるんかいぃぃぃぃ!」


 天井も床も砕け散ったァ! 全っ然挟まれねえ!


「両手で出来ないとは言ってないんでね」


「何考えてんのよぉぉぉ!」


 とんでもない化け物連れてきたわあ!なんなの?!なんなのマジで!変身してもない一般人のそれも教習生が上から数える私のそれと同等、いやそれよりも上という破壊力を持っている。何がどうなってんの?


『あーあー、テステス、マイクテスト』


「うるせえボケ殺すぞすっこんでろ」


『あ、はい、そうします…。いやそうじゃない。君たちはまんまと私達の罠にハマってくれた。ここは新生物兵器の試験場でね。世界中の需要と供給に応えるために日夜研究者達が夜も惜しんで身を削っているところだ。そしてそのためにはデバッガーが必要なのだよ』


 この声…依頼人は武器商人か…、腐ってる連中の中でさらに腐ってる連中だ。


『君達は実にいいデバッガーだ…、と言いたいところだがあまりにも無茶苦茶だ。確かに今までは小手先調べだが圧倒的に過ぎる故に戦略も無くただ力押しするだけで全てがクリアされてしまう』


「雑魚はひっこんでな!」


『そこでだ、遺憾にも我々は人質を活用させてもらうことになった』


 人質?


「姐さんアレ!」


 挟み撃ちの床天井を抜けて歩いているとまた開けた空間に出た。てっぺんに魔王でもいんのかみたいな昔のRPGゲームによくある塔がそびえたつ。その窓みたいなところから私の親衛隊の一人が見える。


 サッサッサ


『マジごめん』


『あんたなにやってんの』


 サッサッサ


「姐さん…、なに踊ってんの?」


『元諜報員ともあろう野郎がこのクソマヌケ』


『いや〜これには深いワケが』


 サッサッサ


「姐さん? それなんかのサイン?」


『見ての通りだ。仲間の命が惜しくば我々のデバッグに協力することだな』


 どっから響いてきているのかも分からない拡声器を無視しておめおめと捕まってるどっかのバカに死刑宣告。


『し、け、い』


「い、嫌だあー! 俺はまだ死にたくないぃぃぃ! よこせ! 早くしないと来るぞー!」


「な、なんだコイツ!」


「うわっ、やめっ、やめろぉぉォー!」


「姐さん、何したんです?」


「皆殺しって言った」


「ご愁傷様」


 塔は登れば登るほど罠の数も質もひどいことになっていったが所詮はこの世の理に準じたオモチャ。生まれたハナっから人の枠の外で生きてきた私に通用するはずもなく一方的にぶっ放せば終わるちゃちなオモチャだった。


「こいつは…こりゃまた金の掛かってるこって」


 M2の牢屋だった。アンチマジカル、アンチマテリアルの最強の檻。問題はそこじゃない。これがどうして武器商人の持ち物になってるのかっていう。いつぞやリエッセが閉じ込められたとか銀行強盗でっていう話。どーせ超身体能力onlyにするために変身解いたところを狙い撃ちってこったろ。ミエミエなんだよドアホウ。


「ったく、どっから横流しされたんだか…」


 くいっ、くいっ


「…何やってんのあんた」


「デコピン」


「ぶははははは! アンタバカぁ?! そんなんで破れるなら面倒無いっての!」


 ドン!


「……」


 さっきまで誇らしげにしていたどっかの拡声器のバカがアホ面で呆気に取られてるのが目に浮かぶ。こりゃ私よっかひでえわ。最悪白虎呼ぶかと思ってたらなんてこたないわ。


「これの元ネタアタシなんですよ」


「元ネタ? 元ネタって何?」


「これね、欠陥があって一点集中の力ならめっぽう弱くて、下手すると一般人でもレスラーのタックルで壊れちゃうんですよ。特に力入れたのが対戦車とかだから表面温度で対戦車ライフルとか検知出来ないとプラスチック並みの硬度にしかならなくてね、まー、それこそ小学生にも破れる?みたいな?」


 なんで疑問系なの?


「一定数の熱量がプラスかマイナスに働く異能力者の瞬間的な火力を逆手に取った形なんでまー姐さんもこれはめんどくさいっすよね」


 この言い草…、私らの特徴を知っておきながら自分は異能持ちじゃないみたいな…。


「あんた一体…」


「次来ますよ!」


「グオオオオオオォォォ」


「ええい、白虎!」


 私の爪に抉れないものは無いってねえー! 喰らいなあ!


「姐さん! ゴーレム相手にデタラメしたってダメでさあ! まるごと消し飛ばすかコントローラーになってる刻印消さないと!」


「ふぅん、丸ごとね」


「あ、姐さん?」


「アームドアップ!」


 量産型の機動兵器みたいにパカパカ沸いて出てきやがってどいつもこいつも虫けらが!


