第06話 日銭を稼ぐのだ!
俺は異世界に来て美少女ばかりと出会い話しをしている。セリちゃんは裏がなく純な金髪ポニテがはまってた。レーナちゃんは素朴で明るく興味を持ってくれた。ミーナさんは飾り気のない照れ屋のお嬢様でもっとお近づきになりたかった。
……大人の女性はどんな様子なのだろうか? ケモミミの人たちは『獣人』とか呼ばれてるのかな? 街の人々はどのような生活をしているんだろうか。
――……。
スーツがへたってきて上はもうダメかな? 両袖が切れそうだ……愚痴をこぼしながら土手沿いの道を歩いていくと大きな道と合流した。
ここを右で良いのかな?
『ミガルツ』の入口が見えて来た! 少し西寄りの位置に馬車の停留所のような場所がある。馬車が複数台止められていた。
入口は想像していた石造りの城門みたいな物ではなかった。木造の砦みたいだが門の代わりなのかな? 砦の門はかなり強固に見える。
脇の小屋みたいな所に、槍や剣を持った兵士みたいな人たちがいる。少し怖いが感激だな異世界だ! みな屈強そうだ。
なんかこちらを見ている気が……なんの策もないのでぶっつけ本番でいくか? 最悪、捕まっても飯くらい出すだろうから、それ食って魔法で逃げれば……。
いやいや、駄目だろ危険だ! なんだか兵士の人が睨んでいるような……。
こんな所で考えていられないな。もう目を付けられてしまった。なんとしても、街に潜り込んで時間を作ろう。
兵士が俺に近づいて来た。
「おい! 手を上げろ! 動くな!」
「へ、へへ。こ、こんにちは」
「なんだ? 汚い格好で! 南砦に何の用だ? ……変わった服だな?」
「いえ、つまらない事で川に流されてしまいましてね。全部、流されてしまったんですよ。街に戻って日銭を稼ぎたいと思いまして。へへ」
「ああ? 喧嘩でもして放り込まれたのか? 冒険者か?」
「へへ、そんな所です……。へへへ」
槍を向けられ詰問されると職質以上の圧迫感で自然と卑屈になる。同じ位な歳の兄さんだが気合十分な方は苦手だ。しかし、やはり冒険者がいるんだな。
「だったら東の門に行け! 東の門なら手配師なんていくらでも居るだろう?」
「そ、それもそうなんですが……へへ」
「おいアンタ! 仕事探してるんだって? 紹介してもいいぜ~」
横合いからチャラそうな兄さんが割り込んで来た。俺の肩を槍で叩きながら指を差して仕事を紹介してくれると……なんか流れに乗るしかないんですけどー。
気合兄さんがチャラ兄さんに肩を当て牽制しているが……。
「おいおい、良いのかよ!!」
「いいんだって! このまま西の街壁建設が遅れると俺らまで駆り出されるぜ! それに紹介料が二、三本くらいの酒にはなるしよ」
「……知らねーけど、酒は飲ませろよ」
「へッ、そう来なくっちゃな! おい! 俺は『ワルター』ってんだ」
ワルターは気合兄さんより立場が上なんかな? 親指で自分を指さして気さくな兄さん風ではあるんだが話しやすくて断りにくい雰囲気を持っているな。
街壁が建設途上って事は、ここはまだ開発中の新しい街って事になるのかな? やっぱり酒はワインなの? 俺も飲みてー。
「……『タカシ』です。へへへへ」
「でよ、直接現場に行けよ。そこにな『ナンザ』ってのが居るからよ! ワルターから紹介されたって言えばバッチリよ! 今から行けば午後からでも働けるぜ~」
「現場ですか……へへ。どこら辺りですか?」
「あそこによ、馬車が止まってるべ? 現場に川砂を運んでんだわ、それに乗っかれるように話つけてやるよ! たぶん五日くらいは働く事になるぜ」
「へへ、ありがたいですわ……。五日ですか。ちなみに――」
「うっしゃ! 決まり! 着いて来いよ。わりいちょっくら行ってくるわ!」
「ははは、紹介っつーより強制だな! 早く戻って来いよ!」
日当も分からんのに決められてしまった……まあ酷い所だったら魔法で逃げれば良いかな? 牢屋から脱出するよりは楽だろう。
川砂を利用する建築技術はあるんだ。魔法とか使わないのか? それに、五日間くらいは拘束されるのか……。レーナちゃん家の宿屋に泊まりたいんだが……。
気合兄さんは気合が抜けると、けっこうとっぽい。一応、礼を言っておくか。
「ど、どうもお騒がせしました。へへ」
「あー。がんばんな」
俺はワルターと一緒に馬車の方へと向かって行った。
その時に聞いたのだが、俺の行った所は南砦の門で街の南の門は途中で見かけた停留所みたいな所だった……らしい、アホだ。
現場には飯場もあるらしく『残りモンでも食わせてくれるんじゃーねーのー?』とか『日当は銀貨十二枚、半日なら五枚』との、ありがたいお言葉も頂いた。
このまま腹ペコで肉体労働は厳しすぎるから助かるけど、物価が分かんねー。
「おーい、おっちゃん! おっちゃん! 実はよ……」
馬を間近に見るなんて小学生の遠足以来だ。これからは生き物に慣れないとな。御者のおっちゃんは午後イチに間に合わせるらしく、すぐ出発すると仰った。
荷台に飛び乗り砂の上に寝っ転がると移動を開始した。もう汚れは気にしない。南の門は木造の簡素な物で、西側には申し訳程度の木の柵しかなかった。
「よっ! ちゃんと働くんだぜ~。じゃあな!」
「ワルターさん、ありがと! へへ」
ワルターは名残も見せずに去って行く。後は『ナンザ』に会えば良いんだな。
――――……。
ここいらで、魔法について調べておくか。視界のオーバーレイ表示が楽しいな。設定の作業は……明日までかかるのか? 慎重に行動しよう。
四元素魔法はイメージしやすくて、ありがたいな。『土』『水』『風』『火』に関連付けて思い描ける。なんとなくでも使えたし応用も効きそうだ。
光と闇系……ヤバイのばかり『肉体操作』『精神操作』中身は『回復』『治癒』『壊死』『悶死』『消去』『洗脳』『錯誤』『魅了』『隷属』『置換』……とか。
まだまだ沢山あるな。嫌だなぁ特に記憶とか認識を弄るなんて気持ち悪すぎだ。
『時空操作』『重力操作』は更にヤバイの方向が……未完成、未検証、理論上の物とか使えるか! 世界が一挙に滅びるわ! ヤッパここの女神様可怪しいよ!
