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デンドンデンドンデンドン 3

「ボクの知らないおもちゃを持っているんだね…。月の人達かな」


『早速湧いて出たわね!』


「人のことゴキブリみたいに言うのやめて欲しいな」


『全機出撃! 周囲の破片は砲撃と戦闘機に任せて私達は奴を叩くわよ!』


おうちに帰りたい。


『艦長が何言ってんの!』


我々は巨大彗星直下に展開、まずは押し戻すという作戦らしいのだが…。直径400キロメートルの彗星を押し戻すとはどうやっても無理なのではないか?


『バカねえ、正面からやったらそりゃ無理でしょう』


銀座で殺されかけ、新卒で入ったホワイト(秘密結社)企業をクビになり、ライバル企業に拾われたと思ったらなんだかよく分からない巨大戦艦に乗せられ、突然艦長に仕立て上げられたと思ったら今度はバカ呼ばわり。どこで人生を間違ったのやら。


『…気が付くのが遅かった』


『へっへーん』


外の会話になんのことかと頭の上に疑問符を浮かべていると私もようやく気が付いた。直径400キロメートルもの彗星が成層圏まで近づいているというのに地表にはなんの影響も起きていない。これはあの【災厄】とまで呼ばれる彼の仕業かと思っていたがこれは違う。


『日本直上の成層圏まで到達するまで普通はもっと時間が掛かるわ。ましてや垂直に浮上なんて月のオーバーテクノロジーでもバカみたいなエネルギーを食うはず。けどウチにはそんな予算無いわ。にも関わらずこれだけの数がものの数分後に来られる理由はなに?』


『まさかキミがこれほどとは思ってもみなかったよ。いや…、これはキミのおばあちゃんの時代からか』


センサーモニターには友軍艦が自艦を含む47隻が表示されている。さらにガイナ立ちをしている巨大ロボットも47隻。その周囲は青白いオーラで包まれており、直下の発艦した市街地に太い光の柱が繫がっている。47本の光の柱から発せられている力によって地表と巨大彗星との間を塞ぎ、巨大彗星の落下を止めている。この戦艦は戦艦としての役割ともう一つ中継基地としての役割を持っている。


『あったりー。私はこの術式の運営と維持が仕事なのよーん。表向きの地位も名誉も仕事もフェイク。本当に私がただの仕事サボり魔だと思った?』


『思った』


『思った』


『思った』


『思った』


『思った』


『思ってましたわ』


『思っていたわ』


思った。


『あんたらハモるんじゃないわよ! 今年の給料カットするわよ!』


報告書の提出にキミの私室に行ったことがあったが、なんともまあ年頃の女性とは思えぬ汚さだったのでな。脱ぎ散らかし食べ散らかし、置きっぱなし点けっぱなし、埃は溜まりレースのカーテンは黄ばみ、スーパーやコンビニ袋にまとめられたゴミの数たるや。確かにあの汚さでは少年が必要だろう。少年は専業主夫に向いている。


『うわあ』


『うううううるさいバーカバーカ! 敵のくせに人の部屋の汚さに引いてんじゃないわよ!』


『メイドさんも大変ね』


『私達の地球はこれでもかと荒廃しているのいうのに』


『豊かさは人を荒廃させるのね。そして荒廃した人間が地球を荒廃させる』


まさにそのとおりである。元敵ながらまさにそのとおりである。


『そこのガイナ立ちのレズどもはさっさと仕事しなさい!』


『そうね。そろそろ私達の力、見せてあげましょう』


『はい! お姉様!』


『行かせると思うかい?』


『アンタの相手は私達よ!』


やめたまえ。いくら6対1で囲んでも彼が余裕を崩さないということはそれだけ力量差があることを知っているからだ。覆せない力量差というものが。ここは一つ光の柱の力を分けて拘束し、巨大彗星の処理後に改めて対応すればいい。


『そうもいかないよおじさん』


私はまだおじさんではない!アラサーだ!まだ三十路前だ!


