人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られてGOtoHell
「変身!」
「おおう…、改めて見ると凄いね」
「我が息子SUGEEEEEEE!!!!111111!!!」
ふっ、キマったでござる…。
「まあそんなことだろうとは思ってたわよ」
あ、あるえ?
「今年の春あたりにはなーんか怪しいと思ってたのよ」
「ね。今の今までずっと部屋から出ないでずーっと引きこもっててたまに出たと思ったらAmazonだったし。それが突然家の外出たり車買ったり。家事してるか引きこもってるかしかしなかったのに」
「車の免許取らせた時なんか喧嘩したくらいだったのにねえ。あなたが家にいないときはたいてい事件が起きるし、その度女の子連れ込むし」
「そしてこの神剣の子と狐のお方か。まだいそうだな息子よ」
ギクウッ
「な、なずなたん」
「はいはい」
「あ、なずなちゃんは知ってるから」
「なん…だと…」
知ってるから? 知ってるからってどういうことでござる? なんかもうだいぶ前から知り合いでしたみたいな…。
「ごめんねぇ、VCしながらゲームしてたらバレちゃったぁ」
「現代に馴染みすぎでござる」
「だが息子よ、彼女の料理はなかなかだぞ?」
!?!?!!!?!!!!
「いやなに、突然現れた時は驚いたがな。海外出張の身としては味噌や醤油、白米を持ってきてくれるのは大変ありがたい。仕事から帰ってきたら晩御飯作ってくれたしなあ」
「吐き出せ! 今すぐ吐き出せ! 吾が輩だってなずなたんの手料理まだ食べたことないのに!!!」
「ぐえええ! 絞まってる絞まってる! うっ」
カクッ ぴょこっ
「まあなんだ、なんだかんだ我が家は特に異論はない。なあ母さん」
「そうね。この子達は引き取ったばかりの頃って本当に酷い顔してたけど、今はこんなに明るくていい表情してるわ。友達の一人もいないのにこんなに賑やかにしちゃって」
すいませんそこはバラさなくてもいいと思います! どーせ吾が輩に普通の友人なんか一人もいないでござる…。
「これも何かの縁でしょう? せっかく皆で集まったんだから、いまさら一人欠けるのは無しね」
「そういうことだから行ってこい、我が息子よ。連れて帰ってくるまで家の敷地を跨ぐことは許さん。全員揃ってこそ家族だ」
やだなあもう。こういうことしないで欲しいでござる。目頭が熱くなって、視界が滲むから…。ずっと黙ってたのに、ずっと隠し事してたのに…。
「アタシも行くわ」
「ボクもー!」
「スカイが行くならオレも行くぜ大将」
「私も行きます」
「私も~」
「皆、いいでござるか? もしかしたら世界を敵に回すかもしれないのに」
「かっ、勘違いしないでよね! アンタのためじゃないわよ!! …やっぱ家族がいるのっていいなって思っただけよ」
「うっはツンデレ嫁とか羨ましいな我が息子よ」
「お義父さん黙ってて」
「ハイ」
「だから字が定期」
「レイミさんはどうするの? まだ止めるなら私が相手になるけど」
トモミン…。この間あんなことしちゃったのに優しいでござるなあ…。
「あ~もうハイハイ行けばいいんでしょ行けば!! こうなりゃヤケクソよ! その代わり世界を納得させるだけの言い訳なり理由なり考えといてよ!!」
「大丈夫。その答えは一つしかないでござる」
「お兄ちゃん、待ってるからね?」
「行ってきます!」
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「行っちゃったわね」
「あの子達なら大丈夫さ」
「たっだいまー。…すんません間違えましたー」
「間違えてないぞ我が娘よ」
バーベキューやってるって言うから久々に帰ってきたらどうなってやがる。9本尻尾生えてんのと黒ずくめのネーチャンに肉にがっついてる黒い猫。
「副長からしばらくウチにいろって言われたんだけどよー。うわっ、すげえデケえテレビ!!!」
「小僧ども食ってから行ってもよかろうに、まったくこんなに残しおって」
「うおおおおおお! 猫が喋った!!」
今度はウインナー食ってやがる…。野菜食えよ…。
「ハルちゃんや、この際元の姿に戻ってよいじゃろ?」
「ハルちゃん言わないでください。この中だけでなら」
ぼふん!
