第04話 異世界に来たぞ!
「どごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
セリちゃんのパンツは……水色だった! あんなに可愛いらしい少女と会話するなんて……初めて、だった、かな。ちょいとからかいすぎたかも知れない。
ごめんなさいだよ……また会えるかな。
神速の回し蹴りを喰らった俺は半透明の扉を突き破り、異世界へと転移した! そこは……闇と青と白のグラデーション。手に持っていたカードが光を発する粒となり身体に吸い込まれ消滅した。蹴りの慣性は終わり、下に引かれる力――!?
「あああああ落ちてるるるるるう」
いきなり異世界スカイダイブ! ううう、寒い痛い苦しい……。なんとか出来る魔法はないのか? 死んで舞う。『不死!』はキャンセルしたから非常にまずい。
「あひぃあひぃあひいいいぃぃぃ」
とにかく寒いのと苦しいのをなんとか出来る魔法はないのか!? あと空を飛ぶ魔法とか! すると頭に『空移術』とかいう言葉が響き渡った。なんだそれ……?
……A地点からB地点に放物線で移動をするイメージ? 必要なのは水平のとれた発地点? 着地点の座標? 発動後に即時移動開始って、人間大砲じゃねーか!!
「くじょくじょくじょくじょくじょ」
悔しくて腹立ち紛れに『寒いのと苦しいのをなんとかして』と、なじる。すると体を包み込む感触を覚えて『物理障壁展開開始』と、聞こえた……幻聴じゃない。更に『展開完了……障壁内、生体維持効果添加』と、続いた……。
とにもかくにも楽になった。
「ふううぅぅぅすううぅぅぅはあぁ」
しかし、まだ落下中……時間がない。おそらくカップ麺を待つ間より早いな……いやいや、落ち着くのだ……それもいかん! ま、まずは現状確認が重要なのだ。
……水平線にわずかな丸みがある……たぶん惑星なんだ。地平線の先には緑色のカリフラワー? いや巨大な樹に見える。いわゆる世界樹ってヤツじゃあ。
とてつもないのが遠くにあるのか。
「すげいスピードでてんだろうなあ」
眼下には見た事もない広大な大陸の端っこ……の地形で、地上は明るい……今は朝か昼なんだろう。
この辺りは緑が多い、一葉が不揃いだけど四葉のクローバーみたいな湖がある。茎が海に繋がっているがあの太さだと大河になるのかな。支流もたくさんあるから葉脈そのままを森に描いたようにも見える。
「街らしいのがある! 人がいる!」
思わず声が出た。なんとしてでも生き延びねば!! 『使える力は魔法の力! なんかないの』……すると視界に『四元素魔法一覧』と、出てきた。
だからさ、調べている余裕がないのだ! けれどオーバーレイ表示は便利だね。
「なんかないかなんかないかなんか」
……土、水、火はこの状況では関係ないな。ここは『風魔法』だな……風魔法の一覧が表示された。組成操作は今いらん! 物理的に発生する力が欲しいの……。
竜巻、台風……街に被害が出そうで使えんな、最終手段だ。暴風、強風、旋風、突風、微風……。
よし『突風』魔法を使ってみよう! 確か……脳内で思い浮かべれば、自動的に使用されるんだったな。手のひらから突風を出すイメージ……。
俺はダイブ中のうつ伏せ状態から両手を地上に向け『突風』を放つ! いけ!
「落ちるの止まらねえじゃねーか!」
確実に両手から何かが発生したんだが効果を体感できない。そういえば、アニメとかだと『魔法使い』が魔法発射後に反作用的な力で吹き飛びはしなかった。……そうか! 自分に向けて打てば良いんだ! 俺は両手を腹に当て……よし、いけ!
『突風』
「なにも起きねえええなぜだあああ」
魔法発動の感覚は残っているのに突風を受けなかった。……なぜだ?
少しだけ注意を下に向けると……かなり地上に接近している。まずいまずいぞ。なんか、違和感はないか。世界に満ちる魔力、干渉して改変。脳内イメージの自動行使。空移術、物理障壁、生体維持…………物理障壁? 障壁……よし!
『物理障壁』を解除しろ!!
「ぶわあああああああああああああ」
脳内アナウンスを聴いてから受けていなかった風を全身に浴びた。そしたら再び『物理障壁解除、生体維持無効』と、聴こえた。い……目、目が! 息、息が! そ、そうだ『頭部だけ物理障壁と生体維持を展開しろ!』やった! きた!
体躯だけに空気抵抗の影響が及んでいる! 痛いの苦しいのはナシだ!
次は……魔法だ。脳内イメージの自動行使なんだ。アニメの魔法使いじゃない、風を手から出す必要はないんだ。
今の状況だと……反作用的な力が必要なんだ……揚力だ! お、お、俺は巨大なヘリに乗っかっているんだ。そうだ、そう…………。
『台風』
「うひょおおおおおおおおおおおお」
抵抗が一気にまして落下の速度がゆるんだ気がする……? ヘリだと違うな……背中を吊り上げられている……感覚。いける! いけるぞ!! これは凄いぞ! 感動した!! だが、ただ落下しているだけよりも不安だ。
いやいや、ここで対地速度を見誤る訳にはいかないんだ!
――俺は大地にずっと神経を集中させた。他に気を取られたら即行で墜落すると思ったからだ。――――そして、その大きさが徐々に実感したものになるにつれて魔法を止めたくて仕方がなくなった。まだだ、まだまだ……ついに我慢の現界だ。
魔法を止めた。やわらかい緑のなびきが迎えてくれる……はずだ。
「やったぞおおおおおおおおおおお」
俺は着地姿勢など知らないので腹から落ちた。幾度となく弾み、転げ回っていたようだが痛みはなかった。
そして、完全に停止した地点で仰向けになり、雄叫びを上げた!
凄まじい達成感に満たされていた。
――――俺は、どれほど時間が経過しようとも気にせずに、ただただ、異世界の青空を眺めていた。そして、全身に倦怠感と痛みを覚え始めた頃に起き上がった。
周囲を見回すと河原のようだ。俺は砂地の水の流れに近づいていった。とにかくのどが渇いていた。いきなり川の水を飲んではダメだと知ってはいたけれど……。
そうした俺を唐突に襲ったのは、激しい目眩と嘔吐感だった。まぶたを閉じても手で押さえつけても明滅が収まらず、またもや地面をのたうち回ってしまった。
ふいと意識が消失する寸前に冷たいモノに包み込まれ沈んでいった。
――――――――…………。
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