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夜のおさんぽ

眠い。ただひたすらに眠い。疲れきっていると一晩眠ってもまだ疲れが残っていて、昼食を取った後なんかはついつい昼寝をしてしまうでござる。


(排熱にも問題があるけどこんなに疲れるとは…)


あの天照閃アマテラスモード(と名付けた)を使った時の輝く姿はゴッドガ○ダムで言えば明鏡止水のハイパーモード。一種の境地に達することで発現する究極。輝いているけど金色にはならない。


「ちょっと、起きてください」


「ううん…あと5時間……、はれっ」


「あと5時間…じゃないですよ、どんだけ寝る気ですか。ようやく気が付きましたね」


青龍たんに声をかけられて気が付けばウユニ塩湖。南アメリカのボリビアにある標高約3700メートルの文字通り塩の湖。秋田県とほぼ同じ広さを持ち、精神世界の表現としてたびたび用いられる【天空の鏡】。


「ぺろっ!しょっぱいでござる。こんなんまで再現しなくてもいいのに」


「リアリティは大事よぉー?」


「おや、なずなたんもいるでござるか」


6月は既に乾季。リアリティを言うなら真っ白な塩の大地にして欲しかったでござる。バカデカい塩の水溜まりで寝てたらそりゃしょっぱいわい。起きると吾が輩の美少女巫女なずなたんもいた。


「なんでまたこんなところに」


青龍たんもなずなたんも勝手に出たり消えたりする霊的存在。ぶっちゃけ実体化出来るんだからこんな精神世界なんかいらないと思うでござる。


「たまたま?」


「魂で繋がってるから夢で繋がってるようなものじゃないですか?」


「つまりよく分からないと。これが夢なら吾が輩は風の気持ちいい草原を所望するでござる」


次の瞬間、美しき鏡の湖は緑生い茂る爽やかな草原の木陰に移り変わった。あと心地良い風も吹かせるでござる。


「バトルもいいけど能力者ならこういうのも出来なくちゃ。ということでなずなたん膝枕してぇー」


「このダメ主人」


「まあまあいいじゃなぁい。ほらござるくん」


「いぇーい」


「あなたはこの人を甘やかし過ぎです」


やっぱり美少女巫女の膝枕は最高でござる。気持ちいいし、柔らかいし、撫でてくれるし。どっかの口うるさい痴女巫女(過去形)にも見習って欲しいものでござる。


「…なにやってるの」


「なにって柔らかい太ももの膝枕してもらってござ…ぐえっ」


「ここどこ」


「な、なんでトモミンが吾が輩の精神世界に…」


平和なひとときも束の間。朝のおはようから夜のおやすみまで共有する三人で穏やかな時間を…と思いきやなぜかパジャマ姿のトモミンが突然目の前に立っているでござる…。吾輩のお腹を踏みつけて。


「わたしと朋美ちゃんは繋がってたことがあるし、こういうこともあるんじゃない?」


「大雑把ですねー」


「プライバシーの侵害で訴えるわ!」


「冤罪でござる」


「あなたもござるくんのこと好きなんでしょ? そんな遠慮することないのに」


「はあっ?! ててててて適当なこと言わないでよおねえちゃん!」


ボンっと聞こえたような気がするほど急に顔を真っ赤にするトモミン。これは図星というヤツでござるな。うーん吾輩モテ期到来。


「へえ、そうなんですか」ニヤニヤ


「そうなんでござるか。いやー、モテるって辛いなー」ニヤニヤ


「わたしも普通に生きてた頃は好きな人がいてねぇー。これがまたござるくんにそっくりでもう可愛くってしかたないの」


「ちちちちちっ、ちがっ」


「なるほど。先祖であるあなたと朋美さんは容姿だけでなく、異性の好みも似ているということですか」


「朋美ちゃんも立ってないで一緒に寝よ? ほら、こっち」


「ううっ、もう知らないっ」


美少女三人に囲まれて草原の木陰で膝枕。平和って良いな、あ……zzzzzzZ。



「( ゜д゜)ハッ! なんだ現実か…」


最高に幸せだった太ももから一転、月曜日に引き戻される。って言っても吾が輩無職だし、仕事と言っても株や為替と先物取引を少々だから8時までに起床すればまあいいかって程度。


(ってまだ深夜3時でござる…)


スマホのホーム画面を点灯させると深夜2:50。深夜アニメも終わっている時間でござる。


(暇だし気分転換に夜の散歩でも行くでござる)


