第7話 出会いはいつもサドンリィ
GWが終わっていく…。
ああ〜嫌だぁぁ。
ーー「いやぁ〜、めっさ寄り道したな〜」
「本当にね。あ、でも案外面白かったかも。最後の鬼ごっことか」
「……俺お前と鬼ごっこしたら勝てる気がせんわ」
「逃〜走〜中ゥ」
「それは違う」
あの事件の後、その場を逃げるように森の中を小走りで走り抜けていく二人の小人。
そんな二人の小人が休む暇など一切与えず、出来事は唐突に起きる。
二人が茶と緑が入り乱れる山道を駆け抜け、あからさまに怪しい少し盛り上がった落ち葉の山に、足を踏み入れた瞬間、
ーーズドッ
「あぁぁいってぇぇぇぇ!」
「左腕ッ‼︎挟まってるゥ‼︎」
俺はその刹那、何が分からなかったが、咄嗟に上を向くと、今置かれている状況を一瞬で理解した。
「ーー落とし穴だとぉぉ⁉︎」
「なんて典型的な‼︎」
そう正しく典型的な罠。
しかも相当深くまで掘られており、最早脱出する気力も失せるほどまで転げ落ちていた。
(やられた…。確かに今思えば如何にも「罠ですっ!是非落ちて下さい☆」的な感じで奴だけ盛り上がってたやん…)
俺は頭に手を置き、嘆息の息を漏らす。
すると、隣の彼女の方から、
「一寸……」
「ん?」
隣の彼女が肩を叩いてくる。
それは俺の名を呼ぶ度に強くなっていく。
「一寸!」
「なに⁉︎」
すると彼女は上を見上げ、ただ指差した。
俺は降りかかる太陽光に目を細める。
「ーー鬼だ……」
太陽光を遮るそいつは、舐め回すような大きな目でこちらを吟味していた。
そのシルエットから分かるのは、そいつの耳上の両サイドに、鬼の象徴、小さなコーンのような角が生えているのが分かった。
俺はまた嘆息の息を漏らす。
現に今、豚の化け物に追いかけられ、命辛々逃げてきてまんまと罠にはまった挙句、遂には鬼に見つめられる仕舞い。
笑うしかあるまい。
隣の彼女も苦笑いだ。
するとそいつは一瞬で光に消えた、その刹那、俺らに安心を与えたと同時に即刻その安心を打ち壊す。
見上げた先、今度はそいつの顔ではなく、出てきたのは五本の指だった。
俺らは成すすべなく、簡単にそいつの手に捕らえられ、そのままガラス瓶の中に保管された。
「おい‼︎出せー‼︎」
俺は精一杯声を荒げガラスを叩く。
奴はガラス瓶越しに俺らを眺め、ニヤニヤしながら歩き出す。
その笑いは、俺らに対する好意なのか、またはただの不吉笑いか。
ただ一つ分かるのは、奴の笑い方や今にも食いつきそうな奴の目から、良からぬ事を考えていることは確かだ。
「よし、若!今だ!奴がこっちを見ている間に俺たちの先手必勝‼︎奴の母性本能をくすぐるのだ‼︎」
「このワシに任せろ‼︎」
そう言って彼女特有の純粋でキラキラした眼差しを、思いっきり奴にぶつける。
しかしその行為も虚しく、奴は思いっきり軽蔑の目でこちらを見やがった。
「こいつ……軽蔑しやがった……思いっきり……」
と両手を地面につけ、がっくり項垂れる彼女を尻目に、「こりゃ無理だ」と弱々しく嘆いた。
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晴天の昼。今朝の雨が嘘見たいな空の雲から覗く太陽の光を浴びて、招集がかかった森中の広場に足を運ぶ。
「ったく。こんな真昼間に招集をかけるんじゃないよ本当に……おかげで昼寝ができねぇじゃねぇか……」
なんてぐちぐち言いながらあいつらの元に行くと、頭に小さな角を生やした小鬼達が、真ん中の木こりに、囲むようにして集まっていた。
俺はそいつらにいつものテンションで話しかける。
「やぁ諸君。何してるんだい?」
するとその中の一人の鬼が、こちらを見て手招きする。
俺は仕方なくそいつらの中に入り、奴らの視線の先を見る。
すると俺の眼に映ったのは、初めてみる"珍妙"なものだった。
「これは……」
俺の前のガラス瓶の中に、人間にしてはかなり小さい10cm程度の寸法の、赤黒の髪に黒の和服に身を包み、赤の羽織を着た、少年と、もう一人、珍しい若緑色のショートヘアの、薄紫色の和服を着た少女がガラス瓶越しに伝わる威圧をかけていた。
それを見た隣の鬼が小さな声で
「こりゃ珍しい。見たところ小人だな」
小人か。知ってた。
昔の本で見た事がある。我等鬼にとって『小人』は沢山の利益や用途がある為に、昔から共存して来たらしい。
今や一切見かけないが。
だが確かに今俺の目の前にいるのは『小人』なのだ。
「何故こんなものを?」
と聞いてみると、隣の鬼が笑って
「俺っち自慢の落とし穴に見事にハマったんだ。はぁ……俺っちカッコイイ……」
何言ってんだこいつ…。とか思いながら、俺らはこれをどうするかの討論が始まった。
このまま保管して観察するか。
これを売って金にするか。