「あんたらねえ、私はこんなところで止まってらんないのよ! アイツが見せてくれた世界をアイツは見てない! だから今度は私がアイツの代わりになってアイツが私の代わりに世界を見て回る! ヒーローとしてなんかじゃなく! ただの人間として、ただ一人の、たった一人しかいない大切な男なのよ! アイツはァ!」







 こういうときの気持ちを素直っていうか、赤裸々って言ったらいいのかな、日本語じゃ。








「人の恋路を邪魔する奴は氷漬けにして砕いて引き裂いて斬り刻んでェ!」







 アイツみたいなヤツともっと早く出会えてたら私はもっと素直な人間になれてたかもしれない。







「…ようやくっすね。まさか姐さんが最初とは思わなかったけど」






 体が光る。辺り一面を突き破って、私の体の内側から金色の光が溢れ出る。私の心が、私の心を堰き止めていたダムが決壊して止められない。溢れ出でて止まらない自分の心が尽きることはない。私の心は満ち満ちている。頭では分かっていても、心の中では思っていても体がついてこなかった。それが今心も体も何もかもが充実している。素直でいていいんだって思わせてくれるヤツがいた、素直になることを恐れなくていいって教えてくれたヤツがいた。


「白虎」


「なんじゃいのう」


「アンタ、なんで私を選んだの?」


「そりゃおめーさん、言わせんのかよ」


「んっふ、それもそうね」


 具現化してもないのに話が出来る。違う。今私と同化しているのは直接具現化した白虎。機械を通してリンクしてるんじゃない。心と心が通じ合って、初めて出来る具現化。相手の考えていることがなんとなく伝わってくる。相手の機微が分かるほど長年連れそった相棒みたいに。目を見たら、顔を見たら分かる。それどころか一瞥も無しに。私の鎧は白と金色の二色になっていた。心と体が離れ離れになることなんて、もう無い。






『バッ、馬鹿な?! 異能力がオーバーフローしているだと?!』


「アームドシリーズまで私のモノになってるみたいだけど、原型が歪んでるわね。こりゃレイミに叱られるわ」


『こっ、こうなれば最後の手段…!』






 一気に塔の最上階まで床天井ブチ抜いて飛び上がった先にいたのは…



 鳥?





「ただの鳥なら二本足で立たないか」


「クキェー! コォォォォォォオ!」





 コイツ…!こんなところで出会っていいクリーチャーじゃないわ…!





「コイツはヤバい…」




 この世に神様なんてのは腐るほどあるけど、目の前にいる奴は、アイツと似たり寄ったりのことをされてるわ。同じ鳥人と言われるだけあって魂の整合性は悪くないのか、コイツはかーなーり強い。今金色に光ってる私ですら戦いになるかどうかすら怪しい。



「チッ、タケ坊の劣化コピーか」


「こんな奴に負けてらんないわ、ましてや理性もクソもない奴に」


『ふはははははは! なんとでも言うがいい! ちなみにガルーダに鳥人って言ったらこれしかなかろう!』


「お前のシュミなんかーい!」


「あっあっ、ケェエエエエエアッッッ!!!」



「お前が痛がるんかーい!」



あろうことか私を無視して珠姫と組み合って両手破壊されてるゥ!握りつぶされてるゥー!








「舐めんなよゴミ」


「ケッ、ケッ、ケッ…、ゲボっ」








 ダニィ?! ここ私がキメるところじゃないの!? パワーアップしてるよね?流れ的に私パワーアップしてるよね?まさかの出番無し?!





『なっ、なんっ…だと…?』


「あんた…マジでなんなのよ…。コイツは確かにアヌンナキの魂を移植されてるはずよ…。それを一撃って…」


「ハッ、移植ってたってコピーだしそれにしたって一部でしかない。モチロンそれだけで極端な強さだ。…普通の異能力者と比べたらな」


 目の前にいる、私より遥かに強いはずのクリーチャーの、どてっ腹に拳が突き抜けて血が噴き出して、最終兵器のはずのヤツは痙攣して。何がなんなの? 普通の異能力者? 変身能力に至る能力者ですら一握りなのにそれが普通?


「世の中事情通ってのはどっから湧いてくるのか分からんモンなのよ」


 貫通した腕を引っこ抜かれた奴はそのまま床に崩れ落ちて、血の海の中で痙攣して、やがて何も動かなくなった。


(足が…動かない…、足…?)


 足どころじゃない。頭のてっぺんから足の指先まで凍りついて動かない。冗談キツいわ。氷結の騎士と謳われる私が冷や汗に凍りついて動けない? ただ、尋常じゃない怒気が空間を支配していることだけは肌で感じている。


「タケ坊の魂に飽き足らず、か」


 塔の最上階の、フロアの一部のガラス張り。そこに依頼人兼仕掛け人の武器商人がいた。この男はどうせ私らをデバッガーにして完成した兵器を密輸するつもりだったに違いない。間違っていたことは、私らをデバッガーに選んでしまったこと、珠姫の異常な強さに気が付かなかったこと。気付けば珠姫はガラスをブチ破って男の首をもぐところだった。







「しゃーからやめいゆーたに、言わんこっちゃないやん」


「?!」






 なんだこの関西弁?!





