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第15話 天に聳える島と体の異変

 


 晴天。生ける亡霊と出会って数日が経ったある日のこと。

 俺、若、鬼童丸、みぐりんの四人が見上げた先、


「えぇぇ……なにあれ……」



 大きな黒い物体が、遥か彼方の青の先、雲に半分覆われ、浮いていた。



「ん? ありゃーー‼︎」


 途端、街行く一人の男が空を見上げ、顔色を変え叫ぶ。


浮国島(ふこくじま)だ……‼︎」





「あれは浮国島。約500年前に突如現れた謎の浮島。背中には異様に発達した先端科学技術によって築かれたと思われる都市がある。

 その実態は謎に包まれており、過去何度もその姿を現したが、現れては消え、人類は未だに解明出来ていない。そのため完全なる未知の領域である……だって」


 鬼童丸はボロボロの本をパタッと閉じ、棚に戻す。

 あれに野次馬で店主が留守の間、店がガラ空きだったので本棚に潜る。


「いや、今の時代あんな奇々怪々なものまであるのか。時代の進歩というのは恐ろしいな」


 と腕を組み料理の本を読みながら言う亡霊。聞いた話によると、彼女は500年なんてものじゃなく、生前の時代は、まだ木造建築や仏教の信仰など、天平文化の時代だったらしい。いつの時代の話だ。それだけこの世に未練があるのだろう。だが当の本人は結構現世に楽しそうに過ごしており、全くそのような気配は一つも感じ取れない。


「……行くんでしょ?」


 どうせ、という感じでため息混じりにいう鬼童丸。


「あぁたぁりぃまぁえぇじゃないか〜」

「あー、ですよね〜」

「だってよく考えてみ? 『異様に発達した先端科学技術』だぜ? そんなのどんな大秘宝が待っているか。たまったもんじゃないぜ」


 ニヤケながらに説明した横から、みぐりんが口を出す。


「でも、まだ何も分かってないんだろ? じゃあ私達が想像もできないようなバケモノや、先住民がいるかもだし、そもそもあそこまでどうやって行くんだって話」


「いや、そこはみぐりん、君ぃゴーストなんだからぁそこらへんはちょっと頑張っていただいて……」

「いや無理だからな⁉︎ ゴーストでも無理なものは無理だからな⁉︎」

「ほら、取り憑いて全裸体のおっさんで町中走り回って、出会った髭の生えた老人に、全裸勇者としてあの島の行き方を教えてもらって……」

「なんでだよ‼︎ なんで取り憑いた瞬間全裸で町中走るというアグレッシブな奇行に駆られてんだよ‼︎ てか髭のジジィは誰なんだよ」

「ちなみに老人も全裸です」

「老人も⁉︎」


 なんて話をしていると、若から耳寄りな話を聞く。


「あ、どうやらこの先行ったら、この日本でも技術が進んだ工業団地があるみたいだよ?」

「あ〜、そうか……」

「そこ行ったらなんか行く手がかりが分かるかもしれないし」


 という若の提案に、一同顔を見合わせ、即行動に移す。


 その島は、何もせず、ただじっと雲と共に空中に浮いていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「で、ここへ」

「あの〜、そろそろ縄、外してくんない?」

「ダメ、君達は不法進入したんだから当然の報いだよ」


 今ありのまま起こったことを話すぜ……‼︎ 俺らは若の提案でこの工業団地にやって来たのだが、入った先がどうやらその工業の領地だったらしく、集団の中から知らず知らずに敵地に入り込んだ医療班の如く無力なまま、尋問を受けーーられそうになった所を、彼女らに助けられ、匿ってもらってるって訳だぜ。


