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しろっ!

「こんばんは」


一言だけ放たれたその挨拶は、いやによく聞こえた。


「なるほど。そりゃあ、あなたならお師匠様や吾が輩など足元にも及ばないでござる」


第六天魔王にして現魔王の織田信長の側近、ハルフェティたん。漆黒と呼んで差し支えない格好しかしていないのか、今日も黒ずくめてござる。この季節らしいコートにセーターだというのに全て真っ黒。


「いらっしゃい」


吾が輩のわきからにょきっと首を突っ込んできた母上。なぜだろう。いやこの疑問は今さらだった。なぜ今まで気が付かなかったのか。母上がいつもの母上に見えないでござる。同じ人間なのにまるで別人を見ているかのような…。


「じゃあ、食べながらでもお話してもらいましょうか」


誰だこの人…。いつもの少しふざけた軽いノリとはまるで違う。むしろこれが本来にも見える。呆然としている吾が輩を見ても母上はもはや別人だったでござる。


(気まずい…)


ようやく夕飯を食べ始めたが味がしないでござる。張り詰めた空気、こんなときばかりゆっくり流れる時間、静かなリビングに箸を運ぶ音だけが響く。


「取り敢えず、一番最初から話しましょうか? 事の発端、タケちゃんの秘密」


工エエェェ(´д`)ェェエエ工


「ねえ、お兄ちゃん。黙ってないで何か言いなよ」


「いやー、あのですねぇー?、それがですねー、なんというかですねー、こう、ね? 色んな事情というものがですねぇー」


箸を運ぶ音すらも止まった。なんとか言い逃れようと言い訳をどうにか捻り出そうとしたけど、そういえばさっき妹君が成人したとき全てを話すつもりだったって言っちゃったでござる…。隠しようがない。


「…妹君の中学であった人体実験の唯一の成功例、旧日本軍制式採用生物兵器。それが吾が輩でござる。その、つまるところ吾が輩は人間じゃないでござる」


「…」


「あのギミックの部屋にはその証拠と、吾が輩達の本当の両親からの手紙と記録が封印されているでござる」


「リエッセさんやなずなさん達、青龍さんがいないのは」


「何かの拍子に部屋を見つけて、なんかしらの手段でハルフェティたんに手を貸してもらった結果、封印結界に取り込まれて無限迷宮に放り出されたかと…」


「……」


「吾が輩の過去について、武蔵野の個人情報のリストに載ってないのは恐らく会長のおばあちゃんが気を利かせてくれたのかと。…吾が輩達の本当の両親、日常的な家庭内暴力をする酷い親だったけど、吾が輩と妹君を逃がして、その場で殺されたでござる。『ごめんなさい、ありがとう』。それが最期だった」


サード・アイの前身、カラミティ。さらにその祖は、第一次世界大戦以前に創設された超人研究機関というらしいでござる。らしいというのは、本当の両親からの手紙に書いてあったことでしか分からないから。


「ごめんね瑠姫ちゃん」


母上から絞り出されたその声は震えていた。


「実を言うとお母さんも人間じゃないの、お父さんも少し違うの。お兄ちゃんも、お姉ちゃんも。嫌よね、こんなイビツな家族」


「申し訳ありません、私が余計なことをしなければこんなことには」


「ううんいいの。遅かれ早かれ、いつかはこうなっていたから」


暖かいはずのリビングの空気は凍りついていた。部屋の気温とは裏腹に、トドメの一言が突き刺さった。


「わたしは許さない」


はっきりと聞こえた。怒り、悲しみ、苦しみ、嘆き。ずっと騙してきた、自分が蒔いた種。怒りに満ち満ちた、それでいて可能な限り感情を抑えた唸り声にも似た声が聞こえた。


「なんで、隠してたの」


「成人するまでは何も話さないつもりだったでござる」


「お兄ちゃん、わたしが本当の両親のこと聞いたら『あんな酷い親のことは聞かなくていい』って」


「…ごめん、半分は嘘なんでござる。本当の両親は喧嘩が耐えなくてDVでよく傷つけられた。妹君にその頃の記憶がないのは無意識に記憶を消しているから。でもそれは、吾輩を生んでしまったことによって背負った永い逃亡生活の末、気が触れてしまった結果だったんでござる」


