第1話 少年よ欲望を抱け
第1話です。目標は50話くらい(頑張
「ーーあぁぁ、暇だぁぁ」
窓の外の蒼い空に向け、一人叫んでみる。
しかし、やはり聞こえるのはチュンチュンと鳴く鳥たちの声と、後ろで二人の老人が茶をすする音。
「なぁじいちゃんばあちゃん。暇なんだけどさー」
と二人にせがんで見ても、返ってくるのは
「こら一寸や。何事も暇や平和が一番じゃよ」
てなことしかない。
二人の言ってる事も分かるが、此処で過ごして14年。
流石に何も変わらない日々にうんざりしていた。
日中は二人が危ないからと行って外に出れない為、この家の周りの畑や林に行くのは二人が眠る夜しかない。
俺は暇をつぶす為に仕方なく、部屋の本棚に登り、俺がいる日本国の町や風景、しきたりや法則、妖怪の種類や特性、色々なことが書いていあるこの本の中に、何か面白いものを見つけた。
それは、様々な形で後世にその名を馳せた英雄達の名前が書かれていた。
連なる妖怪や人間達の名前の中に、一つ目を惹く名前があった。
『正義の小さな英雄、俵 村児。村を権力で支配していた鬼を退治、村の危機を幾度も救い、その身を弱き者に捧げた』
と彼に関する伝承が書かれていた。
俺は驚いた。同じ『小人』だからではなく、
『その男は非常に"欲深かった"。
彼はなんでも欲望を叶える財宝を、14の内の"7つの大罪"を財宝に懸け、ある場所に隠した。
その財宝を手に入れたければ、その残りの"7つの美徳"を手にし、財宝のありかを知り、雄姿を捧げよ。さすれば、其の者の前に現れるだろう。そしてその財宝は、"小さ子"だけが使えるとされる。』
その真実は俺に衝撃を与えた。
この7つの美徳を集め、この財宝を手に入れる事が出来れば、俺は一生遊んで暮らせると考えたのだ。
俺に生まれて初めて『夢』が出来た。
だとすれば早く出発の準備だ。俺は思い立ったら即行動男なんでね。己の欲望を抑えきれない小人だから。
「じいさんばあさんや、特注で赤の羽織と、履物を作ってくれねぇいかい?」
「かなわないけど、どうしてだい?」
「いや、将来じいさんばあさんに何かあった時の為に、今のうちに色々寸法やら合わせとかないといけないなって」
「まぁ優しい子だねぇ」
「当たり前じゃん(なんつってな)」
それから数日、やっと赤の羽織と、小さな履物が完成し、服は整った。
あとは…
「武器と、町に着くまでの食料と、道具か」
俺は武器に、針を使おうとと思ったが、あえて加工しやすい爪楊枝を選んだ。
俺の部屋はその本棚の下の引き戸の箪笥。
その中で工作する。
爪楊枝の尖っていない方を杖のように支柱を作り、15分もすれば木や草も鉄の様に硬化する特殊な油を秘密でじいさんの作業部屋から盗り、塗りたくる。
その15分間は、俺もよくわからない『魔法の輪ゴム』を腕に、もう一つの輪ゴムを腰に帯革の様に巻き、背中には、お椀の高台を少し丸く擦りへらし、端に穴を開けたお椀の蓋に糸を通す。それを背負う。
魔法の輪ゴムというのは、名の通り魔法がかかっているんじゃないかと思うくらい伸縮自在で強靭な耐久性を持ち、輪ゴムとしては最高のステータスを持つ、縄のような輪ゴム。
とりあえず準備は整った。
今宵、俺は家を出て、とりあえず町を目指す。
いや、夜は夜行性の動物のがウロウロしてる、そんな中に一人歩くなど奴らの格好の的だ。
だからまだ日が出てこない朝4時に出発する事にした。
それまで、最後の日常をゆっくり送ることにしよう。
「ばあさん、今日の晩飯は、飯に味噌汁、いつもの魚でいい。」
「そんなものでいいのかい?」
「うん。久しぶりに、ばあさんの味噌汁を飲みたくなってな」
「そうかい。わかったよ」
と言った通り、ホクホクの白飯と、味噌汁と、焼き魚が食卓に並ぶ。
じいさん、ばあさんが席に座り、三人で食卓を囲んで俺にとっての最後晩餐をする。
いつも変わらない、少々薄いが確かな旨味がある優しい母の味。
俺はその一つ一つをその小さな口でしっかり噛み締め平らげた。
じいさんばあさんは満足したようだ。
そして、二人も時間をかけて食べ終え、三人で手を合わせ、
『ごちそうさま』
と言った。
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夜、草木が眠りにつき、いよいよ虫達がさざめき始めた宵闇の風景を、屋敷の天井の小窓
から、まん丸い月を見上げた後、一人不安と希望と少しの寂しさを抱いて、そっと目を閉じた。
「ーーふわぁぁ。ああ、もうこんな時間か。」
目を開けると、まだ宵闇から少し明るくなった景色の上に、大分下に落ちた月を見て、
今は丁度4時ということがわかった。
小人は早起き。また、自然と共存し生きていく力がある為、気象や自然変化に鋭く、第六感に優れている。
「さぁ。行くか!」
俺は荷物を背負って、後ろで静かに眠っている二人の顔を見つめる。
「ありがとな、ここまで育ててくれて。
これから俺もあんた達も大変になるが、俺は絶対夢叶えてここに帰ってくる。
だから…。
そん時まで、体…大切にしろよな。じゃあ」
そう言ってそのまま地面に降り立った。
降りた先、立ち並ぶ草達の足元には小さな道が。これは前に大勢の虫達に協力させて作った俺専用の草道だ。
俺専用の小さな草の中にある草道を歩く。
この俺が住んでいた屋敷は、多くの妖怪や人達が行き交う大きな町があり、そこからまぁまぁ離れた位置に建っている。
俺はとりあえず町に明日の夜までに行って、そこで雨風凌げる家にお邪魔する。
勿論内緒で。
ふと後ろを振り返るといつもの屋敷が月夜に照らされて、どこか寂しそうに感じた。
だが、止まるわけにはいかない。
俺は必ずこの『欲望』を、『夢』を我が物にして、この退屈に終止符を打つ。
と胸に誓い、小さな少年は、闇の奥へ歩き出した。
そう。全てはここから始まった。
物語はゆっくり、確実に進み出す。
彼を待っていたかのように。
つづく
書くことなし‼︎終わり‼︎
次回もお楽しみに、バーイ。