第07話 女性のエルフと出会えたぞ!
――……。
「ここがお前の仕事場だ! あそこの背の高い奴に内容を聞け! 働け!」
「へへ、ありがとうございました。ナンザさん」
やはり名残を見せずに去って行くナンザさん。ノッポな人は『クロフ』さん。
仕事内容は、A地点の残土やら何やらをB地点へ持って行きC地点の材料をD地点に持って行きA地点に戻ると……後はひたすらループの単純作業だった。
体力だけが問題の仕事だ。お粗末な猫車なのでバランスを取るのが難しいくらいだな。慣れて来ると行き交う労働者の声が聞こえてくる……。
どうやら『イグサントアレス』が国の名前だそうで、ここは『ミリアルロナ』と言うお貴族様の領地なんだと。奴隷制なんかもあるみたいで、首輪みたいの付けているのがそうらしい。ちらほらと居たりなんかするね……。
あとはもう『金』『飯』『酒』『女』の話ばっかだわー。親方は嫁さんが三人も居るのかよ! どうやら一夫多妻もありらしい……一妻多夫もありらしい。
けど、養えなかったり離婚とかになると社会的なステータスがダダ下がりなんだそうで、物騒な話もあるみたい……。普通は一夫一妻が当たり前と聞こえた。
――――……。
どっぷりと日が暮れて来た……。久々の肉体労働はきっついわ~高校時代にしたバイト以来だわ~確実に明日は筋肉痛だわ~魔法で治るのかな?
クロフさんが仕事終了の合図を出したので、猫車を所定の位置に戻して飯場へと戻った。大勢の男がぞろぞろと飯場前の机で何かしている。俺も列へと加わった。
待つのも大変だが、おそらく給金の受付だろう。離れていく男どもの笑顔がはち切れんばかりなんだもん! もう少しで俺の番だー!
……。
「次!」
「……タカシです。お疲れ様です。組合員証ないです。日払い希望です」
「お疲れ? 組合員証……あー持ってない? なんでだ? 日払い希望? ぁああメンドクセーな! これに名前かけ!」
「……字を書けないです」
「ああ? 名前が書けない? なんなんだーオマエは! ……名前は?」
「……タカシです」
「『タカシ』だ? しょぼい名前だ! …………ほれ」
俺の対面のおっさんは傷だらけの顔の厳ついおっさんで、事務仕事より冒険者が相応しい御方だった。非常に興味深い冒険者だが俺には似合わんかな?
おっさんはチャカチャカと作業を行い銀貨四枚を渡してくれた。名前を書いてたのは受取証なんだろうが薄い木の板でリストは紙っぽい。コスト意識の現れかな。
ナンザさんは俺を登録していてくれたようでスムースに事は終わったんだが……明日はどうすりゃ良いのかな? このおっさんに聞くのも怖いから離れよう。
ナンザさんは見当たらなかったが、クロフさんを見つけた。背が高いから直ぐに分かる便利な人だな。
「クロフさーん! 明日の事なんですけどー」
「ん? タカシ……だったな。なんだ?」
明日は『前の三刻と三』に仕事が始まるとの事で『一刻の五』には仕事場に居ないと駄目らしい。時計の魔道具があるからごまかせないぞと見方を教えられた。
『一刻』が二時間の十二時間制を午前午後で分けていて、始まりは『〇』でなく『一』のようだ……。分は『一刻』を六分割で表現する……二十分単位だな。
つまり、明日は朝の六時に仕事開始で二十分前に現場に居ろと……。
手間はかかるが二十四時間制に変換が出来るのは助かるな。セリちゃん『翻訳』魔法に組込んでくれてれば良いのに……再構築が終わったら試してみよう。
そればかりか、きな臭い話も出た。なにやら百四十四年前に王国暦が制定されたそうなのだが……それがグレゴリオ暦っぽい! 女神様の使徒が伝えたとか……。
確実に転移者だ! 子孫とかいたりする? いやいや、今は日銭を稼ぐのだ! 衣食足りてなんとやらだ。レーナちゃんに会いたい。今日は『三月と三〇』だと。
元世界と違うな……。
……。
どうやら、東の門までの馬車を出しているみたいでタダで乗れるみたいだ。朝の人足集め用に移動させて置くらしい。飯場に泊まらないなら乗ってけと言われた。
クロフさんと別れ馬車に乗り込み街を移動した。この街は東西南北に門があり、今は西側から東の門に向かっていて、街壁工事は西から南にかけ行われている。
「……東の門まで、どのくらいですか?」
「あ? ううん……。『二』と言ったところかの」
「(四十分くらいか) ありがとうございます! それと……」
道行きに年配の御者さんと話してみると小高い丘は北西地域で貴族街、北東地域が冒険者街、南西地区を開発地区にしていて南東地区は商業や住宅地区だそうだ。
『みかづきのほとり亭』は南東地区にあるんだろう。俺の行動と記憶ともズレはないな。お土産くらい用意したいが宿代を聞き忘れたのは痛恨のミスだー!