「てめえ…!」


「今の私が言えることは一つ、説明ヨロ」



 強化ガラスをぶち抜いて珠姫の手が武器商人の男の首がもげる寸前で、珠姫の手を掴んで止めた誰か。今目の前にある死体よりもさらに強いのか、感じる力が青天井だ。ついていけないなら聞いた方が早いと察した。



「てめえ、手ぇ離さねえとぶっ殺すぞ!」


 ……、なんか収拾つかなさそう。皆凍らせればヨシ!



「姐さん?!」


「ヨシと違うやろネーチャン」


 めんどくさいから全員氷漬けにした。そのはずなのに、この目の細い胡散臭い関西弁のあんちゃんと珠姫は普通に喋ってる。あー、パワーアップってなんだろなー。


「取り敢えずアンタが味方じゃないことは分かったから死ね!」


「ふん…この勝負、もろたで!」


「っ?!」


 力が逆流してる!? 違う! この逆流は私の力そのものが取り込まれていってる! 私は私の力を取り返されている?!


「ネーチャン鋭いのー。せや、この力元を正せばワイのやねん」


「ただでやられてたまるかぁ!」


 もう一撃! 直接殴りかかったがコイツに平然とした顔されると腹立つ!


「んん、こいつはあかん」


「舐めたらあかんのは珠姫だけじゃないわよ!」


 乗っ取られるなら乗っ取り返すまでよ! 引っかかったな馬鹿が!


「姐さん!それはダメだ!」


「え? …きゃあああああ!」


 力が! 力が! 抱えきれない! 抱えきれない力が! 私に流れて…あっ…。









「ここは…」


「お、目ぇ覚めたなネーチャン」


 目が覚めると拠点にしていたホテルの一室にいた。いたというか、ベッドに寝ていた。頭がぼーっとする。体が動かない、言うことを聞かない。覗き込む胡散臭い狐目がにっこり笑ってる。


 ごっ!


「痛いがな」


「顔がむかつく。あたたた…」


「姐さん、無茶しちゃダメっすよ。ほら」


 珠姫がいる。殴りつけた手が悲鳴を上げている。そばで白虎が元の獣の姿で寄り添ってる。


「その虎ちゃんに感謝するんやな」


「は?」


「ネーチャン爆裂しなかったんその虎ちゃんのおかげやで」


 白虎が耳がピクピクさせて心地良さそうに寝てる。


「写真撮ってきたで。見るか?」


 胡散臭い狐目の出した写真とやらはプロジェクターで映し出された。崩れ落ちた洋館に、少し離れたところに巨大なクレーター、雪がない辺り一面の森。横たわる血みどろの白虎。


「この虎ちゃん、ネーチャンの体に流れた力を無理矢理外に出したん。ま、そないなことしたらどうなるかっちゅーのんはネーチャンでも分かるやろ?」


 ……、白虎、ごめん。


「なんで…、なんで白虎にそんなことが…」


「そら四神剣はワイらの分身とも呼べる存在だからちゃうん」


「あんた何者?」


「少し話をしよか」




 コピーの、地球が生まれてしばらく経った頃、この世に四人の元素がいた。後に四人は原初の神と呼ばれた。四人は地球の最初の危機に命を賭してこれを守った。そして後を託すため魂を分けて転生し、復活の時を待った。そして来たる時はきた。しかし地球は再びその存在が危うい局面にいた。







「あの洋館の武器商人はワイの信奉者やね。カラミティの研究に乗っかったフリしてアヌンナキのコピーされた魂を葬るためにワイに乗っかってくれた協力者や」


「…はぁー、じゃあ何? 私らまんまと乗せられたってワケ?」


「せやな」


「原初?なら知ってるの? あのチビガキ女神がこの世界ごとこの星消そうとしてる理由」


「まあ」


「珠姫の正体も?」


「うん」


「アイツのことも?」


「せやな」


 ごんっ!


「あたたた、あー、ムカつく」


「姐さん!」


「まー、詳しい話はアイツの家に行ってしよか」


 それまでなんの記録も無い伝承から推測していたことが現実になりつつある。目の前にいるエセ関西弁。伝承から浮かび上がる疑惑。時に時間を、時に家族を、時に自分自身まで犠牲にしてまでかつての同僚が得て提供してくれた情報に、徐々に肉がつき始める。世の中の真理ってのは案外つまらないことだったりする。だけどそのつまらないことが当事者にはどれだけ重要なことか。



「姐さん、すんません…」


「謝るくらいなら最初から話した方が良いわよ。話が通じるとは言わないけどね」


 つまるところ、と頭が真実をよぎった時、電話が鳴った。非常回線だった。





「死んだ…?」

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