17 監視
ハンニバル王国 それは人族領最奥に位置する人族全てを統一している王が住まう国
首都と言われているがハンニバル王国はその街のみでハンニバル王国とされているので領土なぞ無いに等しい しかし本場の統一王 その経済力と政策は見事なもので不審な動きをする者も少なく貧民も少ない 事件も殆ど無い 数々の暗黙の了解が習慣となり民の生活は見事としか言いようがない 活気に溢れ笑顔が飛び交い
公園では子が戯れそれに微笑む親達 衛兵も民と仲が良く仕事中でも差し入れや談笑など国民からの信用や信頼が高い事が伺える
そんな国では今日 異世界もとい''地球''と呼ばれる場所から大規模な召喚魔法【勇者召喚】によって数人の男女がやってくるのだ 個々の能力は高く容易く死なない彼彼女らの行先を見守るために監視体制を敷く
とは言ったもののそれは全て我らが斥候役リーリエ・ガルストロニアの出番
今彼女は右手に存在感の薄い弓を持っている
風琴疾装弓ガンデヴァ 極端に表せば風を操ることの出来る弓 矢は必要なく攻撃から回避まで風を利用する
風を圧縮し矢の形にし穿つ 渦巻く風を纏い敵の武器の軌道を逸らす 風で体を吹き飛ばし回避する 何から何まで風を利用する これは意外と厄介な存在 その他にも原初魔法にてガンデヴァを風と一体化させる事が可能で腕に纏わせ近接戦闘が 他の武器の纏わせることでガンデヴァ同様の機能が 風力を弱めることで風の流れが見えなくなり姿を消すことが出来る さらに風を利用するので腕から離れた状態でも攻撃が可能 不可視で高威力 敵の行動をかなり妨げることが可能なので厄介極まりないオールレンジ兵器となっている
このガンデヴァ 兵器としての性能は申し分ないのだが「それだけでは足りない それではただの魔弓の名有りと同じではないか!」と主が言っていたので索敵機能も備えている 風と一体化出来ることを利用して弓本体に視覚共有能力を与えているのだ つまりガンデヴァが掌握している風全てから視覚情報を取得できるということ 目的の場所に魔法で風を生み出しそれをガンデヴァに掌握させれば意図的に監視網を敷けるということだ
そんな厄介な弓でハンニバル王国全土の風から視覚情報を得ているリーリエは微動だにしない
きっと今頃情報処理部分がフル稼働していることだろう
「やはりガンデヴァの機能は便利ですね 視覚情報なので視線を読み取られればまずいですが」
「人混みの中で風がまとわりついてることに気づけば何かしら行動を起こすだろうけど視線だけならまだ大丈夫じゃないかな ただでさえハンニバル王国首都は人口が多いし 隊長でも人混みの中じゃ視線だけじゃ判別は難しいって言ってたからね」
「勇者一行外門を抜けたわ 街道に沿って前進中 あぁ〜疲れた〜やっぱりガンデヴァは辛いわね...便利なのはいいのだけどオーバースペック感が否めないし...何よりアリサとミーディアの方が情報処理性能高いんだから宝の持ち腐れよね...っと移動しなきゃ 行ってくる」
「隊長には私から言っておきますよ」
「んじゃ僕も所定位置に移動しますか」
バグルスは木の上からリーリエと勇者御一行の様子をアリサに報告 アリサは雑木林の中に設置してある簡易テントから僕に報告の手筈となっている 僕が何をしているかと言うと買い出しだ 食事は大事超大事
「隊長報告です 予定通りリーリエは勇者と接触位置にバグルスは記録員として移動しました」
『了解 こっちはもう少しで終わるからすぐそっち行くね』
今後の方針として勇者の様子を見て地球に戻すか現状放置かが決まる すぐ戦闘が始まるようなら地球に少しでも対話するなら現状放置だ すぐさま戦闘に持ち込む脳筋は面倒極まりない クレアシオンシリーズで1番脳筋な4番機でも対話から始めるのだ それ以下だとしたら厄介者だ
で
「あんたは...貴族か?何故こんな所に?お見送りなら不要だが」
「いいえ 私は仕事としてここにいるの 少し話をさせてほしくて あぁ仕事といってもブラックな方じゃないから安心して? 私はリーリエ・ガルストロニア貴族でもなければこの国の者でもないわ」
「勇者代表を請け負った阿賀野幽砕這 一応言っておくけど男だ それで話とはいったい?」
「簡単な話 これからどうするのか行動方針を聞きたいの」
「それなら 魔人族を滅ぼせと指示されたが生憎従う気は無い正義感なんて持ち合わせてないからな だがこの世界で生きるんだ一応魔人族の実力が知りたいから円卓とやらに向かおうと思っている」
円卓 各種族が集う最前線 数百年戦争が行われているそこは荒地の荒野が広がり世界の終わりを彷彿とさせる
