決意新たに
前回までのあらすじ!
主人公→全裸で愉快なオブジェ
学校の金髪縦ドリルお嬢様な生徒会副会長→政略結婚させられちゃうよ!
断りたい→決闘しろや!
じゃあ鍛える!→普通の人間じゃなくなるよ!
「私は───やります」
「いやっ、ちょっ、ええ?!」
いくらわたしでも驚きを隠せない。そりゃ好きでもない人と結婚させられる、しかもそれが政治の道具だなんて絶対嫌かもしれないけどいくらなんでも自ら道を踏み外そうだなんて。というかこの人に迫る選択肢が酷すぎる。政略結婚させられるかいわゆる超人になるかの二択しかないだなんておかしい。お嬢様って言ったらセンス持って高笑いしながら華々しい人生を歩んでイケメンと結婚するってそういうもんでしょ?!
「ダリアさん何言ってるんですか?! 今ロイヤルセブンがどうなってるかなんてダリアさんでも知ってますよね?!」
「もちろん、存じ上げておりますわ」
「じゃあなんで…!」
ロイヤルセブンはあからさまに行き過ぎた強さや武力のために人類の敵だとまで言う人が現れる始末。人類滅亡するレベルの隕石を止めたんだからそれも仕方ないといえば仕方ないかもしれない。今の今までどれだけ無償の奉仕を積み上げてきていたとしても、一瞬でそれが恐れや憎しみに代わって彼女達を排除しようとしている。そんな中でも彼女達は人々を助けるために日々戦姫として身を粉にしている。
「確かに逃げてしまえば穏やかで平和な日々が送れることでしょう。別人扱いでとはいえ、故郷に帰ることも出来る。寂しさはありますがさほど不便は感じないでしょう」
「じゃあ!」
「しかし、同時に思うのです。自分の人生に、ロイヤルセブンの方々やお義兄様を切り捨てるだけの価値があるのかと。自分の人生と他人の命、私は他人の命を取りますわ」
一片の迷いもなく真リエッセさんの目をまっすぐ見て話すダリアさん。いつの間にこんな覚悟を決めていたんだろう。感づいていても口にしない、そうやって巻き込まれないようにしてきた人が自分からその道に進むとは一体どんな気持ちなんだろう。
「確かに私の人生も、命も大事ですわ」
「ならっ」
「でも、貴方達も大事ですわ」
「ダリアさん…」
わたしがどれだけ反対しても決意の籠もった瞳に揺らぎは無い。この人の気持ちは推し量ることができない。惚れた腫れたで人間やめるなんてそんなワケない。仮にそれでだとしたらとんでもないことだ。下手すれば故郷に帰れないどころか、世界中を敵に回してるメンバーに名を連ねると分かっているのかな。
「決まりだな。まやるだけやってこいや」
「修行したとしても才能も素質も努力も足りなければ、どっちみち大した成果にはならないですしね」
「…才能も素質も努力も足らなかったらどうなるんです?」
「んー、分かんない☆」
分かんない☆じゃねーよ!
「ホントにこんな人達に任せていいんですか?」
「うーん…」
一抹の不安を抱えながらも鍛錬は始まった。わたしの家にダリアさんと真ともみんが泊まり込み、付きっきりの鍛錬。たった一週間の、それも学校が終わってから夜の8時までという、とても鍛錬とか修行とか言えるような時間の取り方では無かった。が、内容は実に殺人的、というよりいっそひと思いに殺してくれた方が楽だった、間違った道を選んだと思わせるほど残酷なものだった。
「早く立ちなさい」
「はっはっはっはっはっ……、くぅっ」
初めて家に来たときの見目麗しい姿はもはや現実世界に戻ってきたときだけだった。あちこち腫れ上がり、髪や爪はボロボロ、肌のケアなんかしても次の日には前の日より酷くなる始末。魂を引っこ抜いて精神世界で鍛えるという話だったのに、なぜかわたしも同行させられてなぜかおなじ修行を受けた。解せぬ。わたしは戦いとか世界の管理者がどうとかキョーミ無いんですが。
「まったくもって解せぬ。早く漫画の続き読みたいのに」
「ぐぅぅぅッッッ」
「しかもフェンシングで決闘なのに3日経ってフェンシングのフの字もない。変身した真ともみんに一方的にボコられるという内容」
「それでも現実世界に戻ったとき、肉体にもダメージが出ているだけ成長したのね。ただの一般人が大したものだわ。瑠姫ちゃんは私の修行いらないわね」
ケロッとしているわたしの横で脚を震わせながらなんとか起き上がるダリアさん。精神世界で用意された道着はボロボロもいいところであっちゃこっちゃポロリしてる。お兄ちゃんがいたらダリアさんのボロボロ具合なんかほっといてむしゃぶりつきそう。まあこんな鍛え方そもそも許さないかもしれないけど。
