デンドンデンドンデンドン 2
「バカ言うんじゃないわよ。あの巨大な彗星をどうやってぶっ壊すってーのよ」
「アテならある! ウチの私設武装組織ナメんじゃないわよ!」
「あんたは地球征服でもするつもりか…」
今回も引き続きリーマン魔術師の私がお送りします。本名は京極雲龍という立派な名前があるのだが…。
「ま、待ってくれ! 人質はリエッセだけじゃないんだ!」
「は?」
「こ、こどもが…産まれたんだ。女の子だ。この間産まれたんだ」
「わ〜、おめでとう」
「子どもぉ?! あんたなんでそんな大事なこと言わないのよ! ご祝儀は?! いや結婚式は?! なんにもしてないじゃない!!」
「今それ言ってる場合じゃないでしょ」
まったくもってその通りである。直径400キロメートルという巨大な彗星はもう目前まで迫ってきている。ただでさえその巨大彗星から崩れた破片があちこちに散らばり被害が出始めている。というか私が艦長ってなんだ?
「どっちにせよ助けなきゃいけないのは確かね…」
「な、なぜ俺を見る?」
「あんた、得体の知れないサイボーグになる勇気はある?」
「…は?」
「サイボーグって、彼はとっくにサイボーグじゃない」
「月の連中が巨大戦艦とロボットを寄越してるの、その核とフュージョンするサイボーグボディもね」
「あ、それ知ってる〜。でもレイミちゃんそれ使いたくないって言ってたよね〜」
月の連中? 巨大戦艦? ロボット? 胡散臭い臭いがぷんぷんするぞ。艦長ってまさかその巨大な戦艦のことか?! 待て待て待て、今の私は月給40万の雇われ魔術師だぞ!
「連中の技術もモノも使い方以外全く分からないオーパーツ。何が起きるか分からないし、フュージョンなんか一度もやってないから成功率は0%に等しい。フュージョンに成功しても戦艦と合体なんかしたら元に戻れるかも分からない。それでもやる?」
「元に…戻れなくなる…?!」
「ま、待ってよ! 子どもは?! 女の子は?! 二人も人質いて、しかも埋め込まれてるのをどうやって助けるの?」
「そーだそーだ! 破壊なんかしたらバラバラだよ! 万一この地球が助かってもオリジナルのリエッセも女の子の赤ちゃんも死んじゃうじゃんか!」
「スカイ、いつかの銀行強盗であんたディヴ○ァイディングドライバーしようとしたわよね」
「いやいやあれは玄ちゃんとの合わせボケで」
「あるわよ、空間湾曲する武器が」
「無茶苦茶でしょ」
「だから使いたくなかったの。で?! やんの?! やらないの?!」
「…やろう」
青年、頭に血が昇ったか。いやサイボーグだから血は通ってないな。母娘が助かっても元に戻れなくなったら元も子もないではないか。
「やってやるさ! 成功率なんかただの目安だ! あとは勇気で補えばいい!! 俺は…、俺達はヒーローだ!!!」
この青年、サイボーグのくせに良い顔をする。死を覚悟しているワケではない、やけくそでもない、蛮勇でもない、死にたがりの自己犠牲でもない。純粋に人を助けたい一心で自分が犠牲になるかどうかなど考えておらん。
「アイツは…、相棒は必ず帰ってくる! だからアイツの帰ってくる場所を守るんだ!!!」
『待ってたぜえ! その一言!!』
「今度はなに?! どこから声が?!」
「目の前に映ってる。いつのまにこんなスクリーンを作ったのよ」
『無能力者でも根性はあるようですわ、お姉様』
『そのようね。こちらは準備、よろしくってよ』
「いつかのペチャパイオリジナルどもじゃない。なんでバニーガール?」
『それだけは突っ込まないで欲しかったわ…』
「よし!!! 発進!!!!」
「は?」
「え?」
ん? 床が抜けたぞ?
「きゃああああっ?!」
なぜサロンに滑り台があああはあああ!!! 焦げる! 尻が焦げる! 摩擦熱で尻が焦げるぅぅぅ!!!
「お待ちしておりました、お嬢様」
「あ、なっちゃんさん久しぶり〜」
「あたたた…」
「体乗り換える前に死にそうなんだが…」
「リーシャ、そのリアクションはあんたもグルってワケね。終わったら覚えときなさいよ」
「変身すれば良かったのに」
「あんたは影の中移動できるから滑ってないでしょーがっ!!!」
ほぼ直角の滑り台と呼んではいけない滑り台を降りた先には秘書のなっちゃん氏が何やらいつもと違う服装で待っていた。なんだ? 制服か?