ジャージに着替えて、スマホと財布だけ持ってサンダルで家を出る。思えばこの十年くらいは激動の十年だったでござる。実の親から虐待を受け、施設に引き取られて、養子になって引き取られて、九尾の狐のお師匠さまと出会い、ロイヤルセブンに加わり、今は非現実な存在と戦う日々。


(対人恐怖症で、まともに話せる人なんて片手で数えるくらいだったのに)


歩いていると街灯に通りかかる。その下に見覚えのある白いワンピースのマスクをした女性。


「私、キレイ?」


「なにやってるでござるか」


「げえっ」


「げえっ、とは失礼な」


ついこの間の口裂け女さん。都市伝説の背景には生物兵器開発の人体実験という、悲しい事件があったでござる。


「な、なんであなたがここに…」


「たまたま目が覚めちゃったから気分転換でござる。ここ最近忙しくてゆっくりできなかったし。口裂け女さんは?」


「都市伝説は都市伝説のままがいいから続けようって、蒼島さんが」


「ええ…。メ、メイクは?普通に外を出歩くならメイクするって……」


「蒼島さんが


『いやー人脅かすのにメイクしちゃダメでしょう! ここはすっぴんでいかないと! ねっ? 室見さん!』


『私は知らん』



って言ってた」


あの署長絶対面白半分でござる。取り敢えず立ったまま話すのもなんなので、例の中学校まで一緒に歩くことにした。


「そういえばあなたにはまだお礼言ってなかったね。ありがとう」


「いいえ、どういたしまして。って言っても結局レイミさんの手の上で踊らされていただけみたいですしおすし」


「ううんそんなことない。あなたのおかげで散らばってた皆にまた会えたし、校舎も残ることになったし」


「皆と言うと、そういえば地下のあの子ども達はどうなるでござる?」


地下で吾が輩や七条さん、杉田さんを襲ってきた白骨の子ども達。蒼島署長は連れ出すって言ってたけどその後のことは何にも聞いてないでござる。


「レイミちゃんが一人一人に合った機械の体をくれるって。ねえ、あの子って何者? 機械に人の魂を移せるってなんなの?」


「ある意味黒幕でござる」


「なにそれ」


なんとも奇妙な気分でござる。本当に実在するのかどうかも分からなかった都市伝説と散歩してるとは。って九尾の狐と付き合いがあったり、変身したりで今さらでござる。


「この木造の校舎、そのまま保存でござるか?」


深夜の中学校。勝手に入ったら怒られるけど今の時間なら誰もいないでござる。


「さすがに耐震工事はしなきゃダメだって」


「そうでござるか。一つ聞いても?」


「なに?」


「ここは中学校のはずなのに、小学生くらいの子も混じってたのはどうしてでござる?」


「小学校は空襲で焼けちゃったんだ。建て直すお金も木もなくて、学校にいた先生も戦争でほとんど死んじゃった」


日記によると事件は戦後からそれほど経ってないようだったから、おおかたそのあたりを材料にカラミティから取引に持ち込まれたんでござる。着るもの、食べ物、住む場所。当時、今の時代にあって当たり前のものがどれだけ貴重であったことか。そして、それがどれだけ邪悪な悪魔のささやきであったことか。奴らは人の弱みにつけこんで、陥れ、もてあそび、苦しませ、奪った。


「当時は闇米に手を出さなければならなかったと習ったでござる。それすらも手に入らない人達もいて……、それでもようやく助かったと思ったらこんなことに…」


「…うん、そういう人もいた。助からなかった人もいた。助かってもこうなった」


地元の飢えを解決することと引き換えに、人を差し出した。取引で救えた人もいたかもしれないけど、犠牲になった人だっているでござる。その日暮らしもあやうい人達の弱味につけ込んで、非道を働いた不届き者達。今回潰せたのはごく一部。カラミティ本体が潰せなければまだ戦いは続くでござる。


「でもね」


「?」


「君みたいなのがいると、世の中まだ捨てたもんじゃないなって思わせてくれる。ううん、思わせてくれて本当に良かった」


「……冷えるからそろそろ帰りましょう。飛んで送っていくでござる」


「うん…、うん? 飛んで大丈夫なの? というか変身しなくても飛べるの?」


「皆にはナイショで。大丈夫、この時間なら誰も見てないでござる」


そろそろ陽が昇り始めようという、薄明かりの時間。ちょっとお話できて、少しだけ胸がすっきりした気がするでござる。あと、白いワンピースが朝日で透けてなかなかえっちでござる。

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