11 余興
「ミーディアぁぁぁ!!!」
「ん?っちょ!?おわぁ!」
どうも ミストです 今何処にいるかというと獣人族領の大半を占める樹海の隅っこに群している岩場
永久的に活動出来る僕らといえど疲労は感じるようでして簡易的な寝床として岩の陰に潜んでいます
獣人族とエルフは樹海の様子を常時感覚で把握できるらしいので突入の下準備も行っているのです
本来獣人族領に行かず人族領で暮らすのもいいのだけどクレアシオンシリーズの男性陣 殺戮と消滅がいないので捜索及び回収するため獣人族領に侵入します
「どうしたのリーリエ それより斥候はどうしたの?終わった?」
「その通り魔物の数は少数 どれも低ランクだけど村とここからの丁度中間地点が高ランクの住処よ この樹海は魔物すら守りとして成しているみたいね いろいろ検証してみたけど一瞬気配を出して隠れたらものの数分でエルフと獣人しかも足の速い虎人族の捜索隊みたいなのが来たからそれが魔物なのか別の何かなのか 正確に種族を判別しているようね まったくお堅い警備網だわ」
つまり常に気を抜くなって事らしい
「っあ そうそう村の中なら気配を出しても誰も気づかなかったわ 獣人族やエルフといえど村の中は感覚外ってところね あと遠目にだけど樹海の中心部にかなりデカい城があったわ 確実に国を築いてる」
神代では国を築いたのは人族と魔人族のみ どちらも統率と監視 思想の一体化を望んで築いたのが理由
獣人族やエルフが国を築いたのならばそれに準じた思惑がある ただでさえ戦争を行うのだから仕方ないと言えば仕方ない
『隊長 掘削終了しました なかなかいい出来栄えですよ?』
現在周辺警戒というなのサボりをしている僕らと違ってアリサは作業中なのだが不意に耳に装着しているアーティファクト 名はないが一応通信機からアリサの声が響く
「了解 ちょうどリーリエも帰ってきたから今いくよ じゃ行こっか」
「アリサに何か作らせてるのかしら?もしかして仮屋?」
「その通りですとも」
この辺りの岩群は正確には岩群ではなく1つの巨大な岩が飛び出している状態で岩の大きさは数十メートルにも及ぶ程の大きさ
アリサの出力の高さとパニッシャーの銃身の先端に付けたアタッチメントドリルで掘削 岩そのものを仮拠点として作成しようとしたのだ 仮とはいえ数日寝泊まりするならちゃんとしたのがいい
「なかなか綺麗に削れてるね それで構造はどうなってるの?」
「地下1階部分は主に工房 この部分は下方よりも横幅があるのでスペースを要求される工房にしました 地下2階はリビングのみで地下3階は寝室 トイレやお風呂など水洗機器なども取り付ける必要があるので地下3階に寝室を置きました」
「お風呂...そういえば目覚めてからお風呂1回も入ってないわ...早速だけど一番風呂貰っていいかしら?」
「どうぞお先に〜」
「僕は気になる事があるから最後に入るよ 夕飯までには帰ってくる」
そうして僕は再び地上へ 今度は樹海の内部に侵入している
気になる事それは樹海内の霧の作用についてだ
この樹海 名をラモニアス 通称難攻不落だ その通称の通りこの樹海は魔人族と人族&ドワーフは1人たりとも通過できた者は存在しないのだ 樹海入口では内部の情勢なぞ知る事は不可能 樹海に足を踏み入れた途端襲われ帰ることは出来ない 踏み入れば死の魔境 獣人族が篭ればその豊富な自然の恵と絶対的な地理的有利に立てるので戦争で1番厄介なのは獣人族領以外ないだろう
さてこの霧なのだが...
