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無人島 5

壁<ぼこーん!


壁「解せぬ」


「アッー」


とあるギリシャの無人島にある地下研究施設でござる。夥しい数の実験体クリーチャーがひしめき合っている中で下手に全力を出すと、海まで繋がってしまい海水で沈んでしまうためちょっと強いパンチで頑張ってたけど調子に乗ったでござる。


「げぇーっほえっほえっほ! カーッ ペッ!」


「親父臭いねキミ」


「! 誰かいるでござる?」


誤って吹っ飛ばした壁の土煙でむせていると土煙の向こうから誰かやってくるでござる。人影が見える。誰だろう。見たところ普通の人間のサイズだけどこのフロアに人はいなかったはず…。


「キシャアアア!」


「あっ、危ないでござる!」


しまった! クリーチャーが一匹飛んでったでござる!


「フン…」


しかし次の瞬間、土煙の中に飛んでったクリーチャーは上と下の影に分かれて倒れたでござる。んなアホな。仮にここに人がいたとして、研究員か武装した戦闘員しかいないはず。それがおそらくは一撃で真っ二つにした? ということは、あそこにいる人は人ではないでござる。人のカタチをした化け物か、あるいはいつぞやの中学校やフランスの人格を保ったまま化け物になった人か。どちらにせよまっとうな人間ではないでござる。


「ごっほ…、こんな初めての出会い、嫌だったな、僕は」


「ッー!」


土煙の向こうから現れた人物はとんでもない格好をしているでござる。


「ホモォ」


「違うよ」


全身を覆う鎧に仮面。色は濃紫。武器は無し。手脚の鎧は特に造詣が深くぶ厚い。頭部からはツインテールを彷彿とさせる2つの飾りが垂れ下がり、胸や胴は男というよりは女性に近いなだらかで丸みのあるもの。こっ、これは…。


「ともみん…、いつの間に男の子になる手術を…」


「違うよ。というかそれ絶対本人に言わない方がいいよ」


確かに身長が違うでござる。それにともみんがファントムにヘシン! してもツインテールは自前の髪でござる。この人のは朱色の目立つ戦闘には不向きな色。ということはイメチェンして髪型を変えたとかではなく単純に飾り。いやしかし、ならこの人の出で立ちはなんなのでござる?


「あなたはいったい?」


「僕? 僕はね、天ノ宮カヲル」


「なるほどだから胡散臭いCV.石田彰なんでござるね」


「ヤメタマエ」


「って、ええー!? お義兄さんヘシン! 出来るでござる?!」


「字が違う定期。なにより、キミが知っている朋美の兄は別人。表向き影の薄い兄を演じているだけの、本来の兄である僕の代わりさ」


??? 何言ってるのかさっぱりワケワカメでござる。お義兄さんがお義兄さんでない? お義兄さんがお義兄さんの代わり? お義兄さんだけどヘシン! 出来る? そういえば最近お味噌汁の具にわかめは使ってなかったでござる。なめこを一緒に入れても美味しいでござる。


「何を言われているのか分からないというふうだね。そうか、朋美は僕のことは話していないんだね」


「ホモォは守備範囲の外なので吾輩からも聞いたことはないでござる」


「だから違うよ」


吾輩が次のお味噌汁の具で頭をいっぱいにしているとまた横やりが入ったでござる。


「ゴアアアア!!」


「おっと、危ないよ」


「!」


吾輩の後ろから飛び込んできたクリーチャーを、お義兄さんは後ろ回し蹴りでまたしても真っ二つにしてみせた。なんだ今のは…。


(今…、目で追えてなかった…)


土煙の中から出てきてもそれほど間が詰まってなかった。それどころか、この研究施設はこのフロアだけ見ても半径がざっと200メートルはあろうかという広さ。吾輩は地下の研究施設なんか入ることは今回が初めてだし、普通の研究施設の広さを知らないだけかもしれないが、それにしても東京ドームでみてもホームベースから外野スタンドまでの倍くらい。けっして狭いとは言えない広さのはず。


「二人っきりで話がしたいな。まずは片付けようか」


「ホモォ」


「だから違うよ…」


ともみんのお義兄さんと名乗るカヲルさんは恐らくともみんと同じ能力でありながら実力はともみんの比ではない強さでござる。現に、たった数分の今、1000はいただろう実験体クリーチャーを亡きものにしてしまった。


