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大切なものとは何か

渋谷スクランブル交差点の事件から一夜明け、わたしとお姉ちゃんとダリアさんは正座にて怒られていた。


「アンタら自分が何したのか分かってる?」


激おこプンプン丸レイミさん。それもそのはず。例の鬼さんになったイケメンさんを撃破しただけでも大変ヤバい事件だったんだけど、問題はその後。


「何をどうしたらスクランブル交差点がこんな更地になるんでしょうねええええええ?! ええ?!」


巨大彗星事件の後の昨日の今日くらいで起きた渋谷スクランブル交差点事件。鬼さんになったイケメンさんを撃破した後、意識を失ったダリアさんを抱えたお兄ちゃんはダリアさんごとスーっと消えていった。で、直後野次馬を除く観客全員がチャンスと言わんばかりに次々と化け物に変貌してわたし達に襲いかかってきた。わたしは座っていたパイプ椅子を手になんとかその場を誤魔化したんだけど、うずうずしていたお姉ちゃんは変身したレイミさんが来るまでに数百人という化け物を絶滅させてしまっていた。楽しそうに。そして今レイミさんが親指で指差している後ろのテレビにはそのシーンが映っている。


「副長、それは正当防衛というヤツでして…」


「あぁん?」


「なんでもないっス…」


お姉ちゃんが大いに暴れた渋谷スクランブル交差点はものの見事に、見るも無惨に地肌が露出していた。それもちょっとやそっとではなく、全体がである。コンクリートジャングルの一角をオーバーキルしてしまったのだからもう大変。諸々の弁償は武蔵野にツケるにしても、テレビにはガッツリ写ってしまったというお姉ちゃんにわたし。


「終わったことをくどくど言うのも嫌いだけどね、こればっかりはもうどうにもならないわよ」


「いいじゃないぁいレイミちゃ〜ん、珠姫ちゃんだってやれることやっただけなんだし〜」


傍には一升瓶片手にファングさん(何故か変身してる酔っ払い)とお母さん(いつも酔っ払い)。この飲兵衛2人はもうどうにもならない。デキ上がったら最後吐くまで正気に戻らない。


「吾輩としても擁護のしようがないでござる」


久しぶり復活お兄ちゃんは飲兵衛達にツマミを作っている。愉快なオブジェにされていたお兄ちゃんは事が終わってから復活したんだけど、この復活に掛かるまでの時間は長すぎる。また私の知らないところで何か起こっているに違いない。


「せめてロイヤルセブンの誰かに連絡してくれれば、野次馬の中にでも観客の中にでも潜んでいられたのにでござる」


「アンタもアンタで説明することあるでしょ」


「何が?」


「何がじゃないでしょ! そこにいる鳥頭と犬頭はなんなのよ!!」


私の知らないところで何か起こっているに違いない。それはつまりレイミさんの指差す先、私たちの隣で正座している鳥の人?と犬の人?らしき半裸の方々。


「また鳥頭って言われた」


「最近の現代人って無礼だよな」


最近の現代人という一行で矛盾を孕むセリフ。昔の人に会ったら昔の現代人とでも言うのかな。


「いやいや、どっから見ても鳥頭と犬頭でござる」


「おお息子よ、お前も無礼だな」


どっからどう見ても人間じゃないよねこの人達…。いや人間じゃないからこの人達って言うのもおかしいよね。しかもなんなの、お兄ちゃんのことを息子って。いくらなんでもこんなのを親に持った覚えはありません。


「あの…、お二方はお義兄さまとはどのような関係で?」


「うむ、親子である」


「違うでござる」


「タケは黙ってろ」


ダリアさんは正座しているけど脚だけ変身している。この人器用だなあ。他の人がそういう部分的な使い方してるの見たことないんだけど、この人は部分的に使ってズルをしている。レイミさんがここを突っ込まないのは、自分達が忙しくて気付いてあげられなかったからという負い目でも感じているのかな。


