9 遭遇
「どうしてこうなった...」
どうも 1面石造りで窓もなく清潔感もなく ただの木の机と椅子2つがあるだけの王城の地下室
俗にいう取調室に来ています
目の前にはゴツイと鎧を着た厳つい男性が腰を下ろしている
そんな状況下で項垂れながら苦笑いして自問自答を繰り返している
薄暗い部屋でも目立つ艶やかな長い銀髪におっとりとした翡翠色の瞳 白い布地のワンピースから覗くシミのない白い肌に幼さを残すも妖艶な雰囲気を醸し出す少し背の低い少女
誰かと問われれば答えましょう 破壊はミストボルディア 神代のアーティファクトです
「で 早速だが吐いてもらおうか 君が犯人なのだろう?」
何故か犯人扱いされております 訳わかんねっす
時は少し前まで遡る
「う〜んと ねぇアリサこれから僕達どうなると思う?」
「どうしようとも嫌な予感しかしませんから私には分かりません」
リリア姫を助け出してからアドシバル・フォローという王国騎士団長に引き渡した後
姫から直々に王城に来てほしいと頼まれたのと騎士団長自らも礼をしたいと言い出してきたので取り敢えず王城入りし応接間に待機させられている僕達
なのだがさっきから鎧と思わしき妙な足音が何回も部屋の前を行き来しているのだ
まるで何かを待っているような落ち着きのない足音
始めは忙しいのだろう程度だったが数分経てば不審だと疑問に思い始めた僕達
その時である
バーンッ!!!
「私はグレニル・ランガル ラキュース王国のランガル公爵家次期当主だ リリア姫誘拐及び工作員の疑いで捕縛させてもらう!」
「「は?」」
そうして無理やり捕まり連れてこられたのは地下室
そして最初に戻る
「吐くってもしや僕達が犯人だと言いたいのですか?」
「その通りだ リリア姫を誘拐したのでないのなら貧民街にいるはずがない だが君らはリリア姫と共に貧民街にいたつまり君らが犯人だという証拠だろう」
「そんな物証拠になりません それに僕らが犯人ならば騎士団を見かけた時点で逃走するはずですが?」
「君らの容姿はとても悪人のようには見えない つまりリリア姫を攫い身代金を提示させるより救出したと見せかけて報酬を貰う方が安全と判断したのだろう?」
つくづく頭の回らない出来の悪い男だこと
現場を調べれば証拠なぞいくらでも出てくるのになぜ僕らを疑うのか理解ができない
少なくとも騎士団長は快く僕らを迎え入れた それはそれは犯人だとは到底思っていないという笑顔で
「騎士団長は僕を快く迎えてくれました ですが彼は悪に対しては極めて敏感な人だと思っています そんな人が僕を快く迎えてくれるはずがないでしょう? それに現場を調べれば証拠なぞいくらでも出てくるはずです 現場を調べてくれないのに僕らを疑うのなら黙秘を貫きます」
「黙秘なぞそんな事で見逃されると思っているのか!いいから吐けお前が犯人なんだろう!?」
僕は目を閉じひたすら黙秘を貫く事にした
部屋の中は完全防音なのかとても静かで僕の衣服の擦れる音と彼の荒い鼻息と怒声しか聞こえない
てかうるさい
何分待っただろうか いや何時間かもしれない とにかく僕は黙秘を貫く
そうこうしていると彼に変化が現れてきた 何か焦り出してきたのだ何故焦っているのか訳が分からない
「もういい! 許可は降りてないが犯人なら使ってもいいだろう こい!重罪を犯した者には罰が必要だ」
無理やり手首を捕まれ取調室の次に連れてこられたのは薄暗い部屋でそこかしこに何かがある
三角形のデカい木製の何かに刺々しい板の横に大きな石 極めつけは如何にも拷問器具とし見えない道具が付いた人がまるまる1人寝そべれる台
完全に拷問室である
「拷問しても僕は黙秘を貫きますよ犯人じゃないんで」
「黙れ!お前が犯人だということは既に分っているが言質が必要だ 何がなんでも吐いてもらう そこのお前手を貸せ!」
部下だろう男が蒼白な顔で怯えるように僕を持ち上げている 恐らくこの無茶振りに無理やり付き合わされているのだ 一般兵であるようだし権力か何かで脅されている可能性がある
