第4話 真面目な彼奴と
GW間近の第4話。
天国間近の第4話。
GW、愛してる。
ーー「あれ?……一寸じゃないか?」
その声は丁度横の奥の方からした。
俺はスッと横を向く。
そこには黒と青のメッシュが入った、所々ハネている長い髪の先に、赤のとんぼ玉のヘアゴムをして、堂々と腕を組む大人な雰囲気の若い女が立っていた。
「あっ……」
「ーー? あ、もしかして覚えてない感じか? まったく、お前は相変わらずそういうとこだけ抜けているないつも」
「…? ちょっと待って、えぇ〜と」
「白、白?」
「白……白ぎ……」
「白……木?」
「アッ! 白木 谺‼︎」
「正解! 私は白木 谺。って言ってももう前に最後会ったのが8年ぐらい前だから、覚えてないのも無理はないか」
俺は歓喜した。何と、すっかり忘れていたが8年前ぐらいから何度か一緒に遊んでいて、その8年以降、かれこれ6年間は互いに顔を見合わせいない友人に、久しぶりに会ったのだ。
容姿はあの頃と随分変わり、俺も彼女も小さかった為、俺は何かと彼女のおもちゃにされた記憶がある。
しかもあの時、巨人かと思うほどに大きく感じたのだが、今やしゃがんで微笑む彼女はもう巨人より、超巨人かと思う程だ。
「で、そちらの方は……」
と谺が目線を隣の小人に目を向ける。
俺は同じ境遇の小人に出会えた喜びを谺に伝えようとすると、彼女は隣の俺もびっくりするほど大きく透き通る声で話す。
「初めまして。わたしは彼の友達の、小末名 若宮です。みんなからは『若』 と呼ばれてます。よろしく‼︎」
と超胸を張って鼻から煙を吐くんじゃないかと思う程の気迫で挨拶する彼女を谺は、一瞬驚いた様子で彼女を見たが、またすぐに笑って、
「ああ、よろしく」
と言って人差し指を彼女の前に出し、彼女も両手で触れ、小人流の握手を交わした。
その後、彼女の長屋にて、ここまで至った経緯を説明した。
「ーーなるほど、だからこうして小人二人で旅をしている訳か」
店のエプロンを外し紺色のカーディガンを着て、長いスカートはそのまま、椅子の上にあぐらをかき座る彼女は、納得してくれたように腕を組んでそう言った。
「よし、こうしてまた出会えたんだ。お前のその旅、何か協力してやるよ」
「お! さすが谺」
「さすがについて行くのはこちらとしては無理な話だ。だがある程度の知識はある。道とかその土地の事、妖怪などは私を頼ってくれていい。それと……」
そう言って机の上に出したのは、何かの古びた資料のような本だった。
彼女はそれを広げ、あるページを探す。
「えぇ〜……あっ! あったあった。あ〜、『日本之小人世存禄』。
要は近世の日本における少数民族小人の世相やら文化やらが掲載されてる本だ」
「なんでそんなことを?」」
「ん? ああ、ちょっと私も少し気になってな、お前みたいな小さい奴を見ていると何故かほっとけなくて、何か手伝えることはないか、自分なりに探してたんだ」
「真面目だな」
「お前が不真面目になっただけだよ」
「日本の……? 小人族……形質……?」
「ああ、これは私が翻訳しよう」
そう言って指で文をなぞり翻訳し始めた。
「日本の小人族:形質。古来から小人族は体の寸法が数10センチ程しかなく、普段の人間から派生した説や、妖精説、逆に小人から人間に派生した説など、その分野によって理論が大きく分かれる。
だが身体的特徴で言えば、自然と深く関わって生活している為、人間より、より多くの優れた能力を宿しているとされる。
また、小人は、何故か体の体重が非常に軽く、足が猫の如く迅速であり、空中戦を得意とする。
仲間意識が強く、仲間との集団を大切にする。自分に利益のない事や、他の仲間が危機に晒されている時にも、一切見返りを求めず、自分の命を賭して救おうとする『自己犠牲』の精神を持つ。それらの傾向は、哺乳類の『猿』に大きく見られる」
「猿……」
