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ドリームメーカー

山を下りると街には人っ子一人いなかった。道行く人も、働く人も、車の一台もいなかったでござる。夢を見ているときに途中で夢だと気付いてしまうと、自分以外誰もいなくなってしまったり空を飛べなくなったりする。


「いつから気付いてたの?」


「うーん、隠し通路のあたりかな…」


「隠し通路?」


「屋根裏から茉奈美さんの部屋に繋がってるでござる」


「うそでしょ?!」


何だやっぱり知らなかったのか。案内してもらったときに2階の廊下でふっと風を感じたから変だなって思って吹いた方を見たら壁だったでござる。


「で、ばしっと壁を押してみたら上からロープはしごが降ってきたからご主人に聞いたらお部屋覗きしてたとかなんとか」


「ぶっ殺す」


「ま、まあまあ…」


誰もいない街をトロトロと原付で走りぺけぺけ音を立てながら帰る。


「それで君は何者でござる? てっきり吾輩は腹に穴を開けられて死んだと思ってたけど」


「あなたは死んでないわ、死んでたら私の夢に入ってこれないもの」


「じゃあ吾輩は…!」


「まだ瓦礫の中ね」


よかったよかった。これでまたセクハ…じゃなくてフェチズムの探求が出来るでござる。ちょ待てよ? まだ瓦礫の中ってそれ助かってない!


「でもあなたは私の夢から出られないわよ」


「へぇっ?」


「あ、信号無視ー」


「どぁったったっ?!」


「きゃー?! ちょっと! 急ブレーキしないでよ!」


「いや今自分で信号無視って!」


「誰もいないでしょーが!」


あそっか。じゃあ問題ないでござる。いやいや問題大アリだから!


「吾輩をオフトゥンの中に返して欲しいでござる」


「嫌よ」


「いやいやいやいやいや嫌よ嫌よも好きのうちって違う!」


「あなたは逃さないわ、私のモノだもの」


そんなパロみたいなセリフ言うなよ!


「あなたは私の夢の中でずぅっと一緒にいるの。ずうっと、ずうっと、ずうーっとね」


あ、ヤバい。どっかで見たような目してるでござる。目からハイライトが消えるっていう死んだ目をしてるかヤンデレの目をしてるかのどっちかのヤツ。なして?! なして?! 吾輩この子に何したの?!


「さっき私に何者なのか聞いたよね? 私はドリームメーカー。夢を見せて洗脳したり情報を自白させたりが仕事の『メンバー』」


あかーん! 罠にかかってるでござる!


「くっ?! こうなりゃ逃げ…! 逃げ…、逃げ…、すいませんハンドルから手が離れないですがこれは」


「私の夢の中では全部私の思い通りになるのよ」


「でっすよねー」


「このままお家に帰って、ベッドに入って、永遠に愛し合うのよ。誰にも邪魔されない、二人きりの世界で」


「ベッドで?! 二人きりで?! 愛し合うの?!?!」


「もちろん二人で手を繋いでお出かけしたり抱き合ったり一緒に遊んだり、普通の恋人だってしたっていいのよ? そう、何してもいいのよ…」


鼻血がー! 鼻血が止まらんーッ! 鼻血汁ブシャー?!


「いやお家と言わずそこのネオンがきれいなお城で今すぐ…」


「どんだけだよ」


っていやいやいやいやいや! 帰れないのは困るでござる! 困るでござる! 大事なことなので2回言いますた!


「いやいや吾輩は帰るでござる!」


「今のあなたには無理よ。あなたがどんなに強くたって、今のあなたは死にかけてるもの」


「いや、そうかもしれないけど…!」


「死にかけてるだけじゃないわ。あなたから迷いを感じるわ」


「迷い? 確かに縞パンとランジェリーは迷うところでござるが」


「そうやってすぐふざける。誤魔化してるだけじゃない」


いえ、誤魔化していないでござる。縞パンには縞パンの、ランジェリーにはランジェリーの良さがあるでござる。それは単純明快な比較ができるようなものではなく、下着一枚でヒロインの年齢から性癖まで左右されるもので吾輩たちオタクのヘキも左右されるものでござる。誰に見せるものでなくても、誰に見せるものでないところでも可愛くありたい大人でありたい女の子の一種の願望の表れでござる。


