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第2話 第一回貴族部屋潜入調査

welcome to the future 〜 ♪




 あれから結構歩いて3時間。足が少し怠くなってきた。

もう俺が住んでいた家からは大分離れているだろう。


 俺が家を出て山越え、谷越え、次に見えたのは大きな川。

俺は家の地図を丸写しした紙を広げて見る。


 おっとこれは予想外。

どうやらこの川を下れば町に流れ着くようだ。


 そこで、足の休憩も兼ねて、この緩やかな川を流れ下る事にした。


 さぁここでようやくこのお椀蓋の出番…

なわけなく、俺は昔雑草で草舟を作ったことがある為、安定性とスピードが十分なこっちの方が効率がいいのだ。そして、意気揚々と生えていた近くの草を使い、作り上げた。


「よし、出来た。うむ、我ながら中々上出来じゃないか、え?」


 本物さながらの草舟を作り、それに乗り下流のスピードに舵を任せる。

これは正解だった。

 俺が想像していたよりもずっと頑丈で、舟は風を切りどんどん景色が流れていく。

この調子でいけば1時間後には町に着きそうだ。


 言うと町には昔にじいさんと一回行ったぐらいでその実ほぼ未知の領域である。


「まぁ、町だから賑わってて楽しそう…」


(待てよッ⁉︎)


 その瞬間、頭に嫌〜なビジョンがコマ送りで映し出される。


(小人は希少→珍しい貴重品→十分な利益→買収→あんなことやこんなこと=四面楚歌。)


「……」


「うわぁぁぁぁ嫌ダァァァ。まだ出てきて3時間だよ⁉︎そんな俺に早くも究極のステルスゲームをリアル体験させるというのかぁ‼︎」


 なんて頭を抱えて喚く。

そんなこと言ってる間に一瞬でもう町が見えてきた。


 途中、(いや、これは試練だ‼︎ この小さな体で恐怖に打ち勝てという試練だと俺は受け取った‼︎)なんてどこかの帝王の台詞を思ったりしたが、全然そんなことはなかった。


 何故かは知らないが、いつもより確実に人の数多くね? ということに気がついた。


 町は雑貨屋や定食屋など、色々な店が連なり人が行き交い、騒がしい音が聞こえる。


 やがて舟は町の橋の下、河川の岸に着き、幸いあまり人影が少ない脇道に止まった。

 俺は辺りの人間達に気付かれないように、姿勢を低くして、石垣を登る。

 登ると前に道があった。その奥に俺が丁度入れそうな小さな抜け道があった。


(あそこに行くには…)


 道の横から辺りを見回すと、左奥にある大きな橋の上で空を見上げ溜息をつく青年が一人。その青年は橋の柵に手を着き、その横には美味しそうな桜餅が二つ、柵の上に置かれていた。


(しめた!青年には悪いが、その餅、利用させてもらう。)


 ここで『魔法の輪ゴム』の登場。

俺はいつでも盗塁出来るよう走る体制に入り、左手に輪ゴムを巻いて、


「行け」


 と言うとその輪ゴムがそろそろとゆっくり桜餅に向かって伸びて行く。

 気づかれないように橋の外側から桜餅に輪ゴムを巻きつける。こういう時にフックやウィップのように巻きついてくれる輪ゴムはマジ神アイテム。


 そして青年がその桜餅に手を伸ばしたその瞬間、俺は左手の輪ゴムを素早く引く。

すると輪ゴムに引っ張られた桜餅は橋から落下し、河川に大きな音を立てて、青年の顔がみるみる青ざめて行く。

 その青年はやらかしたと言う表情で叫ぶ。


「ああああぁぁ、僕の桜餅がぁぁ‼︎」


 その声に周りの人たちが彼に視線をぶつける。そう、この瞬間を狙っていたのだ。


(今だ!)


