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第02話 転移前に追放されよう! 前編


 金髪ポニーテールのセリーヌちゃん、ただの事務服も可憐に着こなしているね。うちの会社には存在しないスカートの長さだね。などと観察していたら……。


「皆様は選ばれましたです! お待たせしてはいけないのです!」


 セリーヌちゃんプリプリ~だけど、本当に怒っているようには見えないな……。可愛い子は何を着ても可愛いからね、と思いながら……ケース上のカードを何枚か拾いあげてみると『聖人』『賢者』『黒騎士』『魔導士』『拳闘士』『召喚士』『剣聖』『忍者』『盗賊』……まだまだあるぞ、けっこう残ってるな。


「オッサン! とっとと選べや!! 悩むトコじゃねーぞ!」


「何事も臨機応変に頼むでござる!! 前衛は我らに任せるが吉なり!! 貴殿は後ろで見ておれば良いのでござる!!」


「オジサン、大人なんだからぁ~決めてなきゃ駄目じゃないのぉ」

「まぁまぁえみちゃん。大人には大変なんだよ、混乱してるんだ」


「…………」


 盛り上がるふたりと、盛り上がりを魅せるふたり。(うずくま)る少女だけが……ひとり。あらためて見ると酷いな。なぜペースを合わせにゃならんのだ。俺を巻き込むな。


 新人研修の時も、アドバイスのつもりで言葉をかければ、上から目線と言われ。

 普段、使わない気を使って質問に答えるだけにすれば、コミュ症だと言われ。

 成績が落ちても研修に対応しているとリカバリー出来ず、上司に文句を言われ。


 モノになりそうな奴ほど手間をかけると何故か辞めちゃうんだよー。

 その時は、再教育させられたんだよな~俺がな。


「…………」


「えっ……と、タカナカタカシさん?」


 セリーヌちゃんが覗き込むように小首をかしげて、だんだん不満げな態度になってきたね。しかし、ふとした仕草も愛嬌があって俺が照れてしまうな。

 このままじゃ一方的な展開に持ち込まれるな腹をくくるか……。


 ――ふうぅ、はじめるぞ。俺はセリーヌちゃんの右肩に手を置いて沈黙を破る。


「いやぁごめんねぇセリちゃん! 俺は選ぶのに時間かかりそうだから、みんなは次のステップに進んだら良いんじゃないかなぁ?」


「セ、セリちゃん!? なんなのです! 気安いのです!! 失礼なのです!! さっさと選ぶのです!! お言葉どおりにするのです!!」


 本気で怒らせたみたいで勢いよく手を(はら)われた……なんか悲しいな。本当はもう決めてあるんだよね。ごめんねセリちゃん。


 セリちゃんは俺に背を向けアイツらを集め始めた。


 …………。


「はやく言えや!! 続き! オッサンなんか相手にすんだけ無駄だぜ!」


「およそ足並みを揃える時は揃えてもらわねば迷惑でござる! 状況判断が出来ぬ大人は醜いでござる!! 戦場では命取りでござろう」


「普通にさわってくるオジサンこわーい」

「安心して、えみちゃん! 僕がいるさ」


 そうそう、いいよいいよー。アイツらの俺への当たりが強くなってきましたよ、開き直るとなんて事はない……。狙い通りハブられてきた。


 まあセリちゃんへのアレは確実にセクハラだな……反省しよう。それでも、登壇した時の余裕の笑顔が気になってたが、あの子に腹芸は有り得ないと確信できた。

 収穫はあったけど、そんな素直な子に嫌われるのはきついな……駄目だろうが。


 ――――。


「では、カードを()()()()()()に説明を再開するのです。女神様の祝福と加護は、現地移動後、即座に付与されるのです。使い方は『なになに魔法を使用せよ』とか思い浮かべれば、脳内で処理され行使できる親切設計なのです。安心なのです。……あ、『不死!』は自動で発動するですよ!」


「すっげーラクじゃん!! なんか叫ぶのかと思ってたぜ! 叫んでもイイぜ! ぎゃはははは」


「全て自動化されておるわけですな!! 関心でござる!! なかなかの心配りと言えるでござる!!」


「よっくん、死なないってどんな感じなんだろうねぇ?」

「どうなんだろうねー寝て起きる感じかなあ~きっと!」


 全自動魔法は凄いな。だけど、ゲーム的とはいえ戦闘職を選択して良いのか? 持たされる力に怖さは感じないのか? 魔法で何をやらせる気なのか?