東西南北に走る基幹道路は石畳で舗装されているが馬車の揺れは変わらず酷い。四本の交差点の周りは北西を除いて広場になっていて闇市なんかもあるんだと。
まあ買わなくても見学くらいしたいわなと、御者さんに馬車を止めてもらい礼を言って降りたんだが、乗り込んでいる連中からは文句を言われた。
北東側の広場には胡散臭い露天がずらりと並んでいて魔道具で照らされている。それなりに明るいな。魔道具のおかげで日の出、日の入りが活動時間という訳ではないんだな。人出もそれなりにあって賑わいもしている……。
露天の魔道具なんか覗いてみると時計があった。今は『後の五刻の五』……午後七時二十分かあ『後の四刻と一』で良いじゃん! 変な時計~乾いた笑いを吐く。
時計の文字は読めるが他は駄目で何が何やら……。ボロい格好だから冷やかしに見えるのか相手にもされない。杖があったけれど、えみちゃんにはジジ臭いな。
……やっぱり異世界ぼっちは厳しいなー自分で選んだとはいえ、人恋しくなって来た。『みかづきのほとり亭』を探そうかな。
――――……。
北東側から南東側の広場に移ると、店仕舞した露店が多いけど食料や生活用品を扱っている所がちらほらと営業中だ。見た事のない果物もあって食べてみたいな。
「お兄さん! お兄さん。汚いけど変わった服を着ているね! 少し見せてよー」
声が届く前にスーツの裾を引っ張られて何事かと首を振ると緑色のチェニックを着た女性が撫でるように感触を確かめていた。そして、横長な耳をお持ちだ……。
内心で『きたあああああ』と叫ばずにはおれないがエルフの女性! どれどれ、お顔を拝見したいのですが……。これ以上、首まわんねーよ!
「えっとぉ……脱いでお見せしましょうか?」
「本当? 脱いで! 脱いで! 早く見せて~触らせて~。早く! 触れたいの」
「ちょいと待っててね……それ!」
スーツを脱いでエルフの女性に投げ渡すと非常にいかがわしいが汚れも気にせず揉んだり擦ったり扱いたりしているの……そんなに夢中でしたらスグ逝っちゃうよ袖が。
「凄い! 凄~い! こんなの見た事ないの! 欲しい! 欲しいよ~。頂戴! 頂戴よ~。ねえお願い! 欲しいの……ダメ? ああん! ください……凄いの」
「ええっとですねー。少し落ち着いてもらえませんかねー? お店の前ですし」
「そうね? こっちに来て! 来て! 来るの……早くして! 来る! お願い」
「なんだかなー」
エルフの女性は非常に興奮されておられまして、ご自分の露天でしょうか? 俺は連れ込まれてしまいました。そこでも何やら連呼されまして逆に冷めました。
この露天は衣料品を扱っているようです。他の店員さんの目が怖いのですけど。どうせ安物のスーツなので譲っても良いけれど……。
レーナちゃんたちへのお土産代くらいにならないかな?