「オリジナルのスカイさん達は既に発艦準備完了。いつでも行けます」
「よし、そこのオンボロイドをディヌスフィードに換装! 私達はアームドアップして先に出るわよ」
「オンボロイド言うなよ」
「それにしてもここ凄い広いね」
「この戦艦だけで10キロあるからそりゃね」
「はあ?!」
無茶苦茶にも程があるぞ!
「ところで、未だにあそこで体育座りしてきのこ生えてるジメジメに湿気てるのはどうすんの?」
「ほっときなさい! 勇気の無いヤツは戦場にはいらないわ」
流石にきのこ生えてるは言い過ぎだろう。しかし皆が奮い立っているときに一人膝を抱えて泣いているのは確かに頂けない。聞けば、少年を致死傷にも近い重傷を気が付かずに地下何百メートルに置いてきてしまったらしいが、致死傷自体は彼女の責任ではないのだ。たとえ連れ帰っていても少年はこの場にはいられなかっただろう。
「アイツが心配ならそれは無用ってもんだ。さっきも言ったが相棒は必ず帰ってくる。この星さえ無事なら必ず帰ってくる」
「……」
「俺はアイツの魂を感じる。弱々しいが、まだ生きてる。相棒のことだ、またどっかで女でもたらしこんでるんだろ」
「………」
「アイツはお前を責めたりしない、俺もお前を責めたりしない。それよりも誰かが傷つく方が嫌なんだ。だからアイツのことでお前がこれ以上自分を責めるのも嫌なんだ」
「…」
「同じ血、同じ体、同じ魂を分けた俺が言うんだから間違いねえよ」
青年…。
「だからアイツが帰ってきたときに『おかえりなさい』って言ってやって欲しい。アイツはきっと『ただいま』って言うから」
「私は…、私が許せない…。口ばっかり好きだ惚れたなんて言っておいていざというときに何にも出来なかった……。助けてもらってばっかりで、あの人があんな怪我をしてても『大丈夫だ』って甘えてた…。何にも出来ないのに…彼がいるだけで何でも出来る気になってた…」
「まだ甘えたいんだったらもっと甘えてやってくれ。アイツは奥手で手が出せないんじゃねえ、甘えるよりも甘えてもらうほうが好きなだけなんだ。そして、愛されるよりも愛したいんだ。だから死なないで生き残ってやってくれ」
「……うん」
良い雰囲気のところ申し訳ないんだが全員着替え終わって第一艦橋だぞ。いつまで君らは通路にいるんだね?
『ぶち壊しだよお前ら!!! 早く換装してくれ!』
「このスカート短すぎるんじゃない?」
「やだこれ、屈めないじゃない!」
「ボクだけ短パンなのは納得が行かない」
「胸もお尻もちょうど良くて気持ちいい〜」
「やっぱりタイトスカートは失敗だったかしら。お尻がキツいわ」
少年がいたら着替えを見られなくて血の涙を流しそうだな。かく言う私も片隅に追いやられ何故かダンボールの間仕切りで着替えたのである。解せぬ。いくら緊急時とはいえ通路のそのへんでパンツ一丁になるハメとは誰得。
「さっ! 行くわよう!! 一斉射撃始め!」
「了解しました。一斉射撃始め!!」
「いきなりぶっ放すヤツがあるかぁ!」
「何言ってんの、さっき発進って言ったじゃない。もう空に上がってるわよよよよよよよよよ」
「反撃来ます!!!」
当たる前に言ってくれないかね?! 揺れてる! 揺れてるから!! というか彗星が反撃とはどういうことだ?! やはり神一郎とやらが?!
「第三艦橋装甲板大破! 職員を避難させます!」
『アームドアップよーし! 発艦準備よーし! 先に行くぜえ!! ヒャッッッッハー!!!!』
「え、ボクんので?」
「あいつのは別で造ってあるから問題ないわよ」
「お嬢様!! 7番ハッチが勝手に開いています!」
「なんですってえ?! ちょっとアンタ達!」
<デンドンデンドンデンドン!
なんだこの音楽は?!
『やってみたかったのよ、ガイナ立ち』
『OVAだからすぐに見終わりましたものね、お姉様』