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決戦は金曜日

なんやかんやで一週間が経った約束の日。渋谷は本当に封鎖されて貸し切りになっていた。だけど人だかりはいつものそれよりも多く、渋谷のスクランブル交差点は完全満員御礼状態ですし詰めの観客で賑わいひしめき合っていた。


「すげえ人だかりだな」


「これじゃ私たちが悪者みたいじゃん…」


もはや人は観客エリアにとどまらず、観客エリアの外や周りのビルからも溢れかえっていた。


「ほっとけ。アイツらがどんなフカシこいたか知らねえが勝負ってんなら強え奴が正義だ」


「……」


「見ろよお嬢の落ち着き様を。伊達に修羅場くぐっちゃねえな」


「ふええ。だいたいなんでわたしまで…、終わったら学校で質問攻めになりそう」


既にフェンシングの格好をしたダリアさんがわたし達の先頭で立っている。わたし達はすぐ後ろの関係者席でなぜかパイプ椅子。向こうは豪華できらびやかな装飾で彩られたふかふかのソファにセレブな方々が、あからさまにイヤミな笑みを浮かべて優雅にティーカップを揺らしている。笑みを浮かべてるっていうか完全に馬鹿にして笑ってる。


「おい! そろそろ時間だぜ! お宅のボケナスはいつになったらツラ見せるんだよ!」


「まっ、なんて下品で野蛮な言葉遣い。何類かしら」


「人類だバカヤロー。来ねえぇんなら帰らせてもらうぜ! こっちだって暇じゃねぇんだ」


「ハハハ、彼女らは類人猿なんだよママ。我々人類と違って寿命が短い。だから生き急いでいるのさ」


「どうでもいいけど上からなんか来たよお姉ちゃん」


「無視……」


「あぁん?!」


実を言うとお姉ちゃんがここまで人に手を出さないのは奇跡。七条さんの苦労が想像に難しくない。ボケツッコミをしていると誰かが上を指差したから見上げるとなんとフェンシングの格好をした男の人がパラシュートで降りてきた。


「父上母上、遅れて申し訳ありません。飛行機の離陸前に天候不良がありまして少し時間が掛かりました」


「ハハハ、気にするな我が息子よ。時間通りだよ」


「相変わらずパーフェクトよ」


「はい! 今日もパーフェクトです! スーパーパーフェクト超人イケメンです!」


なんだこの絵に描いたイケメンcv宮野真守。敵に回った宮野真守とか知らないよ。でもこっちだって貴族のお嬢様だし、cv沢城みゆきだし。というかパラシュートで降りてきたってどこから?いや空からだよ。飛行機で来たんじゃないの? 嘘でしょ? 飛行機から飛び降りてぴったりこの渋谷のスクランブル交差点に降りたって言うの?


「やあ、久しぶりだねダリア。今日も美しい君と出会えて僕は幸せだよ」


「ペッ」


ダリアさんツバ吐いたぁぁぁあああー!!!


「もうダメだ死のう……、僕は今日死ぬんだ…………」


そしてイケメン打たれ弱わー!!!


ダリアさんもつい最近まで普通のセレブだったのにどうしてこうなった?! あぁ、やったのわたし達じゃん。死ぬまで追い込まれてたらそりゃやさぐれるよね。矢車さんならぬやさ車さん状態だよ。周りの観客も全然着いてこれないみたいでどよめきとほのかに罵声が混じっている。まあわたしも着いていけてないけど。


「ダッ、ダリア!!! 何をしている! 誰に向かってツバを吐くなどと!」


「あら、これはこれは。私を売ったお父様ではありませんか」


向こうの関係者席から恰幅の良い紳士が出てきた。わたしからみたらただのおっさんに見えるけど、お父様?