そしてレグニルは手錠の鎖を吊るし台に掛けると僕を吊り上げた
重力で身体が引きちぎれるような痛みが襲うという拷問器具なのだろうが生憎僕の素材は軽すぎるのであまり痛くない
が目の前でレグニルが構えている棍棒は流石に堪えそうな気がする
その程度で壊れる柔な作りはされていないが
「さっさと吐け!」
「っぐ...」
「吐け!吐け!吐け!さっさと吐け小娘!お前のようなガキに構ってる暇はねぇんだよ!」
完全にサンドバッグだ この場を切り抜ける手段はいくらでもあるが騎士団員 しかも公爵家次期当主相手だと手荒な真似は出来ないのでサンドバッグに徹する
これがアリサにバレればランガル公爵家の命運は亡くなるだろうけど
何分経ったかは朧気だが恐らく17分殴られ続けたと思う
腹辺りの肌が真っ赤なので「これちゃんと戻るかなぁ...」なんて考えていると突然拷問室の扉が開いた
「貴様何をしている!彼女はリリアを助け出した恩人だぞ 拷問許可など出していないし何のつもりだ!」
「陛下!?何故このようなとこ...いやこいつは犯人です!リリア姫を攫った犯人でございます!黙秘を貫くというので致し方なく拷問を行ったまでに過ぎません!」
「戯け!攫ったのであらば引渡しなどせんし彼女らが傭兵が蹴散らされた所を目撃したリリアが何よりの証人だ!レグニル・ランガル 貴様とランガル公爵家に話がある 恩を仇で返すような真似をしたのだ覚悟しておけ!そこの者はこやつに付き合わされただけだろうから不問とする 彼女ともう1人を解放しろ それと彼女は女子だ肌が元通りに戻るまで応接間にて手厚く介抱するよう侍女に伝えろ」
「は...はい!えっと急いでもう1人の女の子と合わせてあげるよお友達なんでしょ?待っててね」
「どうもぉ」
程なくして解放してくれた騎士と共にアリサと合流すると号泣しながら僕に抱きついてきた
騎士さんと周りの警備の騎士やメイドさんに微笑ましいものを見るような生暖かい眼差しを向けてくる人や貰い泣きしている人がいた 何故か無性に恥ずかしい
応接間に着くと案内してくれた騎士と交代したメイドさんが僕のお腹を診察してくれて異常なしとお墨付きをいただいた なんと彼女は王室お抱えの医師だったようで安心感100倍!
「待たせてすまない 私はレドバルム・ラドバンス・ラキュース ラキュース王国現国王だ それから先程の無礼は何卒ご容赦をいだたきたい国の事情もあるが私の視野が行き届かなかったのが原因だ 本当に申し訳ない!」
「いえ僕的には何も問題ないので大丈夫です それに近頃ランガル公爵家は全滅するでしょうから」
「ぜ...全滅?いや私が手を下すには問題があるし全滅してもらえると嬉しいのが本音だが...」
「だってさアリサ 国王からも殺っていいって事だから近日中に食い荒らしといてね」
「了解!隊長のもちもちでスベスベで綺麗な大事な肌に傷を与えようとしたんです ランガル家絶対許すまじ」
「ははは...私としては願ってもない事だがありがとう...では救出時の話をさせてもらいたい」
それから僕達はリリア姫を救った時の事とアリサが持っていた犯人である傭兵の承諾印が押されてあるリリア姫誘拐の案件を提示した
「ありがとう...娘を救ってくれたのに加え私達が手をこまねいていた者の情報まで提示してくれるとは...本当に感謝する 数は多くなけれど私にとってはとても大きな事だ 何と礼をすればよいか...取り敢えずこの国にいる間は生活を保証しよう それから最低でも金貨100枚以上は受け取って欲しい いやそれ以外でもよい何でも欲しいものを言っておくれ用意しよう」
「ははは...国王陛下のお心使いとても嬉しく思います 欲しいものについてはいろいろありますが取り敢えず今考えているもので神だ━━━うわぁ!?」
「な...何だ!この揺れは!何が起こっている!」
バーンッ!!!
