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貴族VS貴族 2

「…チッ、お師匠さまの好奇心もまだまだ衰えを知らないでござるな」


「万年妖怪舐めんじゃないよ」


ずずぅー、とお茶を啜る音が苛立ちを煽り、耳に障っていた。髑髏十字。カラミティのエンブレム。地元の中学校に伝わる学校の怪談の正体。


「この写真を…」


そう言って金髪縦ロールさん改めてダリア・イベリスさんが二枚の写真を取り出す。一枚は話している二人の男性、もう一枚はどこか建物の中にいる白衣の男でござる。


「この二人の男、まったく顔が同じでござる」


「この男がわたくしの婚約者ですの」


「この男がって…」


どっちもイケメンの好青年でござる。眉目秀麗、端正な顔立ちに肩幅のある出で立ち、それでいてスラッとしている。まさにイケメン。お師匠さまの特訓以外食っちゃ寝て食っちゃ寝てしてた吾が輩とは正反対でござる。


「…片方、人間じゃないわね」


「はい」


一卵双生児じゃなくって? よく分からないんですけど? という目線をお師匠様に送る。


「バカ弟子が。目で見たものしか分からんのか? もっと感覚を信じろと言うとろうな」


「………? ひぃっ」


デブにあるまじきか弱い悲鳴を漏らしてしまったでござる。あり得ない。片方の男、関節が普通の人間じゃあり得ない角度になっているでござる。きもっ!


「なんで首だけこっち向いてるんでござる…」


「そこじゃないわよ。こっち見てんのは単に撮ったのバレたんでしょ」


「そしてこのもう一枚の白衣の男、これは拡大写真です。胸元にある身分証ですの」


「ああ、これはカラミティのエンブレムね。これで取り敢えず胡散臭いという裏が取れたと?」


レイミさん理解が早すぎるでござる。いや、吾が輩がバカなのかな? ああいや、この人はありとあらゆる報告をもらってるから知っててもおかしくないのかな? 例の中学校の件もレイミさんに揉み消してもらったし。


「場所はギリシャ領のある無人島ですわ」


「これ、撮ったヤツは生きとるんか?」


「残念ながら…逃げ帰ったときには既に虫の息で…」


「この首の向きがおかしい片方は何者でござるか」


「…人造人間ホムンクルス


そんな阿呆な。現代の技術じゃ内臓の再現くらいがせいぜいなのに人間まるごとなんて。


「ここから先は未確認なのですが、彼は月に一度必ずギリシャへ渡っています」


「名目は?」


「人材交流とだけ…」


「まさか、いやいやいや。言わんとしていることは分かるでござる。しかしそんなバカな」


「狂人なんてそんなもなんさ、バカ弟子よ」


「っはー、頭痛いわね」


「彼は軍隊を作るつもりなのですわ。それも、量産された人造人間ホムンクルスによる軍隊を」


つまり、この二人の好青年の内、関節がラリってる方はおおかたアリバイ作り用の言わばホムンクルスで作った影武者のでござる。んで本人は月に一度必ずこの白衣の男のところへ通っていると。


「まずイギリスへ行ってクレーム対応して、そしたらギリシャでござるな」


「あんた一人で行くつもり?」


「まさかぁー。ギリシャでは調査も必要でござる。カレンさんを連れていくでござる。まったく副会長放っておいて何してんだか」


「あー、パワードスーツがいたくお気に召したのか遊びまくってるわよ」


さあ、忙しくなってきたでござる。ひとまずこれからの段取りを立て、ダリアたんはこのままお師匠様のところに家出ということで保護してもらい、おうちに帰るでござる。


「ええー、じゃあお兄ちゃんまた海外旅行行くの? いいなあー」


「いいなあー」


「いやいや、遊びに行くんじゃないんでござる」


おうちに帰るとなぜか母上と妹君しかいなかった。妙でござる。目の前のこたつに並べられた夕飯は3人分だけ。我が女神リエッセさんやヤンデレ巫女二人もポンコツ神剣青龍たんはいなかった。まるで最初から夕飯にはいないと知っていたかのよう。でも靴はあったでござる。はて? 今夜はだれが吾が輩をベッドの中で暖めてくれるんでござる?


