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僕の後輩はひねくれ女王  作者: 耳の王様
第二章 告白
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第四話 相談部たちの恋愛事情

「お、一枚だけ入ってるな」


学校の校門に設置されてある、相談部用の投函ポストの中を見て僕はつぶやいた。手を伸ばし、二つに折られた相談用紙を取り出すとすぐさま、ポストの扉を閉めカギをかけた。


このポストはたて長の木製タイプで、投函口もかなり小さめなので、手を突っ込んでも途中で腕が引っかかり、底にある相談用紙が取れない作りになっている。よって生徒らが面白半分で中身を見るといったことは出来ない。


ポストの前には台が備え付けてあり、そこにはペンと相談用紙が置かれている。ここで生徒たちが相談内容を書き込み投函する流れになっている。


相談用紙を手にしたまま僕は校内にいくつかある校舎の一つに入り、最上階である三階までのぼった。そして自分が属してる相談部の部室まで移動し、扉を開けた。


室内には二人の人間が居た。一人は唯一の部員仲間桐山さん。もう一人は顧問教師である篠原先生。両名ともに手持ち無沙汰そうに椅子に座っていた。


「あ、先輩」


「お、やっときたか」


「どうも」


軽く会釈をし、桐山さんの隣に腰を下ろすと同時に、ポケットの中に入ってたスマホが震え始めた。


「電話か?」


尋ねてくる先生に僕はスマホを取り出し、否定した。


「いえ、ツイッターの通知ですね」


「先輩ツイッターなんてやってるんですか?」


桐山さんが意外そうな顔をして聞いてくる。


「え、うんまあ。友だちに誘われて成り行きでね。桐山さんはやってないの?」


「やってないです」


「ふーんなんで?」


「なんで?」


桐山さんが少しイラついたような口調になる。


「自分の思想や思いを発信して、自己顕示欲を満たすツールなんて、私には無用なものだからです」


「まった、随分な言い様だなぁ」


先生がやれやれといった感じで頭を抑えてる。そして僕に顔を近付け、耳打ちをしてきた。


「相変わらずひねくれてるよな」


これはなんて返せば良いんだ……?困惑していると、桐山さんの視線が、僕の持つ相談用紙に移った。


「今日は相談きてるんですね」


「ああ、うん。一枚だけだけどね」


答えながらスマホの画面に目を馳せる。通知の内容は僕のたわいもないツイートに、友人がいいねを付けた。ただそれだけのものだった。


「わざわざこんなの付けなくても良いんだけどな……」


つぶやきながら僕はスマホをポケットに戻す。そして相談用紙を広げ桐山さんとともに中身を読み始めた……。




僕は生まれてこの方、恋人がいたことないのですがつい先日、クラスの女の子に告白されました。名前は班目(まだらめ)奏夢(りずむ)といって少しヤンキーっぽい子です。なのでオタクで根暗な自分とはほとんど会話したことないのですが、なんでも僕に一目惚れだったとのことらしく(僕は顔が良い方ではないと思っていたので、その言葉に驚きました)この春からずっと告白のタイミングを窺っていたみたいです。


でも僕はこの班目さんのことをなにも知らなかったので、OKすべきかどうか迷ってしまい、結局返事は少し待ってほしいと答えました。ここで相談なのですが、別段好意を持ってない相手と付き合うというのは、やはり軽薄に当たるため断った方が良いのでしょうか?それとも班目さんの思いを汲んで付き合った方が彼女のためになるのでしょうか。どう答えれば良いのかぜひ教えて下さい。

中等部二年 武田(たけだ)浩二(こうじ)より




「ほうモテ自慢か」


いつのまにか僕たちの後ろに突っ立っていた先生が、苦々しそうに相談用紙を覗き込んでいた。


「なんか気に入らなさそうですね先生」


振り向きざまに告げた僕に対し、先生は答えた。


「いや、そんなことはないが私中学、高校時代は恋愛とはまったく無縁だったから、ちょっと羨ましいなって思っただけだよ」


「あれ、恋人とか作らなかったんですか?」


「ああ、陸上部に入っていてな。ほとんど部活に明け暮れる毎日だったよ。自慢じゃないがおかげで今でも、普通の成人男性よりはやく走れるんだぞ」


自慢じゃないとは言いながらも、先生の表情はどこか誇らしげだった。


「中学、高校ということは大学生のときには付き合った人いたんですか」


今まで黙っていた桐山さんが会話に参加してきた。先生は少し、気まずそうな顔をしている。


「ああ一応一人だけいたんだが……。三ヶ月ほどで別れてしまってな」


「それはまた随分と短い恋でしたね」


「まあ、な。色々あったんだよ」


先生が遠い目をしながらつぶやく。これは……。多分僕が想像する以上に色々あったんだろうな。先生の物悲しい雰囲気がそれを如実に語っていた。


「で、結局それからは一度も男と付き合わず仕舞いで、今日に至るってわけだ」


「え?じゃあ今まで付き合ったことある人、一人だけなんですか」


「……。悪かったな。いい歳してろくに恋愛経験してなくて」


先生の機嫌が露骨に悪くなった。やばいこれは地雷踏んだか。


「佐藤、そういうお前だって恋人とかいたことないだろ?」


反論とばかりに聞いてくる先生。なぜ断定口調なのかは謎だが、僕は被りを振った。


「いえ、中学時代に付き合ったことありますよ。先生同様一人だけですけど」


「え?」


「は?」


桐山さんと先生が、ほぼ同時に同じリアクションをしてきた。え、なにその反応。


「ちょ、ちょっと待て佐藤。え、お前今なんて言った?付き合ったことある?それも中学時代に?」


「ええ」


「……。それはあれか。アニメとかゲームのキャラとかではなく」


「違います」


「妄想とか幻覚とかでもなく」


「違います」


「アイドルとかそういうのでも……」


「なんでそんな現実逃避みたく、僕に恋人がいなかったようにしたいんですか」


「あ、そのすまない。なにしろあまりにも意外だったものだから……。いやしかし佐藤がな……」


アゴに手をやりながら、ブツブツと一人でなにかを言ってる先生。そんなに僕に恋人がいたことが意外なのだろうか。ふと桐山さんの方に目を向けると、なにやら彼女の方も様子がおかしかった。


