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第16話 あの島へ

 

 ーー「一寸……一寸‼︎」


 聞き覚えのある声に呼び起こされ、重い瞼を擦る。


「なん……?」

「もう4時ですよ。あなた昨日夜温泉行ってからすぐ寝てたのに一番遅いじゃないすか。はい立って」


 鬼童丸に起こされ、大きくなった体に和服を通す。後ろの尻尾は今日も元気だ。


 再び地下の作業場の方に移動する。そこには荒志丸の前に集まる四人。


 工業三人組が荒志丸から出てきて、朝から元気な声が轟く。


「チェック確認、異常なし! 準備万端。天候!」

「今日は一日中晴れ!」

「天候よし‼︎ ではそろそろ」


 彼女がそう言うと、若が奥のシャッターを回しゆっくりと開いていく。


「ヒャッハー‼︎ いいねぇ‼︎ さぁ、君達早く乗り込め‼︎ 最初から飛ばすよ⁉︎」


 完全にテンションが最高にハイって奴だ。その声と共に俺らは荒志丸に飛び乗る。

 ゆっくりと光が顔を出していく。その眩しい光から心地の良い朝の風が吹き抜ける。

 俺らを祝福するかのようにエンジンが叫ぶ。


 いよいよ空の旅へ。目指すは天に聳える島。

 まだ見ぬ『夢』と『感覚』を探しに。


「よし‼︎ 行こう‼︎」


 荒志丸が動き出し、どんどんと光に向かって機体の勢いが増して行く。羽が広がり、風を斬る。


「若! 急げ、もう飛ぶぞ‼︎」


 若がこちらに向かって全速力で走ってくる。

 しかし、彼女の俊足を持ってしても、この間合いじゃ間に合わないことに気づいた。


(ダメだ、間に合わない‼︎)


 俺は横のフロントから魔ゴムを若に向け投げる。彼女はそれに手を伸ばし、しっかりキャッチする。彼女が掴んだのを確認した後、左腕を回し、魔ゴムを左腕に巻きつけていく。


 彼女は魔ゴムのゴムの力により、先程より格段にスピードを上げていき、ついに荒志丸の後ろまでに迫って来た。

 しかし、もう外の光はすぐそこまで来ている。

 俺は若に向かい叫ぶ。


「若‼︎」

「ハァ……ハァ……ぁぁあ?」

 


「跳べぇぇぇぇ‼︎」



 その声と共に、彼女は航路の端ギリギリを、思いっきり地面を蹴る。


 空中を横切る彼女に手を伸ばす。



 手はーー届いた。彼女のその手を引き、落ちないように抱き抱える。


「ハァ……ハァ」


 抱き合う体の鼓動が、暖かみが、痛いほど聞こえて来た。こうしていると、改めてこの自分が感じれる体のサインが、自分のものだけではないことを、彼女の体から感じとれた。


 ーー生きている。この体に起きる全ての変化が、自分は生きているという証明であり、この暖かみは、生きているからこそ実感できるものだ。


「よく頑張った」


 と彼女の背中をポンポンと叩く。

 すると、彼女は息を切らしながら、親指を立て、俺のおでこへぶつけ、


「ナイス……キャッチ」


 穢れのない明るい笑顔でそう言った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ただいま雲の下、さざなみの大海原の上、姿は雲に隠れてしまったが、絶対に存在している島を目指す。

 浮国島までは随分距離があるらしく、それぞれの時間を過ごす。


 俺とみぐりんは二階の操縦室で、昨日知り合って今も夢を共にしている彼女と話をしていた。


「てかさ、なんであの島を夢見たんだ?」

「なぜって? 決まってるじゃん。そこに『ロマン』があるからさ」

「答えになっていない気が……」

「私はね、昔、あの地下に内緒で入った時、偶然あの本を見つけてね。父さんに聞くと、こんなもの初めて見たって。でもここに書いてあることは、どこの資料本にも書いていないことだから、おそらく私達の大昔の先代が何か関係してたんじゃないかって」

