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第六天魔王

「さってと、そろそろ掃除でもするでござる」


昼食の片付けをしてお茶で一息して、午後一時を過ぎるあたり。傍らでは既に母上と妹君が夢の中。


(シオンさんが心配だけど、吾が輩がしてやれることはないでござる)


朝食の後帰っていったシオンさん。


『次はあんたが作ったの食べさせてよ。その…頑張ってくるから』


なんというツンデレ。そうは言われても実は基礎基本ばっかであんまり応用とか工夫は苦手でござる。たいていの料理はできるけどそれ以上はちょっと…。なんか新しいレシピないかなー。


(掃除機掛けてー、雑巾掛けてー、お風呂洗ってー、トイレ洗ってー)


<にゃ~ん


(にゃ~ん。 …にゃ~ん?)


庭から声がするでござる。猫? 猫は飼ってないでござる。この辺りでは野良猫もあんまり見かけないのに珍しい。


「にゃ~ん?」


「にゃ~ん」


草履で庭に出ると植えてある桜の木の下に一匹の黒い猫がいた。近づいても逃げる様子はなく、それどころか足にすり寄ってきたでござ…。


( ゜д゜) ・・・


(つд⊂)ゴシゴシ


(;゜д゜) ・・・


(つд⊂)ゴシゴシゴシ

_, ._

(;゜ Д゜) …!?


尻尾が6本ある…。


「おまいさんどっから来たでござるか…?」


「にゃ~ん」


「にゃ~んと言われても猫の言葉は分からないでござる。首輪は付いてないなぁ…」


「にゃ~ん」


「お腹空いてるでござるか? 猫缶なんかないし…、動物は人間の食べ物ってほとんどダメだって聞くし…。あげられそうなのは鰹節くらいしかないでござる」


一度家に戻って台所から鰹節のパックと小皿を持ってきて差し出してみる。


「ほれ」


「にゃ~ん」


「おお、食べた食べた」


少し匂いを嗅いだ後一気に食べ始めた。


「ゲフウ」


「はい、お粗末様でした。じゃ吾が輩は片付けてくるでござる」


空のパックと小皿を取って立ち上がる。最近雨が多いから車も雑巾掛けくらいしておかないと、すぐにドロドロになってしまうでござるなあ。


「小僧、調子に乗るなよ」


「えっ?」


えっ、なに今の…。声がした方に振り向くと黒猫がじいっとこちらを見ていた。黒猫はしばらく吾が輩を見つめると何事もなかったかのよう桜の木を登り、庭から出ていった…。


「シャベッタアアアアア!」


ななななな?! なんなの?! 猫がシャベッタアアアアア?!


「あ…ありのまま、今起こった事を話すでござる! 野良猫に鰹節をあげたら調子に乗るなよと言われたでござる。な…、何を言っているのか分からないと思うでござるが、吾が輩も何が起こったのか分からないでござる。頭がどうにかなりそうでござる…。人面犬だとか人面牛のくだんだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったでござる…」


まさか例の中学校の都市伝説さん達に猫にされた人がいるでござるか…? いや待てよ、動物絡みならお師匠さまに聞くべき…?


「ということでなんか知らないでござるか?」


「早ぇーよ。ということでと聞かれても喋る黒猫ねぇ、なんかと言われてもあたしゃなんも聞いてないねえ。特徴か何かなかったのかい?」


「尻尾が6本だったってくらいでござる」


「お前なんで逃がしたんだいっ!」


「ひょ?!」


「尻尾が6本の黒猫って、そいつ魔界からバックレた魔王・織田信長だよっ!」


ナ、ナンダッテー!


久しぶりにお師匠さまのところに来たけど散らかっているでござる。っていうか散らかりすぎ。どうやったら床一面埋め尽くせるの。THE・だらしない女の一人暮らしって感じでござる。この足の踏み場の無さは某新世紀のミサトさんレベル。


「このバカなんで逃がしたんだいっ」


「いやそんなん吾が輩に言われても困るでござる」


今日は庭に入ってきた6本の尻尾を持つ黒猫について、なにか心当たりがないか聞くためにお師匠さまのところへ来ているでござる。んでなんとその黒猫の正体は魔界からバックレかました魔王・織田信長という。


「いつだか逃げたって話を聞いたような聞かないような…」


「アイツの首にいくら懸かってると思ってる」


「歴史に名を残す武将もいまや賞金首でござるか」


まさかこっちに逃げ込んでるとは思いもしないでござる。しかも近所。


「ところでなんで織田信長は魔界から逃げ出したんでござる? 確か戦乱だった魔界を鎮めて魔王になったとか聞いたんですが…」


「仕事めんどくさいとさ。あ、熱燗忘れてた」


「ええ…、そんな理由で…」


「奥さんも一緒に消えてるそうだから、近くで一緒にいるかもねえ。魔界の側近…、こっちで言う社長秘書がいるんだけどね、とっ捕まえたら賞金と願いを一つ叶えてくれると」


「して、その賞金の金額は?」


お師匠さまが持ってきた熱燗をお猪口に注いでぐいっと呑む。昼間から酒でござるかこの人。


「日本円で100兆」


「100兆?! 桁違いスギィ!!」


で、でたらめ過ぎる。いくらなんでも金額が違い過ぎる…。桁違いどころじゃないでござる。お師匠さまひょっとして騙されてるんじゃ。


「あーどこだったかな…ああ、あったあった。ほれ、これがその指名手配の写真と書類。捕まえたら書いて出せばもらえるんだよう」


「どうでもいいけどお師匠さまたまには掃除しようね。吾が輩がちょっと来なくなったらすぐ散らかるんだから」


お師匠さまが散らかったその辺を手探りでごそごそして見せてくれた。しわくちゃの手配写真には確かにあの尻尾が6本の黒猫が印刷されているでござる。


(わざわざ猫に化けてまで仕事から逃げたかったでござるか…ん?)


「こ、これは…お師匠さま」


「なんだい?」


グイッ


「読めないでござる」


ずるっ


「迫った顔するなってんだよ」


魔界の字は読めないでござる。しかしこういうのがあるってことは本当の話なんでござるね。魔界の頂点に立つ魔王を捕まえることにそれだけ懸けると。というか魔界ってホントにあったんかーい。


「この0がたくさん書いてあるあたりが賞金でござるか? マジで0がたくさんでござる…」


「へへへ、100兆が目の前~。ほら行くよ!」


グイグイ


「え、どこに?」


「100兆捕まえに決まってんじゃないか。まずはお前の家!」


「え、お師匠さまも吾が輩の家来るの…?」


グイグイグイ


「なぁにぃ? 不満だってぇのかい? こんなに美しい狐他にいないよお?」


熱燗を呑み干したお師匠さまが寄ってきて胸を押しつけてくる。顔が近い。ダメだこの狐早くなんとかしないと。いや手遅れか。こりゃデキ上がってるでござる。くっさ! この九尾の狐臭うよ!


「くっさ。外出掛けるなら酔いすぎでござる。まあ、なんというか、最近爛れた女性関係かなーって」


「あのお嬢ちゃん達のことを言ってるんなら気にしないでもいいんでないかい? 好きでお前にくっついてるみたいだしぃ? いいからほら行くんだよ! 100兆100兆! もらったら山分け!」


「はいはい…」

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