 視線が彼に行ってる内に、大きな男の足元を通過し、猛ダッシュで抜け道にスライディングして駆け込んだ。


なんとかバレずに行けたようだ。


(よっしゃ、ナイス盗塁‼︎)


 俺は小さくガッツポーズして、その暗闇の中に入って行く。


 しばらく歩いて行くと、目の前に光の柱があった。

そこから外を覗いてみると、見上げる目線の先、明らかにそこらの平民の物ではない大きな寝殿造りの建築があった。


(このでかさ……貴族か。よし、丁度いい、すこし中偵察して、今日1日好きに使わしてもらおう)


 そう思い、白壁の瓦に輪ゴムを掛け、そのゴムの弾力性に身を任せ一気に瓦に跳ぶ。

見事に瓦に着地する。そこから中の様子を偵察する。

 ちなみに小人は普通の人間よりも目がいいのだ。


 中はどうやら立派なお屋敷で、今はあまりこのような貴族は昔ほど居なかったため、その時の建築様式を残している。

檜皮葺(ひだわぶき)の屋根に、蔀戸(しとみど)を上げ、みるからに高床式家屋である。

「上品」で「繊細」な当時の自然と調和した、貴族達の美意識により産み出された「優雅」かつ「風雅」の産物だろう。


て、なんでこんなに詳しいんだろう、俺。


「いや、いい屋敷だねぇ。こんなのに住めるのは中々の貴族と見た。よし、決めた! 俺は今日の宿屋はここにする!」


 と高らかに宣言し、中の庭に降り立つ。

その中庭の外側から周り、釣殿の縁側の下の空間に、荷物を置いて、そこを第一拠点にした。


 さて、後はこの寝殿の潜入探索だが、昼は皆暇して何処にいるか分からない。

だが、ここで1日夜を過ごすなら、食料が必要になる。

 だからとりあえず、魔法のゴムと爪楊枝を持って台盤所(だいばんどころ)に行くことにした。


 俺は誰かに見つからないようにわざわざ遣り水を周り、北の台盤所の裏前まで来た。

これは常識だが、こういう時、廊からは基本的に潜入しない。

 何故なら、あんな隠れることも出来なければ逃げることしか出来ない長い戦場に立って仕舞えば、奴らに捕まって穴の空いたガラス瓶に入れられてそれで終わりだ。


 輪ゴムを爪楊枝に括り付け、爪楊枝を蔀戸の端に投げて刺し、輪ゴムのいつものに身を任せ蔀戸の上に見事着地。


「いやぁ〜。いつもいつもすいません輪ゴムさん。あ、もう僕ぁあなたのことを、魔法の輪ゴムだから……『魔ゴムさん』て呼びますわ」


 俺は蔀戸の上から中を覗いてみる。

中は台盤所というだけあり、台所の上にたくさんの皿や、陶器、器が並べられていた。


 俺は誰の気配も今の所ないので、とりあえず何か食料がないか辺りを探す。


「あらこれは……」


 目の前に、黒の紙に包まれた長方形の箱が、ぽつんと置かれていた。


 俺は好奇心のままに紙を破り箱の中を見ると、そこには、


「お、おお〜! 豆腐にこんにゃくに里芋! 俺の好きなつまみばかりだ。えっとこれは……『田楽』! これが田楽か、うまそーー」

「あー腹減った!」


 俺は咄嗟に誰かの気配を察し、近くの鍋の中に入る。

 中は真っ暗で、聞こえるのは入ってきた中年男性の声。特徴的な高いトーンの、貴族にありがちなタイプの声だ。その男は、ヘタクソな鼻歌を歌いながら何かを漁っているようだ。

 そしてその鼻歌が、俺の真上から聞こえる距離まで来た。

 俺は口に手を当て、息をしないように体中に力を入れる。

いつからかそこは緊迫した空間になっていた。


「あ?なんで田楽が……」


(……しまった……!)


 そうだ。俺はさっきまであの田楽の箱を開けたままにして逃げ込んだんだ。


 すると、その中年が、まるで殺人鬼の部屋に隠れた人間を楽しそうに探すような口調になる。


(チッ、バレたか……)


 そう察し、鍋の奥の方に移動する。

その途中、今更だが俺がいる鍋の中には、俺以外の何者かの気配があるのを感じた。

俺はまたまた好奇心のままにその方へ寄ってみる。

 次の瞬間、俺の左手に、何か柔らかい感触が当たる。


(ん……?なんだこれ。餅か?いやでもなんか違うような……)


 その柔らかな感触に思考を巡らせていると、

その手の中の感触が奥に移動した。


(うわっ‼︎……今動いた……よな?)