『アタシらの男にちょっかい出されて黙ってる性分じゃないのよ。一撃ブチかまさなきゃ気が済まないわ』


『たとえ見過ごしたのが私のミスでも…、あの人を傷つけたのは許せない!』


『私この人のこと嫌い。私の好きな人を傷つける人は嫌い。私のこと気持ち悪いなんて言わずに何も言わずに受け入れてくれた人の帰る場所を消そうだなんて人は嫌い』


『……』


『どうしたんだい朋美。キミもボクに言いたいことがあるんじゃないのかな。せっかく久しぶりに兄妹が再会したんだ、何か一言あってもいいんじゃな


『黙れ鳥頭。さっさと帰ってクソして寝てろ。ぶっ殺して地獄に叩き落として生まれてきてごめんなさいまで言わせてやるわ』


『色々とひどくないかい?!』


『隙アリッ!』


『おウッ?!』


アシカかな? 全艦主砲チャージ開始、全砲門装填急げ。目標、巨大彗星!


『な、なんだこの威力は……。【災厄】とまで呼ばれ歴代最強のロイヤルセブン、地上最強の異能力者と讃えられたボクがくの字に曲がるなんて』


『宇宙から高みの見物でもしてれば痛い目見ずに済んだのにね』


『さあ! もっと痛い目見てもらいましょうか!』


『そうはいかない…! そちらがその気ならこちらも本気でやらせてもらう!』


『せいや!』


『くぁっ…?!』


モニターで見てるだけの私には何がなにやら。確かあの装備は武蔵野製の、それも変身出来る異能力者専用のもの。要は追加兵装なのだが、現時点で変身出来る異能力者は彼女らとここにいないリエッセ女史、少年だけしかいない。つまり彼女ら専用の追加兵装なのだ。だから各色それぞれのパーソナルカラーが塗装されている。だが繰り返すがあくまでも武蔵野製なのだ、地球産なのだ。この戦艦や戦闘機や巨大ロボットとは違い月の連中とやらのオーバーテクノロジーではないはず。ロイヤルセブンを遥かに超える少年、その少年を凌駕する【災厄】。ロイヤルセブンと【災厄】の彼とでは天と地ほどの差がある、はずだ。だというのに一体これはどうしたことだ。一方的に押しているではないか。


『ほぅらもういっちょうッッッ!』


『ぐあっ!』


『オラァァァァッッッ!! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!!』


『ああああああああああ!!』


『私の蹴りも忘れないでよッッッ、ねッッッッッッ!!!!』


『ぐっ、ブフッッッ!』


『これで一人一撃ッッッ!!!』


『ぐはあァァァァ?!!!!』


我が軍は圧倒的じゃないか! ついに彼を巨大彗星までふっ飛ばしたぞ!


『く…、ゲホッ……。このボクが吐血……?』


ロイヤルセブンと彼は巨大彗星の上に舞台を移したようだ。ところでこのモニターのカメラどうやって撮影しているのだ?


『仕方ないね…。ボクも軍勢に頼らせてもらおうかな』


『なに?!』


彼がスッと右手を挙げた。なんだ? 何かの合図応答か?


『ひっ?!』


『ヒィィぃぃ、ゴキブリぃぃぃぃ! ゴキブリ怪人の大群!』


『化け物っていうのはね、こういう彼らのことを言うんだよ』


突然彼女らの足下がボコボコと気泡を吹き出したと思ったら、気泡によって開いた穴からおびただしい数のGの大群が現れたではないくぁっ! きもちわるっ!


『まあ大丈夫なんですけどね』


『『『『『『なんでっ?!』』』』』』


私室にゴキブリを飼っているからじゃないだろうな。


『ちがわい! この今回の装備はフォートレスと言ってね。積んであるのよ、核ミサイルが』


『ちょいまちレイミ! あんたまさかここでそれぶっ放そうってんじゃ』


『ハイ発射ァ!』


『ひなーん!』


『ギエエエエエ!!!』


『アッハッハッハッハ! 燃えるわ! 全て燃えてしまうわ! 何もかも燃やしてしまえばいいのよ!!!』


仮にもヒーローを名乗っているというのにこれは悪役の絵面だな。


ごちごちごちごちごちん!