「はぁ...はぁ...報告します!外壁正門より距離58キロに魔物の大軍を規模はトップを確認スタンピードです!」
スタンピード 中規模集団や大規模集団で魔物が攻めてくる事を示す言葉だ これは独自の社会性を持つダンジョン内のみの魔物しか現れないのだが希に野生に住まう魔物でも発生するとか 人族だと他国による侵略よりも防衛が辛いそうだ
「クソ...こんな時にスタンピードとは...急いで冒険者ギルドに知らせて討伐隊を編成させろ 主要貴族を外壁に集めろ 城は近衛に任せる それ以外は冒険者と共にスタンピードの鎮圧だ!」
「流石1国の王 それも人族領第1防衛ラインの国家の統率者 防衛の指揮は完璧ですね でどします?隊長私達も出ますか?私は出ますよ ランガル公爵家を全滅させる準備運動として」
「ぬ?お二人も出るのか?まだ礼は出来おらんが...出来れば死んでほしくない故後方で待機してほしいのだ 私も指揮のため後方に退避しておるからその周辺にいてほしい」
恩を返すまで意地でも死んでほしくないようだ まぁ死ぬ事はないのだがせっかくなので人族の新代と比べて戦闘の質の低下を測らせてもらおうと思う
「分かりました お言葉に甘えて護衛という形で待機させて頂きます アリサは中間地点ね」
「了解〜」
で
外壁から出てすぐの最前線後方から戦闘の質を見ていればなんのその
「アリサ...僕らは何年眠っていたんだろうね」
「さぁ...Sランク冒険者でやっと神代の一般騎士程度の実力だなんてちょっと気が遠くなります」
改めて観察すれば個々の実力はあっても連携が取れておらず しかも僕らからして見れば片手で倒せる魔物に時間を要しているので質の低下はあからさまだ
いくら周りに平坦な草原が広がっており地理的には互角といえどちょっとガッカリだ
「B班は魔物の処理を完了次第A班のサポートに D班はG班を下がらせろ!」
「陛下の指示は的確だね 陛下がいないとまともに連携も取れないだなんてちょっとなぁ...」
「っあ 隊長左の奥見てくださいよ レイさん達ですよ」
左翼の奥に目を凝らせば確かにレイ達のパーティーが見える
他の班より連携が取れているし低ランクの魔物にもひと振りで処理出来ているので下手なSランクより活躍出来るだろう
だがまだ不安要素がある 外壁に向かっている途中にアリサが呟いた「強大な何かがいる」という発言が気になる
アリサの感はとても鋭く戦闘に関しては外れた事が皆無なので常に気を巡らせている
「良いぞ...このまま行けば1時間以内には終わるかもしれん トップといえどあまり強力な魔物がいないおかげで上位種にも手こずらないようだ...なんだ!?」
大地が穿たれた その余波は周辺に撒き散らされ花の如く周りの地面を抉っていく それに伴い魔物や冒険者達も吹きばされる
大地を穿った槍 否槍のように見える巨大な矢は残滓となって消えていった
あとに残った静寂は突如として舞い降りた1人によって更に引き伸ばされる
「あらあら 楽しいわよねぇ楽しいったらありゃしないわよねぇ!さぁもっと叫んでぇ!《レインズカタストロフ》」
謎の少女によって天に撃ち出された矢は空中で分裂し曲線を描きながら大量に戦場へと雨の如く落ちてくる
「まずい!格納庫起動 ドレッドノート! 《|イグニッションパラディウス《破壊の熱線波》》!」
ドレッドノートの先端から撃ち出された一筋の熱線が穿壊の矢を尽く撃ち落とす
矢は全て光の残滓となり 1拍遅れて熱線もまた光の残滓となり消える
周囲には光が降り注ぎ美しい光景が広がるが見とれる者は誰一人としていなかった
何故なら数秒経てば自分達を串刺しにしたであろう矢の雨を熱線が撃ち落とすという非常識を目にしたのだから
「さて 何故僕の関与なく動けているのか 何故人族まで巻き込んでレインズカタストロフを撃ったか いろいろ説明してもらおうか 穿壊」
「あらあら やっぱり面白い人が居たわ!しかもいっちばん会いたかった人に!お久しぶりね?数百年は会っていなかったから感動の再開よね!会いたかったよぉ破壊!あら後ろにいるのは2番機の殲滅じゃない!」
「久しぶりと言っておきましょうか それと私にも説明願います5番機 貴女の話はためになるので」
薄緑色のショートに金色の竜眼の左目と赤色の右目のオッドアイ 色白の右腕脚に漆黒の翼と爪を持つ左腕脚 黄緑色のスカートの丈が膝までのドレス アリサよし少し背が小さいがその印象は不気味が土台に妙な色気が漂い妖艶で近寄り難い雰囲気を持つ少女
その右手には巨大な弩弓が備わっており 口は不敵に吊り上がる