「それであの島へ? 大丈夫か? 父さん達には内緒で」

「大丈夫大丈夫、またすぐ戻るって紙に書いて伝えたから」

「ほんとー」

「ほんとー」


 後ろで外の景色を見ていた二人のガキが声を揃えて言った。


「そしてさりげなく近寄って来て尻尾を握るんじゃない」

「……」

「黙って団子結びするんじゃないよ!」

「じゃ団子じゃないやつは……これだ‼︎」

「だから蝶々結びもダメだから‼︎」


「あらかわいい」

「キュート」


 ガキのいたずらに渋々対処する俺かおそらく尻尾をジロジロみて、ニヤッとした顔で頬笑みをしている二人の女子。

 そうだ、まだ聞いてないことがあった。


「そういやお前ら、名前は?」


 と聞くと彼女は坊主の男の子を指差して、


「そっちの坊主が、村田 テツ。私のいとこ」


 次にその横の天パの茶髪の女の子を指差して、


「で、その横の天パが、朝野 スズ。同じくいとこで、テツと一歳違いの妹」


 そう言い終えた後、彼女は平然とした態度で自らを指す。


「私はあの有名な鉄工業一家の一人娘の、空谷(からや) 一加(いちか)。よろしく」


「よろしく。俺は一寸。でそいつがみぐりん、外に居るのが若、鬼童丸だ。」



 自己紹介を済ませ、適当に過ごしていると、一加が天井窓の風向を表す旗を見る。


「風向きが、変わった……?」


 と操縦席に座る彼女が言う。


「風向きが?」

「ああ、さっきまで北西寄りの風向きだったんだけど、完全に変わった。なんだろう、凄く嫌な予感がする」


 しかし、その予感は見事的中する。


 荒志丸は目の前の濃い雲の中に突入し、全身に雲を纏い、斬っていく。

 雲の中は異様なほど静かで、聞こえるのは唸るエンジン音と、パタパタと音を立てる羽の音だけである。

 そんな静寂に違和感を覚えつつも、俺たちは黙って辺りを見回していた。


 しばらく雲の中を進んでいると、次の瞬間には、もう辺りは蒼の空間になっていた。

 地面は雲の絨毯(じゅうたん)、上空にはただ一つの太陽。どうやら雲を抜け、その上まで来たようだ。


 しかし、俺らは唖然としていた。


「嘘だろ? なんで俺らよりでかい船が、ブッ壊れてんだよ⁉︎」


 それだけではない、奥に見えるのは、分厚い雲の壁の前に浮遊している気球や浮遊船が、その先に行こうとはせず、ただその周りを彷徨っていた。

 そして真ん中に、一際大きな浮遊船が、半ば大破しかけの状態で、雲の壁から出て来た。


 その時だった。



ーーグゥオオォォォォオォオォォォ‼︎‼︎



 天空の世界に轟く叫ぶような咆哮が、俺らをさらなる緊張と予感を植え付けた。


 俺らはその予感を極力回避するために動き出す。

 さらなる事態に巻き込まれるのはごめんだ。とりあえずあの島に着くまでは。


「一加、低く飛べ!」

「オーケイ、雲に隠れる! みぐりん、スコープで外の様子を」

「おし、そこ二人はマイクで鬼童丸と若ちゃんを呼びかけろ‼︎」

「アイアイサー」「アイアイサー」

「何か起きてるね⁇」


 全員が二階に集合したと同時に近況を報告する。


「みぐりん、なんか見えるか?」


 みんなで彼女に視線を集める。彼女はスコープを覗いたまま、


「特に何もない。ただ気になるのは、あの雲からフユウセンが出て来てるんだが、それが全部半壊の状態なんだ。まるで、彼処に入ってくる奴をボコボコにして追い出している様な」