(さっきの吾輩の後ろを取ったのといい、反射神経だけで反応しているでござる)


戦闘中に試しにわざとクリーチャーの死体をお義兄さんへぶっ飛ばしてみたが、予備動作もなく突然真っ二つになったでござる。正確には、予備動作がなかったのではなく『吾輩の目でも見えなかった』と言うのが正しい。本当に予備動作もなかったのか分からない。


「さて、二人きりになれたね」


「ホモォ…」


「だから違うって」


だってねえ。男の人にキミと二人きりになりたいな、なんて言われたら疑うでござる。吾輩が美少女なら二人きりになりたいのは分かるけど、吾輩は健全な男の子でござる。


「そうは言われましても、突然現れてキミのお嫁さんのお義兄さんですと言われても、お義兄さんは熱海にいるはずですし…」


「だから字が違うって…。まいいや。さっきも言ったとおりだ。熱海にいるカレは僕が天ノ宮家を追放されたあとに来た、ただの替え玉だよ。僕とは似ても似つかない、異能のカケラも持っていないただの普通の人間」


「天ノ宮家を追放された…?」


何言ってるでござる。そんな人間がいれば天ノ宮家は上を下にの大騒ぎ。全国にも世界にも名が知られているから天ノ宮家だけに限らず日本でも海外でも知られていないはずはない。でも吾輩は初耳でござる。


「そうだよ。僕はね、『向こう側』の僕と仲良しになってね、一緒にいたかったんだ。でもね、一緒になったら殺されかけちゃったんだ。でも一緒にいたかったんだからしょうがないのさ。たとえそれが大量の生贄を必要とする禁術だったとしても、一緒にいたかったんだからね」


「な、何を言って…」


「君もそれくらいは知ってるだろう? この世界がパラレルワールドで、オリジナルの世界があるってことくらい。そして、オリジナルの世界から侵略を受けていることも」


い、生贄? 禁術?


「そして僕らは一つになった。この一つの身体に二つの魂を宿して」


「何がどういうことでござ…、ッッッ!!!」


「【次世代の英雄】。僕はそう呼ばれていた。ロイヤルセブン? あんな貧弱な連中と一緒にしないでほしいね」


「な、何…を…」


吾輩の口から大量の血が溢れる。腹に手を突っ込まれた。吹き出しても吹き出しても止まらない吐血がおかしいでござる。吐血が止まらない、出血が止まらない? 超再生が働いていない? いやそれよりも今いつの間に接近して…。


「貰い物の力ばかりで、使い方も覚えられず、制御も巫女が二人も三人もいなければままならない。全く、情けない」


「ぐ、おぉ…」


「君はなんでも一人で出来ると思ってないかい? それは思い上がりというものだよ。君は強くない、君は一人では何も出来ない、君はただの人間だよ」


ぬ、抜けない……?! 吾輩が全力で引き抜こうとしているのに抜けない…?! なんだ、何なんでござる?! この男は…!! それどころか、少しずつ腹を進んでいっている…?! は、腹が貫かれる…!!


「ぅ、ぐぅっ…、ブフッッ!」


「その強靭な身体も、誰から貰ったものだと思ってるんだい?」


「な……に…?」









「僕の組織、カラミティから貰ったものだろう? この化け物」









「…………てめえ!!!」


「おっ?」


何故それを知っている! 何故それを知っている!! 何故それを知っている!!!


「オオオオオオオオオオオオ!!!!」


「良い雄叫びだ。オーラもなかなか。だけどまだだ、まだ足りないよ」


「ウォオオオオオオオオオオオオ!!!」


「覚えておくといいよ。異能力者同士の対決の場合、力量に極端な差があると弱い方は超再生がほとんど効かないんだ」


「待ちやがれええええええ!!」


「あるいはまったく効かずに死ぬこともあるから気を付けてくれよ」


言いたいだけ言ってヤツは姿を消した。赤子の首をひねるくらいにしか相手をされなかった。無様な姿で上に戻った。


「ござるさん! やっと戻ってきた! いくらなんでも私一人でやるのは無、理…ってものが……? ござるさん…?」


「ひゅー…、ひゅー…。し、死ぬう……」


「き…、きゃあああ!!!」


ドシャっと床に倒れ込むとカレンさんが悲鳴を挙げて血相変えて駆け寄ってきたでござる。そりゃそうだよね。ほんの一時間くらい前に元気に飛んでったヤツが腹に風穴開けて帰ってきたらそりゃ驚くよね。無理もないでござる。