クレアシオンシリーズ5番機 穿壊のリーリエ・ガルストロニア 穿壊をコンセプトに作られたクレアシオンシリーズで兵装は他のクレアシオンシリーズとは違い遠距離攻撃が主体の兵装を用いている
魔法や穿壊用兵装による狙撃や射撃などの遠距離攻撃に特化しており 接近戦に持ち込むと有利に━━━なるはずもなく
主兵装特に穿壊用破弩弓カタストロフィドライブを用いればクレアシオンシリーズでなければ適わない存在
遠距離特化なので速力や索敵 隠密などにも優れているので暗殺や斥候なども得意としている
一言で表すならやりづらい相手だ
「ふふ〜ん実はねぇ?私まだ完全には目覚めてないの 魔人族の魔王さんお手製の起動式で仮とはいえ目覚めさせてくれたの! 主やミーディアしか権限を与えられていない起動式を魔王は作り上げたの! でも仮だからこのカタストロフィドライブしか使えなくてね でね?実は起動式の中に行動を強制させる魔法が組み込まれててね?体が命令通りにしか動かないの!こんな風に」
バズンッ!と漆黒の竜のような腕から生成された矢がカタストロフィドライブによって撃ち出される
矢は音の壁を突き破り真っ直ぐ僕の額を貫くべく飛翔するが当たったのは額ではなく国の外壁 振り返ればぶ厚い石の壁は砂を崩したかのようにあっさりと家屋の姿を晒している
「なるほどカタストロフィドライブも制限されてるんだね 出来るのは基本の戦闘行動のみか...魔人族に起動させられたってことは命令は間違いなく人族の殲滅でいいんだよね?」
「当ったりぃ 私だって主との誓約があるから人族には手を出さないようにしてたんだけどね?てか出来なかったんだけどね?魔王に起こされてから強制的に動かせれて気味が悪いのしかも行動を自分で制限も出来ないときた そこで考えたのが私を破壊してもらう事」
━━━なるほど...
彼女は彼女なりに主への忠誠を示そうとしていたのだ どんな不幸な結果であれ自分の存在意義と脅威を明確に把握しているからこその行動 リーリエの身体的能力なら人族領の裏側から攻めれただろうが敢えて正面から来たのは自分を破壊できる強者と対峙するためと
「あれは...人...なのか?何故魔物に手を貸しているのだ...?まさか魔人族の手先か!おのれ...同族に歯向かうとはなんと愚かな存在なのだ...!すぐに討つべきだ」
「落ち着いてください陛下 あれは人であって人ではありません 要するに人族ではありません あれは...リーリエ・ガルスロトニア僕とアリサの同族です」
「どういう事だ」と半ば苛立たしげにされど落ち着いて正体を聞いたきた陛下に僕は僕とアリサ リーリエの素性をとリーリエの相手は僕達にしか務まらないと教えた
最初は驚きを隠せておらず数秒口を開けて固まっていたが流石に1国の王 復活の速さは類を見ない
僕らこそ神代アーティファクトの上位(神が直接製造した)と知って 神代アーティファクトは全て神が作った世界を覆す武器という今までの自分達知らない事を何故知っているのかと反論しかけた陛下だが僕とリーリエがその手に持つ少女には似つかわしくないどころかどうして軽々と持てるのかと疑問しかないその巨大な武器とその膂力を見て反論出来ないようだ
そして一言
「あれが国に仇なすもので それを止めれるのが貴女しかいないのなら...この国を守ってほしい...!」
部下が勝手にとはいえ拷問をしてしまった相手に 自分達が神聖視する神の力に願うのが畏れ多いのか
その顔は渋面になっている
「この国を守るのは陛下達で人族です 僕とアリサは同じ神代を生きた者として囚われた彼女を救い出すために戦います 陛下は魔物の対処に専念して下さいリーリエの対処は...僕らにしか出来ませんから」
陛下は今の言葉をしっかりと噛み締め飲み込んだのか一瞬顔に少し悲しさが漂ったがその真意を理解してか持ち場についた時の陛下は高揚した顔だった
「珍しく遠回しに言いましたね 素直に期待しているって言えば良いのに どうしてです?」
「っふっふっふ 簡単だよ親友 カッコつけたいからさ」
ふふっとアリサは優しく微笑む それがどういう笑みなのか理解は出来ないが
「ぷっふふふふ 流石はミーディアカッコイイよ!全くもう惚れ惚れしちゃうわよぉ アリサが溺愛する気持ちとっても分かるわ!それで?ミーディアとアリサは私のこの起動式を止めてくれる?戦って破壊してくれる?」
「勿論だよリーリエは僕達の大切な友達で仲間で家族なのだから!破壊したら修理してさんざんこき使ってやるからね!」
かくして最強の神代アーティファクト同士の戦いの火蓋が切られるのである