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無人島

翌朝。朝食を食べながら。


「ということで行ってくるでござる」


「本当にいいの? 罠にハマった四人助けなくてからでなくて」


「母上は止めたんでそ?」


ギリシャにある無人島に、今回起こった金髪縦ロールさん改めダリア・イベリスたんの家出の原因をしばきに行く。直前になって吾輩の隠し事を知ろうとする不届き者'sがまんまと罠に掛かっていたでござる。


「まあ一応は…。もう少し強く止めれば良かったと思うけど」


「無限回廊は進む時間がこちらの時間にして365分の1になってるでござる。向こうで一年彷徨っててもこっちに帰ってきたら一日しか経ってない」


「い、一年?! リエッセさん達餓死しちゃうよ?! そもそもおトイレとかどうするの?!」


「青龍たんとなずなたん'sは吾輩と融合してるから吾輩が餓え死にしない限り消滅することはないでござる。リエッセさんは異能力を生命活動に回せば問題ないはず」


ちらっとハルたんを見やる。魔界には納豆がないのか、こんな腐ったものを食べるなんて頭おかしいんじゃないですか?という目でドン引きしてるでござる。ふふふ、ハルたんほどのお人なら罠があると分かってたろうにリエッセさん達を手伝った罰でござる。妹君に助けを求めるも、


「あの…」


「我が家の朝食は白米、お味噌汁、納豆、たくあんと決まってますから」


「うぅ…」


母上に助けを求めても、


「せ、先輩…」


「なめこととろろとオクラとめかぶともずくのどれがいい?」


「ひいぃぃぃぃ…!」


とこの通り。母上も妹君もとりつく島もない。朝からもずくはどうなのとは思うけど。朝食を食べ終わって食器洗いも終わって、食後のお茶をいただいていると呼び鈴が鳴って一人でカレンさんがいらっしゃったでござる。


「おはようございます、お義母さん、瑠姫ちゃん」


「字が違う定期」


「私はいないのでしょうか」


入るなり三指ついて挨拶されても定期。今回のお仕事は吾輩とカレンさんが「勝手に」単独でカチコミ掛けたという表向きでござる。そのため着の身着のままで向かう。持っていくものは非常食と飲料水の入ったサイドバッグ1つのみ。


「では」


「しっかりやってくるのよ」


「カレンさん泣かせたらわたしが許さないからねお兄ちゃん」


ふと湯呑みを置くと茶柱が立っている。


「だぁーいじょうぶ! 吾輩にまかせてちょんまげ」


ヘシン! して光速で成層圏に入りイギリスへひとっ飛びしてまず一番偉いお方に事情をお話し、事の顛末を解決し次第報告することを約束にイギリスは一切の介入をしないことを取り付けて、いざ無人島へ。


「イギリスは夜中だというのに、まさか起きていらっしゃるとは思わなかったでござる。しかも向こうから手出ししないと言ってくれるなんて」


「副会長は「円卓」の中でも中心に立つ貴族ですから。ただの家出ならまだしも、背景にカラミティがいると知ればそれなりの対応にはなります」


おとろしい…。ふいんき読めるとかそんなレヴェルでは無いでござる。突然の訪問にしても、レイミさんが密かに連絡を入れてくれていたとしても、まさかこうもすんなりとは。発見されないよう、無人島の上空1000メートル

からヒソヒソ話。ここからはなるべく隠密行動でござる。吾輩がホークアイ(吾輩命名)で無人島をサーチし、まず様子を見る。


「やはりというかなんと言いますか、あちこちに偽装した監視カメラにこれまた偽装した見回りが二人一組でいるでござる」


「朱雀は熱探知に何も反応していないと言っています、…表面上には」


「となると、地下でござるね」


誰もいないはずの無人島で堂々とサーチライトを使ったいるわけもなく、おそらく監視カメラもこの時間では暗視カメラでござる。見回りがいるなら指なりIDカードなり借りて入り口から堂々侵入するか。


「それにしても光の速さは体に堪えます…」


「ごめんね、ともみんにお願いして影の中を瞬間移動させてもらっても良かったんだけど絶対怒るでござる」


腕をさするカレンさん。物理速度で最速の吾輩がマッハしか出せない人を無理に連れてくれば相当に負担であることは分かっていたこと。だけど学園のことは学園にいる人間だけで解決したかったでござる。


「カレンさん、ちょっとフルフェイス仮面取るでござる」


「えっ?」


「いいからいいから」


半ば強引に顔を露わにしてもらい、そっと両手で包み込む。太陽の力を手のひらに広げ、じわりと温める。光速で2回も移動したし、ただでさえ上空1000メートルという冷え込む中では炎熱系最強のカレンさんが異能力を使っても相当に冷えているはず。現に、頬は北極南極を思わせる冷たさだったでござる。