そういえば、セリちゃんが使ってたのは『空間収納』的な魔法みたいだったけど女神様の部下だから使えてたのか? すると『天使』? 容姿はまさにそうだ。
それに、『翻訳』魔法は俺ら専用にカスタマイズしたって言ってたな。からくりと言うか謎が多すぎるな。
他は能力……条件を満たすと解放される? 今は全部で八個なんだ……『強化』『共有』『並列』『支援』『探索』『解析』『最適化』『再構築』なるほど。
脳内アナウンスは『支援』とかだったの? ……返事がないな。他の能力の解放条件も非公開でセリちゃんに何か細工されてんのか? 棒で見えなかったのがな。
どれもこれも使いこなせれば凄まじいチートだろうが、ズルして手に入れたしな~あまり頼らん方が良いのかな。
しかし、馬車の揺れが酷いゴロ寝でも疲れる。重量物を乗せているし道が未舗装だからかなあ……。土を踏み固めただけのように見えるから仕方ないのかな?
――――……。
天気も良いし景色は緑も多くて爽やかな風もある。だが段々と西の現場が見えて来た。奥側の北東方向は小高い丘になっていて、それを囲むような高い壁がある。
そこには、小奇麗な邸宅が点在し……お貴族様とかいらっしゃるのねって言える住宅街となっていた。
……。
背伸びをしていると工事現場に着いたようで馬車が止まった。ここは砂を降ろす場所との事なので、飯場を教えてもらい向かうとした。おっちゃんありがとう。
途中の現場ではいろんな男たちが働いていた。もう昼休みは終りなんだろか? 腹が減って仕方がない。『ナンザ』とやらはどこに居るんだ。
それにしても、いろんな男がいるな。ケモミミ男はモチロンいたが、寸詰まりの髭樽みたいな男……『鉱人』だなー。トカゲっぽい男は『蜥人』かなあ?
だけど『森人』とか『庄人』な人は見かけない。人種が偏在しているのかな? それよりも『ナンザ』さんはどこ? 偉そうにしている人に聞いてみるか……。
俺はガタイの良いおっさんに尋ねてみたが『飯場の中に居るんじゃねーの?』と投げやりな返答だった。まあ飯を食いたいし先に行ってみる事にした。
飯場は掘建て小屋以下で、適当な柱にボロ布を渡し壁にして屋根は薄板を乗せただけ床は藁敷きが少しだけ……ここが宿泊施設なのね……。
しかし、入口の横に寸胴鍋が! パン! 黒パンか? わーい硬そうだなー皿もあるから食べて良い? と、手を伸ばそうとしたら……。
「おい! もうメシの時間は終りだぞ! すぐ持ち場に行かねーか!」
「え? え、ええと、お、俺はですね。メシは『ワルター』さんが食って良いって聞いてたもんで、ですね。えー、ええ仕事しに来ました」
「あ?」
……――。
結果から言えば怒鳴ったのが『ナンザ』さんで現場の『親方』というお偉いさんだった。ワルターの紹介だと伝えると、人たらしっぽい笑顔で了承してくれた。
メシも食えた。残り物の塩味もしないスープに黒パン二個を浸せてかっこんだ。今日から五日が見習い期間で今後は働き次第との事である。
とにかく人手が足りないみたいで日当は高いのだそうだ……分からんが。半日で銀貨五枚、通しなら十二枚。飯場の泊まり賃が三食メシ付きで二枚だそうだ。
飯場はほぼメシ代ですね。その日の内に金が欲しいなら一枚引かれてしまうよ、組合員証があれば週払い全額が基本だよと。週は七日で元世界と一緒だった……。
組合員証は『建設』『商業』『薬事』『冒険』どこの物でも良いらしいそうだ。あれだな『ギルドカード』ってヤツだ。冒険者組合が一番簡単に作れるから作れと命令された。字は書けなくても大丈夫らしい……。
まあ俺は日払いで貰って『みかづきのほとり亭』に泊まる事が決定しているが。場所知らんけど。たぶん街の南東方向だろう。
――……。
「ここがお前の仕事場だ! あそこの背の高い奴に内容を聞け! 働け!」
「へへ、ありがとうございました。ナンザさん」
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