「うっわぁ...案の定魔力残滓だよ厄介だなぁ...残留魔力残滓数572 魔力貯まりだらけの魔人族領より多いんじゃないかな」
魔力残滓 魔力に含まれているエネルギーが劣化していくことで生成される物質
魔法を行使するための糧となる魔力は内部に膨大なエネルギーを含んでいて それを変換式いわゆる詠唱や魔法式によってエネルギーを変換することで魔法を使用できるのだがこのエネルギー人族領の本屋で見た魔法の論文集の1つに「魔法は生命と密接な関係にあり 魔力単体の自律は不可能」という説があった
魔法に関して僕は魔力変換で魔法的なことを出来るので疎いがなかなか的を射ている説だろう
その説の過程にあるのが魔力残滓 魔力内部のエネルギーが生命エネルギーとするなら生命の根幹である心臓は魔力の核のような存在 一定間隔で体内を循環している魔力は心臓から出てまた心臓に戻る魔力を使用しな限りそのループが延々と続くのだ
魔法を行使し体外へと放出された魔力は体内と違い核との関係が断ち切られているので魔物の心臓として用いられている魔石がない限り保存が効かない 照明や水生成器に湯沸かし機など魔力を使用して扱う日常的に使用する魔道具に魔石が使用されるのは魔力の残滓化を防ぐためだと分かる
で
魔力残滓が厄介とされる理由として腐ると表すと分かりやすいだろう 魔力残滓はこの樹海のように貯められる物ではなく 本来ならすぐ霧散されて分解されるものだ だが何事にも例外がある 魔力残滓が密閉状態だと霧散されず留まり続けるのだ そして内部エネルギーが劣化し尽くすと今度は有害物質に変換される 取り込んだ症状として魔力内のエネルギーが吸い取られ倦怠感を感じ魔力切れを起こし魔力欠乏症にする他 エネルギーを吸収した魔力残滓は魔力に戻ること無く細胞を破壊する物質に変化してしまうのだ
体内に取り込んだエネルギーが劣化し尽くした魔力残滓 強劣化残滓は取り除くことは不可能 不知の病として認識されているのでこのラモニアスに足を踏み入れるのは過信しまくりの冒険者ぐらいだろう
で なんで僕は樹海に侵入しても死なないかって?人間じゃないし呼吸も必要ないので体内に取り込むことはないのです
そもそも僕らは外見上人族だが内部構造は人間のように細胞が形成する組織にそれらが構成する臓器や血液といった物は存在しないのだ 内部を構成しているのは10億以上の歯車やケーブルに機能だけの胃や食道 各種兵装を装着使用するための接続機構や変形機構 心臓部には12からなる主特製中型の魔力炉と大型の魔力炉 魔力を供給する大型の魔力を生成できる生魔結晶とそれをフル稼働させることの出来るユニット ハザードトリガーとドラゴニックタンク これの内容は言わずとも分かるだろう
このように僕は人間ではないので死ぬ事は無い 逆に取り込んだ物質を変換して魔力に置き換える事が出来るから大得だ 余談だが主が言っていた「ロマンによって作り出されたロマン溢れる兵器とは不可能に挑戦し打ち勝った証拠つまり不可能を可能にした兵器なのだ!!!」と よく分からないが何故かストンと心に染み渡るような感覚を伴う言葉だったと記憶している
で
一直線に進んだ先に恐らくリーリエが確認したであろう獣人族 虎人族の村を確認した
これも気になる事の1つで周囲の魔力残滓が村に侵入しない理由を探る為でもある
結果は
「光属性の波長と中心にバベルの紋章...間違いないけどいつの間に小型化したの...?《最果ての振動》は今も世界樹から発せられてるから解析は不可能なはずなのに...」
獣人族領を覆う樹海ラモニアスの中心には世界樹と呼ばれている巨大な樹木が存在している
この世界樹は全体に巨大な魔法式を刻んでいて それは結界魔法の頂点《最果ての振動》という魔法だ