「あったかい…」


「こういう力の使い方があってもいいかなって」


「もう少しこのままで…」


「うん」


ひとしきり温めた後、そーっと無人島に降り立ち、見回りの背後からヘッドロックで気絶させ、茂みに入るなり身ぐるみ剥がして早速侵入した。IDカードも拝借した。さすがに入り口のカード差込口の僅かな電熱は隠せないご様子。入り口から長いことエレベーターで地下まで降りる。一体どうやってこんなに掘ったのかと言いたくなるほどで、装備品の時計で時間を見ると20分近く乗っていた。エレベーターの扉が開くと真っ白い空間が広がり、通路がいくつも繋がっている。アリの巣にでも迷い込んだのか? 入るなりお借りした装備一式を脱ぎ捨ててヘシン! して高らかに雄叫びを挙げた。


「出てこいやあぁぁぁぁぁ!!!」


「私達夫婦を相手にしてタダで済むと思わないことねっ!」


「事実と違う定期」


あっという間に警報が鳴り響き、銃火器を持った戦闘員が集まってくる。まだ入り口だというのに、それこそ道に落ちた飴に群がるアリのよう。いや、ここは巣の中だからかもっと多い。どこからそんなに出てくるのかうじゃうじゃ出てくる。


「雑魚に用はない。おたくらのボスを出すでござる」


「撃ち方始め!」


正直にボスを出すなら見逃してやるでござる、と続ける間もなく一斉射撃が始まる。しかしフルフェイスフルアーマーの吾輩たちに通常兵器など蚊に刺されるほどもない。あっさりと暴れまわって処理し先へ進むと、一流の銀行も真っ青になるほどの厚さがうかがえるほどの巨大な重金庫扉があった。わざわざ全部溶かすのも面倒なので、端の薄そうなところを吾輩が両手に太陽の力で大人二人が並んで入れる穴を作った。


「なんて生ぬるいことはしなかったでござる」


脚に込めた太陽の力で十字斬りをかっこよく決めて思い切り殴り飛ばした。奥の方で悲鳴が聞こえたような気がする。しかし死体は見えなかったのでセーフ。入った先は研究施設になっていた。様々な設備に器材や薬剤、さらに奥へ進むとガラス張り円柱に入れられている数々の「何か」。一目見て分かるのはそれらは人間ではないということでござる。すぐ後ろを歩くカレンさんが舌打ちしていた。


「きっ、君たちは…!」


「出入口なら全て塞いであるでござる。夜明けには吾輩達の通報でこの島も包囲される。今のうちに荷造りでもどうぞ」


戦闘員以外は襲ってこない限り放置。襲ったきた場合は気絶させて無力化して回っていた。そんな中、白衣を纏った一人の男が駆けつけてきた。吾輩達を見るなり事情は察したようだが大人しく従う風には見えなかった。白衣の男は左の脇腹から拳銃を引き抜くと吾輩たちに向けた。手が震えているでござる。白衣の男は皺が多く白髪に髭を目はクマがひどい。たくわえている口ひげも真っ白だ。


「わ、私にだってこういうものは扱える…!」


「安全装置が外れていないでござる」


「人をバカにするな! 外してからきたんだ!」


「そこは引っかかって欲しかったなー。ローズさん」


「はい」


カレンさんが朱雀を静かに引き抜き、一気に間合いを詰めて拳銃を斬り飛ばした。「化け物」でもない限り、吾輩達の戦闘スピードにはついてこれるはずもない。もちろん移動速度にも。拳銃を斬り飛ばされた老齢の白衣の男は腰が抜けたのか、その場にへなへなと座り込んで周りの白衣達に支えられてかろうじて目を開けていた。それでもなおこちらに向ける視線はひしひしと吾輩達に殺気を放っている。


「無理に抵抗するなら腕の一本くらいはもらい受けるでござる」


「まっ、待ってくれ!」


支えていた若い男の一人が制止した。


「なに?」


「私達は皆がお」


「やめろ! 言うんじゃない! 言っては駄目だ!」


喋り出した若い男に割って入った老齢の男はカレンさんに拳銃を斬り飛ばされたときよりも焦った顔をして首を振った。剣を向けられるよりも焦るとは何事でござる? 老齢の男はみるみるうちに青ざめた顔になり必死で若い男にすがりついた。


「やめくれそれだけは! それだけは言わないでくれ…」


「博士…、しかしこうなってはもう彼らに頼るしかないではありませんか…。俺達の家族まで殺されてしまうかもしれないんですから…」


「今、なんと?」


家族が殺されてしまうかもしれないんですから?


「ここにいる研究員は、カラミティから来た所長を除く全てが家族や恋人を人質に取られて脅迫されてここにいるんだ…」


「なっ…?!」

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