真夏の夜のバーベキュー大会
ウゴゴゴゴzzzzzz
「ねえタケちゃん、ちょっと起きて」
ウゴゴゴゴZzzzzzzzz
「廊下の電球切れてるから交換して欲しいんだけどー」
ウゴゴゴゴZZzzzzzzzzz
「ふぅっ」
「ほわぁぉぁあおうっ!」
「起きた起きた」
なっ、何事でござるか!
「タケちゃんがフランス行ってる間に廊下の電球切れちゃったから交換してー。私じゃ届かないのよー」
「人が起きないからって耳元に吐息かけるのやめてください母上」
「だって起きないタケちゃんが悪いんだもーん。もうお昼過ぎちゃったよ?」
「もうそんな時間でござるか。まだちょっとズレてる感ががが…」
「ただいまー!」
耳元にフッとされて起きるとちょうど妹君が帰ってきた。部活から帰ってきたにしては中途半端な時間でござるな。
「おかえり妹君」
「ただいま。お兄ちゃん今起きたの?」
「まだ眠いでござる」
眠い目を擦りながらリビングに降りた。取り敢えずスポーツドリンクを飲む。水分の消費が激しい夏は常にこれ。妹君にはカルピスを入れてあげるでござる。
「妹君は部活?」
「うん、部活行ってそのまま皆でプール行ってきた!」
最近すっかりこんがりな妹君。プールか。吾が輩も久々に泳ぎたいでござるな。ハワイでフカヒレ水揚げしてからは一回も海とかプールには行ってないし。
「新体操やるのにそんなに焼けて大丈夫でござる?」
「いーのいーの。ウチの中学そんな強くないし、ゆるいしまったりしてるし」
薄くピンク色のブラジャーが透ける制服。焼けた肌とそうでない肌の境界線がチラ見えする鎖骨。短いスカートから伸びる小麦色の健康的な生足。焼けずに白く残る太もも。解放的になるって良いことでござるなあ。
「そういえば今年はまだ海行ってないわねえ。行く?」
「行く行く!」
「吾が輩はパースー」
「えー! なんでー! 行こうよー!」
「まだ帰ってきたばっかだし、そんなんレイミさんにバレたらプライベートビーチに連れ込まれてパーティーになっちゃうし。もう少し休みたいでござる」
しばらくはゆっくり休みたいでござるなあ。あっち行ったりこっち行ったり、就職したり称号もらったり。サロンでマッサージしてもらってあそこの檜温泉でゆっくり浸かりながらおっぱい揉みたいでござる。
「タケちゃん、シューティングスターちゃんは連れてきなさいよ? ていうか今付き合いのある女の子全員紹介しなさい」
「リエッセさんはまあ…」
………あれ。
「……母上それ誰から聞いたの」
「本人から聞いたわよね? ねー瑠姫ちゃん」
「うん、もうすぐ家族になるんだから隠し事は良くないって」
コップに注いだカルピスをストローでチューチューしてる二人。吾が輩はストローになりたいでござる。どこを吸われたいかってそりゃチン
「このことはどうかご内密に…」
「大丈夫よ、心配性ね」
ええ心配ですとも。最近のリエッセさんはどこか弱っていて目を離したくないでござる。というかこの三人で一番お漏らししそうなのあなたなんですがそれは。
「ところで」
「ねえ」
「お兄ちゃん」
「「お土産は?」」
「んあっ…」
「さーて何買ってもらおっかなー♪」
「私はワインセラーが欲しいかなー」
ところ変わって武蔵野デパート、立体駐車場8F。ため息をつきながら車から降りる。鍵を閉めてルンルンで歩き出す二人を見ると気が重いでござる。この二人、このあいだの宣言通り本当に吾輩の部屋の中のものを捨てようとしてきたので好きなものを買うということでどうにかお許しを頂いた。
「あ、あんまり大きい買い物はちょっと…」
ということでフランスのお土産を買ってくるの忘れたのでその埋め合わせに武蔵野デパートに来たでござる。
「水着! 浴衣! 花火! バーベキュー!」
「新しいカーテンとベッドが欲しいかなー」
「え、あのいや、ちょっと」
「私覚えてるんだよー?」
「な、なにを?」
「前に風邪引いたときどさくさにまぎれて顔が悪いって言ったでしょ」
「あー! タケちゃんひっどいんだー!」
「いやあれはツッコミしてくるだけの余裕があるのかないのか確認しただけで」
てっきりツッコミしてこないから聞こえてないもんかと思ってたでござる…。
「へぇー、そういうこと言うんだぁ。じゃーお姉ちゃんとかリエッセさんにチクっちゃおうかなー」
「あ、すいませんその二人だけは勘弁してほしいのでなんでも買うでござる」
「んー! なんでもかぁー! お母さん、何する? 何する?」
「クルーザーでも買っちゃう? なんなら島ごと買っても?」
ヒイイイイイ! いやいやいやいやいくらなんでもそれはちょっと…! いや買えるけど。30兆円あるでござる。まだ受け取ってないけど。
(思ったけどそんなに入る銀行口座なんてあるでござる?)
