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最強の影

吾が輩は英雄ヒーローでござる、まだ頭を抱えている。


(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどどどどすこいパイナポー!)


なぜなのか、ドラ○ンボールでも特定の個人を気配で追うなんてことをやってたがまさか現実でそれをやられるとはなぜなのか。仮にそれは無視しても、なぜ変身後の姿しか見られていないはずの相手に変身前どころか名前までバレているのか。やはり国会議事堂のときか。変装時にはヘシン!してなかったでござる。しかし変装時にはバレていたとするとひょっとしたらその前からマークされていた可能性が微レ存。


(はっ、そうだ。監視カメラの映像でござる)


PCをカタカタッターン! して昨晩アラートが鳴ったときとその前後の映像を出す。どうして正体がバレたのかも問題だが、どうやって侵入されたのかも問題でござる。感知するセンサーは庭よりも外のブロック塀に数がある。敷地に入ってきたものは全て検知して猫や犬の侵入、郵便や宅配便でも記録されるようにしてあるでござる。


(なんじゃいこりゃあ…)


そこにはもはや瞬間移動としか思えない映像があった。積もっている雪に音を立てることなく、足跡の一つもなく突然そこにいた。雪の上を歩いたら足跡が着く、空を飛んできたならカメラの視界の上から現れなければ自然ではない。


(突然カメラの前に現れたでござる…。雪が飛び散ってないってそんな馬鹿な。真上から降りてきたにしてもこんな突然現れるということは相当の速度であるはず。しかし雪にはまるで動きがない…ということは風も起きていない、かと言ってゆっくり降りてきた速度でもないでござるよ…。ん?)


繰り返し映像を見ているとさらに恐ろしいことに気が付いた。


(カ、カメラ目線…)


家族には防犯用監視カメラがあることは伝えてあるでござる。しかし、防犯上の理由からいつからどこにどのように設置されているかは説明していない。位置バレしたら意味ないから。見えやすいところにはダミーが置いてあるでござる。つまり、設置した本人である吾が輩しか知らないはずのことをこの濃紫の戦姫は知っていて、突然現れた瞬間からカメラに向いている。


(突然映ってこっち見てるとかなにこのホラー……、心霊現象じゃあるまいし……)


映像をスローモーションで流してみる。10分の1、100分の1、1000分の1。このカメラではこれが限界だ。


(追い切れないでござる。しかし、1000分の1でも追い切れないということはやはり瞬間移動かそれに近いことをしているはず。だが雪は溶けた様子もない。道具を使った形跡もないということでござるか)


衝撃も熱も風も発生させずに現れる。人智を超えたその技は人知を超えた能力。故に超人。その能力を持ってして悪を滅ぼし正義を貫く。


(通称ファントム。音もなく現れ消える、世界最初の戦姫にしてロイヤルセブン最強と謳われる存在)


戦姫、と呼ばれる理由はテレビに映ったあるとき、


『たった一人、何故戦い続けるのか』


という質問に


「戦姫だから。戦姫は一人でも戦い続けるもの、それ以上でもそれ以下でもない」


と答えたのだ。


(そしてファントムが現れて今年で五年が経つ。次々と新しい戦姫達が加わり、まことしやかに七人の貴族ロイヤルセブンと呼ばれるようになったでござる)


ウィンドウを閉じ、PCの画面を通常営業に戻す。超人の能力は機械で追えないことなど既に言うまでもない。世界の誰もが知っていること。吾が輩の仕事はトレーダーでござる。戦うことではござらん。小型の核ミサイルが盗まれたとか知ったこっちゃない。


(問題は名前。吾が輩の気を追ってここに辿り着いたとしても苗字くらいしか分からないでござる。苗字なら表札あるからバレるバレないの話ではない。けど表札には苗字だけで下の名前は一切ない。しかしもかかしも彼女は吾が輩の下の名前を迷うことなくタケマサと呼んだでござる)


