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ラスボス降臨

この間の夜、真ともみんのベッドに夜這いして嫌な予感を感じた(語彙力)。


(やっぱりヤバすぎる…。完全に殺しに来てる)


鍛錬の名を借りた一週間の修行は期間の半分を過ぎたところで、基礎体力の強化から決闘手段であるフェンシングのトレーニングに変わっていた。と言っても使っているのは本物のサーベル。当たれば曲がる競技用サーベルと違い真剣なので当たればもちろん突き刺さる。


(いくら魂の状態でだって言っても、間違って胸に刺さったら死ぬんじゃ…)


今日から部活だけでなく学園も休み、朝から夕方までみっちり修行という過酷な内容。


(もし間違ってダリアさんが死んだらわたしは無理矢理連れてこられたって言っとこ)


目の前で全身傷だらけにされ苦悶の表情で呻くダリアさん。まだ朝から始まって二時間と経っていないのにこれだ。真ともみんさんの、こっちのともみんとどこが違うってこういうところ。まるで容赦が無い。この真ともみんさんが作り出しているという異空間では一度も変身を解いていない。異空間に変身した状態で入って、現実に戻ってきたら変身を解いている。手加減の仕方もひどい。ギリギリまで追い込んで…というやり方ではなくて、死ななければそれでいいというスタイル。魂から現実の肉体にまでダメージが貫通してようが関係ない。同じ変身能力者相手なら分かるけど一般人相手にそれは完全に殺しに来てる。


「ほら、早く立ちなさい。時間も相手も待ってくれないのよ」


「うぐぅぁぅぅぅぅぅ…!」


白かったフェンシングの衣装はもうそのほとんどが真っ赤に染まり、もはや白い部分を探す方が難しい。正直痛々しくて見ているわたしも辛いんだけど、真ともみんさん曰く間違いを起こさないためのセーフティとしても連れてきてるそうなので、そう言われたのを断ったらダリアさんを見捨てるようで断れなかった。


「あくまでこれはフェンシングの練習だからサーベル使ってあげてるけど、本当なら指一本あれば足りる話だからね」


人のこと指一本で殺す気とは完全にやばい人ですありがとうございました。一般人と変身能力者がどれだけ違うかっていう証明でもあるんだろうけどね。ダリアさんもダリアさんで未だにどれだけ何言われてもどんなにボロボロにされても立ち上がっている。正直その根性は蝶よ花よで育てられたお嬢様のそれじゃない。真っ白かったフェンシングの衣装を真っ赤な血塗れにされてもまだなお立ち上がる姿は一般常識で言えば異常の一言。


「ハァー…、ハァー…」


もう一つおかしなことがある。いくら魂だけの状態でトレーニングしてるとはいえダメージは完全に現実の魂に貫通している。もちろん次の日のトレーニングに異空間へ来た時にその影響も魂に返ってきてる。前日の疲れを残したまま次の日を迎えて過ごさなければならない。これは日常生活と同じ。ただし日常生活と比べて内容はおかしい。この異常な状態でダリアさんは立ち上がっている。立ち上がり続けている。


(現実ならとっくに大量出血によるショック死とか失血死のレベルでまだ立ち上がる…。魂だってそれ相応のダメージを負っているはずなのに。ゾクゾクするわ…)


(真ともみんさんがしちゃいけない顔してる。あれは何かよからぬことを考えている顔だ)


「もう一度…、もう一度お願いします…」


本人は意識が朦朧としているせいなのか気が付いていないのかな。ダリアさん、あなたのそれは超再生の片鱗だよ。もしかしたらもしかするかもしれない。


「なかなか楽しそうなことしてるのね。私も混ぜてくんない?」


わたし達3人の誰でも無い声が突然、上から降ってきた。


「アンタ誰よ!」


「あの…どちらさまで?」


「初めまして。私が統合統率管理者。あなた達が喧嘩売ってる相手よ。いわばこの世界の神、あなた達のラスボスね」


まるで神様が空から降臨するかのように、眩い後光に照らされながらゆっくりと降りてきた。


「神様でもフリフリの白パンとか履くんだ…」


「初対面でパンツの感想やめて」


「このクソババア!」


真ともみんさんは突然、猛烈に身体中からオーラが噴き出しながら突撃したけど自称神様とやらの女の人に一撃で伏された。


「ぶっ…」


一撃KOされた真ともみんさんはその場にうずくまり、口とお腹を手で押さえて堪えているけど、吐血して吹き出した血が溢れ出て滴っている。そんなバカな。空間を作り上げるほどの実力者をたった一撃、それも適当なパンチで悶絶させるだなんて。こんな普通の女の人が? でたらめもいいところだよ。直感が命の危険を警告する。だけどわたしは自分でも驚くほど落ち着いていた。他人の空間に勝手に入ってきて、しかもその空間の主を適当パンチで一発KO。逃げようにも自分でこの空間から出る術はない。


「私に逆らおうなんて100万年早いのよ。私の管理から逃れようなんて許さないわよ」


神様を自称する女の人は真ともみんさんをゴミを見る目で見下ろしている。私の管理から逃れようとしているってどういうこと?