「はぁ……」


 とため息を漏らすのは、鋼色の髪で、後ろを団子に括り、灰色の工業作業用帽子を被る、15歳くらいの少女。

 薄い黒のタンクトップ、紺のつなぎを腰に巻き、手には手袋と、見るからに工業女子だ。


「で、なんで来たの? ここ結構有名だから、警備やらが手厚いという事はわかると思うんだけど」

「愚問だね〜。俺は最初からこうなるここを予測して……」

「いや、あんた何も考えてなかっただろ」


 と鬼童丸の的を得たツッコミが炸裂するが、気にせず話す。


「まぁまずは、俺らは旅人ってこと。うん、ただの」

「ふーん、で?」

「そんでね〜、暑いし、暇だし、ああ、鬼童丸の耳たぶ触りてぇ……なんて思ってたら……」

「なんてこと思ってんすかあんた‼︎ 暇か‼︎」

「暇なんだよ‼︎ こちとらお前らのように歩く事も無いし、あの蒸し暑いポーチの中、ただただお前の汗水流している姿を見上げているしか無いんだぞ‼︎ ただのサウナじゃねえか」


「ププッ」


 いま彼女の後ろに隠れたつもりの二人のガキに笑われた気がしたが、ほっとこう。


「で、それでこの街に来た訳なんだけど、突如として、海原の上に謎の巨大空中都市が現れたのだ。これは行くっしーー」

「え⁉︎ いまなんて⁉︎」


 途端、先程の冷静な態度から一変、今度は動揺した彼女の顔が近づいてきた。

 俺は彼女の真剣な眼差しに少し狼狽えながら、もう一度言う。


「え、だ、だから……突如として、海原の上に謎の巨大空中都市が現れたってこと何だけど……」


「テツ‼︎ ちょっと"あの本"持ってきて‼︎‼︎」

「え〜」

「いいから早く!」

「……へいへい〜」


 と坊主頭の少年に使役を遣わせ、渋々嫌な表情を浮かべながら奥の方へ走って行った。

 しばらくして、未だに胸の奥のほとばしるパト何とかが抑えられていない彼女の下へ、先程の少年が、ペラペラの本を持ってきた。


「あんた、あと虫眼鏡も」

「さっき言ってよそれ‼︎」

「早く‼︎」


「ねぇーちゃんこれ〜〜?」

「あ? あ、それちゃう、それ父さんの『素晴らしき大人の世界』ってやつでしょう? んなもん捨てといて、その段の右奥にあるから!」

「さらっと後で父さん悲しませるようなこと言ったよね今ね⁉︎」

「大丈夫、大丈夫。あれ毎日見てるだけで、大して意味ないから」

「だったら尚更なんじゃないすか⁉︎」


 そんなこんなでその本を虫眼鏡で覗き込む。

 薄い字で書かれており、時々見えない所もある。相当古いのだろう。


「『浮国島』。そのまんま何だけど、なんかここの秘密の地下にあったものなんだ。これ秘密だけど、私らはひっそりこれの研究やら何やらやってんの、その地下で」


 彼女が声を潜めて言う。


「え、そんなん俺らに言っても」

「大丈夫だって。久しぶりにやっとあれに近づけるいいチャンスだし、さっきの茶番が出来るのは大抵バカばかりだから」

「根拠とは……」


 そんな彼女につられ、やって来たのはこの工場の地下、タンスの横に、謎の床下の扉、その中は薄暗く、銀の梯子が闇に向かって伸びていた。

 数分梯子を降り続けて行くと、下の方から闇を淡く照らす橙の光が。


「もう少しだよ」


 と彼女が言うもんだから、少しワクワクしながらその光に向かって行く。


「おおお‼︎」


 淡い光の中に入ると、結構な空間が広がっており、周りには多くの工業用具や材料が散らばっていた。

 それより目を惹くのはーー


「紹介しよう! これが私達の努力の結晶‼︎ 『荒志丸(あらしまる)』だ‼︎」


 それは漁船に水色のチタン、高圧アルミニウム合金の板を貼り付け、船橋の屋根は船体全体を覆うほど面積が大きくなっていた。

 船にも天井を付け、上甲板の横に柵を設置し、展望台のようにしており、船橋の上にも同じように二階が設置されている。

 二階はどうやら操縦室らしい。

 後ろの上甲板には、二階一階を繋ぐ階段の塔のようなものがある。

 形的には、アルファベットのLの字の横棒の上に船橋を乗っけたような感じだ。

 ケツには多くの歯車と、羽根が2枚ついている。


「思ったけど、こんな羽根4枚とプロペラだけで飛べんの?」


 と率直な意見を言うと、彼女はふんっと鼻を鳴らし、自身満々に話す。


「舐めてもらっちゃ困るね。この船は池中深くに眠る磁性鉱物の磁力を少しでも拾って、磁力による反発性を利用し、その反応で浮力を得ている、つまりは『磁気浮上式飛行船』だよ」