考えられる方法はいくつかある。郵便物、探偵、盗撮、盗聴、ハッキング。


(あとは、あるとしたら小学校・中学校時代の同級生? HAHAHA、世界のヒーローが同級生? 有り得ないでござる。そもそも女子と話したことないし)


我ながら馬鹿馬鹿しい想像をしたものでござる。あんな化け物じみた人間がいたら既に騒ぎになっている。だがそんなことはなかった。


(ハッキングされたならもうどんな対策しても意味ないでござる。かと言ってインターネッツをオフラインにすることは出来ない…。外部との接続を断ったとしても、内側から侵入されてたら向こうさんのことを知らないのにこっちは丸裸にされてんじゃ下手に手出しも出来ないでござる)


八方塞がり、匙を投げる、投了、お手上げとはこのことか。こちらからできることはない。あるとすればシカト決め込むくらいでござる。


「《ござるくーん、お茶淹れてくれなーい?》」


「まーたこたつむりでござる。エアコンもあるからそんなに寒いはずないのに」


下のリビングから母上が叫ぶ。今ごろ首だけ出して亀になってるでござる。こたつの亀、こたートル? 語感が悪いでござる。リビングに降りてお茶を淹れる。テレビを点けるとファントム姐さんの依頼がニュースになっていた。某国製の小型核ミサイルがある組織に強奪されたという内容だった。


「やーねぇ、最近は物騒なニュースばっかりだわ」


「大丈夫でござる。またヒーローがなんとかしといてくれるでこざる」


正直、この内容は胡散臭いと感じた。核ミサイルなんてものは試作品製品大小に関わらず、その保管場所は国家機密のはず。それが漏れているということは、もちろん内側から漏らした人間がいるのだ。それにしては鮮やかでござる。いくら場所や警備内容が分かっても、そこに侵入し、突破する必要がある。厳重な設備、警備を突破し脱出する戦力をどうやって揃えたでござるか。そしてまんまと逃げられた某国。ちょっと話が出来すぎ。


(不正アクセスという手もあるけど、一般家庭相手にするのと国家を相手にするのとじゃワケが違う。やったらソッコーバレる。こんなん容易くやられた某国は赤っ恥もいいとこでござるな)


続くニュースを見ていると、LIMEが鳴った。レイミさんでござる。


『今ひまー?』


『ひまー、ですよー。母とお茶してますー』


『サロン来てー』


『…なぜに? っていうかこの間のアレなんなんですか。ああいうのは困りますでござる』


『なんのことー?』


『人の体のアチコチにキスマーク付けたでしょ! 会員カードにも!』


『レイミわかんなーい』


なんだろう、このふつふつと腹の底から沸き上がり煮えたぎる殺意は。おちょくられてるのでござる。スマホにヒビ入りそう。


『おばあちゃんがカード渡したのに全然使ってないじゃん的なことを言っててさ、もっとご奉仕しなさい! だってさー』


『お昼食べたら行きますよー』


『お昼くらい言ってくれれば出すわよん。何でも出来るし何でもあるわよー。なんだったら私とイッパツ既成事実作っちゃう?』


『いやいやいやいやいや』


『じゃそういうことでー』


『チョマテヨ!』


んあああああ!!!!!!


「…母上、午後になったら出掛けてくるでござる」


「んー、じゃあ足りないものあったら買い足しといて」


「イエスマム」


怒りによって俺のこの手が真っ赤に燃える手を抑えて行ってくる。帰りにはガソリンスタンドにも寄っておくでござる。ってことでサロンァ! 今日のオイルはオレンジァ!


「でね、中東に行くの」


「誰がですか?」


「あなたが」


「誰がですか?」


「あ な た (はぁと」


…………………………………………………………………………。


「「「アハハハハハハハハ!」」」


……………………。


「マジで?」


「マジで」


どうしてこうなったっ! へいっ! どうしてこうなったっ! へいっ!

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