『痛い!』


『当たり前よバカ! あんた何考えてんのよ!』


『ふええ、死んじゃうところだったよう』


『早く帰ってきて、ござるさん』


『核兵器禁止条約くらい知ってるでしょ?!』


『ボクは知らないけどやっちゃいけないことをやったんだろうことはなんとなく分かる』


『キミは人質がいることを忘れているんじゃないのか?!』


そうだそうだ! 殺人未遂だ!


『人質? なんのことかしら』


こっ、この……!


『この人でなし!』


『人質取った張本人に言われたかないわよ!』


『で、人質がどうかしたって?』


『キミは…! 確かに破壊したはず!』


『月の連中のってのが気に食わないがな。新しいボディに換えてもらった』


おお! いつの間に!


『俺のリエッセも、俺の娘もとっくに返してもらった。ワープ技術の副産物という、空間を歪曲・分断するこの武器でな』


『それだけじゃないでござるぅ』


?! ござる?! バザールでござーる?!


『え』


『ぶっつけ本番でイケるとは思ってなかったけどな』


『やればできるでござる』


馬鹿な。仮にも義体であるにも関わらず声まで変わっている?!


『いつだったかふらっと、オリジナル側の人間はこちらのコピー側の人間を乗っ取れるみたいな話聞いたでござる。本当なのかスーさんずやクレイジーサイコレズコンビに聞いたら乗っ取るは事実だけどそれよりもシンクロした方がより強いパワーを得るということだったので』


『俺たちは喧嘩した覚えは無い。だからいっちょやってみっか! となった』


『なんという無茶苦茶な…。死にかけているキミがもう一つの魂と融合?! パワーバランスが崩れたらもう片方に飲み込まれ消滅してしまう。ためらいもなくそんなことを突然やってのけたと言うのかい? キミには恐怖というものが無いのか?!』


『それはあなたも同じことでは?』


『何?!』


『ともみんから聞いたぜ。ある事件の前と後で口調が変わってるってな。戦士としての強さも段違いなんてレベルじゃないってことも。…お前、こっちの世界の天ノ宮カヲルを庇ってるだろ』


もう何がなにやらついていけないのだが…。魂の融合? シンクロ? いつから君達は遊戯王を始めたのかね?


『! …人格が変わった程度で済ませてくれないかと思ってたんだけどね』


『やはり…。なんかしらの事件のとき、魂が擦り切れそうになったコピー側の天ノ宮カヲルを察知して自分の中に一時的に取り込み強制的に眠らせている。だが魂のサイズも強さも並みじゃなかった、しかも知り合ったばかりかなんかでシンクロ率が低かったアンタ達は完全な魂の融合が出来なかったんかな。だから他人の命を使って安定させた、ってとこか』


『よく調べたね。調べ過ぎだよ気持ち悪い。まあ彼は事件の前から予兆を出していたから気が付かれてもおかしくはないかもしれないけどそれにしても気持ち悪い。なら犠牲になった少年少女達が氏子の家の子達だっていうのも知っているね』


『それは事件の資料を見せてもらったら分かることだったでござる。でも吾輩達は最初、氏子の家の子達が将来あなたの敵になるかもしれないから殺されたんだと思ってた』


『それは違うよござるくん。なるほど、ボクと同じことをしていたのか。それならこの強さも人質を取り返されたことも納得できるよ』


『今ごろオレっ子が下に届けてくれてんよ』


『Moreでばーん! オレの出番これだけか?!』


『だいたいなんだいそれは。キミ達はボクをバカにしているのか? そんなものマイナスドライバーに刃を着けただけじゃないか』


『元ネタ』


『え?』


『元ネタ』


『え?』


『うるせえケツ穴にマイナスドライバーブチ込むぞ!』


『用意した軍勢がアレだけだと思わないでくれ!』


『ギャアアアアア!!!』


『今度は竜だー?!』


なんとぉ!!