「あれ、なんだろあの人だかり」
「ホントでござる。芸能人かなんか?」
「危ないから避けて通りましょ」
8Fからエスカレーターで降りてお買い物エリアを歩いているとちょうどすぐ前で人だかりができていた。チラッと見ると女性向けの靴屋でござる。
「ハアーイ」
「ほげえっ」
「シオンさーん!」
すれ違いざまに台風の目と目が合ってしまったでござる。氷結の狂犬と。狂犬と。狂犬。大事なことだから三回言いました。よし逃げよう。
「ちょっと待ちなさい!」
「待たないでござる! ダッ!」
シュッ!!
「逃げることないじゃん」
ガシッ!
「ああんもう妹君!」
「にーちゃんだー」
「オレもいるぜえ大将」
「これはこれはスーさんズ。何してるでござる?」
二人ともすっかり日焼けしてるでござる。これじゃ短パンかスパッツかでしか見分けが難しいでござる。
「会長んちで世話んなることになって、シオンがあれこれ買い揃えてくれるとよ」
「明日は大雪猛吹雪かな?」
もしくは氷河期到来? 人んちで飲んだくれて裸でベッドに入ってきてざけんじゃねー! のシオンさんがそんな面倒見がいいとは思えないでござる。
「全力で降らせるわよ?」
「冗談に聞こえないでござる」
「ちょっとお兄ちゃん、説明」
「え、ああ。スーさんズは会長のおばあちゃん家にいる…」
あっまずい。どこぞの王族なんて言えないでござる。ましてや世界がコピーがどうとかなんて信じてもらえないだろうし、えーとえーと。
「おばあちゃんとは遠い親戚なんだー。双子だよー」
スーさんナイスフォローでござる!
「そ、そうなの? お兄ちゃんとはどういう関係で?」
「どういう関係? うーん、裸のお付き合いはしたかな?」
ガシャーン! バラバラ! 何かが砕け散った音がしたでござる。スーさん裸の付き合いって使い方ァ!
「タケちゃんあなた見境ないわねぇ」
「ロリコン…」
「あっにーちゃんのお姉さん。お久しぶりです」
「はい、お久しぶりです。お行儀いいわねー」
「母上? いたいけな幼女に嘘つくのやめてくださいでござる」
「ははうえ?」
「スーさん、この人は吾が輩のお母さんでござる。お姉さんは別の人。たぶんまだ会ったことないでござる」
「???」
「お前騙されたんだよ」
「あらーやだー、バレちゃったー」
殺意の波動に目覚めそうでござる。年齢考えようね母上。
「アンタは何してんのよここで」
「実はかくかくしかじかでござる」
「まるまるうまうまね。ふーん、それレイミがキレてたわよ。『あんだけトラブル起こすなって言っといたのに!!!』 って」
「吾が輩は悪くねえ! 吾が輩は悪くねえ!」
「浴衣に花火にバーベキューねえ? そういことなら全員集めちゃいましょ」
「へ?」
三時間後。我が家の庭にロイヤルセブン、オレっ子スーさん、我が家族で集まりバーベキュー大会が始まろうとしていたでござる。父上、なんでいんの?
「どうしてこうなったでござる…」
「息子よぉぉぉぉ!!! 炭に火を放てぇぇぇぇぇい!!!」
「いえーい酒瓶開けろー!」