表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

派遣SEを辞めて院内SEになろう!

派遣先の社内の人間関係、業務内容・環境にうんざりして

院内SEになろうと決める大森であった。

「もう22時か~」

『いや、まだ22時』の間違いかと頭の中で言い直す。

思うだけでもしておかないと、22時が夜遅い時間ではないと錯覚してしまう。

残り2時間で日付が変わる時間であることを忘れてはいけない。


「なに言っているんですか大森さん。

明日までに終わらせないといけないテスト項目数を把握していますか?」

「だいたい、なんでこんな時間までテストが遅れているか分かって自覚してます?」

「大森さんがトロトロ仕事しているせいじゃないですか!」

同僚の斉藤からの小言か。

これ言われると、気が滅入るんだよな。


「しょうがないだろ。朝から夕方まで他の病院の障害対応に追われていたんだからさ」

俺だって毎回好きで仕事を遅らせているわけではない。

一つの病院に集中して対応したいし、定時で帰宅したいよ。

でも、少ない人数しかいない状況で、俺一人に5病院も保守を任せて、

その他の人員のバックアップもないのだからどうしろって言うのだ。

とは言え、同僚はそのあおりを受けて22時まで付き合わされているのだから

小言も言いたくなるのだろうな。


「そんなの俺だって同じですよ。それに、俺は明日の午後から秋田の病院に現地入りですよ。

東京から新幹線で片道4時間近くかかるんだから、移動だけで疲れますよ」

「この仕事の納期って延ばしたいよな。

と言うか現実的に明日の朝までに終わらせることはできないというのが現実的なジャッジだと思うよ」

俺も斉藤も、納期明日でまだ作業が終わっていないなんて、今回に限ったことではない。

そのため、イライラしつつも何処に落とし所を持っていくかの話になることはお互い分かってはいた。


「だよな~。病院のシステム担当の人とは何度も会っていて優しい人だから

言えば納期は延ばしてくれる思いますよ。

ただな~・・・」

同僚が全てを口に出さなかったが言いたいことは分かった。


「問題は、下原さんだよな」

下原さんとは、社内のプロジェクト管理者の40代の女性ことである。

社外の人間よりも、社内の人間の方がはるかに厄介で面倒である事実が

非常にやりきれない気持ちにさせる。

「お客さんに、納期の調整をOKだしてもらっても、下原さんがNGだすんだよな」

斉藤も疲れた顔でため息をついた。


お客さんはよく

「社内の人同士のほうが調整付けやすいですよね」

なんて言われる事があるが、実際は社内の人間の方がよっぽど調整が難しい。

だけど、そんな事実をお客さんに言えるはずも無い。

お客さんには、「そうですね」と返すことしかしかない。


俺は、ジャッジを下すしかないと覚悟した。

「わかった。明日、朝一でお客さんに連絡して納期の相談と調整するよ」

一拍置いて

「そして、下原さんに納期を延ばしたことを伝えるよ」

ああ、言っちゃたよ。

内心、若干後悔はしている

斉藤は、難しい顔をしながら

「そうか。お客さんはともかく下原さんなんて言うか怖いな・・・」

「まったくな~。俺、そろそろこの仕事にうんざりしてきたよ」

不意に愚痴ってしまった。


「ああ、私もうんざりしてますよ。でも俺は奥さんと子供と家のローンあるから

簡単には辞められないんだ。

奥さんはともかく、子供とローンがまだなら今の仕事辞めて転職したいよ・・・。

大森はまだ独身だし、実家暮らしだから正直どうにかなるんじゃないか?」

斉藤は切ない本音で俺の愚痴に応えてくれた。

「そうかもしれないですね。明日、下原さんから理不尽なこと言われたら、

キレてその場で社員証と会社携帯叩きつけて、この事務所から去るかな。

そして退職届は派遣元の会社に郵送するかな」

俺は、半ば本気でそうしようかと考えた。

「でも、それだと損害賠償とかされるんじゃないのか」

「それは、上手くやるよ。精神科に受診してうつ病の診断書でも書いてもらって、

退職届けと一緒に郵送するよ。それなら損害賠償にもならないよ」

実は前々からいつ辞めるか、どう辞めるかと考えて調べていたのである。


「本当にそれやったら、お前凄いよ。社会人としてはどうかと思うけど、

共感はできるよ。でも、辞めて次の仕事とかどうするんだ?」

斉藤は、お互いこれまで同様の苦労をしてきているので、

俺が本気で辞める気であるは何となく察したようである。

「一ヶ月くらいはのんびりゲームしたり、温泉にも入って疲れをとるよ。

それから、今度は院内SEにでもなろうかと考えているよ」


「それもいいかもな。じゃあ、その話は帰り道で聞かせてくれよ。

そろそろ帰り支度して駅に向かわないと家に着いたら25時過ぎになるしさ」

斉藤の家は事務所から2時間近くかかる場所にある。

現在22時30分なので今から帰れば24時30分には家に着くのだろう。


「OK。じゃあ、帰るか」

俺は起動中のアプリケーションやドキュメント類を保存して、

PCをシャットダウンした。


大学を卒業後、中小企業のIT会社に就職して、

就職した会社から今現在勤務している国内大手の電子カルテを開発している

会社に派遣されて、もう10年以上経った。

ずいぶん色々な事を経験してきたように感じる。


派遣先の正社員ならプロジェクト管理をする立場にもなれていたかもしれないが、

派遣で入っている以上、管理側に立つことは非常に難しいというよりも無理である。

もう辞めてもいいかな。


帰り道で斉藤と退職話をしながら、自分の中で明日に退職しようと決めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