「まあなんだ、色々あるとは思うがまず、君達が今対立している神、そこの三人がこの間会ったという少女は世界を管理する神だ。我々はこの星にいる神だ。そして平たく言うと我々は君達の味方だ」


「神様が味方…」


「そうだ」


「我々はこの世界、この星にいる神だからこの世界ごと消されると我々も消滅してしまう。故に君達とは一蓮托生なのだ。女の子が言われて弱い言葉にすると運命というヤツだな」


「テメー女馬鹿にしてんだろ」


「実際事実であろう」


「そうかよし今からお前の頭がトマトみてーに潰されんのも運命な」


「アタタタタ!」


「やめなさい教習記録抹消するわよ」


「すんませんっした」


まずい。この流れは皆戸惑ってる。ただでさえ9人目、女性メンバーだけで言うとある意味では正式な8人目を育ててしまいさらにソッコーで全世界デビューさせてしまっただけでもかなりの追い討ちなのに、こともあろうに神様を自称する半裸の変態仮面を家に上げてしまっている。でもなんか…、この2人教科書で見たことあるような無いような…?


「ホルスはそれ食べたらダメでござる。それ鳥の餌じゃないから、酒のツマミだから」


「えマジで? いや鳥頭してるけど俺鳥じゃないからね? つーか今ホルスって」


「とにかく!」


レイミさんがぶった斬った。


「アンタらは二度と勝手な真似はしないこと! 今回の件についてはペナルティを課す! 珠姫!」


「ウス!」


「二週間の謹慎処分を言い渡す!」


「え゛ぇー!」


「その間にファングと一緒にある館に行ってもらうわ。つまりアンタもコッチの仕事してもらうからね」


「え゛ぇー?! なんで?! なんでアタシもペナルティなの!」


「アンタはアンタで破砕作業しないでスカイと遊んでたでしょう!」


「巨大彗星で超速ロッククライミングしてどっちが速いか楽しかった」


「馬鹿でござる」


「YouTubeに動画アップされて遊んでんじゃねーよって苦情来てんのよ! 次! ダリア!」


「あ、はい」


「あ、はいじゃねーわよ! アンタはカレンがいないのに生徒会ほっぽって何してんのよ!」


「まず生徒会長も副学園長も学園に来ないのに私だけ責め苦を受けるのはおかしいですわ」


「それもそうね! ちっがうわよ! アホみたいに仕事溜め込んでんじゃねーよって言ってんのよ!」


レイミさんのキャラがぶっ壊れてる。この人もこの人でロイヤルセブンをまとめる立場にいるだけで相当な苦労があるんだろうね。しかもお兄ちゃんに聞くところによると、会社の武蔵野の仕事と学園での副学長としての仕事もやってるって言うんだもん。いつ寝てるのってくらいだからひょっとして今疲れて眠たいのかも。


「アンタはしばらく変身禁止! 授業出席禁止! 生徒会の仕事に片がつくまで一切の学園に関わる行事にも出席禁止!」


「なんということでしょう。私は私の人生を左右する勝負を勝ってみせたというのにこの仕打ち」


「やり方ってもんを覚えろ!」


「なんか人間って大変だな」


「だな。人間に生まれんで良かったわ」


「アンタら雷で焼肉にして挽き肉にするわよ何しに来たの」


「伝えることがあるから来ましたごめんなさい」


「とっても重要なことなんですごめんなさい」


まあ…なんかあるよね。たとえこの人達がただの変態だったとしてもなんかしら目的があるからここにいるんだよね。







「戦野武将、しばらくの間貴様の変身を禁止する」








なん…?