確かにその感触は動いた。

物が動く訳ないし、機械的な動きでもない。

これは……まるで動物が寝返りをうつような……。

だが生憎、今鍋の中なので、全く何も見えない、ただの暗闇だ。

正体が分からないというのは、人間の心理的に不安や恐怖を植え付ける。

俺はその正体不明の生物の姿を確認している場合じゃない事を思い出す。


「さぁ〜、若様〜? 怒りませんから、出て来てくだ〜さい。」


(若様? なんだこいつの名前か? 若様なんてネーミングをつけるなんて一体どんな動物なんだ? 気味悪いな。

とりあえずは、この状況をどうにかして出ないと……)


俺はその鍋の奥の壁まで来て、どうしたらいいかを考える。


(普通にここから出るには奴の視界に入らなければいいだけのこと……。だけどこの状況で蓋を開けられたら、間違いなくバレる…! 

何かないか? 何か……奴の視界に入らない場所……)


 俺はどうするか試行錯誤しながら、頭も辺りを見回し、上を見る。


(蓋……蓋……蓋⁉︎ そうだ!)


 俺の天性の賢さと閃きが冴え渡る。

そう、この鍋の蓋を開けるその動作が重要で、人は蓋がある物を開けるとき、開けた蓋より、中身に真っ先に視線が行ってしまう。 それは、なにより中身が気になり、早く知りたい、見たいという『欲望』に駆られるからである。


 ならば、隠れる場所はただ一つ、蓋の裏にくっつけばいいのだ。

鍋の蓋はドーム状になっているため、真横から見ても姿を見られることはない。

しかも幸いその蓋の裏には取っ手のような物が付いていたので、運良く貼り付けれた。


 心の準備を整え、いざ勝負の時。

その張り付いたままで、魔ゴムを括り付けた爪楊枝を、鍋の底に思いっきり投げる。


コンッッ


 という弾けた音が鳴り響く。

すると、それを聞いたのか、その中年は


「ん〜? そこだな〜?」


 と薄気味悪い声を出し、どんどん近づいてくる事に気がついた。

背中の真正面から少しの衝撃が伝わる。

今にも蓋を開ける寸前なのだ。


 俺は息を勢いよく吸い、声を出さないように覚悟する。


 また少しの衝撃が背中に伝わった刹那、

視界が暗闇から、一気に光に包まれ、体が大きく移動する。

 かなりの勢いで体がふわっと感を感じたため、乗り物に乗っているような感覚になった。

 だが小人は人や動物に乗って移動したり、縄や物を使って大移動するから、乗り物などの浮遊感には慣れっこである。


 目が急な光を吸収できず、慌てて目を瞑る。

続く浮遊感に目を瞑った状態だと、中々状況整理が追いつかず、余計スリリングな感覚だった。


 しかし次の瞬間には、体の浮遊感が止まり、ゆっくり目を開けると、視界に映ったのは、

木材の床板だった。

俺は瞬発的に蓋から身を離し、すかさず目の前の開いていた箪笥に入った。


(よっしゃ…なんとか行けたか……)


と安堵の溜息を漏らす。


「あー! やっぱりいた。ほら若様、寝るならちゃんと座布団で寝て下さい」


 その中年は、変に笑いながら部屋を出て行った。


「行ったか……よしもうさっさと田楽持って戻ろ」


 俺はさっきの田楽が入っている箱を魔ゴムで結び、蔀戸から降ろす。

その後、第1拠点に戻り、腰を降ろしてやっと一息つけた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 先程の潜入でかなり神経を使ったので、昼飯に田楽を食べ、そのまま寝てしまった。


 そして起きると、辺りは薄暗く、庭には橙色の灯りを放つ灯篭が、優しく遣り水に光を反射させていた。


「嗚呼、もうこんな時間か……。貴族らは今頃夜飯ぐらいか?」


 また起きてすぐに偵察に行く準備をして、今度は寝殿の裏に周り、屋根の虹梁に乗り、中に浸入する。

 すると、何やら下から騒がしい声が聞こえてきた。

 俺は下を覗くと、やはり思った通り、高い綺麗な着物に身を包んだ長い黒髪の女性たちや、冠直衣(かんむりのうし)と呼ばれる正装をきた男たちが、ワイワイ飯を食べていた。


「流石貴族達だな。飯や服から何まで豪華だ。こんな所に一週間も居たら物事の感覚が狂いそうな…」


「だよね。まぁわたしはもう慣れちゃったんだけど」


「ふーん……」





「え?」




つづく




小人からの視点て難しいですね。

でも普段の物事を考えて、使うのは少し憧れます。普通に困るけど。

次回もお楽しみに、バーイ。

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