「あの…、神様とかラスボスとかいまいち話が飲み込めないんですけど」


「だっ、だめです瑠姫さん!! 近づいてはなりません!」


「死に損ないは静かにしててね」


「んんっ?! んーっ! んんーっ!!」


「神様が一般人に緊縛プレイしてる」


「人聞きが悪い」


自称神様の女の人はかろうじて立っていたダリアさんに向かってスッと手を翳すと、どこからともなくロープが現れて縛り付けて猿轡させた。こういうのはお兄ちゃんの部屋にある薄い本で読んだことがある。ボロボロになった女騎士をうんたんうんたんする話。たくさんある薄い本の中には今みたいな緊迫プレイのモノもあった。そうか、この神様変態か。


「あなた…、私が恐くないの…?」


「ウチには家族にも知り合いにも変態多いので」


「違う、そうじゃない」


近づいて話しかけると神様は困惑してた。よくある話だけど神様は一人でいることが多い。特に女神さまは一人で現れることが多い。つまりは可哀想なボッチなのだ。神道という宗教のある国に生まれた人間としてはボッチな女神さまには優しくしなくては。


「自分が殺されるとは思わないの?」


「わたしなら相手の上に出た瞬間に不意打ちでトドメ刺しますけど、神様はなんでそうしなかったんですか? 殺す気が無かったからですよね?」


「あなたの将来が心配ね」


まあたしかにテストの点数は中卒引きこもりのお兄ちゃんより低いですけど。正確に言うとお兄ちゃんは頭良いのに引きこもっただけなので、決してわたしの頭が悪いワケではないですけど。神様に心配されるのも心外かな。


「まあいいわ、話を知らないってんなら簡単にでも教えてあげる。この子ら異能力者はね、様々なグループ企業を統合統率する社長である私の方針に付いて行けないから、無理矢理グループを脱退するって動いてるのよ」


「たいていの場合社長に付いて行けないって無茶振りだと思うんですけど」


「簡単なことよ。創造主の願った通りの成長をしなかった世界を消すだけよ。そしてそれがたまたま貴方達の世界ってだけ。それに対抗するからこうやって消しに来た」


「つまり私たちに死ねと?」


「ひらたく言うとそうなるわね」


勘弁してほしい。わたしには既に大学卒業からその先の進路まで、果てには武蔵野グループが無くならない限り保証された華やかな人生が待っているのに死ねだなんて。次はどんな人生が待っているのか分からない、だからこそ今ある人生を楽しみたい。お金持ちになってサロンに通って楽しく仕事をしてイケメンの側室を作りたい。そしてBL同人界の頂点に立つ。死ねと言われてはい分かりましたとは言えない。


「それは無理な話ですね。生きてる方としては顔も名前も知らない神様の思い通りなんてそんなもん知ったこっちゃないんですよ」


「管理者としてもあなた達の理解なんて知ったこっちゃないわ。私の操作一つで消えるのよ。恨まれようがどうでもいいわ。こうしてあなた達とお話しするのもただの意思確認で仕事の内。そして私はもうすぐ定時を迎える。だからあなた達を消して今日のお仕事はおしまい」


「うわー、中間管理職…。しかも神様が夜勤ですか?」


「ふっ、仕方ないのよ…。言ってしまえば日本とアメリカ。あちこち時差が大きい上に世界しゅっちょうさきの時間に準拠するって決められてるんですもの」


よくよく見ればこの女神様、目の下にクマがある。お兄ちゃんやお母さんにもこの女神様を見習ってほしいものだね。あの二人は絶対クマが出来るほど働いたりしないから。


「では一つ取引しませんか?」


「取引?」


「わたしが今回の件も含めて色んな人に交渉してみます。創造主とやらの願いも教えてくれるならそれも交渉材料になります。わたしが交渉している間、世界を消すの待って貰えませんか?」


「私にメリットが無いわよそれは」


「わたしが交渉している間、私たちの世界についてはサボれますよね?」


「それだけで消すなと言われても根拠が弱いわ」


「デメリットもありますよ」


「えっ」


「ここでわたしの言うこと聞いてくれないなら、わたしがさっき見たフリフリの白パンツ、フルカラーで完璧に模写して世界中にばら撒きます。アンダーアングルでコスプレイヤー盗撮するカメコと同じアングルで、です」


「!!」


女神様の顔色が一瞬にして青ざめた。お兄ちゃんの言う通りだった。女の人の下着は交渉材料になると。こんなゲスな交渉するのはちょっと嫌だけど消されるよりマシ。たとえ神様を羞恥の地獄に叩き落とそうと自分の人生には代えられない。一つ間違えば今ここで魂を殺されかねないんだからこれくらいはね。なにより状況が最悪だ。こっちには真ともみんさんにボロボロにされたダリアさんと、一撃で行動不能になった真ともみんさんしかいない。わたしに戦闘力なんてない。あるのは口先だけ。ぶっちゃけ足が震えて止まらない。そんなわたしよりも青ざめて震えが止まらない女神様。


「分かったわ…、もう少し待ちましょう。待つからそれだけは許して…」


勝った。今ここでわたし達を消すという選択肢を消せた。ここまで動揺するとは思わなかったけど、相手の思考を奪えばこっちのもんよ。


「分かりました、ありがとうございます。もし少しでも約束破ったらアンダーアングルオンリーイベの撮影会に一人で出てもらいますからね」


「ひぃっ」


どんだけオタク嫌いなんだこの女神様。まあわたしもああいうカメコはキモいと思うけど。

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