「先輩に恋人……。先輩に恋人……。先輩に恋人……」


桐山さんはうわ言のように、同じ言葉を繰り返していた。彼女のこのような姿を見るのは初めてだった。


「あのー桐山さん?」


「え、あはい!」


呼びかけられて身体をビクンとさせる桐山さん。


「えっと、そこまで驚くようなことだったかな」


「あ、いえその……」


彼女はしきりに目を(しばたた)かせながら、返答に窮している様子だった。なにをそんなに困惑しているのだろう。


「あの先輩!」


「は、はい!」


今度は急に意を決したかのように大声を出してきた。そのせいで今度は僕の身体がビクンとなってしまった。


「その……。差し支えなければ、別れた理由を聞かせてもらって良いですか?」


「あ、いや別に深いわけはないんだけどね。単純に彼女の方が、親の都合で転校することになっちゃったから仕方なく別れたってだけだよ」


「……。今でもその彼女さんのこと好きなんですか?」


「うーん、どうだろう。もう数年前だしなぁ。そこまで未練みたいなものはない……かな?」


「本当ですか?」


桐山さんが再確認してくる。なんだか少し目を輝かせているように見えた。


「う、うん」


「本当の本当に、もうその人のことはなんとも思ってないんですね」


こちらに身を乗り出しながら、しつこく聞いてくる桐山さん。うう……。なんというか圧をがすごい……。


「そ、そうだね。特には……」


「……。それなら良いんです」


急に納得がいったような笑みを浮かべたかと思うと姿勢を正し、いつも通りすました顔に戻った。わからない……。今日の桐山さんがわからない……。


「なあ佐藤」


さっきまでひとりごとをつぶやいていた先生が、なにやら顔を青ざめながら尋ねてきた。今度は一体なんだ。


「お前、その子とはどれぐらいの期間付き合ってたんだ?」


「え?うーんと割とすぐに転校しちゃっいましたからね。大体……半年ぐらいだったかな?」


僕が回答すると先生はガクッとうなだれた。


「私より恋人のいた期間が長い……だと」


「……。それ、そんなにショックなことですか?」


「いやだってさ。私佐藤より十年ぐらい人生の先輩なわけじゃん。それなのにさ……」


「先生、別にそんなこと気にしないで良いじゃないですか」


上目遣いで先生を見ながら桐山さんは告げてきた。


「桐山……。そういえばお前は恋人いたことあるのか」


「え」


先生のその返しは予想外だったらしく、桐山さんは完全にフリーズしてしまっている。あれもしかして彼女……。


「付き合ったことないの?」


「……。悪いですか」


僕の問いに、にらみつけながら答えてくる桐山さん。先刻までこちらを圧倒させるほど、元恋人に未練はないかと質問してきた彼女とはまるで別人のようだった。


「いやその、なんというか意外だなって思っただけだよ。告白したり、されたりしたことなかったの?」


「ないですね。あんまり人と関わったことはありませんし」


あっけらかんとした口調で桐山さんは告げてきたが、もしかして彼女、友だちとかもいないのだろうか。その辺のところを尋ねようと思ったが、そうしたらまた「悪いですか」と言いながら睥睨(へいげい)してきそうだったから思い留まることにした。


「ってことはこの三人の中で佐藤が一番の恋愛マスターってことになるのか」


先生が釈然といかない様子で腕を組んでいる。


「いやそんな大げさな。半年しか付き合ってないですし桐山さんや、先生と五十歩百歩ですよ」


「でもなぁ。期間的に言えば単純に私の倍経験があるわけだし、そうなると今回の相談もお前が解決法を考えるのが適任かもな」


先生が相談文を指差しながら言う。


「急に話を本題に戻しましたね」


「ああ、なんかこのままだとダラダラと恋愛雑談が続きそうだったから、無理矢理本題に戻した」


先生に言われて、確かに話が脱線し過ぎていているなと思った。このままの調子だとあと三十分ぐらい、たわいもない会話を続けていたかもしれない。


「元はと言えば先生の嫉妬混じりの『のろけか』ってつぶやきから、話が逸れ始めたんですけどね」


「だから別に嫉妬とかじゃなくて、ちょっと羨ましいなって思っただけだって」


桐山さんの発言を否定する先生。が、僕の中で少しいじわるな心が芽生えた。


「本当に百パーセント嫉妬じゃないって言えますか?明らかに忌々しそうな口調で『のろけか』と吐き捨ててましたけど」


「……。ごめんなさい、うそを付きました。本当は九対一ぐらいの割合で、嫉妬心の方が優ってました」


僕の追及に対し、あっさりと自白する先生。さながら刑事ドラマのワンシーンのようだった。


「ほとんどが嫉妬で構成されてるー」


僕が冷めた眼差しを向けると先生は感情をむき出しにした。


「ええい、うるさいぞ恋愛マスター!そんなことよりさっさと相談に対しての解決法考えろ!」


先生の鶴の一声で、ようやく僕たちは相談部の本来の活動を開始することになったのだった……。



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