「えっ、吾輩も?」


「そうだ」


ツマミを運んできたお兄ちゃんが硬直する。意味が分からない。お兄ちゃんはここ最近何かやったかって特にダメージを受けるようなことはしていないはずだけど。


「お前、まだ例の腹部に受けたダメージを引きずってるだろう。完治するまで変身を禁止する」


「言い逃れは聞かん。お前は家族にも黙って椿という女の医者の世話になっているな? 本人からカルテからレントゲン写真からMRI画像まできっちり言質を取ってある」


「…っ!」


「タケ、お前」


「お兄ちゃん…?」


「……」


まさか…まだ治ってなかったの? 家に帰ってきて真ともみんさんから事情を聞いた時は冷や汗かいたけど最後はホッとした。でもそのとき真ともみんさんと知らずに真ともみんさんに手を出して、たまたま顔見せに来たリエッセさんの怒りを買って愉快なオブジェにされてた。それから数週間経ってようやく復活した。


「アンタまだこの期に及んで隠し事してんの? バカねえ。隠し事なんていつかはバレるのがたいていなのに」


「酔っ払いは黙ってなさい」


「アヌンナキ」


「ぶふぉっ!」


「え゛っ」


「ちょっとお母さん汚い!」


「マジかおいマジか」


「貴様、我々ですら秘匿するそれをよくぞ調べたな…」


「うっそぴょーん」


「なに?!」


「調べはしたわよ? でも確証がなかったからアンタ達のリアクションを見させてもらったわ。お義母さままで反応するのは想定外だったけど」


なに?なに?なんなの?皆して隠し事してるの?


「まあ話すか話さないかは未来の旦那様に任せるわよ。どっちこっち全てが終わって最後に私達が笑ってないと全部パーなんだから」


「まるでついていけませんわ……」


「椿先生には私から話を聞いておくわ。ねえ武将くん、その様子じゃ本当に治ってないんでしょ。2人のなずなさん達はアンタの部屋で遊んでるけど、アレはただ力で映してるだけのホログラムよね? 本物の2人は今あなたの体の中にいる。四神剣の青龍だってずっと具現化しないで剣のまま居間に飾られたままじゃない。少しでもあなたの負担にならないように離れてるんでしょ」


お兄ちゃん……。昔からわたしたちのこと守ってくれてたけど隠し事させるほどになってたなんて…。わたしは、わたしは目の前にいて何にも気が付かなかったなんて…。そんなにお兄ちゃんが傷付いていたのに。


「ごめんなさい…ごめんなさい…」


気が付いたら涙が止まらなかった。家族が、唯一血の繋がるお兄ちゃんが、命が危ぶまれるほど傷付いていたのにわたしは甘えるばっかで居間お兄ちゃんがどれだけ大変なことになっているのかなんて考えさえもしなかった。


「瑠姫、お前が謝ることじゃねえ。いや、お前一人が謝ることじゃねえ」


「タケちゃん。昔から無理だけはしちゃダメよって言ったじゃない」


「…申し訳ない」


わたしはいつも守られてるばっかりだった。だから今回のダリアさんのことでも感じることはあった。わたしは甘え過ぎているんじゃないかと。だからこの世界を消そうとしている神様っていう女の子相手に体が動いた。あの子は本当に少ししか待ってくれなかった。渋谷にあれだけの化け物を短期間で集められるなんて。今回はたまたま無事だったけど、そうじゃなかったらわたしはまたお兄ちゃんに甘えるつもりだったのかもしれない。いつも誰かが守ってくれるから今日もどうにかなると甘えていたんだと思う。


「戦野武将よ、我が息子よ。家族に心配させまいとしたことが却って心配させることがあるのだ。ま、今回は我々がバラしたのだがな」


「大切なもののために、大切ものを傷付けないために。貴様らの言わんとしていること、やらんとしていることは分かる。だが今回はそれが仇となった、その対価が貴様の体の限界だ。巫女二人が四六時中回復に努めなければならないほどにダメージを負った。そしてそのダメージを負わせた者はまだ生きている」


「故に貴様らに試練を与える。今ここにおらぬロイヤルセブンにもだ」


「【大切なものとは何か】、もう一度よく考えろ。貴様らには足りぬところがある。己なりの答えを見出せ」


「さもなくば、貴様らのその力、我らが取り上げる」


わたしが、わたしが悪いんだ…。

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