神代で私達クレアシオンシリーズが敵の神々を滅ぼすためのリミッターを解除した時のみ解放できる必殺技で集中砲火したためにまだ小さかった頃のカーナー大陸の3分の2を焦土としたため生まれた土地だ
各勢力の軍が集まり1日に多くの者が死に誰かが栄光を勝ち取る 一騎当千が誕生する地 強者だけが生き残れる地そして丸い円形の場所ということで円卓と名付けられた
「円卓に...ね なら先に忠告しておく...決して円卓に足を踏み入れるな あそこは英雄や一騎当千と呼ばれる者だけが生きる事を許される土地 この世界の強者がどれ程かまだ知らない貴方達に''地球''と同じように考えないでほしい 足運びからして実力があるのは分かるでもこの世界でそれはCランク程度 円卓ならFと同然よ 魔人族は強い いくら勇者であろうと実力不足 死にたいのなら止めはしない だけど無謀な行いは許さない...いや許されない」
「何故地球のことを...いや俺はあんたの実力がどれ程か知らない だがとても自信があるんだろう 俺らは地球の中では実力は高い方だ人を殺すのも得意だ 純粋な技術なら誰にも劣らない自信がある 俺達は既にその英雄と一騎当千その領域に入っていると言われている 人族を束ねる国王が言ったんだ 見誤らないでほしい 実力不足だと思うなら俺達の実力と連携であんたを倒す それなら分かってくれるだろう 1番手っ取り早い話だどうだ?」
「ゆー君を馬鹿にしたいのか分からないけど私はゆー君に賛成よ」
「私も〜」
「俺も」
「だね」
「乗り気はねぇが付き合ってやるよ」
「...大人しく聞いてもらえればよかったのだけど 余計な仕事が増えたわ...バグルス!そういう事だからよろしく!」
「へ〜い 一応聞いとくけど増援はいるかい?」
「必要ない 分かってて聞いてるでしょ」
「そりゃそうでしょ〜これでも兄なんですから んじゃ存分に叩き込んでね〜」
そう言い残しバグルスは雑木林の中に消えていく 記録係なのだからまた戻ってくるだろう
「いまのは誰だ?」
「バグルス・ヴァンダルシア 私の仲間よ あいつの方が戦闘特化なのだけど今回は私が相手になるって事前に決めてるの ほらさっさと準備しなさい 時間は有限なんだから」
「...っもう終わっている 俺達が勝ったら今後関わらないでもらおうか...行くぞ!」
短剣による最速の付き だがその速さはリーリエの前では遅く見えてしまう 神代の英雄達を相手にしたリーリエにとって赤子を相手にしているような感覚だった
半身になって回避し左手にカタストロフィドライブを装備 すかさず篭手のように鳩尾を殴りつける
「がはっ!!...っくぅなんで回避できたんだ...」
「言ったでしょう?実力不足だと その程度で生き残れるほど甘くないの さぁどんどんかかって来なさいな」
「晶!支援頼んだ 克と装道は正面から 純銅はワンテンポズラして行ってくれ 火蔵は晶の補助を」
「「「「「了解!」」」」」
「へぇ 連携はそこそこって所 でも足りない 魔人族を舐めてるのかしら? っふ!」
「っぐ!んだこの馬鹿力は!その細い体の何処にこんな力隠してやがる!」
「この程度でそれ?まだまだね 円卓に行くのならこれぐらい序の口なのに それと私の武器は弓なの鍔ぜりあってたらこうなるのよ?」
バシュッ!!!
「ぬぁ!...ハァハァ...片腕でどうやって弓を引きやがった...」
「いい?円卓はこんな甘っちょろい所じゃないの 装備の特性も活かせない者が生き残れる空間じゃないのっ甘い!」
「ぬぅ!!今のが防げるのかよ!気配を完全に消して背後からの奇襲なのに...」
「その程度で勝てると思ってるなら話にならない 円卓じゃ幼児のおままごとなんて言われるわよ! それと装備は特性を活かしてこそ真価を発揮するのよ こういう風にねガンデヴァ!」
ガンデヴァを薙ぎ払いと同時に手を離し風を操作してガンデヴァを中心に小規模の竜巻を発生させる
「「「「ぬぁぁぁぁぁぁ!!」」」」
「「皆!」」
「円卓に行って魔人族の実力を測るんでしょ?まさかもう終わり?この程度で挑むなんて愚の骨頂 私の本職は斥候よ?なのに近接戦しかも1人対複数で負けるなんて何が実力があるよ 勇者だから何?他の人より強いから何?戦場じゃそんなの関係ない 生きるか死ぬかのどっちかしかない戦争に過程なんてないのよ 結果だけが全てなの 誰かより強いだなんて死地では意味が無い」
先鋭だと呼ばれていた騎士団がたった数人に滅ぼされることも円卓ではいつものこと
命が軽いこの世界の中でも特に危険な地帯なのだ 長年円卓で最前線にで張っている隊長格や遊撃隊などは揃って「大事な物は命ではなく技術」と言うほどに
私達クレアシオンが規格外なのは理解しているが円卓に出向けば傷一つは当たり前 なら傷一つ付けられない者は円卓で生き残ることは不可能