《最果ての振動》とは原初魔法を基礎に数々の魔法を組み合わせた最強の結界魔法で基礎となった原初魔法は音 結界その物からいくつもの周波の音波を放出 調和させることによって見えざる音の壁となって外敵からの侵入を拒むという特徴を持つ 無理にでも侵入しようとした場合1000以上のパターンの音波に晒されるので脳に多大な負荷をかけるだけでなく同調し共鳴破砕を引き起こす事もある攻撃にも使える珍しい結界
ただしこの魔法は膨大な魔力と魔法式が必要なので個人は勿論数万人単位でも使用は出来ない
まぁ原初魔法を扱える僕は時間はかかるけど一応使えるよ
「はて?この村のみを囲ってるこの結界の依代は何処にあるのか それとも同じ原初魔法の使い手でもいるのか さぁどっちっかな む?あれは...駒?」
丁度村の中心に聳え立つ白亜の彫像 風に揺られているローブを羽織り フードを深く被った人が肘を曲げ両手を前に出し 逆手に短剣を2本持っている その体やローブ 短剣にすらびっしりと魔法式を刻んである
何かのゲームの駒だったかその1つアサシンに似た造形をしていた
「村の中心に置いてあるし 見ただけで頭痛くなりそうな魔法式の密度に原初魔法の魔法式の1部 間違いなく《最果ての振動》の魔法式だけどこれ 真似ただけだな?」
恐らく長年の研究で世界樹がただの樹木じゃないと分かったのだろう獣人族達は魔法式を徹底的に模倣 小型化し1つの形に収めたのだ 獣人族の村は種族の数だけ見れば犬人族 猫人族 虎人族 熊人族 鳥人族 兎人族 狐人族の7種族 魔法式は描く土台にも特殊な力が必要でクラスが上がれば必然と土台の質も上がる ラモニアスなら世界樹から取ればいいのだがエルフが許さないだろう よって模倣しても世界樹規模の《最果ての振動》にはならず村を囲える程度にしかならなかったと
「ん?あれは門...関所?...なんでこんな所に関所的な門と建物があるの?ちょっと覗いて見ようかな」
侵入場所の反対側 世界樹が背景となるまるで城に入るための城門のように見える関所的な所 警戒心よりも好奇心が勝ったミストは門の右側にある詰所的な建物の窓から侵入した
中には2人のエルフと3人の虎人族 皆冒険者のような革鎧にロングソードか弓を携えた軽装備
恐らくリーリエの気配を感じ偵察に向かった者達だろう
「なぁ さっき感じた気配ってまじ何だったんだろうな 魔物は常時感知してるしこの所人族も魔人族も攻めて来ねぇし明らかに不自然だよな」
「そうね 一瞬で消えたけどあの気配はどの種族にも共通するような気配じゃなかったわ 無機質で深いながらも1種の優しさがあって でもその中にとてつもない狂気がある 人間にはまずない気配だったわ やはり魔物と決断するのがいいでしょうね」
「了解した それではこれよりツリストロに戻り新種の魔物が出現した可能性ありと報告しておこう 新たな情報が出てきたら至急報告を頼むぞ」
「「「了解」」」
「(リーリエだぁ...絶対リーリエだぁ...何?無機質と狂気は分かるけど優しさ?優しさなんてあったの?マジで?あのリーリエに優しさ?ウッソだろお前 ちょっと虎人族辞めたら?その気配の受け取り方はおかしい ゼェーッタイオカシイ!)」
昔から見てきたけど1つも変わっていないリーリエ 戦闘時には必ず狂気の笑みを浮かべて攻撃してるし 矢を正確に放つ時は無言で無機質な無表情な顔となり弓からは音なく風切り音なく着弾音なく矢が飛ぶ そこから付いた二つ名は''静寂の星弓''無音とすら取れる彼女の隠蔽と気配と完全な死角からの攻撃 それがリーリエの専売特許だ
まさにピッタリなのだが優しさなんて皆無 あるがずが...
その時背中に悪寒が走る
まるで「何処に行こうとお見通しだからね?」と常に監視されているような...
「...やめておこう...それよりいい情報が入ったね エルフの言っていたツリストロは国名で間違いない ならまずは明日に向けての準備とルートの下見」
だがこの時のミストはどんな状況下にいるのか未だに理解出来ていなかった