「んああ~。やっぱ人間は人間の姿が一番じゃの」
「ね、猫がおっさんになった…。何がどうなってんだよ…」
「話すと長いんだけどかくかくしかじか」
「まるまるうまうま。はあ?! マジで?!」
あのバカが八人目の騎士?! 体格全然違うじゃん! 連れが七人も八人もいて一人取られたから取り返しに行く? このおっさん織田信長で魔王? 黒ずくめのネーチャンが側近で尻尾生えてんのは九尾の狐で師匠? 他にスケスケの水色のネーチャンと黒髪ツインテ巫女がいる?
「全っ然ついてけねえんだけど…」
「帰ってきたらまた皆でバーベキューしよ。その時にお兄ちゃんから聞けばいいよ」
あのひ弱なデブでオタクのタケがなあ?
「取り敢えず…触ってもいいっすか?」
「え? ああ、こちらの世界では珍しいのですね。どうぞ」
「すげえ、マジで尖ってる耳だ…」
このネーチャンマジで耳が尖ってるよ…。
「こ、こっちの尻尾も?」
「かまわんよ」
「おおお…」
マジでもふもふだ…。感動だ…。
「おや…、最初見たときになぜ気が付かなかったのでしょう。あなたは神性をお持ちです」
「はい?」
九尾の狐とかいうネーチャンの尻尾を気持ちよくもふもふしていると黒ずくめネーチャンがなんか言い始めた。真性? 包茎?
「耳に火傷の痛みを感じます。…まさかお母様は」
「それ以上は言っちゃダメよ(はぁと」
「知らずとはいえ申し訳ございません、このような格好で」
「いーのいーの、気にしないで。浴衣似合ってるわよ」
「ありがとうございます」
またアタシの知らねえことか? おい親父!
「実を言うと母さんは元々そっちの人でね。そういう事情があったけど俺と母さんはなんやかんや駆け落ちしたんだ」
「いや聞いてねえんだけどなんだよ駆け落ちって」
つかそっちの人ってなんだよ。お袋人間じゃねえのか? いやどう見てもダメ人間だろ? つーかハしょりすぎ。
「えーお父さんとお母さん駆け落ちだったの?」
「そうなんだよー。だから俺達もあんまり人のことは言えないんだよー」
なにがなんなんだかさっぱり分からねえ。アタシだけ置いてけぼりかよ。チッ、面白くねえ。なんも知らなかったのはアタシだけかよ。
「むくれないの。もうすぐしたらタケちゃん達がテレビに映るから、はいお肉」
お袋が肉を山盛りにして皿を渡してくる。自分でも分かるくらいにぶすっとしてるわ。なんだよ副長も黙っててよー。あのロイヤルセブンでしかもリーダー? そんなもん聞いてねえっつーの。
「で、アイツどこ行ったんだよ」
「バルト海の沿岸にある小さな国、アルシオーネ皇国だよ」
「いやいやバルト海ってどんだけ距離があると思ってんだよ。そんなもうすぐで着くような距離じゃ…」
『ここで緊急速報です。ロイヤルセブンと思われる一団がバルト海に陣取り、アルシオーネ皇国に宣戦布告を宣言しました。内容は[人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られてGotoHell!]。繰り返します…』
ブッ!!! 速すぎんだろ!!!!
「さあ始まるぞー! ワクワクするなあ母さん!!」
ワクワクしてる場合じゃねえだろ?!
「物置にキャンプ用の椅子があったわよねえ。出してくるから皆座りましょ」
「お手伝いします」
「ぬははは、豪気よのう小僧!!!戦じゃー! 鉄砲を持てーい!!」
「持ってきてよかったー!! バカ弟子の晴れ舞台だ、呑むか信長よ!!!」
ドン! 【魔★王】!
「よっしゃ酒盛りじゃー!!!!」
なんだろう、アタシが間違ってる気がしてきた。アタシか? アタシが間違ってるのか?