「お前が家に反旗を翻し家出など! おかげで母さんは倒れて床に伏せたぞ!」


「だからなんですか? 私を売り飛ばし、それを受け取ろうとする輩共なぞに用などありません。さっさと最強の騎士とやらお出しなさい」


「っ!! 親に向かって用無しとはなんだ?! ダリア!!」


「まーまーまーまー、僕のダリアもこの大舞台に緊張しているんですよ。なんてったって今日は世界大会決勝を模した特設ステージなんですから」


お、イケメン復活した。


「いつから私はあなたのモノになったんですか、汚らわしい」


「僕の人生は終わったんだ……」


やっぱ弱かった。


「なに、キミがそんな強気でいられるのも今のうちさ。なんてったって我が国最強であり護衛騎士団長は…、置いてきた」


「なんですって?」


ええー、対戦相手置いてきたー。マジかこのイケメン。思い返せばおかしい。何でこの人がフェンシングの格好してるんだ。本来はそれは最強の騎士とかいう人が着てなきゃいけないのに。


「よっしゃ帰ろう」


「待って待って。せめて理由くらい聞いてあげようよ」


「キミ、優しいね。第二夫人にどうだい?」


「説明するか死ぬかどっちかにして」


「僕の扱い…。僕の騎士はね、僕より弱くなってしまったんだ。だから置いてきたよ、【棺桶】の中にね……」


「!!」


………まじ?


「てめえ、自分が何したのか分かってんのか!」


「ふん、野蛮人め。こんな女が教師になるなどとは武蔵野も腐ったものだ」


「ブッ殺す!」


「お姉ちゃんステイ。お姉ちゃんが暴れたら渋谷の交差点が血の海地獄になるから」


「止めんな瑠姫!!!」


「その通りですわ」


え?!


「それは私の役目ですわ」


「ダリアさん……」


目が釣り上がって血走ってる…。


「ああ僕のダリア、そんな恐ろしい顔になって可哀想に。すぐに元のキミに戻してあげるよ」


言うやいなや、どちらが先とも後とも無く二人は歩き出した。お姉ちゃんを止めたダリアさんは相手のイケメンを睨みつけたままゆっくりとステージに上がっていった。正直今のダリアさんは人並外れた肉体と身体能力を得たから大丈夫とは思いたいけど、いかんせんルールの方は結局スマホで調べた以上のことはやってない。もし何かルール違反になればこっちが危うい。


「見て分かっていると思うが、ここには審判機も無ければ判定機もない。ルールは単純。どちらかが死ぬまで、使うサーベルは真剣」


「へぇ…、死ぬ覚悟がおありなのね」


「覚悟? 僕にはそんなものは必要無いよ、なんてったって僕の勝利は約束されているからね」


「………」


「なによりキミは僕と違ってスポーツや武道武術の類をやってこなかった。そのくらい僕でも知ってるよ」


「ハハハ、我が息子よ。将来の妻をあんまりいじめてはいかんよ。だが早く終わらせてくれよ? 今日の祝杯のために蔵から一本ワインを持ってきたからな」


「まあ! あなたったら!」


「申し訳ありません、私の娘が飛んだ御無礼を!」


「なに、気にすることはないさ。私とて若い頃は何でも反発したくなったものさ、ハハハ」


「フフフ」


いいなー、わたしもワイングラス片手に膝の上の猫を撫でるなんてやってみたいなー、なんて思っている内に二人にサーベルが渡された。ダリアさんにサーベルを手渡した人はその場に崩れ落ちた。…これは手加減の練習は無駄だったね。


「? どうしましたか? 早く下がってください」


「無駄だからお宅で下がらせてやんな、…気迫だけでイっちまったんだよ」


「はは、まさか。たまたま具合が悪かったんだろう、さあ、誰か肩を貸してあげてください」


「………!! たっ、タンカを! 誰かタンカを持ってきてくれ!!」


青ざめたスタッフが自分自身も信じられないと言う顔で叫んだ。抱き起こされたスタッフは完全に血の気が引いていて青ざめていた。恐怖に染まったそのままの顔で表情が凍りついている。わたしはもー知ーらない。


「き、気絶している…」


「なん…」


「さあ、始めましょうか。スーパーパーフェクト超人」

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