「……ごめんね。でもこれ凄いよ。何が材料か分からないけど、生地の織り方とか正確で丈夫だし縫製も強度があるし。糸が凄いのかな? 加工も凄いけど」
「……貰い物だから細かい事は分からないんですよ。ですけど、えーと……」
「あ! あたしは『フィーア』って言うの! ねえ、この服を譲ってくれない?」
「俺は『タカシ』です。譲るのは構わないんですけど……」
「……金貨一枚でどうかしら? それと……若いエルフの娘を紹介してあげる! 可愛い娘たくさんいるわよ~。人気あるんだから。魔法も使えるのよ!」
この世界の人は紹介業が副業なのか? 若い娘と言われると気になりますが……フィーアさんも二十代半ばくらいな容姿だけど……実年齢を聞いても良いのかな?
それと、金貨一枚の価値が分からない……。あまり欲張らずに人間関係を持った方が結果として良さそうだ。知り合いも友達もいないからな。
「そうですねえ、下のズボンもお譲りしますんで代わりの服を頂けません? あと金貨一枚って銀貨だと何枚ですかね? フィーアさんはおいくつなんです?」
「あら……年上好みなの? 残念ねえ、あたしは結婚しているの。でも恋はしたいわ。代わりの服なら二、三着用意してあげる。銀貨なら百枚、大銀貨なら十枚ね」
完スルー。ぎ、銀貨にされると凄い九日分の日当になるのか……。服も用意してくれるなら半分で良いかも知れないな。他の露店の人と顔つなぎもして欲しいし。で、年上好きですが年上なのかな? まあ見た目歳でいいよもう! 綺麗だしな。
それに、ほっそりした身体に決してない訳ではないささやかな胸と華奢な手足。仄暗い灯りのもとで更に神秘的に映える顔の造詣といいエルフだな~と。
だからといって、小指の甲を鼻の下に当てて斜めに微笑まんでくださいよ。
「代金は半分で構いませんので『みかづきのほとり亭』という宿屋はご存知でないですか? それと、他の露店巡りに付き合って頂きたいんですけど……」
「本当? 嬉しいわ~。それに夜のデートなんて……しかも宿屋までご指名なのね……。直ぐに服を用意するわね! どうしましょう! あたし人妻なのに……」
「…………ヨロシクオネガイシマス!」
代わりの服は一着分の上下を用意してくれた。後日、残りの二着分を寸法を合わせた上で渡してくれるそうだ。カーゴパンツみたいなのと丸首のセーターに着替えたら俺の下着にも興味を示されましたけど断固死守した。おまけで靴下をくれた。
開いている露天は少なくなったがタオルとか石鹸とかの生活用品を買ってくれて中には灯りと時計の魔道具まであった。そんなに高くないのかな?
『スクレ』という外観メロンで味はデコポンのお土産も買ってくれた。日持ちはしないそうだ。何の肉か知らんけど串焼きを買ってくれる。塩が足らん残念。
からかわれているんだろうけど腕なんか組まれちゃって細くても女性は柔らかいなあって切なくなった。宿屋はどこかの小僧さんに案内させてと、お代は串焼き。
――……。
「いろいろとありがとうございます! フィーアさん。助かりました」
「こちらこそ楽しかったわ。お宿まで御一緒できなくてごめんなさいね……でも、夜は一晩だけじゃないから……。待っているわ……タカシさん」
「うーあー。明日も伺いますよ! じゃあ行こっか」
「おう!」
「おやすみなさい……タカシさん」
流石にフィーアさんのノリに疲れたので小僧さんの背中を押して離脱した。小僧さんの露天は調味料を扱っているそうだ。年は十二、三歳くらいかなー。
――――……。
「ここだよ! 兄ちゃん」
「え? ここかい? ……あ、ありがとうな」
「おう! じゃあなー兄ちゃん」
小僧さんは威勢よく別れの挨拶をして、元気よく走り出していった。
そして『みかづきのほとり亭』……大きめの道路に面しているのに灯りもついてないし、うらぶれた様子がするけど営業終了? あれ? 扉は鍵がかかってない。
案ずるよりもなんとやらだ! 行くぞ!
……。
「こんばんはー。宿泊したいんですけどー。どなたかいませんかー」
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