 と言った為、みんな顔を見合す。


「よし、誰か煙幕弾撃ってみたい人ー‼︎」

「はいはーい‼︎ わたし、撃ってみたい‼︎」


 手を挙げたのは若。多分だがここで煙幕弾を放つのは完璧なタイミングと、そして感覚が大切になると思う。だが、ここは一つ彼女の感性を信じよう。


「テツ、スズ‼︎ 君達にはこの船の操縦席を一時的に与えよう‼︎ 私はこの子に煙幕弾を教えてくる」

「おいおい、大丈夫か? このガキ達に任して」

「任せろ。おれっちはこう見えても操縦の腕はいいから」

「だってよ」


 なんてしている間に雲の壁に突撃する。壁の中は薄暗く、水水しい空間へ変わる。雨雲のようだ。

 今のところはなにも起きていない。だがこれからが勝負。あの二人が煙幕弾を放ったら、左に方向を変え、ブーストを使い超加速。そのまま雲の中を上昇しながら周り、上空から出る。

 皆精神を集中させ、一刻の狂いもないように煙幕弾を待つ。

 その時、目の前から赤の閃光が走っていく。


「来たァ‼︎」


 テツがレバーを左に回し、機体が一気に傾く。その傾きに寄り、物や人が左に滑り落ちていく。


「イッタ‼︎」


 見ると、レバーを持っている者は誰もいなかった。

 機体がそのまま急停止し、ゆっくり落下して行く。


「何やってんの⁉︎」


 テツはどうやら機体が傾いたことによって落ちて来た物が体に当たったらしい。


「誰かレバーを‼︎」


 その声と共にレバーを掴んだのは、みぐりんだった。


「あ! みぐりんレバーを左に‼︎」

「左‼︎……よし!」

「そんで一番右のボタン‼︎」

「右のボタン……これか‼︎」


 右の赤いボタンを見つけ、押そうとするが、機体が左に傾いている為、ギリギリ届かない。

 それでもボタンへ手を伸ばす。


「うおぉお‼︎ 届けぇぇぇぇぇ!」


 その叫びは届いた。右手がボタンを押し、機体がさらに唸りを上げ、今度は後ろへと重力が掛かる。


「みぐりん、そのままレバー引けぇぇ‼︎」


「ぅおおう‼︎ 元豪族舐めんなああぁぁぁぁアア‼︎」


 気合いを吐いた体を思いっきり後ろへかける。

 機体は見事体勢を立て直し、上へと上がって行く。


 どんどんと加速し、体に掛かる重力も増して行く。それでもみぐりんはレバーを離そうとはせず、世間知らずの彼女とは完全に違う、豪族時代を生きていた戦う姿勢をして、マジモードに入っている。


「ここ‼︎」


 今度は右にレバーを回す。そして再び雲の壁に突撃する。一気に雲を突き抜けると、えらく広い空間に出た。何故かここは球体の空間で、雲に囲まれ、開けた世界。

 その空間の中心に、緑の木々に包まれた島が、迫力十分の佇まい?で浮いていた。


「あれだ‼︎」

「みんな! あれ‼︎」


 鬼童丸が指をさした先、俺たちが煙幕弾を放った、斜め下の場所を見ると、目を疑うことが起きていた。


「……(ドラゴン)だ……」


 そう、我々も知っている、想像上の生物、砂色の龍がそこを翔けていた。そして真珠のような赤い目でこちらを発見し、今にも襲いかかって来そうな勢いを醸し出していた。


「行ってる場合じゃねぇ! 気付かれた。奴は頭がいい‼︎」


 次の時にはすでに龍はスピードを上げこっちに向かって来ていた。


「鬼童丸‼︎」

「仕方ないですね……一寸」

「へ? ちょ……」


 みぐりんとアイコンタクトをとり、いきなり鬼童丸は、俺の背中の服を掴み、開いている窓に向け足を踏み込む。


「おまっ、ちょっ、おま……」

「よいしょぉぉぉぉ」


 鬼童丸はそのまま思いっきり窓から外に放り投げる。



「おまああぁぁぁ⁉︎」


 体が空中に投げ出され、下へと落下して行く。落下場所はあの島、木々達が生い茂る森のような場所だ。


「鬼童丸ぅぅぅぅ⁉︎」

「先に行っててください、後で絶対行きます‼︎」




「だからってぇぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎」



 つづく

最近疲れてて全体的にレベルが下がった感じ。

それでも書いて行きます。

次回もお楽しみに、ほんじゃバーイ。

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