「ござるさん!ござるさん! しっかりして! いいいいいいいったい何がっ?! だっ、誰か薬と包帯と止血としゅじゅちゅとえーとえーと!!!それから薬と包帯と止血としゅじゅちゅ!!!」


「落ち着きたまえ。顔色をよく見ろ。腹が内蔵までえぐられているにも関わらず、顔色から血の気が引いていないだろう。死ぬならもうとっくに死んでいる」


「えっ?」


「うぅ〜ん、血が足りなくて気持ち悪いでござる…。吐きそう…。吐きそう…っていうかもう吐く内蔵もないんでござる…。内蔵が無いぞうって、もう内蔵ないんですけどねー……」


「ほっ…」


それはそれとして現役女子高生の生足膝枕は気持ちいいでござる。パンティがわずかに見えているのも◎。チラリズムは素晴らしい。丸見えは丸見えでそれは素晴らしさがあるでござる。でもチラリズムはチラリズムで素晴らしさがあるでござる。ミニスカート万歳。


「パパァ! ママァ!」


「ああっ マリー!」


上に戻る前に口から内蔵がまろび出ながらも下の居住区に寄って皆開放してきたでござる。あっちこっちから包丁やらお皿やら家具やらが飛んできて殺されるかと思った。


「か、感動の再会でござるね…、ゲホッゲホッ」


「ござるさん、喋っちゃだめ。これ以上は本当に死んじゃうから…!」


「ま、だ…」


「え?」


「まだ…、一仕事残ってるでござる」


名残惜しくも現役女子高生の生足膝枕から立ち上がり、拳を握り締めて構える。本当はもっと派手にやるはずだったのに、全然力が足りないし、本当は居住区に人を集めて、最下層のコロッセウムから打ち上げるはずだったのに…。シールドも張れない、出力も足りない。最上階のここからでも上手くいくかどうか。


「手伝ってくれって、一言言ってくれればいいのに」


吾輩の隣で、吾輩と左右対称に構えるカレンさん。


「カ…、ローズさんはバリアを…」


「朱雀!」


「やれやれ、人使いが荒いなキミは」


神剣の具現化……。カレンさんももういつの間に強くなっているのやら。でも朱雀たんがいてくれるなら安心でござる。


「では…吾輩達がバリアの外から、この天井ごと研究施設を一撃で貫通させたのち、朱雀たんが研究員と家族を連れて脱出、続いて吾輩達が脱出でござる。朱雀たん、バリアごと飛べるでござる?」


「床ごと飛べるさ。それよりも私にたん付けはやめろ、私は男だぞ」


「んっふ。ローズさん、吾輩はもう力が足りないから、ローズさんメインで、吾輩が上から被せるでござる。だから…」


「任せてください、必ず抜いてみせます。だから…帰ったら…そのう……」


「?」


「ご、ご褒美が欲しいかなーって…」


ありゃー、カレンさん耳まで真っ赤でござる。パンティも真っ赤なのに。え? 仮面してんのに分からないだろ? いやいや、吾輩には分かるでござる。めっちゃもじもじしてるもん。構えどこいった。


「うーん、吾輩を一週間自由に出来る券とかどうでござる?」


「ぶっ」


「ぎゃー! 今度は女の子の方が鼻血吹いたぞ!」


「カ…、ローズ…キミはいったいどんな想像をしたんだ…」


「ふぉ…」


「ふぉ?」


「フォオウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオゥ!!!!」


「?!?!?!」


「アッー! 被せるの間に合わな…!!」


カレンさんはいったいどんな想像をしたのか、鼻血を吹き出したまま突然叫びだし研究施設の天井ごと直上を島の外まで巨大な穴をブチ抜いたでござる。やり過ぎたのか程なくして地響きとともに崩壊が始まった。


