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大切なもののために 2

「世の中幸せだったらもっと違う答えがあったかもしれないけれど、今はこれだけで良いと思ってんだよ」


「確かに世界も大切だし世界中の人達は世界が大切なんだろうけれど、私達の大切なものはこれなんだ」


二人の表情はとても穏やかで優しくて柔らかい。二人がこれと言う赤ちゃんの笑顔はかけがえのないもので、何か危機に晒されるのなら守ってあげたい、自然とそう思えるものでした。


「世間じゃ戦姫だのなんだの言われてるけどな、そんなたいそうなもんでもねえんだ。たまたま生まれ持った異能チカラで必死こいてたらそう呼ばれるようになっただけさ」


「目の前で轢かれそうな人がいてパッと体が動いちゃっただけ。世のため人のため、なんて考えてないわ。それどころか何にも考えてないわ。目の前にある、そばにいる大切なもののためにって、それだけ」


「たまたま助けたヤツにありがとうって言われるだけでコロッといっちゃうんだから、まったくアタシらチョロいよな」


この人達はひょっとしてお兄ちゃんと同類なんじゃないかと感じた。いっつもいっつも自分のことは後回しにして、人のことばっかり助けるの。今もそう。レースのカーテンから漏れる陽の光、白く明るい病室の中で、ベッドに伏していることしか出来なくても、赤ちゃんのことばかり。世界なんかどうでもいいと言うほど、この人達は特定の誰かのための戦士なんだとつくづく感じる。


「今度そこのお嬢が戦うって聞いてな。誰かのために戦えるなら励ましてやろうかと思ってアタシが呼んだんだ」


「お医者さんには怒られたんだけどね私も」


「なっはっはっは、大目に見ろや」


「いえ、私は誰かのためのでは…」


豪快に笑った真リエッセさんの口元がニヤリとした。めっちゃ悪いこと考えてる笑み。正確にはもう悪いことしたんだろうけど。あぁ、これはまたこういうパターンだ。だいたいレイミさんが悪い。


「誰かさんのために戦うのはなんでか調べさせてもらったぜ。おたくの裏で糸を引いてるのは誰なのか、どんな理由なのか」


「えっ」


「ワケアリならわたしは席外しましょうか?」


「でえじょうぶだ、おめえも関係あるよ」


「やだなあ…、大丈夫じゃないなあ…」


わたしの溜め息に真ともみんが肩をポンポン叩いた。慰めになってないですよ…。ダリアさんが政略結婚させられそうになっていて、それを断る手段が決闘。その政略結婚の事情にわたしも関係あるなんて言われたら絶対だいじょばない。


「おたくの本家は国内での派閥争いに負けてトップ派閥に吸収されるってらしいな。で、そのトップの連中はアタシら異能チカラ持ちが大嫌いなんだ。なんだが、さらに質の悪いことにトップの中のさらに筆頭にいるヤツはよその国とよろしくやってて、見返りの代わりによその国の地図拡大のために実質国を売り渡すつもりでいる」


「せんせー、バカなわたしにも分かるようにお願いします」


「そのよその国の地図拡大達成の暁にはアタシらをこの星から出禁にしようって言ってんだよ」


「げえっ」


「おっしゃるとおりですわ。この隕石騒ぎの中よくそこまでお調べになりました」


「武蔵野に言えばこの世で調べられないことはないわよね?」


「わたしに同意を求めないでください…」


やだやだやっぱりレイミさんが悪い。あの人なんでもかんでも武蔵野グループを使わせるから一体いつどこで何を知られてるのか分かったもんじゃない。今だってテレビじゃ世界征服されたとか世界を私物化するつもりだとか言われてるのに、こんなん誰かに知れたら何を言われることやら。


「じゃあ、ダリアさんが戦う誰かのためにって言うのは戦姫の人達のために?」


「はい。私はなんのチカラも無い普通の人間ですが、少しでも皆さんのお力になりた」


「嘘こけおめえあのクマみたいなボウズにホの字だろ。だから政略結婚ヤなんだろ」


「ホぉっ?!」


「おぎゃああああああああああ」


あー。ダリアさんが大きい声出すから赤ちゃん泣いちゃったじゃないですかー。それにしてもホの字ってまた古いなー。それで分かるこのドイツ人お嬢様も古いなー、誰のせいだろう。犯人はお兄ちゃん。部屋にあった時代劇とかのDVDBOXが無くなってたときあったもんねー、絶対貸してるよねー。