「ふぅぅぅぅッ──! ふぅぅぅぅッ──!」
ダリアさんもダリアさんで驚異的だった。過負荷過加速の状態で、初日は起き上がるまでも行かないと踏んでた真ともみんの予想を裏切ってラジオ体操までこなしたのだ。さらに昨日は一方的にボコボコにされながらもスパーリングと呼べるほどに動けるようになり、今日は更にその一段階上がって手加減の少ない状態で打ち合い今日の鍛錬を終える時間になった。昨日と一昨日は、鍛錬が終える頃には息も絶え絶え起き上がることも出来ない状態だった。それが三日目にして立ち上がり、息を整えてファイティングポーズを再び取るまでになった。真ともみんに聞くところによると、わたしはお母さんやときどきお父さんの波動を受けていて、それが何十年も続いた結果既に並の人間の枠には収まってないらしい。両親が只者じゃないことはいつかのリエッセさんの実家帰省騒ぎのときに知ったけどまさかそれほどとは思ってなかった。
「今日はこれまでね。明日からは剣を用意して、学校も休んで一日中やるわよ」
「はい…」
「こりゃ今日も出前ですな」
苛烈極まる鍛錬に耐えきれてはいないのか、最初ダリアさんがご飯作ってくれるという約束は一度も守られていない。というのも初日からダリアさんの肉体までダメージが貫通して現実に戻ってもご飯を作るどころじゃなかった。何回も死にかけるまで追い込まれその度に治されまた死にかけるまで追い込まれる。学校も半日しか行ってない。体中筋肉痛が走りアザだらけ傷だらけ、骨折してないだけ救いと言ったところ。魂だけで言ったらもう何回、全身のあちこちを打撲や骨折したか分からない。昨日はお風呂で気絶して沈みかけた。一緒に入ってなかったら死んでた。顔のアザや傷はお化粧と絆創膏でなんとか誤魔化したもののめっちゃ怪しまれたし心配されたらしい。お寿司、ピザは食べたから今日はラーメン餃子チャーハンセット、大盛りで。
(よくやるよホントに…。わたしをダリアさんを間違って殺さないためのセーフティとして一緒にいさせてるって言ってたけど、ということは真ともみんさんは最初から手加減してない。手加減してたとしても半分くらいは本当に殺す気でやってる。全力だったらとっくに死んでる)
現実世界に帰ってきて、体中の痛みに涙を流しながら耐えて起き上がるダリアさんを支える。ごはん食べるときなんか口の中が切れてるのかときどき痛がってる。それでも気丈に振る舞うダリアさん。見ていて痛々しい、いたたまれない。三日目までは、今日はまでは我慢したけどそろそろ止めないと。そう思って真ともみんさんの布団に潜り込んだ。
「…瑠姫ちゃん、スケベなところまで彼に似なくていいのよ?」
「夜這いじゃありません」
夜這いじゃありません。確かにけしからんおっぱいですが。こっちのともみんより大きいし形も素晴らしいですが。下着まで紫なのはどうかと思います。
「いくらなんでもやり過ぎです。もう少し手加減してあげてください」
「…そういうこと。手加減はしないわ、ペースも落とさないわ。それが彼女のためだから」
「だからってあんなボロボロになるまでやらなくても…。学校でも噂になってます、DVでも受けてるんじゃないかって。お姉ちゃんには事情話してなんとかしてもらってますけど…」
「なら、あなたは彼女の覚悟を無駄にするの?」
「それは…」
それは…違いますけど…。
「彼女に素質や才能があるのかどうかは置いといて、まず彼女の気持ちを汲んであげなきゃ駄目よ。彼女は人としての人生を捨てでも惚れた男の為に故郷さえ捨ててみせる、そして救ってみせる。そういう覚悟をしたんだから」
「…わたしには分からないです」
「そうかもね。それに、彼女には素質も才能もあるわ。見ていて気付いていると思うけど彼女、普通じゃないわ。理由は分からないけど、ひょっとするとひょっとするかもしれない」
「…まさか?」
「そう、そのまさかよ。だからこそ私が、私達が正しく導いてあげなきゃいけないわ。たとえ死ぬ思いをさせたとしても、将来恨まれるかもしれないとしても」
真ともみんさんは妖しくニヤリと笑った。そのときわたしは猛烈に嫌な予感がしたんだけど、悲しいことにその嫌な予感は的中してしまった。このあと起きる最悪の事態さえも、目の当たりにすることとなってしまった。