超人研究機関、今のカラミティからの追っ手はいた。見つかる度に夜逃げになって、まともな生活なんて吾が輩の記憶にもない。


「わたしが聞きたいことはそんなことじゃない!」


妹君が箸を叩きつけた。


「お兄ちゃん、わたし達家族だよね? 血が繋がってなくても家族だよね?」


「…うん」


「だからわたしは隠し事なんてしないよ。してほしくもないよ」


「わたしは確かにバカだし、他の人よりも運動が上手いくらいだし、性格だって普通だよ」


確かに、普通でござる。妹君だけは普通の人間なんでござる。だか妹君だけには普通に生きて欲しかった。


「わたし、大好きだよ。お兄ちゃんもお母さんも、朋美さんやレイミさん、リエッセさんもカレンさんも、リーシャさんやシオンさんもいる。スカイちゃんだっているし、狐の妖子さんや青龍さんだって、みんなみんな大好きだよ」


俯いて震えた声を絞り出す瑠姫は俺が思っているよりも子どもじゃなかった。


「みんな大好きだから、隠し事は許せないよ…」


相当な力で叩きつけられたのか、テーブルこたつは板が割れ、やぐらも傾いて…お皿も傾いて…。妹君ってこんなに力強かったっけ…。あれ…?


「本当に良い子に育ちましたね、先輩」


「ええ、私が可愛がってきたんだもの。当たり前よ」


「まったく魔王さまに爪の垢を煎じて飲ませたいくらいです」


「先輩?」


ハルフェティたんが母上に向かって先輩、と確かに言ったでござる。


「あなた方のお母さんは私とは先輩後輩の間柄なんです。元は魔界で女王をなさっていました。やがて功績を認められ冥界に渡ると女神となり、ある戦いの場であなた方のお父上と出会い、その後駆け落ち。魔界も冥界も上へ下への大騒ぎになりました」


あへえ。母上人間じゃないっつーかそもそも人間界出身じゃなかったでござる。えぇ……、なにそれそんなのアリ?


「それにねお兄ちゃん、わたしだってやればできるんだよ?」


えっ?


「こんなっ、風にっ、ねッッッ!!!!!!!」


ざっくりざくざくオーザック!


「どっしぇーーー!!!!」


傾いたテーブルこたつに散らばったフォークをパッと取るとそのまま吾が輩の額めがけて振りかぶって放ち、見事全弾眉間に突き刺さったでござる。


「瑠姫ちゃん。あなたこの腕力といい、そのフォークといい、どこで誰に習ってきたの?」


「妖子さん。この間LIMEしてたらお姉ちゃんの師匠も妖子さんだって。お姉ちゃんと同じように女神化したお母さんのオーラを毎日浴びてたら出来るはずだって」


「あん狐ババアアアアア!!!!!」


改造人間の吾が輩に普通の人間の妹君が投げた程度のフォークなんか刺さらないはずなのに眉間からピューピュー血が吹き出してのっぴょっぴょーん!!!!


「あらーそうだったのー」


いやー母上あーたねえ、あらーそうだったのー、じゃなくって!


「これはこれは凄いものを見せられてしまいました。どうですか? 魔界に来てみませんか? きっと四天王も喜びます」


いやアンタも何言ってんだ! 吾が輩の可愛い可愛い妹君に何を仕込むつもりでござる!


(あー、なんかもうどうでもよくなってきた…)


「それはそうとハルたん、きっかけを作った責任取って膝枕してください」


「やだこの子ったら血が付いたままで」


「構いませんよ」


「うーんなかなかどうして魔界のお姉さんの太ももも柔らかくていい匂い。太過ぎず細過ぎず良いバランスの太さにして右を見ても左を見ても太ももの内側に顔がうずまり、上を見ればナイスおっぱい、その向こう側に半分顔が見えて目と目が合うという、しかもこの目が合う距離が絶妙な具合ということは女の子座りしているこの場合お尻の大きさで膝枕の高さが変わるでござるがつまりお尻も程よく大き過ぎず小さ過ぎず毎日の努力によってしなやかで弾力のあるお尻に磨き上げられているという証左にして恋人に膝枕をしてもらうには一番ベストにして鍛え上げながらも女性特有の女性にしかない女性だけが持てる柔らかさを失わせることなく男性が堪能出来る素晴らしいスタイルでござる。つまりハルたんの乳尻太ももはまさに黄金比律ゴールデンルール


すりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかはすはすはすはすはすはすはすはすはすはす


がしっ。


「おおっとハルたん太ももで挟んでくれるなんて、凄い…積極的で…、吾輩興奮しちゃうなー、なんて………。あの、く、苦しいんですけお……」


「よっこいしょっと2回転ひねり」


ゴキ!


「しろっ!」


「このバカは旦那さんにそっくりですね」


「はぁ〜、お兄ちゃん…」

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