調教して下僕のように遣わすか。
はたまたこれの命をいただくか。
そこで俺の悪知恵が働いた。
奴らが討論している隙に俺が先にいただこうと。
奴らには悪いが、これを逃したということにしておけば、責められるが後でじっくりいただくことができる。
早速実行に移す。
俺はさりげなくガラス瓶を手に取り、
「ちょっと逃げられないようにきつく蓋縛ってくる」
といい残し、その場から離れ、恐らく誰もわからないであろう森の茂みに入り、
蓋を開けようとしたその瞬間、突如俺の背中を押さえつけるような威圧が降りかかった。
「お前‼︎後ろ‼︎」
一瞬のことで何が何だかわからなかったが、その小人の声で思考が巡り、物事が流れて行く。
そして今現状、最も『その』可能性があるとすれば…。
バッと後ろを振り返る。
すると、やはり予感的中。
振り返る俺と目が合いこちらを見つめるそいつは、ここら辺で『最悪の殺人熊』と恐れられるほど大きくて茶色の凶暴な熊だった。
こういう時は、奴に一切ブレずに視線を合わせながら、持ち物を落とし、ゆっくり下がるのが適切。
持ち物はこのガラス瓶しかないので、小人を逃すのを渋々了解し、地面に放り投げる。
その投げたガラス瓶からコンコンと音がした。恐らく逃げ出して行ったのだろう。
これで奴の視線はあいつらに…。
なんて事を思った矢先、それはただの無行為だという事を理解した。
何故なら相手は大量殺人熊。幾度も人や妖怪を喰ろうて来たのだ。
熊は一度血の味を覚えると、また同じ血の味を探し求めるらしい。
ということは、俺が幾ら他の物を投げ込もうとも、もう血の味を覚えてしまっているのだから、俺にしか標的がいかない。
黙って歩いて来る熊に、気圧され、俺は死を確信した。
そいつが俺の前まで来て、濃厚な威圧が殺意に変わったとき、俺は一瞬横に転がっているガラス瓶を見る。中に彼らは居なかった。
逃げたのだろう。
ーーああ、俺はこうやって『弱者』で死んで行くのか…。仕方ない、それが自然の摂理だ…。
と悟り、空虚に懺悔し、目を瞑る。
後は奴に無惨に殺されるだけだ。
悔いはーー
「ヒャッハーーーー‼︎」
ハッと目を開ける。
すると、謎の奇声と共に、赤い弾道が俺の耳横を、稲妻のように駆け抜けていく。
一瞬何が起きたか考えることすら出来なかった。何故なら眼前には、奴の眉間に両足でドロップキックする小人が居たのだ。
奴の巨体が後ろに傾く。
その小人は空中に浮き上がり、そのまま右手に巻きついている輪ゴムのようなロープのようなものを奴の傾く二の腕に刺し、ターザンのように奴の後ろに移動する。
またそのまま高く飛び、次は奴のうなじを狙い、ゴムの反動を利用して一直線に急降下する。
クルクルと回転しながら、今度は奴のうなじを思いっきり蹴る。
奴の体は前に傾く。それくらいの衝撃なのだ。
「若‼︎」
とその小人が叫んだ後、いつの間にか俺の足下に、もう一人の若緑色の髪の小人が立って居た。
彼女が見上げた先は、ビー玉ぐらいの青い球体が空高く上がっていた。
その球体は奴の眼前を落下しながら通過し、その下の小人の元へ。
その小人は姿勢を低くし、1、2、3でステップ、右足を後ろに高く上げ、
「ボールを相手の顎にーー」
と言って、落ちて来た球体を、思いっきり風を切りながら蹴り上げる。
「シュウゥゥゥゥゥゥゥゥ‼︎」
ゴンッという音と共に、えげつない上昇気流が起き、落ち葉が舞い上がる。
次の瞬間には、球体が見事奴の顎に入り、さっきよりも比にならないくらいにズドンッと鈍い音を立て大の字で倒れていた。
俺は目の前で行わられている出来事に驚愕し、いつの間にかその場に尻餅をついていた。
しばらく状況を飲み込めずいると、その小人達の方から話しかけて来た。
「いや〜、やりましたな。大丈夫か?」
「え……あ、」
「ほら!やっぱりわたしエースストライカーになれるって‼︎」
「ガチでなりたいの⁉︎それ」
「当たり前じゃん。後は炎を使えるようになって、それでライモン中の炎のエースーー」
「やめろ‼︎名前を出すんじゃない‼︎」
と二人で楽しそうに話しだす。
「あの……」
「ん?何?」
「なんで……」
「ああ、そりゃ俺らを助けてくれたんだから当然の行為だろう。あんな鬼達の中から俺らを隔離してくれたお前に感謝」
「お前に感謝」
(あれ?これ俺……助けたことになってる?)
と思っていると、小人の赤い方が話しかけてきた。
「所で……お前の名前は……?」
「あ…僕は…鬼童丸と言います。生まれ持っての鬼です」
「おう。じゃあ……今日、世話になるわ」
「……はい?」
つづく
次回、一寸達は見事彼の世話になるのか‼︎
GW終わりのサ◯エさんが切ないのはなんでなのか⁉︎
次回もお楽しみに、ほんじゃバーイ⁉︎