「助けた女の子のありがとうが忘れられないのは分かった。けどそれと同時に同じ時を生きられないことで悩んでるのも分かった。だから誰に対してもどんなことに対しても本気になれない」


「緑色と水色とどちらがいいか…、王道の白か黒か…、勝負の赤か…」


「神妙な顔してるところ悪いけど下着の話は終わってるんだけど」


「…吾輩とて、気付かないほど馬鹿じゃないでござる」


郊外に入り始めたところで。


「吾輩は人間じゃないでござる。この先何年生きるか分からないし、吾輩と同じ寿命を持つ人はこの世に一人しかいないし」


「そうよね、だから私の夢の中にいればずっと幸せな夢の中で暮らせるわ。私はずっとそうしてきたもの。だからあなたも一緒にいるの」


「お気持ちはありがたいけど、結局それじゃ何も変わらないでござる。異能力者もたくさんいたって人間。吾輩と同じ寿命ではない、吾輩からしてみれば普通の人と同じ。けど」


「けど?」


「それでも助けたいって思うでござる」


吾輩はあくまでも怪人。お巡りさんや消防士さんじゃないし、お医者さんでもない。暴力でしか解決できない。武蔵野のおばあちゃんやレイミさんみたいに財力やコネはないし、ともみんの天ノ宮家みたいな名家でもない。言ってしまえばそのへんにいる雑魚だったでござる。


「あの咄嗟の突撃に、忘れられないありがとうに、地位や名誉も名声も何にもなかった。ただただ助けたい、助けなきゃって。苦しめられている人、傷つけられている人。あの一回で助けたいって気持ちを覚えたでござる」


「……」


「吾輩は頭悪いし、コミュニケーションは苦手だし、物腐な性格だしで人付き合い苦手でいっつも逃げたり受けに回ったりばっかだけど、誰かを助けたいと思う気持ちに嘘はないでござる」


「お人好しなのね、あなた。だからそんなに体を傷つけられても文句も言わない、やり返さない」


そりゃ吾輩にだってこんちくしょうって思うことはあるけれどそれでも何度でも助けたいと思うでござる。


「吾輩が持ってる力は本当は誰かを助ける力はじゃない、ただの暴力で破壊の力かもしれないけど、誰かが助けを求める限り助ける力にしたいでござる」


自分が守りたいもののためにも吾輩は怪人ではいられないでござる。


「私はあなたみたいにはなれないわ、ずっと逃げてきたもの。ずっと誰かに寄りかかってないと生きられないの。ずっと誰かといたいのに一緒に生きることはできないからずっと逃げてきたもの」


「なら吾輩の家に来るといいでござる」


「えっ?」


「吾輩の家だったらいつでも逃げてきていいしいつでも夢を見てていいでござる。何にもしなくていいし好きなことだけしていればいいし、甘えさせてくれる人だっているでござる。…ちょっとお酒臭いかもだけど」


「それはちょっと…」


真っ昼間から飲んだくれて虹色のキラキラ吐いてるのばっかだけどね! 料理出来ないし家から出ないし、すぐに手が出たりパシらせたり、勝手に人の部屋漁ったり秘密暴こうとするのいるけどね!


「同じ時を生きられないと言っても吾輩よりずっと長いこと生きてる人もいるし」


「なにその化け物屋敷」


「それ絶対本人の前で言っちゃダメでござる」


「…本当にいいの? 迷惑じゃない?」


「もちろん。一人や二人増えたところで部屋を増やせばいい話でござる」


お金は父上殿のへそくりからだからプライスレスだし。


「いつでもキミといられるんでしょ? いつでも抱きついていい? いつでも寄りかかっていい?」


「こんな男でよろしければ、いつでも」


「なら、アレどうにかしなきゃね」


「アレとは?」


「今地球に落ちてる彗星」


「い゛ぃーっ?!」


不意に空を指差すから何かと思ったら彗星ー?!

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