第5話 曇天下の白塔
腹減った。
ーー「ああ〜、大分降ってきたな〜」
「何処か雨宿りする所があれば助かるんだけど……」
ドン曇りの昼。
二人の小さな旅人は、水が滴り生い茂る森を、菅笠に雨を受けながら、ただ雨宿りする場所をさがしていた。
しかも山道は斜面になっていたり、足場が不安定な上、滴る雨の影響で、進むのが困難だった。
そんな中、二人の小さな旅人は、森の奥の方、何やら開けている場所があるのに気付き、どんどん近づいて行く。
すると、その開けた平原に、大きな天まで届きそうな灯台と、古びた施設が沢山あった。
「よし、あそこに雨宿りしよう!」
「うん」
二人は立ち入ってしまった。
魔物が棲む巣窟に。
「あ〜、めっちゃ古いな」
「それに……なんか臭い」
灯台の隣の施設に窓から入ると、中は薄暗く、鉄臭い匂いがした。
俺は多分、鉄材か何かが酸化したからだと匂いについてそう思っていた。
「とりあえずここらで休憩するか。雨で服がビッチャビチャだわ」
一通り荷物を降ろし、びしょ濡れの赤の羽織を雑巾のように絞り、水をはたく。
「そうだね。まさかここまで降るとは思わなかったし」
「嗚〜呼、こんな調子じゃ、いつこの森抜けて、次の町に着くんだ?」
「そういや前一寸の言ってた小人族の英雄って……」
「ああ、『俵 村児』か?」
「そう。そのおっさんがぁ、『7つの美徳』を探して、印せと」
「うむ」
「じゃその『7つの美徳』って、どうやったら手に入るの?」
「……」
「……まだまだ道は遠いね」
「うーん。それは俺も分からんし、多分なかなか手に入るらない代物だろう。
ほら、やっぱり人間って容易く悪や外道に成り下がることは出来るけど、逆に正義や聖人に成り上がるのは難しいだろ?
やはりそれぐらい代物じゃないと、俵のおっさんもそう簡単には手に入れさせてくれないだろうな」
「まぁ、そうだろうね」
しばらく体を休め、この施設内を探索しようという事になった。
中を歩いていると、両サイドに大きな檻のようなものが立て続けに並んでいた。
「しかしここ、見る限りは農場的な施設だったのは分かるが、人らしき気配は無いし、廃業になってこの有様なら、元は相当の家畜の量を飼育してたんだな。時間も幾年も経ってるだろう」
雨が小雨になった外を眺めると、奥に迫力満点の白壁の灯台が、銀の雲に向け、堂々と伸びていた。
「にしても立派な灯台だな」
「え?あれ灯台なの?ずっと只の塔だと思ってたわ」
「……確かに見えなくも無い。いや、もしかして……分からんな。行ってみる?」
「よし、行こう」
即答で歩いて行く彼女を追いかけ、窓の外から飛び出し、冷たい地面に足を着け、いざあの巨塔へ。
施設から塔までの道程を猫の如く駆け抜け、あっと言う間に巨塔の下まで着いた。
見上げると、今までの塔より、さらに高く大きく、見下してるように感じた。
その迫力に押し潰されそうになるが、それを堪え、目の前を見る。
すると、何故かはわからないが、塔の大きな扉は、既に小さな隙間が開いていた。
俺は、嫌な予感がした。
その扉の奥に、何かの気配がしたのだ。
隣の彼女も、その嫌な気配を感じ取ったのか、緊迫した顔つきになっていた。
だが旅人は引き下がらない。
ーーその時、二人の小人の心の中に『虎穴虎子の好奇心』が生まれた。
リスクを愛せない好奇心に、自分にとっての利益は降ってこない。
二人は、その隙間から、中を覗いて見る。
中は、薄暗く、まだ何があるかまでは分からない。
ゆっくり中に入ると、さっきよりも強烈な鉄臭い匂いが二人の鼻を襲う。
その匂いに小さな嗚咽が出る。
その時、隣の若が、まるで普通ではない何かを、奥の方に感じたと、小さな震える声で囁いた。
俺はゆっくりと奥の暗がりに目を凝らす。
俺の目に映ったのは……
「お、おい……あれはーー
ーー『バケモン』だ……」
つづく
次回 曇天下の白塔に踏み入れた二人の小人が見たものとはーー?
次回もお楽しみに、ほんじゃバーイ。