襲来
美少女巫女ヤンデレラは8016歳。ストーカー歴8000年。
「わたし病んでないもん! 普通だもん!!」
「8000年もストーキングして人の心臓抜いてうっとりする人が普通とは言わないでござる」
「つーかアレなんだ? 完全に別モノだっただろ」
吾が輩の心臓はそれはそれはキレイなクリスタルになっておったでござる。それも拳よりも二回りほど大きいサイズ。しかも体から引き抜かれても死ななかったでござる。さらに驚くことに深呼吸しただけで胸の傷もきれいさっぱり元通りになったでござる。
「巫女二人分の力と二つ分の【天照の朱玉】を取り込んだからよぉ。もうわたし達の魂とくっついてるから肉体から離れてもござるくんの魂が滅びない限り死なないわよぉ」
吾が輩に抱きついてスリスリしてくるヤンデレラ巫女。ナデナデ。ちょっとヤバいけど可愛いからまあいっか。
「二つも取り込んだ…だから吾が輩やたら強いし、勝手にホイホイ強くなっていくんでござるね」
「おかげで俺はただの人だよ」
「ザコってそういうこと? ヘシン! すら出来ないと。そりゃあ確かにザコでござるな」
「お前、顔のワリにははっきり言うよな」
「というかなずなたんどうやって勝手にこっちに来たでござるか」
「オリジナル側はコピー側の精神を乗っ取ることができるのよ。少しずつやれば周りが気付いたときにはもう別人。それを利用したの」
「ちょっと待ってなにそれ恐い」
今吾が輩に抱きついているなずなたんが勝手にこの世界に来てしまったせいで、このもう一人の吾が輩はヘシン!出来ないということでござるね。それじゃただのちょっと勘の強い人でござる。
「大丈夫、ヘタレイケメンでも養ってくれる人がいると思うでござる」
「もうヤダ俺帰りてえ……」
「むう…、こうなってしまってはどうしようもないのう…」
「私も負けたし、取り敢えず話は保留ね」
絶対に働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる! 最強でハーレムで自由なニート生活!
「もう一人の吾が輩、おうちに帰るのはいいけど向こうは今どうなってるんで?」
「ぶっちゃるとめっちゃやべえ。すぐにでも戦争ふっかけてこの地球パクっちゃおうみたいなことになってる。全然抑えきれてねえ」
オリジナル世界の人類は物騒でござるなあ。別に自分と同じ人間がいるからって何も滅ぼそうとすることないのに。ちょっとそっくりさんが多いくらいでござる。
「チッ、ザコの上に無能ねぇ」
「無茶言うなよ。だいたい俺んちのロイヤルセブンはこっちみたいに仲良しこよしじゃねーんだから」
ズズーン!
「なっ、何事じゃ」
話の転換点になるかのようなタイミングよく、突然地震のように大きく縦に揺れた。急いで外に出ると巨大なハンマーに小さい体の褐色ロリっ子がいたでござる。
「そら来たー…」
「なんだ、スーさんでござる。おーい、スーさん学校は?」
「あっバカ近付くな! ソイツはオリジナ…!」
ドゴッ!
「ほげえ!」
「オレの名を気安く呼ぶんじゃねえ、クソデブ」
こっちはボクロリじゃなくてオレロリでござるか。俺ロリのスーさんはなんとTシャツにスパッツ。おへそがチラチラしているでござる…。褐色俺ロリっ子のスパッツ…。ヘソォ…。
「お前を殺す」
…………………。ナデナデ。
「?! ぎゃああああああああああ! 痴漢!!」
ガンガンガンガン!
「ひでぶっ」
「なにやってんだお前」
「いやね、太ももの触り心地ってこっちのスーさんとそっちのスーさんで違うのかなと」
「ブレねえなあ…」
地響きを立てて現れたのはオリジナルというスーさんだったでござる。褐色! スパッツ! ヘソチラ!