 そして、『不死!』……俺が臆病なのかな? いろんなモノが鈍りそうだけど。


 …………やはり、俺はそれらが恐ろしいね。


「次に、皆様の後ろにある扉の先が皆様の召喚を行った場所へ通じているのです。そこには現地の方たちがたくさん居られると思いますです。おそらく、召喚魔法を発動された魔術師の方たちだと思われますですね。節度を持った態度で対話をするのですよ? 共同作業の第一歩になるのです。非常に重要なのです! 皆様の今後に影響するのですから、軽軽(けいけい)に考えてはいけないのです!」


「魔王退治メンドクセー! アンタがヤレ!! ぎゃはははは」


(それがし)は超重戦士カヲル……なかなかの語感でござる! これならばウッハウハも期待大でござる!! クフッ! 邪悪を討ち滅ぼすでござる!!」


「決めポーズとったり、踊ったりしなくていいのね! ステッキは持ちたいかな~あるのかな~魔法使いの服も見てみたいー」

「道具や服は……現地の人が用意してくれるんじゃないかな? なかったら頼んであげるね。僕がコーディネートするからね」


「ウッハウハ?」

「ウッハウハ! クフッ!」


「頼もしいよ大好き!!」

「カワイイのあるかな?」


「えっと……。あの……聞いていたのです?」


 ――……。


 セリちゃんの話しをアイツら半分も聞いてないね。可愛いから目立つのに……。身振り手振りも多くて一生懸命に喋っているけど……結構シンドイんだよなアレ。

 それと、召喚した連中は現地の『魔術師』なんだな……。興味はあるんだけども何をやらされるのかわからんし、このまま扉を通るわけにはいかないな。


「向こうの人たちも日本語しゃべれるのー?」

「現地の方たちと意思疎通は可能なんですか?」


 えみちゃんと、よっくんがセリちゃんに質問してら。言われると気になる所だな助かるわ。全然、気がつかんかった。ただのバカップルではなかったんだね。


 セリちゃんの丸まりかけた背中が元に戻った。


「……えっと、ごめんなさい。言葉の問題についてです? 自動で会話を翻訳する魔法がありますです。皆様に向けて変更、調整したので常時発動が可能なのです。ですが、文字の読み書きは覚える必要があるのです。 頑張るのです!」


 えみちゃんと、よっくんは答えに満足したのか再度ふたりの世界に没入した。


 なんだかな、お礼くらい言え、前言撤回するわ。セリちゃんの寂しい背中……。


「……他に、ご質問はあるですか? ……――――」



 ――――セリちゃんが浮いてしまった……。


 …………。


 ポニーテールが置いてけぼりされた丸まる背中をするりとなぞり、まといついていく。ゆるりとまとった金髪がふわりと拡がりひらりと舞った……。


 ほっこりする……。


「……タカシさん!! 決まったですか!?」


 セリちゃんが、少しだけ俯きかげんで両腕をすぼめ自然に胸部を盛り上げる。

 そして、その胸元でこまやかな指を組み組みしながら期待を込めて尋ねてきた。

 か、可愛ええのぅ。碧眼で睫毛も長いし鼻筋もすぅっと破壊力抜群だ……。


 俺も何か質問しておけば良かったのに、じっと見てただけ~何してんだ。

 ええい、これから俺はクレーマーと化すのだ! ごめん、いくぞ。


「い、いいえ、決めきれないんですよ。提案があるんですけど聞いて貰えます?」


「え、えっと……。な、なんでしょうか? なんなのです?」


 セリちゃんは興味を示してくれたようだ。少しだけ表情に明るさが戻った……。ああ、罪悪感ハンパねえ! 本当にごめんよ……。


「では……おそらく現地では、六人一組で行動させられる可能性が高いですよね。そんな時に私みたいなオッサンが一緒だと、皆は余計な気苦労を背負(しょ)い込みます。プロジェクトの成否をわけるのは、最終的にチームワークですから、不安な要素は潰したほうが良いでしょう? 異物である私の決断は彼等と同行しない事、彼等は自らで判断し選択し決断し実行しようとしています。充分な対応力、行動力です。ですから、彼等五人のみが転移すべきだと考えます。いかがですか?」


 …………。


「そ、そ、そんなの許されないです! 女神様の依頼と違うのです!!」


「オッサン! イイコト言うじゃん! ウィンウィン!? ぎゃはははは」


「一理ある!! 小生も賛成でござる! 精神的疲労は危険であるがゆえ」


「んー好きにすれば良いんじゃないのー?」

「そうだね、自己責任って事だね。大人だね」


「……え?」


 セリちゃんの金切声(かなきりごえ)に反応したんじゃなくて、俺の話しを聞いていたのかよ! こすっからい連中すぎる。オマエらに同行なんて絶対しないからな。

 だけど、かなでちゃんまで聴いていたのか……悪いけど、ごめんな。


 俺もここを譲る気はないのだ。


お読み下さりありがとうございます。


ご意見、ご感想など頂けますとありがたいです。

よろしくお願いします。

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