8 業
午後2時 僕は今買い物に出ている
夜アリサに襲われてから気づいたのだが僕達が生活するにあたって手持ちの荷物は皆無
何が言いたいか そう服がない!
もう一度言おう 服がない!
今着ている白のワンピースと下着以外の服がないのだ 自由意志を持って服を着替えるという習慣が身に付いたっぽいがそもそも着替える服がないので現在買い出し中だ
「隊長〜あの店とかいいんじゃないですか?ゴスロリですよゴスロリ!隊長なら似合いますよ!」
「ア〜リ〜サ〜?僕はゴスロリとか趣味じゃないから ノースリーブとかワンピースとか動きやすいのが僕の好みなんだから そもそも今だって湿ってて気持ち悪いんだからね?責任は全てアリサにあるんだからね?」
「隊長を襲った事を後悔なんてしません!いやむしろ誇りです! こんな愛らしい隊長のネグリジェ姿しかも白!純白の天使ですよ天使 破壊の名なんて面影がないですよ いやぁ主が最初にして最後の最高傑作と呼ぶだけありますよぉ こんな愛らしさ全開なんですもの 主は分かってらっしゃる!」
少しは反省してほしかった そもそも破壊の名の面影がないなんて何かの皮肉だろうか
そういうアリサも殲滅の面影なんてないよと言ってやりたかったが思う壺なので言わない
で
買い物を終えた僕達は店を出た
店の名はメジアン 女性服の専門店で幼児服から礼服水着まで多種多様
僕は基本私服は白統一なので白ワンピに白のノースリーブと丈が膝の皿までの白スカート
アリサは黒のノースリーブに黒のミニスカと何故か水着も購入していた
「ねぇアリサ 水着なんて買ってどうするの?特に使う場面ないよね?」
「ないっちゃないですけど いづれ海とか行くでしょうし 川とか湖とか泳ぐかもしれませんから念の為」
ニヤけてるおられる どうやら変なことに使うらしい
アリサの提案で裏路地から宿に向かうことになった 最初はどっかに「連れ込む気か?」と疑ったが単に遠回りして宿に戻るのがめんどくさいだけだったので裏路地から行くんだそうだ
「よう嬢ちゃん達 ちょっと遊んでかね?」
野生のゴロツキが現れた!
「俺はAランク冒険者でなぁ 金は腐るほどあるんだ いくらでもやるから俺達と遊ぼうぜ?」
「下心丸出しの下卑たAランクゴロツキさん 私達は先を急いでるのです 遊んでる暇なんてありませんから通してくれないでしょうか?お金が腐るほどあるんなら奴隷でも買えばいいじゃないですか」
「っハァ!分かってねぇなぁ 奴隷なんてもう幾つも壊れちまったよ んだから新しい奴隷を探してたら嬢ちゃん達がいてよ?これがまた上玉じゃねぇか 奴隷にするしかねぇってな」
穏やかじゃない 手に握られているのは奴属の首輪 付けられた者は契約が主な召喚魔法の応用によって付けた者の奴隷にさせられるとても穏やかじゃないアーティファクトだ
「おいテメェら まずは俺が先に頂くからな へっへっへ運がなかったな嬢ちゃん達?俺はAランク 実力で適う相手じゃねぇ事は分かるよな?」
「アリサやれ」
「ハッハ...は?」
ゴロツキは唖然としている それもそうだろう伸ばした腕が突然視界から消えたと思ったら急に軽く感じたのだから
「あ...あ...俺の腕が...テメェ何しや━━っが!?」
「私を奴隷にするなら瀕死で許しますが 隊長に手を出すのは許さない よってお前はギルティです 死んでもらいます」
狭く暗い裏路地にアリサに無機質で冷徹な言葉が響く Aランクゴロツキは自分がAランクでひ弱そうな少女勝る事などいないと過信し過ぎていたのが仇である 殲滅に大事なのは一瞬で数十の敵を屠る速さとどんな敵をも一撃で殺める力 それを高水準で調律されているアリサに適う者など人族には存在しない!
「あ...あ...止めてくれ...死にたくないんだ...頼む止めてくれ! 金ならいくらでもやるだから!」
「言ったでしょう?隊長に手を出そうとしたんです お前は私の逆鱗に触れた それだけですから死んでください」
赤と黒と鮮血の大剣が振り下ろされゴロツキは頭から腰まで両断される
それを見た手下共は我先にと反対側に逃げていくが殲滅が許すはずがない
「殲滅の名において Aランクゴロツキの手下であるお前達も殲滅します」
アリサが一瞬で先回りしたので手下共は挟み撃ちされた形になる
少し俯いたアリサの顔に影が被さり その碧眼がギラギラと輝いている
手下共はアリサが1人で道を塞いでいるのをいい事に萎縮しながらも突っ走るが閃光の如き斬速と死神のような確実に命を刈り取る力に真一文字に切り裂かれる アリサに叶う者など人族には存在しない!
「さて隊長!ゴミも片付いた事ですし こんなゴミだらけの場所さっさと進みましょう!」
「ほんっとに移り変わり速いねアリサ まぁ僕もアリサの事言えないけどね」
「隊長なんて最初から何も感じてなかったじゃないですか 私なんて隊長が奴隷なんて聞いた瞬間怒り心頭ですよ! 隊長は私のモノで私は隊長のモノなんですから!」
危機というほど大した事ではないがこういう身を案じてくれる親友が居てくれるのはやはり心が軽くなっていく気がする
だが僕はアリサのモノではない 立場上アリサは僕の部下それだけだから!
