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現実逃避 3

「じゃあ次は山行くでござる」


「えっ」


「山はいいでござるよ、頂上からの景色はきれいでいい眺めでござる。うんうん、海もいいけど山もいい、うんうん」


「や、山? このあたりに登れる山なんか…」


吾輩はくるっと振り返って後ろの山を指差した。


「あれあれ」


「あれって…。あれって道も無い名前もない山じゃない?!」


「さあレッツラゴー」


「ちょっ、ちょっと?!」


また原付の後ろに茉奈美さんを乗っけて爆走でござる。海と来たら次は山でしょ! いつ登るの?今でしょ!


「わははは!」


「きゃあああっ?!」


「口開けてると舌噛むよ」


吾輩の背中に捕まりながら叫んでるけどまあここ野山だしね。たまに山菜採りとかきのこ採りのおじいちゃんがいるくらいで他には誰もいない吾輩だけの山。獣道もない野山を原付で駆け上がっていくとガタガタ揺れまくって吾輩の背中が大変喜ばしい。くっついたおっぱいがぷるんぷるん揺れまくって大変喜ばしい。


「着痩せしてる?」


「な、なんの話ぃぃぃ?!」


「またまた照れちゃってー。D? それともE?」


「このすけべぇぇえ゛っ!!」


あーあ舌噛んだ。


頂上は(吾輩が勝手に木を切ってあって)少し開けた場所になっているでござる。正面から海を一望できて後ろを向けば市街をこれまた一望出来る見晴らしのいい場所。


「こっ、この! 何考えてんのよ! おかげで舌噛んだじゃない!」


「どうよこの絶景。バカと煙はなんとやらって言うけどさ、高いところもなかなかいいもんでしょ」


「あなたこれで私のこと慰めてるつもり?!」


茉奈美さんはおこでござる。ヘルメットを地面に投げつけておこでござる。無視して原付のシートを上げてお茶とおにぎりを出す。


「食べる?」


「馬鹿にしてるの?!」


広い空を眺めながらぼーっと何も考えずにずっと向こうを眺めてると何かがキラッと光った。


「あっぶな」


「舌は噛むわ虫はくっつくわ髪はぐちゃぐちゃになるわなんなのよ!」


「どーでもいーけどさー」


「なに!」


「さっきからおぱんつ見えてるでござるよ」


「きゃあっ?!」


淡い緑と白のチェックとはまた珍しい。もうすぐ暑くなるからこれからはミニスカートの女の子が増えてもっと役得でござる。


「そんなにあの家がいいなら一緒に住む?」


「なんであなたなんかと!」


「吾輩が一人で住むには広すぎるし、掃除するのも大変だし。女子大生なんだっけ? バイト代出すでござる」


「ふざけないでよ! あの家は私のものよ! 借金してでも必ず取り返…」


「3億円」


「えっ?」


「ご主人からもらった資料にそう書いてあったでござる。まさか茉奈美さん、3億円借金する気?」


めっちゃ動揺してるでござる。そう、あの家は土地と建物含めて総額5億円。せり上がる車庫や自動収納冷蔵庫で相当な金額になっていた。おまけに階段以外の床暖房完備、ソーラーパネル、非常用発電機に蓄電機、土壌改良や鉄骨工事費、天然木材を使用したログハウス加工。これで金額が膨らまないワケがない。


「もちろん建ってから20年くらいしてるからばっちり5億円必要ってワケでもないけど、2億五千マンは出せるシロモノよ? 取得費用やら消費税入れたら3億くらいになるのかな? 銀行が現役女子大生に3億出すとは思えないけどねー」


「そんな…」


「そこでいい仕事を募集してるござる。住み込み家政婦さんを寮費無料、電気ガス水道使いたい放題、ネットも完備、土日祝休み、足りないものがあれば即追加。バイト代は一日100万円、一ヶ月で2千マン」


一年で2億円を超えるでござる。もちろん所得税やら健康保険やらあるから半分も手元に残らないかもしれないけど、借金したり普通に働いて稼ぐよりもずっと早くお金が貯まるはず。


「…あなたは一体何がしたいの」


「吾輩がHEROやってる理由」


「えっ?」


「まだ吾輩が怪人だった頃、敵の怪人とロイヤルセブンとの板挟みでボロボロにされてた頃。ある女の子を助けたでござる」


人間の時間感覚で言うともう何十年も昔の話。ある日変装して人に紛れて街に行き、食料を失敬して帰る途中で強盗に出くわしたでござる。様子を見てるとどうやらロイヤルセブンの一人がしくじって人質を取られて籠城されてしまった模様。そのころは戦後からあまり経っていないということもあって今と違って武器は弱いし、警察官の数は少ないし、もちろん特殊部隊なんかいない。


「知らんぷりして逃げようと思った。吾輩にも妹君が、家族が一人いるからね。しかも吾輩も怪人って言ったって所詮子どもだし。吾輩が退治されちゃったら妹はどうなるのって話になるし」