「あーよしよし大丈夫だよー、恐くないわよー。ドリルお姉ちゃん恐かったねー」


「ドリルお姉ちゃんって誰のことですの?! わわわわわ私がお義兄様に惚れてるなんてなんの証拠があってそんなこと




「これ今のお前の部屋の写真な」




ヲぉっ?!」


「うわあ…」


真リエッセさんが胸の谷間からの出した一枚の写真は完全にストーカーのそれだった。写真にあるダリアさんの部屋は壁という壁、天井という天井がお兄ちゃんの写真で埋め尽くされていた。さらにぬいぐるみに抱き枕にカレンダー、床の絨毯からベッドの掛け布団やシーツに至るまでお兄ちゃんがいる。わたしには分かる。これは盗撮写真だ。というのもお兄ちゃんは家族写真以外の写真は嫌っているからだ。撮るにしてもわたしか家族以外には絶対に撮らせていない。本人曰く、顔より脂肪が目立つかららしい。ダイエットしろデブ。つまりダリアさんがお兄ちゃんの写真を本人に了解を取って撮影しているワケがない。背景も学校らしきものばかりだし、アングルも写真を撮るには少し不自然だし、どこかに隠しカメラを仕込んで盗撮したんだろうね。


「ちょっちょっちょっ!!! プライバシーの侵害ですわ!!」


お前が言うな。


「その写真お捨てになってください今すぐに!!」


「いやあ頼もしい後輩が出来て嬉しいねえ。たとえそれが普通の人間だとしても、戦姫としての心構えは立派なもんだ」


「先輩として一肌脱がなきゃね」


ベッドの真リエッセさんから写真を取り上げようとダリアさんが必死になっているけどまるでかすりもしてない。赤子の首を捻るより簡単だって言い回しがああこれ赤ちゃんの前で言うセリフじゃないわ。真リエッセさんって事件直後のレイミさんから聞いた話じゃ、赤ちゃん産んですぐ彗星の中に人質として埋め込まれたってことだけどめっちゃ元気ですね。


「よし分かった、この写真はくれてやろう。焼くなり破り捨てるなり好きにすればいい」


おっ? 意外とすんなり良い人に戻るんですね。


「ただし条件がある」


前言撤回。


「おめえ、アタシらと同類になる勇気はあるかい?」


ん? 同類? 同類ってまさかダリアさんを戦姫にするっていうこと? でも確か戦姫になるほどの異能チカラは天才と同じくそれを持って生まれた人だけしかいない気がするんだけど。レイミさんやカレンさん、ともみんやスーさんにリエッセさんみたいな血筋がほとんどだし、シオンさんやリーシャさんにしても戦姫ほどになる前からなんかしらの才能を持ってたりだし。でもダリアさんは巨乳と縦ドリル以外には無い。いや縦ドリルはただの髪型だ。


「ど、同類とはどういう意味ですの…」


「これからあなたが受けようとしている鍛錬は魂に直接影響するほどのものよ。そうなれば普通の人ではいられなくなるわ」


「な…」


「それ先に言うべきことじゃないかとわたしは思います」


「……、それもそうだな!」


真リエッセさんがニカッと笑った。やべえよやべえよこの人達。本人に何も言わないで人の道から外そうとしてるよ。


「あなた達のように私達に良くしてくれる人達がいる一方で、化け物って後ろ指差す人達もいるわ。この間の事件の後だからなおさらね」


まー、星も人類も滅びるはずの巨大な彗星止めて解体し始めたと思ったら世界中の国々研究機関に配って回るくらいだもんね。既に世界の覇者みたいなもんだけど、隕石配って回るとか完全にヤベー奴だよね。人のこめかみに拳銃突きつけてる正義の味方みたいな感じ。ぶっ殺す気満々な武力持ってて私達正義の味方だよ!とか言われてもそりゃ信用なんか出来ませんわー、無理ですわー。………わたしその家族だったわー。


「私は…私は…」


「別に逃げてもいいんだぜ? アタシらが手を回せばバックレるなんざ朝飯前よ」


「私達もそうだった。なんにも知らないフリして普通の人装って、黙って見て見ぬフリをしていればなんの事はない普通の生活、普通の人生」


わたしの人生は?


「バックレしたところで故郷が恋しいこともあるかもしれんが別人としては帰ることが出来るし、新しく故郷が増える、それだけだ。何一つ不自由ない暮らしが待ってる。コッチに来たらお前は帰る故郷の無い根無し草になるだろう」


「ちょっと! 二人ともそんな言い方おかしいですよ! 普通の人じゃいられなくなるなんて大事なこといまさら言って、しかも逃げるか人で無くなるか選べだなんて!」


「アタシはお嬢に聞いてんだよ。おめえはすっこんでろ!」


「なっ!! さんざん巻き込んでおいてこのヤンママが何をっ─!」


言いかけたところでわたしの前を腕を上げて遮って、ダリアさんが重たく口を開いた。


わたくしは───!」

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