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ござるぅ

機内で一泊し、長旅の疲れも取れぬそのままにメイド隊の大軍のお出ましでござる。もうね、視線が痛い。突き刺さる。たった二人しか乗らない車のために、メイドさんが何十人と出迎えて、もちろんメイドさんのための車もある。こんなアホみたいな物量でロータリーを占拠している様は圧巻の一言に尽きるでござる。そりゃー注目もされますよ。


「あなたがサー・タケマサ様でいらっしゃいますかな?」


「【サー】の爵位を受け取った覚えはありません。俺は現代人であって中世フランス人でもないです」


「これは失礼いたしました」


言いながら老齢の執事が案内する。今思ったけどイケメソモードで疑問を持たれないということはそういう容姿で紹介されてるっていうこと? つまりフランスにいる間はヘシンしっぱなし? 勘弁してほしいでござる。


「そろそろですな。ようこそ、緋色ルージュへ」


当たり前のようにリムジンに乗り、しばらくして風景が変わる。緋色のアクセントが入った門、芝、植え付けられた木々、敷地を囲う塀、何もかもがこの貴族の物だと主張しているでござる。ようこそってことはここがカレンさんのお家? こういうの見ると吾が輩もまだまだ一般ピーポーでござるなあ。


「ここまで赤いと目がチカチカしますな」


「…」


空港を降りてからはすこぶる機嫌が悪く、斜めになりっぱなしのカレンさん。年不相応に眉間にシワが寄りっぱなしでめっちゃ恐いでござる。きっとお年頃の女の子のことだから適当なホテルに泊まって街でデートしてキャッキャウフフしてからという思惑だったのかと。


「屋敷でラージュ様がお待ちです」


ラージュ様が、という言葉を聞いて彼女は表情を一変させる。こわっ! 般若みたいな顔してるでござる!


「ちょっと! お母さんはそれどころじゃ…!」


「今日ははっきりなさっています。なにより、ラージュ様本人の御希望です」


「…っ!」


苦虫を噛み潰したのか、なんとも言えない顔をしているでござる。察するにラージュ様とはカレンさんのお母さんで、ショックを受けて不安定になっているという。


「後で話があります。私の自室まで来なさい」


「はっ」


帰りたいっ! 来たばっかだけど帰りたいっ! のんきに観光なんて考えてたけど全っ然そんなこと言える空気じゃないでござる!


「お待たせいたしました」


お屋敷で空港のさらに倍を重ねた人数のメイドさん達に出迎えられる。メイド服にもアクセント入ってるでござる。ここはどんだけ広くてこんなに人が必要なのかと思ってしまうけど、本物の貴族階級とはこんなものなのでござるか?


「おかえりカレン。元気そうでなによりね」


「お母さん!」


車を降りてすぐに抱きついていく。やっぱり年頃の少女には親から離れて暮らすのはかなりの負担でござるね。そうでなくともロイヤルセブンなんて特殊な状況はなかなかないし。


「そちらが例の恋人さん?」


(うひっ…!)


………ッ! 帯びていないにも関わらず思わず腰に手が回る。そのことに気付いてハッと意識を取り戻す。目を合わせた瞬間、きっ…斬られたでござる…。確かに今首を斬り落とされたでござる…。脂汗が額を伝う。


「ござるさん?」


吾が輩は今何を見たでござるか? 幻? 殺気? いや…、これは凄まじい剣気でござる…。もしかして、試された? 幻を見せるほどの? だとしたらとても独りでに徘徊しているお方とはとても思えない…。


「疲れているのね、部屋を用意してもらっていますからゆっくり休んでください」


「お言葉に甘えます」


なんとか平然を装うもどう見ても強がり。手に取るように分かるほど動揺してしまったでござる。


「ふう…」


客室に案内されたあと、シャワーを浴びて一息つく。必殺の気合いを受けて妙な汗をかいたでござる。レイミさんにはトラブル起こすなと言われたけどこれは何か裏がある様子。


(この待遇、浮気して捨てたにしては気にしすぎているほど体裁を取り繕っているでござる。カレンさんのお母上もアレは尋常ではないし、なんなんだ一体…)