「はっ! 私はなにを!」


「いいから早く脱出するぞこの発情娘が!」


──────


島の外縁に脱出し島の崩壊に揺られていると、朱雀のバリアを目印にしたのかトルコの護衛艦が何隻もやってきた。先頭にファントムが飛んでいる。


「ローズ! 朱雀!」


「ファントム。またレイミさ…、ターミガンの差し金ですか?」


研究員とその家族を護衛艦に任せると一番にファントムがすっ飛んできた。人の苦労も知らないで後から飛んでくるだけなんて楽で羨ましいわ。


「違うバカ!! 私の『本当』の方の兄があなた達も見た写真に写ってたのよ!」


「! キミの本当の方の兄…?! ヤツがここにいたのか?! なら彼の怪我はまさか!! まずいぞローズ!」


「な、なに? なんなの二人して。ござるさんだったら一緒に脱出してきて…あれ?」


いない。いるはずの彼がいない。嘘。だってさっき一緒に脱出って…。なんで?なんで? なんでいないの?


「怪我ってなに!」


「彼は腹を内臓ごとえぐられてほとんど背骨だけでかろうじて繋がっている状態だった! くそっ! だからあんなダメージが残っていたのか!」


「な、なに? どうしたのふた」


言いかけたところで平手打ちを食らった。


「何すんのよ! いきな…り……」


いい返そうとしたらファントムが仮面の下からこぼれ落ちるほど涙を流していた。突然の平手打ちに涙は私の不意を突くには十分だった。彼女の泣いているところなんて初めて見た。初めて素顔で会ったときはひどく凍りついた顔をしていた彼女がこんなに泣いているなんて。


「バカ! なんで気付かないのよ!」


「えっ?」


「超再生出来てないってことはそれだけかけ力が離れた異能力者にやられたってことでしょ! 私と彼がやり合ったときのことぐらい聞いてるでしょ! その後私が寝込んだことも!」


「あ…」


超再生も出来ないほどダメージが残っていて、ここにいないってことは…、なら彼はまさか…。


「あの中に…?」


崩壊した無人島に振り返った。島はもはや、起伏も森林もなく、ただの平野と化していた。


───────


「吾輩もここまで…か」


月の灯りも届かない、真っ暗な中で瓦礫に埋もれてまだ生きているとは吾輩もなかなかでござる。お腹も無いのに。もう手足の感覚もないけど。もう目も見えない。暗いのか見えてないのか分からない。ひょっとしたらちぎれた首だけでまだ意識が残っているだけなのかもしれない。


「お迎えはいつくるのかなあ…」


独り言を言っても誰も返してはくれない。誰もいない暗闇の中でも、心残りは家族のことだったでござる。


「皆ちゃんとご飯作れるのかなあ…、心配でござる…」


吾輩はこの数ヶ月でたくさん女の人に囲まれてうっきうきだったけど、誰も彼もまともに料理できなさそうな人ばかりでござる。ともみんやリーシャさんあたりは大丈夫そうだけど、あとは飲んだくればっかでツマミもろくに作れない。中卒の吾輩が言うのもなんだけど、バカばっかだし。


「リエッセさんやなずなたん's、青龍たん達は…どうにかなるか…。魔界の秘書さんいるし、最悪お師匠さまいるし…」


罠に掛けっぱなしで出て来ちゃったけど、御札の効力も長くは続かない。それに、この世界の人にはよく効くけど、この世界の人じゃない人いるし、どうにかなるでござる。


「妹君は…ちゃんと学校行くのかなあ」


もう泣かせないっていつか約束した気がするけど、守れそうにないでござる。まだ皆に出会うよりもず前に、ボロボロになって帰ったとき泣きじゃくってた。あのとき母上に初めてビンタ食らった。妹君は吾輩がヒーローやるのも反対してたし、こんな結末じゃどれだけ泣かしちゃうことやら。謝っても謝りきれないでござる。


「あ…」


意識が朦朧としてきたでござる。残念ながら吾輩にお迎えは来ない模様。それもそうだよね。あの人に言われたとおり、吾輩もともと化け物だもんね。たくさんの人を殺して不幸にしたもんね。お迎えなんか来ないでござる…。






























「見つけた」

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