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すっかり忘れてただけです

明け方の5時。母上と妹君を起こさないように静かに玄関を開け2階に上がり、自分の部屋に入る。


(今から寝たら……取引はいいや…、寝よ寝よ…)


ジャージを脱ぎ捨てパンツ一丁でベッドに入る。デブにとってこの時期は既に真っ裸でないと暑い時期でござる。今から寝たら確実にお昼は過ぎるけどそんなことはもう知らない。


モニュ


(…?)


知らない感触じゃない。どこかで触った覚えがある。知ってるEでござる。でも吾が輩のベッドにあるものではないはず…。


「んんぅ…、えっち♪」


「…」


タオルケットからわずかに顔を出し、頬を赤らめて言った。なぜ気が付かなかった…。吾が輩は静かに部屋を出てドアをそっと閉じた。あ、スマホがジャージのポケットに入ったままだったでござる。もういいや、下の居間で寝よう。たまには畳で寝るのもいいでござる。


「おい待てやコラ」


「ひぃっ」


いつの間にか開いていたドアからぬうっと白い手が伸びてきて肩を掴まれた。


「美少女歌姫の胸揉んどいてノーリアクションってどういうことだああん?」


「うわっ、酒くさっ。美少女歌姫は呑んだくれて男のベッドに入り込んだりしないでござる。っていうかハタチ過ぎてるのに自分で自分のことを美少女って」


「だまれ。成人してんのに酒呑んだらいけないってーのお? ええオイ?」


ダメだこの人。完全にデキ上がってるでござる。頬を赤らめたんじゃなくて酔っぱらって真っ赤になってるだけだこの人。っていうか美少女歌姫の言葉遣いじゃないでござる。


「取り敢えずシオンさんがどうしてここにいるのかkwsk」


「新しく来たキモいおっさんプロデューサーが何を勘違いしたのか、あろうことかこのあたしに向かって枕要求したからボコボコにして返品してやったのよ。そしたらマネージャーから説教食らったからヤケ酒しながらバックレてきた」


「うわあ…、これは酷い」


「あ、ちょっと何よ」


「こんな乱れた着衣のままでよく襲われなかったでござるな」


服が乱れてあっちこっち見えちゃってるので直す。今日は黒でつね。白い肌に黒ってのもまたオツですなあ。この様子じゃ相当呑んでるでござる。この間吐くほど飲んで二日酔いでのたうち回ってたのに懲りないなあ。


「いいって別に、恥ずかしいもんじゃないし」


「ダメ。もうちょっと女の子らしくした方がいいでござる」


「ちょっ、いいからやめてってばいいじゃん見えてたって」


「人んちでこんな格好はダメでござる、ああこら逃げないで!」


「いいっつってんのにあっちょっちょっきゃっ」


「あっえっぬぉっ」


ドターン!


逃げるシオンさんを逃すまいと揉み合いになり押し倒す形で二人してコケてしまったでござる。


「お兄ちゃんうるさいよ~…、なにしてんの…」


「「あ」」


「あ」


気まずい。非常に気まずい。騒いでしまったがために起こしてしまった妹君にバッチリ見られてしまった。パンツ一丁の吾が輩、押し倒されている服が乱れたシオンさん。これはどっからどう見てもベッドまで我慢できなかったんですねに思われるでござる。


「お母さ~ん、お兄ちゃんがシオンさん連れ込んで襲ってる~」


「いいでござるか、妹君は大きな誤解をしているでござる、ねえ、ちょっと待って、ゴミを見る目しないで」


「お盛んなのはいいけどなるべく静かにね?」


「母上! いやホントマジでこれは違うでござる! こんなベロンベロンに酔った狂犬なんか襲わないから!」


「ああ? 誰が狂犬だって? なんかって何よなんかって。どーせあたしはガサツな女ですよぉー。まあ、あんたがどうしてもっていうなら…その…あたしは構わないけど…」


こっちもこっちでダメだったー! なんでこんな時にツンデレ発動すんの? ねえなんで? ああ、神様なんとかしてぇ…。


「お邪魔しました、どうぞごゆっくり~…」


妹君はそっとドアを閉じ部屋に戻っていったでござる。orz…。


「ざまあwww」


「確信犯?!」


「責任取れって言ったでしょ。 どう? 今なら酒のせいにできるわよ?」


「吾が輩は未成年でござる。飲酒喫煙は20歳になってから。不純異性交遊未成年飲酒喫煙ダメ、絶対」


「チッ、ヘタレが。あーもうやってらんないわ」


「なぜそこで服を脱ぐでござる?!」


「そっちから来ないならこっちから行くわよ!」


「あっちょっパンツ降ろさないで!」


アッー!