<コンコンコン


「はい、どうぞ」


ノックして入ってきたのは空港からずっといる年老いた執事だった。なにやら神妙な面持ちでござる。



ノックに返事をすると入ってきたのはシャルル・ド・ゴールから常に付いて回る老執事さん。何用かは分からないけど夕飯ではない様子でござる。


「お休みのところ失礼いたします」


「いいえかまいませんよ。どうかなさいましたか?」


「もうすぐ夕食のお時間です。が、その前にこちらをご覧いただきたい」


封筒を手渡される。中に入っていたのはICレコーダー1つと紙が1枚、それと最近フランスで起こっている殺人事件と経済の流れをまとめた資料。ざっと目を通す限りでござるがこれは…。


「これを俺にどうしろと?」


「助けていただきたい」


おお、なんというド直球。しかし助けていただきたいとは不可解でござる。これは恐らくなんかしら犯罪の証拠。これだけ揃っているのに吾が輩に助けてとはこれいかに。


「私はある御方の勅命を拝し、隠密に内偵を続けここまで辿り着きました。しかししくじったのです。しっぽを掴まれました」


内偵?


「…やるとしたら、決定的な物証を確保して直接叩くしかない、と」


「その通りでございます」


「日本に一報入れます。個人的な敵でもあるようですが勝手に動いていい相手でもありませんね」


「では…!」


「やれるだけやりましょう? 結果が見えないほど馬鹿ではありませんが、それはあなた方とて同じでしょ。なによりその懐に入れている手が恐い」


このおじいちゃん、吾が輩が断ったらきっと撃つつもりでいたでござる。撃たれたところで死なないけど。


「…夕食のお時間です。お着替えください。あ、それと。私達のときだけはいつも通りで構いませんよ、ござるさん」


「ござるぅ」


懐に入れていた右手を抜くと、居ずまいを正すと深くおじぎをした。一難去ってまた一難。敵がいるのに全然戦ってないし、それどころか内輪揉めばっかりでござる。


(って序列十三位全員お揃いでござる)


馬子にも衣装とよく言うけど、今の吾が輩は常にイケメソモード。きっちり似合っているでござる。でも夕食とは聞いてたけど夕食会とは聞いてない…。なるほど、やたらメイドさんが多かったこの為でござるか。来客は吾が輩だけではないと。


「紹介します、婚約者の戦野武将さんです」


末席ということなのか、大きいテーブルの一番下手しもてから紹介される。どうしよ。最初に使うのはフォーク? スプーン? テーブルマナーなんか知らないんですけお!!!


「なかなか良さそうなお方ですのね。顔立ちも体つきも悪くはないわ。ただの庶民だと聞いておりましたが」


序列十三位の上手かみてから一人の女性が品定めするかのように吾が輩をその視線でなめ回しているでござる。BBA気持ち悪。


「カレン、キミはこの血族から離れるつもりなのか? 地位も名誉も捨てて嫁ぐだそうだな」


上手かみて中央に座る男性が問う。おそらくあの人がカレンさんのお父さんで、緋色ルージュ最上位。いや、っていうかおおおい! そこまで言っちゃったの?! いくら売り言葉に買い言葉でもそれは言いすぎでござる! 結納金いくらすんの?! あれ? 結納金って払うんだっけ? 貰うんだっけ?


「そうです、もうここにはいられません」


「ほほほ、ご自分の立場をよく分かっていらっしゃいますのね」


吾が輩達に嫌みを飛ばす女性。だいたい三十代手前といった印象。後ろに控える執事はなかなか若い優男でござるね。吾が輩の隣に座るお母上は先程の剣気は嘘のように静かにしている。と思ったら、


「…この泥棒猫が」


「なんですって!」


「まあまあ、二人ともやめたまえ。今日は遠路はるばるお客さんが来ていらっしゃるんだ。ここは穏便済ませようじゃないか」


こわぁい! やっぱ帰りたぁい! まあでも、この流れになるということはあの女性が横恋慕してカレンさんのお母さんが捨てられたということでござるか。ん? 妾って逆じゃないの?


(めんどくさそうだから後で爺やさんに聞くでござる…)


一触即発の夕食会をどうにかやり過ごして部屋に戻る。戻るって言ったって屋敷が広すぎてメイドさんに案内されないと帰り道も分からないでござる。夕食は味がしないし、空港からは緊張しっぱなしだし、幻を見るほどの剣気は浴びるし、カレンさんは終始おっかないし。


(時差ぼけも治す暇がないでござる…)


翌朝、屋敷の裏庭で一人の男性が変死体で見つかった。

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