第6話 衝撃の『大食』
今広島ナウ。
ーー「バケモンだ……」
俺がそう呟いた矢先、はるか上空の硝子の天井から入る光が、ゆっくりと強くなって行く。
それにより、その奥の化け物の正体はと露わになって、より鮮明に描写が映し出される。
「……!」
その化け物は、体は大きな岩かと思うぐらい
大きく、体色は黒い。
頭部から馬のような鬣が、背中まで伸びている。
そして背後の姿しか見えないため、そいつが今何をしているのか、一切わからない。
「何を……」
と呟いた時、若が口に人差し指を立てて、
「シーッ」
と静かにしろの合図をして、そのまま人差し指を、隣の塔の上まで続く螺旋階段を指差した。
俺は頷き、実行に移す。
階段に向け足を向けて歩き出した瞬間だった。
パキッ
その全員が同じ方向に目が集まる。
歩き出した彼女の足元に、二つに折れ曲がった小枝があった。
(しまった……!)
おそらく俺と彼女は思っただろうその時、奥の化け物がこちらの方向を見つめていた。
その顔は豚のような顔つきなのだが、それは豚と呼ぶには相応しくない、異様な面をしていた。
目は自我を失った奴の象徴、白目になっており、何よりも身の毛が立つのは、恐らく生物のものと"思われる"肉片や臓器を咥え、口や腕や豚爪は赤く染まっていた。
鉄臭い匂いは決して酸化などではなく、明らかな生物の『血』の匂いだったのだ。
「うっ……」
激しい嗚咽に襲われ、思わず声が出る。
すると、奥のそいつが、のそのそと近づいて来る。
俺は、気付かれないように、彼女を押し倒し、影に潜む。
「ん⁉︎」
「シッ!頼むから静かにしろ、『殺される』ぞ⁉︎」
「……」
俺らは気づかれないように口に手を当て、体全体に力を入れる。
そいつがどんどん近づいてくる。それと共に二人の鼓動も早くなって行く。
遂に真後ろまで来たそいつは、俺達の存在に気づいてないのか、そのまま開いていた扉を閉め、ゆっくりと戻って行く。
(逃げ道塞がれたぁぁぁ‼︎)
俺は心の中で叫ぶ。
これでいよいよ上に行くしか逃げ道は無くなった。
俺は彼女を起こし、階段を見る。
そこで難点に気付く。
そう、自分は小人。通常の人間の階段を登るようには出来ていないのだ。
だが幸いな事に、その階段には駆け上がるのにちょうど良い手摺が付いていた。
化け物に気づかれないように静かに手摺に登り、歩き出す。
どうやら奴はまだ気づいていないようだ。
「はっは。以外と気づかれんな。こりゃ案外行け……ハッ⁉︎ やめろ!」
「自分で言うじゃないよ」
また少し登り、ふと下を見ると……あいつは何故かこっちを見ていた。「お前を見ている」と言わんばかりにこちらを見ていた。
(あっ… …目ェ……会っちゃった☆)
もう一度下を見る。だがもうすでに奴の姿はなかった。
「あれもういないもういない! あいついないよ‼︎」
と言った瞬間、下の方からーー、
ーーグゥゥオオオォォォォン‼︎
と言う唸り声と、激しい足音が迫って来た。
「だぁぁぁ来たぁぁぁ‼︎」
「ホラァァァすぐそんなこと言うからぁぁぁ!」
俺と若は全速力で手摺を駆け上がり、息を切らしてひたすら走る。
下を見ると、奴が煙を巻き上げながらえげつない速度で追いかけてくる。
「や、ヤベェ」
「一寸、あれ‼︎」
彼女が指差した先は、奥の螺旋階段に、外に通ずる出口があった。
ここで俺はまた天性の賢さと閃きが冴え渡る。
「若!」
「な、何?」
「ゴニョゴニョゴニョゴニョ……」
「うんうん。分かった」
俺はその出口まで来て、若を先に出口から出し、そこの角で待機するよう指示。
着々と登ってくるそいつに、俺は挑発を飛ばす。
「おいおい早く来いよ。そんなもんか?頑張れよ豚ちゃん。ほら」
「グォォォォォ」
すると、さっきよりも更にスピードが上がり、殺意も尋常じゃないくらい伝わってくる。
(いいぞ……もっと怒れ……)
そして奴が向かいの階段まで来た時、俺は全力で出口に向かって走る。
激しい足音がどんどん近づいて、大きくなっていく。
もうすぐ出口を出ると言う時、背後で大きな地面を蹴る音が聞こえた。
奴の口が俺を捕らえる間際、
「若ッ‼︎」
「一寸‼︎」
とその時、俺の視線の右端から、華奢な手が伸びて来たのを見た瞬間に俺はそれを掴み、それを軸に思いっきり右に方向転換する。
矢先、俺の体が彼女の背後まで来ていた時、
またも激しい衝突音がして、その先の、空中に飛び散る瓦礫の先に、奴の体はあった。
そしてそのまま奴は塔から落下していった。
そう、俺は奴のスピードと力を利用した。
ある程度奴を先に挑発し、もっと力を引き出させ、スピードにも乗らせ、最高速のまま落とす。
動き出したものはすぐには止まれない。
俺はその『慣性』を利用して、見事成功した。
俺ら二人は遥か下を見る。
遥か下の地面に、奴は大の字で倒れていた。
奴の体からは黒い血が流れ、あたりの地面を黒く染める。
下まで降り、外に出る。
雨はいつの間にか止み、所々雲の隙間から太陽が覗いていた。
その光が、奴を優しく照らしていた。
俺は、もはや後は野垂れ死ぬだけのそいつの鼻の上に立ち、その今にもつぶりそうな目を見て、
「お前……よくここまでやったきたな。自分の欲望に嘘を付かず、ありのまま、ただ喰らい続けた。立派だ。だが、報われなかったな。喰らい続けて、自分を失ってもなおやめなかった。堕ちたことも気付かずに。
だから安心して眠れ。お前は……、
『大食』の名に相応しい……『大罪』だった……!」
そう言い放つと、奴は悲しそうに涙を流し、優しい太陽の光に包まれながら、ゆっくりと目を閉じた。
その時だった。
なんと逝った奴の体の中心部から、赤と黒の光を放つ火玉のような物体が浮かび上がったのだ。
次の瞬間、それが俺に向かって激しい発光をしながら飛んできたため、俺はとっさに右腕で身構える。
目を開くと、もうその光は消えていた。
「な、なんだったんだ…?」
少し困惑していると、荷物を持って来た若が、息を切らしながら走って来た。
「持って来たよ一寸…?どうしたの?」
「あ、ああなんでもない。」
さっき、右腕が何故かピリピリしたように感じたが、生憎そんなことを考えている暇はなかった。
「よし、若‼︎」
「へ?」
「ずらかるぞ‼︎」
「……うん‼︎」
そう言って二人の小さな旅人は、誰も居なくなった農場を逃げるように去っていった。
その後の農場の周りの平原には、紫のクロッカスの花が、床一面に咲き誇っていたと言う。
つづく
次回から七つの大罪編から離れて、またすぐに戻りたいと思います。
次回もお楽しみにほんじゃバーイ。