「ええい! いいから寝ろこの酔っぱらいっ!」


「きゃあ!」


脱がされかけたパンツを急いで戻しシオンさんをベッドに投げ込む。はあ、まったく。油断も隙もあったもんじゃないでござる。PCで監視システムをチェックしてみる。


「…? 何にも引っ掛かってないでござる」


ログを見ても何も記録されていない。なんでやねん。


「監視カメラの映像は…?」


『えーと、鍵は~っとぉ』


?!


「なんでシオンさんが我が家の鍵持ってるでござる…?!」


監視カメラには普通に玄関から鍵を開けて入るシオンさんが映っていた。バッ、バカなっ! わざわざ家中の鍵は普通のギザギザの鍵ではなくディンプルキーにしてあるのに他人に合鍵持たせたら防犯の意味が全くないでござる!


「ええ……、誰でござるか…合鍵渡したのは…」


手がワナワナと震える。なんのためにここまでやってるのかと小一時間。


「…もういいや寝よう」


考えるのがバカバカしくなった。確か居間の押し入れに布団と毛布を入れてあったはずだから寝よう。とにかく寝よう。


(…閉じ込めとこう)


吾が輩の部屋もディンプルキーでござる。高価なPCやスクリーンがあるからなんにもしないワケにはいかない。テレビだって4KのHDRだし、PS4Proもあるし、小さい冷蔵庫もある。


(金にものを言わせるのは好きじゃないけどあれこれやるためには是非もないよね!)


ジャージに着替えて部屋に鍵を掛ける。これであの酔っぱらいは出てこれないでござるwwww ざまあwww 妹君には後で弁解しておこう。監視カメラの映像を見せればきっと納得してくれるはず。


「あぁ、疲れた…」


居間に降りて布団を敷く。休むはずが逆に疲れてしまったでござる。zzzzzzzzZ。


「…に……ゃ…ん、おに…ち…ん、お兄ちゃん!」


「うーん、あと5日…」


「それは寝すぎだよ。刑事さん来てる! 起きて!」


「はーい…」


顔を洗ってリビングに行くと七条さんと杉田さんが母上と談笑していたでござる。あとなぜか加利守さんも。


「おはようございます、でござる…」


「おはよう、と言ってももうお昼は過ぎてるぞ」


「まあいいじゃないか七条。彼のおかげで武蔵野の署長と次期副総監に恩を売れたんだから」


「恩を売るとか売らないとか、それどころではなくなってしまいましたけどね」


「加利守さんはなんでここに?」


「ボクハタマタマディス!」


「相変わらずの滑舌でござるな」


「はい、お茶」


「ありがとうでござる。母上、珍しく家の中で服を着ているでござるな」


「普段人が裸でうろついてるみたいに言わないでくれる?」


ずずっとお茶をすする。お茶葉を入れ直したばかりなのか随分と濃いでござる。


「して、今日はなんのご用事で?」


「今回の件のお礼と、裁判になるだろうからそのときの出頭のお願いだ。表向き合法に捜査したことになってるからキミには感謝状が贈られるんだ。でっちあげだけどな」


「感謝状でござるか…。それよりも都市伝説になってしまった人達はどうなるでござる?」


「心配すんな、口裂け女のあの子は俺が引き取ったし、他の子や教師だった大人達も武蔵野グループでどうにかしてくれるっとさ」


「よかった…。って杉田さん引き取ったってmjd?」


「ああ、マジだ。大事になっちまったからいずれバレる。カミさんと娘にはちゃんと話したよ。二人ともそういう事情ならOKだと」


「そうですか…」


「ボクノセリフハドンドゴドーン!」


「加利守くんは後から来るってセリフだったのに出番なかったしな」


「ははは、すっかり忘れてました」


よく晴れた日の、落ち着いた午後。早い夏の訪れを感じる暑さの中に男達の気持ちいい笑い声が響いていた。しばらく喋って、七条さん達が帰りそろそろ夕飯の支度かという時間になって。


ドンドンドン! ドンドンドン!


「?! なっ、なんぞ?!」


「二階からだね」


二階に上がると吾が輩の部屋のドアを内側から叩く音が聞こえた。次第に叩く音が小さくなって消えたでござる。何事かとゆっくり近付きおそるおそるドアを開けようとする。


「開かないでござる。あっ」


明け方から鍵を閉めっぱなしだった。……やっべーすっかり忘れてたでござる。鍵を回してドアを開けると、日本酒の一升瓶片手に水溜まりの中で女の子座りしてすすり泣くシオンさん。


「うぅ…ぐすっ、ひどい…、漏らしちゃった…」


「お兄ちゃん最っ低」


「我々は見なかったこということで」


「だな」


「ご、ごめんなさーい…」


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