だいたい吾輩は子ども怪人だからおいそれと人の前で正体を現そうものならどうなるかは火を見るより明らか。ボコボコにされて本当に退治されちゃうでござる。なのにそのときは知らんぷりできずに人質の女の子に釘付けになっていた。


「このロリコン」


「まあまあ話を最後まで聞いてよ」


なぜか助けなきゃって思った。何かを感じたのか、急に降って湧いた使命感だったのか、いつの間にか吾輩は駆け出していたでござる。ガラスの窓をぶち破り、背中に銃弾を受けながら立てこもりしていた怪人の腕を引きちぎって女の子を外に放り投げた。


「そこまでやってハッと我に返ったでござる。やっちまった、と」


「馬鹿じゃないの?」


辛辣う! しかし、とき既にお寿司。後ろは警官隊にロイヤルセブンが一人、前には片腕でも元気いっぱい殺す気マンマンな怪人。結局片方ずつぶっ飛ばしたはいいけど、血を流しすぎてあとはお巡りさんにトドメを刺されるだけになってたでござる。今でも頭に押しつけられた銃口の冷たさは覚えてる。


「でも生きてるじゃん」


「女の子がね、『ありがとう』って言ったでござる」


周りにいる野次馬からぶっ殺せコールを浴びせられながら銃口を頭に押しつけられたもんだから吾輩も死を覚悟したでござる。そこに助けた女の子が割って入って、めっちゃ良い笑顔で嬉しそうに『ありがとう』って言ったでござる。あれは嬉しかったね。


「それまでにもちょいちょい人を助けたことはあったけど、吾輩の正体に気付くやいなや悲鳴を挙げて逃げてったからね。人を助けるのはもうやめようって思ってたでござる。なのにこれだもん」


「………」


それまでぶっ殺せ言いまくってた野次馬も駆けつけてきて騒いでいた警官隊もみーんな静まり返って誰も一言も喋らなくなった。不気味なくらいに静まり返るもんだから女の子が泣き出しちゃって、気まずいから血だらけの体引きずって立ち去ろうとしたら後ろから肩を捕まれて『あんた、忘れもん』って放り出した食料押しつけられたでござる。吾輩びっくりして声も出ないでやんの。ついさっきぶっ飛ばしたロイヤルセブンの人に食料押しつけられたんだもん。どう見てもその人まだまだ余力があって今そこで吾輩ぶっ殺せたろうに、なぜかそうしない。お金払ってないからいらないって言ったら払っといてやるって言うし。


「おまけに去り際の吾輩に女の子がなんて言ったと思う?」


「…なんて言われたの?」


「『また会えるよね』って。人間と怪人がそんなほいほい会ってちゃダメなのに」


ま、その女の子とはもう会わなかったんだけどね。いじめられたりしたら可哀想だから。怪人なんかと関わってちゃいけないから。でも吾輩はあの嬉しそうな顔の『ありがとう』が忘れられなくなった。今でもあの嬉しそうに笑う顔は覚えてるでござる。


「その後しばらくして、新聞でその子がお菓子メーカーのちょっとした財閥のお嬢さんだったって知って。無事でよかったなあと」


「…いまその女の子は?」


「元気にしてるんじゃないかなあ。吾輩と関わったなんて知られたらまずいから、こっちから連絡するとか会いに行くとか全然してないけど」


「そんな一言のためにボロボロになってまで…今までやってきたって言うの?」


「今までも、これからもね」


最後のおにぎりを食べ終わると優しく薫る風が通った。


「知ってた? ここ風通し良いし日の光も当たるからよく透けるって」


「え?」


「もうハタチになるんだからもうちょっと大人っぽいブラにしないとね〜。上と下セットで売ってるから揃えるのは分からんでもないけどね〜」


「?!」


「ハタチでチェックのブラジャーにおパンツはちょっと子どもっぽいかなーって」


「こ…、この痴漢! 変態! すけべぇっ!」


「んふふ、透けて見えるおっぱいから腰回りに透けたスカートから映える太ももがええ感じでね? 下着が透けて見えてるから白い素肌が映えるでござる。ブラジャーまるごと透けてるのもポイント高いけど、肩紐から鎖骨まで透けてるからこそグッとくる。バストサイズも大きすぎず小さすぎず、バストの上から下まではっきりするのもグー。おぱんつに至ってもわりと際どいおかげで太ももと恥骨のライン上におぱんつのラインが来ていてやはり秘部と太ももをはっきりさせていてぴったり感が素晴らしい。しかも布地はしっかりしているのか秘部はまったく透けず影になっているでござる。このね、大事なところが見えない、その見えないおかげで妄想を掻き立てられるってのが凄い重要なんでござる。やはりすけすけこそ至高」


「こ、この変態オヤジがぁ〜!!」

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