「健康的でござる。健康全裸系でござる」
「うううう訴えてやる! セクハラだぁー!!」
お前を殺す、というのでどんなもんかと太ももをナデナデしてみたでござる。コピー側である吾が輩のスーさんの太ももと変わらず素晴らしい肌触り。
「殺す殺さないなんてそんな物騒なことは忘れて、わたし達とねっとりぬるぬるとろとろ爛れた粘膜性活しましょう?」
「ひい!」
「ついさっき自分がしたこと棚に上げて言うことか?」
「黙ってなさいこのクソザコナメクジ」
「クソザコナメクジ…(´・ω・`)」
「うううう! 死ねぇー! こんな世界間違ってる!」
ゴッ! パシッ
「え 弾かれ…」
「相棒の神剣なら吾が輩にもいるでござる。青龍たーん」
どろん!
「はーい」ポリポリ
「吾が輩のポテチ! のりしお!」
「ねえ、真面目にやろ?」
「くそっくそっくそっ。なんなんだコイツら! オレの地球はあんなことになってるって言うのになんでこっちばっかりこんな…!」
「やめろスカイ、無駄だ」
「お前! お前えええええ!! この裏切り者! お前はこっちの人間なのにどうしてそっちの味方をする!」
「え?」
激昂するオリジナルのスーさん。なになにどういうことでござる? もう一人の吾が輩が裏切り者? オレの地球はあんなことになってる?
「…俺らの地球も人口問題や環境問題ってのはこっちと同じようにある。ただ、もうどうしようもないところまで進んでて。そう遠くない未来、俺らの地球は生物が生きていけなくなるんだ」
「そう、だからこの星にオレ達が住むんだ! コピー共なんかに誰がくれてやるか! なのに、なのになのになのにぃ!! お前は敵に回ったっ!!!」
「俺達の地球の問題は俺達の責任だ。たとえ滅びる結果になったとしても、それは自己責任だ」
「なにを言ってる…、忘れたのかよ!! 捨てられて! 地べた這いずり回って! 泥をすすって! 血で血を洗い! 奪って! 殺して! 盗んで! 汚いクズでゴミでドブネズミだったあの頃を!!!」
「な、なんですかそれ…」
青龍たんが狼狽える。青龍たんだけではない。吾が輩やトモミン、トモミンのおじいちゃんも狼狽えているでござる。唯一なずなたんは静かに見ていた。捨てた世界など知ったことかという冷めた表情で…。
「説明、してもらえる?」
「…俺やスカイは『異能人』という、異能の力を持った大人から生まれた『エレメンタル・チルドレン』つってな。生まれつき持った異能を疎まれて親に捨てられ、施設に捨てられ、国に捨てられ…。あとはさっきの通りよ」
もう一人の吾が輩は苦い顔をして語り出す。『異能人』…。そういえばリエッセさんもロイヤルセブンは後ろ指差されてるヤツらばっかって言ってた…。向こうの世界はそれがより一層酷いでござるか。
「世界から捨てられたんだよ。向こうの日本は特にエレメンタル・チルドレンが多くてな。日本なんか無くなっちまった。どこぞの国もが化け物生んだ国だって侵略されて、オヤジも、お袋も、アニキや姉ちゃん達も…皆ぶっ殺された…」
「そんな…」
「俺もスカイも、レイミに助けてもらえなかったら今ごろその辺の道ばたで野垂れ死んでたな。たいていのヤツは腐るか野犬の餌になるのがオチだ」
「オリジナルの世界はそんなに荒廃しているでござるか…」
「オレは憎い! アンタが憎い!! この世界が憎いいぃぃぃ!!! オレはこんなに辛いのに! オレの世界はあんなに酷いのに!! この世界の連中はぬくぬくぬくぬくとぉぉぉぉぉ!」
巨大な鎚、四神剣・玄武を振り回し突撃を仕掛けてくるスーさん。泣いているでござる。こんなに幼い子がこんなに傷付いて。
「青龍たん」
「はい」
龍の巫女を剣に変え、
「ヘシン!」
白と青の清廉な鎧を纏う。確かにこの世界豊かかもしれないでござる。出来ることならこの自然の恵みを分けてあげたい。
「それでも、誰かの代わりに死んでやるなんてことは出来ないでござる! ハアァァァ!」
ましてや、誰かを残して死んでいくことなど吾が輩には出来ないでござる!
「やめて!」
剣と鎚が火花を散らそうとしたその時。ギリギリのところで何者かに割り込まれた。
「スーさん……」