「ねぇアリサ この路地の先から気品溢れる何かを感じない?」
「気品溢れるって何ですか...気配関連ならばこんな時リーリエさえいればよかったのですけど...」
「無理言っても僕以外自由意志は搭載されてないからね 気配的に女の子だしちょっと行ってみよっか」
分かれ道となっている大通りに出ない方の路地は貧民街へと繋がっていた 貧民街は国の正門部分を除いて外周部に存在しているので僕達は国の外壁近くに居ることになる
少し進めば崩れ落ちた民家に家事にあったような煤けた家など無残な光景が視界を埋めつくしている
周りにいるのはよからぬ事を企んでいそうなゴロツキに虚ろ気な少年や怯えた少女と大通りとは真逆な人達
「ここだね 何やら気品を感じる気配だったからすぐ分かる」
「気配に気品なんてあるんですか...それはそうと入りましょう 女の子ならある意味危険です」
バーンッ!
「な...なんだテメェら!まさかもう追っ手が来たのか!?」
「はぁ!?聞いてねぇぞ おいミカエル手を貸せ 殺るぞ!」
「クソが...だから止めとけって言ったんだよ...」
「袋の中に熱源を確認っと アリサ適当に殺っといてぇ」
「了解〜」
アリサは僕以外だと戦闘が好きらしいので押し付けておく
壁が脆いからかガトリングではなく大剣モードで戦ってるので家の倒壊の恐れはないと思いたい
まぁ僕は背を向けているから見えないけど「ゴリッ」だの「グチャ」だの沢山聞こえるから斬るのではなく殴っているのだろう またエグい事をするなとつくづく思う
そんな事を思いながら僕は大きな網目の粗い袋を開けて中を覗いて見た
「おやおやこれは何とも面倒な...そういえば道中張り紙に書いてあったよね...」
「...貴女は誰ですか...?」
少女はとても怯えている様子で上擦りながらも頑張って声を出しているのが分かる よほど怖い思いをしただろう
「僕はCランク冒険者のミストボルディア 貴女はこの国の第3王女のリリア姫ですよね?」
何故この場にいるのか しかも袋に閉じ込められていたのか色々謎は残るが取り敢えず大事になってしまうのは避けられないので行ける所まで行ってみようというポジティブ精神
「は...はい...冒険者という事は私を助けに来てくれたのでしょうか...?」
「気になったので来ただけであって依頼は受けていません ですがどの道助ける事になりそうですがね」
そう言って僕はリリア姫を起き上がらせる
ウェーブのかかった肩までの金髪に紫色の瞳 顔立ちは整っており幼さを残しながらも何処と無く気品を感じさせるのはまさに王族と呼べる特徴だろう 現在は11歳と聞いていたのだが背はそれよりも小さい
「ありがとうございます...なんとお礼を申せばよいか...」
「お城まで送りますのでお礼はその後にという事で」
「隊長 相手の懐からなかなか面白い案件が見つかりましたよ リリア姫の誘拐と依頼主への引渡し 依頼主はジョン・フルーレ 見たところラキュース王国の裏世界を牛耳る危険人物っぽ人柄ですかね?素直に引渡し場所まで書いてありますし 依頼料に金貨10枚 後払いで金貨50枚ですって恐ろしいですね」
「夜の12時にこの場所で引渡しだったのかぁ...なんと詰めが甘いのやら それはともかく速く出よう 長居は無用だし リリア姫の体調も悪そうだから」
長い時間拘束されていたのか顔色が悪い 清潔感しかない所から貧民街という掃き溜めとも言える清潔感皆無な場所に連れてこられたのだ 急な環境変化は人体に悪い影響を及ぼす時があるのでそれが原因なのと袋の中に閉じ込められていたので酸素不足などもありえる 時間的に食事も取っていないのかもしれない
家を出た僕達は取り敢えず貧民街から国の中心王宮に向かうことにした
「ありがとうございます...この恩は後ほどお返しします 本当に...ありがとうございます...」
「いえいえラキュース王国は人族領の第1防衛ライン 少しでも防衛に力を注ぎたいでしょうからね まぁ数週間は生活出来る量の金銭で充分です」
「断れば何かしら起こりそうですからねぇ なにか貰えるなら貰っとくのがいいでしょう っと何やらゾロゾロと人影っぽいのが沢山出てきましたよ?どうします隊長」
とアリサが聞いてくる
「微かにだけど鎧のような音も聞こえるね多分騎士じゃないかな? 取り敢えず接触してみようか そうした方がリリア姫も安心できるだろうし 王国お抱えの騎士が複数いる所に突っ込んでくる馬鹿もいないでしょ」
「そですね 騎士に選ばれるくらい実力があるならそんじゃそこらの人には手を出せないでしょうね」
この時僕達はまだ知らなかった
「おいあれってリリア姫じゃ...」
人の業と言うものが何なのか
「本当だ...あの隣の2人は誰だ?」
所詮人ではない僕らは知らないのだ
「俺はアドシバル・フォローという 王国騎士団の騎士団長だリリア姫の件で詳しく話をさせてもらいたい」
人間とは業にまみれた薄汚い生き物であると