「んー、この本大分昔に著された本だから、今現在の小人の対応がどうなっているかわからないな。まぁそこは、自分達の目で見て来てくれ」
「お前それ俺らに災難に逢えと言ってるようなもんだろ……」
「いいじゃないか。それが旅というものだろう?」
「それに、私達『小さき旅人達』にとっちゃ十分な刺激になるんじゃない?」
「HUHAHAHA、異論はないがな!」
「なんだよそれ」
と皆で笑って話し、一息ついた頃、俺と若は彼女の長屋から出発する準備を整えていると
、彼女からに道具の点検や、俺の書いたあやふやな地図を見た彼女は、まるで意味がわからないくさび形文字を読むように眉をひそめ、首を傾けていた。
「小人ってこんな落書きみたいな地図でも分かるっちゃ分かるんだな。凄いわ、私は全く分からん」
「おーい、聞こえてるぞ〜」
俺はその場を離れ彼女の前まで行く。
いきなり現れた俺に肩をビクンとさせ、ホッとした表情でこちらを見る。
「あ? もしかして、聞いてた?」
「当たり前だろ! 下手で悪かったな」
「確かに。お前器用な癖に絵は下手なんだな」
「るっさい! 労いの言葉一つも無いのか己は……」
「ふふっ、私が描いた方がまだ正確だわ」
「ぐぬぬ……」
すると、彼女はさっきまでのにこやかな笑顔から一転、すぐに真剣な表情に変わり、真っ直ぐこっちを見つめて話す。
「頑張れよ、その夢」
「……ああ、心配しないでくれ。必ずいつか叶えてやるから」
「……だから心配なんだ。その威勢が、いつかとんでもない『事態』を招くじゃないかって」
彼女は、俺の知る谺ではなく、めずらしく彼女らしくない弱気な発言した。それが少し新鮮に感じた。
そう、そういう所も含め、俺は彼女を気に入っている。
彼女は、皆が思っている程真面目な部分ではなく、こういう生真面目に自分の気持ちや思った事、人の事を本気で考えてくれる、そんな根っからの優しさを持つ彼女だからこそ、信頼できるのだ。
それらが紛れもない彼女の奥底の『本心』であるから。
「……確かにお前が心配するのも分かるが、そん時はそん時。為せば成る。俺はただ自分の『欲望』にひた走るだけさ」
「……そっか。なら心配要らないな」
「おいおい、せめて手助けぐらいしてくれよ? 最小限でいいからさ」
「な、これからも頼むぜ。谺」
「……ああ、頑張れよ、一寸」
と、二人拳と拳を合わせ、笑いあった。
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「じゃ、行くわ。ありがとな」
「うん、ありがとう」
「おう、じゃまたなお二人さん。くれぐれも気をつけてな。またいつでも戻ってこいよ」
俺と若は顔を見合わせ、背中を向けて歩き出す。
彼女は結局俺らの姿が見えなくなるまで、ずっと俺らの背中を見送ってくれた。
それからしばらく歩いていると、先程あの長屋から出る前、若と谺が何かヒソヒソと話していた事を思い出した。
「そだ。若、お前、あそこ出る時何話してたんだ? 谺と」
「ん? あ、あー。これ話していいかな?」
「な、なんだよ。そんな言っちゃいけない事なのか?」
「うーん。そんなんじゃ無いんだけど……。
『彼奴はたまに自分勝手で融通が利かない時があるけど、根は本当にいい奴だから、よろしく頼むわ。』だって」
「……そうか」
俺はそれを聞いて、薄青色の空を見上げながら、
「実に彼奴らしい……言葉だな」
と小さく吐いた。
「良かったね〜」
「は? 何が?」
「いや、いい関係だなって?」
「は? え?」
「いや〜、楽しみだなぁ、実に〜?」
「……あ、もしかして、『嫉妬』って奴か?」
「皆サァァァァァァン! 彼は今‼︎ 絶‼︎ 賛‼︎ せいしゅん中ーー、」
「うおおやめろぉぉぉぉぉぉォォォォーー‼︎」
つづく
しっかし最近熱いな〜。今すんごい夏に感じてしまう。
時間の流れは速いですな〜。
次回もお楽しみに、ほんじゃバーイ。