「ねえ、母上」


「どうしたの?」


「吾が輩と二人のなずなたんは魂の在処を共有してるから今どこでなにしてるのか、だいたいはすぐに把握できるでござるでござる、いつもなら。今、出来ないんだけど」


「ああ、うん。あの子ら入ったみたいだから」


「えっ、入ったって、えっ?」


違和感がするでござる。いや、違和感というよりなんだろう。この胸の奥がざわざわする、自分の知らないところでなにかをまさぐられているような感じは。


「お、お兄ちゃん…?」


「リエッセさんと青龍たんがいないのも…」


「うん」


青龍たんとも【契り】を交わしているでござる。というか吾が輩の初めての次に唇を重ねたのは彼女だし…。繋がりあったお互いを感知するのは容易なはずなのに彼女の行方も掴めない…。しかし初めてのチュウが青龍たんだったことはリエッセさんにはナイショ。知られたら殺されそうだから。


「すぐ戻るでござる」


気味の悪い胸騒ぎはタチの悪い冗談であってほしい、と思う反面自分が感じている嫌な予感を証明すべく吾が輩の部屋に走った。


「なんなの、もう」


席を立ったとき、後ろから機嫌の悪そうな声が聞こえたが今はそれどころじゃないでござる。


「バカな」


この家を建てるとき、当時投資から出ていた利益のそのほとんどを消し飛ばす金額を投じたでござる。吾が輩の絶対に知られたくない事実を、いつか自分で明かせられる日が来るまで、もしくは永遠に封印するための隠し部屋のために。


(とはいえギミックなんていつかはバレるもの。その上で正しい手順を踏まずに無理矢理お札の封印を解いた場合、回廊式の無限迷宮につっこまれるようにしているでござる)


しかも封印は強力な結界を敷いていた。ギミック自体は簡単なものだけど結界自体はそうそう破られるものじゃないでござる。しかし目の前のお札は結界を破られ、トラップを発動している。


(一見お札が貼ってあるだけのように見えるけどそんな生易しいものじゃないのに…)


目の前には自室の隠し部屋の扉に貼られたお札から、その封印術トラップを発動している光景しか映らないでござる。お札は結界を張った状態では紫色、結界を破られてはいるけどトラップが発動してない状態では青色、結界を破られてトラップが発動している状態では赤色に光るようにしてある。そして今、お札は赤色に輝いている。


(誰かが手引きした…。それもお師匠様を越える誰かが…)


吾が輩の秘密を知っているのはこの世で四人。吾が輩、お師匠様、父上、母上。まさかお師匠様が? んなアホな。いや待てよ、母上って確か何かに関係した人で父上とはそれが縁で駆け落ちしたってこの間…。いや、それならお師匠様やレイミさんがなんかしら気付くはずでござる。


「あ、駄目だ。夕飯にするでござる」


考えがあんまりまとまらないときは一旦止まって忘れるのも一つの手。だいたいこの封印の無限回廊に入ったら最後、外からもう一度正しい手順を踏んで封印を解かない限りは出てこれない設定でござる。まああの四人なら死にはしないからお仕置きもかねてほっとくでござる。


「はい、じゃあいただきまーす」


「あらおかえりなさい。どう?」


席に戻って座る。妹君の口がタコさんウインナーの如くチューチューな感じになってるでござる。


「どうもこうも、ギリシャから帰ってきてもまだ出てこれないならこっちから迎えに行くしかないでござる」


「いいの? もしそれまでに知られちゃったら…」


「そのときのことはそのときに考えるしかないかと。アレを家に置いておきたいってわがまま言ったのはわがはいだから、自己責任でござる」


「そう」


「ちょっとー! お母さんもお兄ちゃんもわたしのこと置いてきぼり! ぶー!」


「…こんなことにならない限り、妹君には成人したとき全てを話すつもりだったでござる」


ふてくされてる妹君を横目に笑いながら答えて箸を取る。ん? こたつに並べられている夕飯が、一人分だけ増えてるでござる。


「お母さんね、たぶんあの子かなーって思ったから呼んどいたの。そろそろ来ると思うわ」


「ぶー! ぶー!」


<ピンポーン! スパンポーン!


「結界破りに心当たりがあると? まるで最初から謀られていたように感じるでござる」


「うふふ、少しだけよ」


お客さんが来たので玄関を出て迎えに行くと、いつぞやの真っ黒いドレスの真っ黒いお方がそこに立っていたでござる。その人は格好に似合わず、夕闇に不気味なほど馴染まず、金色の瞳がひときわ異彩を放っていた。


「こんばんは」

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