『ちょっ、そんなの聞いてないわよ!!!』


『そりゃ敵に手の内喋るバカいませんよレイミさん』


『東京スカイツリーじゃあるまいし何メートルあんのこのトカゲ野郎は!』


『東京スカイツリーより大きいよ〜。何キロ体があるの〜』


まずいではないか! まずいではないか! いくら圧倒的だとはいえ、いくら人質を奪還したとはいえ、東京スカイツリー10本分はあろうかという体長のドラゴンだとぅ?! なんでもかんでも大きくすればいいというワケではないぞ! 巨大彗星の上には彼女らとオリジナル世界側の少年しかおらん! さてはコイツらバカだな?!


『わざわざオープンチャンネルで、わざわざシャウトモードで騒いでたのはポンコツオリジナルのための囮。ってなワケなんだけど、ウチにいるオリジナルはコイツだけじゃないわよね』


『なぁにぃ?!』


「お姉様、アレをやります!」


「ええ、良くってよ」


「ぅわあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッッッッッ!!!!」


「?!??!?」





「スゥゥゥウパァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!!」


「イナズマァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!!」









「「キィィィィィッッッッッ!!!」」








『?!?!?!!!?!!?!?!!!???!』



なん…だと…? 数キロメートルあっただろうドラゴンが真っ二つ…だと…? 私はなんだ? 何を見ているのだ? 最近残業が多かったな、疲れているのか。


『あなたがただ袋だたきに合っていたのではないのよ』


『私達がこの技を決めるためにあなたの目と耳を塞いだわ!』


『まだだ! まだ怪人の軍勢が…、来ない!』


『言ってしまうとレンジでチンしたわ。あの怪人達が現れるときの気泡、あれは繭が溶けて空白が外と繋がったときに出来るもの。つまり、怪人達は目覚めるまで小さな密閉空間で眠っているの。それをレンジでチン。分かるわね?』


『こ、この巨大彗星はどうするつもりだい?!』


『どうするも何も浮きっぱなしでしょう。適度にバラして売りさばくわ』


『くっ…!』


この守銭奴が! あこぎも過ぎれば悪だぞ!


『てめえは最後に俺が一発殴っておしまいだ! ハァァァァ!!!』


『なにくそぉぉぉぉ!!!』








『盛り上がってるとこ水を差すで悪いな。アタシにも一発撃たせろや』






『なにっ?!』


なんだ?! 部分的にだが空間が裂けているぞ!


『とっととくたばれクソ野郎!』


『これでも喰らいやがれェェェェ!!!』


『ァーッッッッッッッッッ!!!!』


脳天をふっ飛ばした…。脳天をふっ飛ばしながらあごに拳を入れている…。あれは…この世界の、我々側のリエッセか?


『リエッセさん!』


『タケ! 帰ったらお前にも一発くれてやるから覚えとけよこの豚野郎!!!』


『ぶひいっ』


自分の男にこの豚野郎と叫ぶ女性がいるだろうか…。突如裂けた空間は何事も無かったかのように元の状態に戻った…。あんな空間に直接穴を開けた芸当が彼女に出来たのか? いやそんなはずは……。


『バイバイお兄ちゃん。太陽に落ちても死ななかったらまた会いましょ』


『ちょ、ちょっと待ってくれ! おぃぃぃい!!』


これまたひどい。太陽に向かって実の兄を蹴り飛ばした。というか死ななかったらと言うが、眉間に風穴を開けられて白目を向いている状態は死んでいないのか? というか話を聞いていた限り実の兄の魂も一緒にいるんじゃないのか?


『さっ、ウチの大将迎えに行くわよ!』

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