「なんだよ...なんなんだよその弓!たまに右手の弓が見えなくなるし 弦を引いてないのに矢が飛んでくる いったいなんなんだよその弓!」
「教えると思う?円卓でならこう返される 勝ったら教えてやるってね でも無知な貴方達にいろいろ教えてあげる それで不用意に円卓に近づきたくなるだろうから」
「...内容によるぜ...?」
「何言ってるんだ克...自衛の知識のために魔人族の力量を知っておかなくちゃならないんだぞ...」
「いや...克君の言う通りかもしれない...あんな装備が沢山あるんじゃ俺達死ぬかもしれないんだぞ...」
いや装備がなくとも素手だけで充分殺されると思うの
「風琴疾装弓ガンデヴァそれが私の右手にある弓 左が私用の弓カタストロフィドライブ 貴方達が言うところの''兵器''として呼ばれているレベルの武装よ」
「兵器だと...?武器じゃないのか?俺達が知っている兵器と違うぞ」
「私はそっちの世界の兵器だとは言ってない ただ武器という範疇を超えた武器を兵器と読んでいるだけ この世界には聖剣と魔剣それらを合わせた聖魔剣 それと同じ性能を持つ各種武器が存在する 聖剣は主に身体強化や再生の能力といった体の内部に影響する力を 魔剣は特殊な形状で剣自体に付与されている魔法や特殊な機能を備えているわ 相手に有利に立ち回れる力を持っているの 聖魔剣はそれらを合わせた物」
「それが...この世界で兵器として扱われている武器なのか...?」
「あんなのと一緒にしないで 1部の者だけが扱える聖魔の武器を超える物がこの世界での兵器よ 貴方達だってあの立派なお城で話を聞かなかった?神代アーティファクトってやつ」
聖剣と魔剣そして聖魔剣は決して兵器という格に見合う性能はない 神代アーティファクトが持つ性能と比べては可哀想なくらいに 鍛治職人が打った物と高位の神が創り出した物 少し丈夫な剣に魔法陣や魔石を埋め込んだだけの武器と他の世界の技術と発想を法則を捻じ曲げてまで融合させた武器 この世界と彼らの世界ともう1つの世界の技術を融合させたカタストロフィドライブと彼らの世界の発想と自然現象を体現させたガンデヴァ 地球なら1人で州1つは容易く滅ぼせるだろう
「それなら俺達の武器がそれだ...だが機能なんて使えないぞ 神代アーティファクトは最強の武器だと教えられたが全く使えない...これならどんな物でも同じだ」
「そう?私のこの愛弓達も神代アーティファクトと呼ばれる物よ?それはそれ自身に選ばれた者にしか力を与えてくれないの ただの武器として振り回すだけなら誰でも許してくれる けれど認めてもいない奴に好き勝手されるのは許してくれない 神代アーティファクトはそれぞれが別々の個性を持っている 捻くれ者もいれば素直なのもいる 悪意を好む者をいれば善意を尊重する神代アーティファクトだって存在するの 主を選定し仕える それが神代アーティファクトは1部の者にしか扱えないとされている理由」
「なぁリーリエって言ったよな 俺達は神代アーティファクトに選ばれれば魔人族にも勝てるのか?」
正直言って可能性は低い 今の実力で強大な力を手にしても感覚が追いつかないはず 尖兵集いの円卓ではまだ勝つことそすら不可能に近い
「得物に頼ってたんじゃ人族の尖兵にすら勝てないわよ?下っ端程度なら勝てるんじゃない?」
「あのリーリエさん!私達はどうすれば強くなれるんですか?教えてください!」
実質負けた相手に教えを乞うのは分かるけど内容が大雑把すぎる 誰もがそうだけど詳しく説明してくればければどう教えればいいのか分からないし答える気がなくなってしまう
「はぁ...ミーディアの手前円卓に行かせたくないんだけど...こういうのは自身の目で理解しないと止まらないのよねぇ...ダンジョンにでも行けばいいじゃない そこで1から鍛えればいいだけの話 めんどくさいからもう帰るわ もう一度忠告しておくけど円卓には行かないでよねって...聞いてないし..はぁ...もう死にに行けばいいじゃない」
自身の目で見ないと納得できない者はこれだからめんどくさい 目の前の私の強さは分かっているはずなのにどうしてこう楽観的になれるのかが分からない ミーディアは「人間は僕達仮染めの思考しかない物と違って様々なことをしでかす それがまた面白いんじゃないか」と言っていたけど正直理解が及ばない でも人間が様々なのは知っている 誰に設定されたかではなく自らが己を作る そこは面白いと思う 自己進化 他人の手を借りなければ進化も退化も出来ない私達には絶対に掴むことが出来ない眩しい光
それを持つ彼らに助言するだけ無駄だろう
何故なら彼らは自分自身で進化できるのだから
━━━いや進化する運命なのだから