「そんな技術が?」


 鬼童丸が聞く。


「これに関して、私達は幾度となく思考を巡らしては捨て、巡らしては捨て、 こいつを開発して来た。そしてあの島目指して8年。私達は死ぬ気で勉強して、こんな狭い地下で毎日毎日こいつを私達の『理想』に近づけていった。夢はあの島に行くこと。その為なら死ぬことも厭わない」


 船に手を当て、清々しいほどの真っ直ぐな瞳と意志を口にした彼女。

 もはやその意志に迷いはなく、俺らはどうも言えなくなった。

 それが彼女の『欲望』であり、『夢』だ。


「で、君たちは結局どうするの? 私達は行くよ」


 俺達は顔を見合わせ、全員で息を合わせ返す。


「もちろん‼︎」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「君たちはここに居てくれ。布団と食べるもん持ってくる」


「にしても古いな〜。見てくださいよ、この生地。これなんか、まだ日本の産業革命が起きる前のやつですよきっと」

「なんだ、このブサイクな人の顔を模したような謎の箱は……」

「ああ、それは受話器ですよ。要は電話というやつです」


 巳群は頭を傾け、腕を組む。


「デンワ……?」


 どうやらこの存在を知らないようだ。それもそうか、大昔の人間だからな。


「電話というものは、音声を電話信号に変換させ、相手に声を届けるというものです。まぁ、これを相手も持っていれば、いつでも相手と話せるっていう……」

「なっ、いつでも相手に声を届けられるだと‼︎ そのデンキシンゴウとは、一体どういう原理でそんなことが……恐るべし現代兵器」

「兵器……」



 しばらく巳群と話していると、後ろの方から騒がしい二人の声が2人の声がこっちへ向かって来た。

 見れば一寸と若の姿だった。まるで壮絶なものを見たかのように汗と息を荒げながら、こちらを見る。


 そこで気付く。


「あれ、一寸、若様、身長……伸びました?」

「……」



「伸びました? じゃねぇよ‼︎ しかと見ろよ、俺ら体、でかくなったんだけど⁉︎」


「「「「……」」」」



「黙ってんじゃねぇよ‼︎」


 一旦落ち着こう。


「な、なんてことだ……俺は、小人、小人なんだよ? 等身大の高さになればもう……」

「ただの……人間ですね」

「チクショォォウ」


「まぁ落ち着けよ。何があったのか、ちゃんと話してくれ」


 巳群がなだめる。


「そうだよ。たかが人間大になっただけじゃん」

「お前はいいのか? このまま戻らなかったら、もう一生普通の人間で過ごすんだぞ? 旅だって歩かなければならないし、御手洗団子や三色、その他諸々が三口で終わってしまうんだぞ‼︎」

「それは嫌だ。でもさ、折角人間大になったんだから、楽しまないと。勿体無いし、『戻れないなんてことはない』よ」


「……お前は本当に前向きだなぁ。本当に羨ましいわ」


 一寸の話によると、ある棚の奥に、一際目を惹く綺麗に金で飾られた木箱があったらしい。そんで好奇心のままにその箱を開けると、中には、キラキラ光る黄色の小さな欠けらのようなものがあった。それに二人で手を伸ばすと、謎の発光と煙に包まれ、気付けばこうなっていた、と。

 非常に奇妙なことだ。まるでお伽話にありそうな話。

 若の説得により、先程より精神が安定した一寸は、重いため息を漏らしながら、椅子に座ろうとした時だ。


「ワァッッツ⁉︎」


 急に奇声を上げた一寸を一同、今度はなんだ、という表情でそちらを見る。


 すると、一寸は膝下ズボンの腰辺りに手を入れて、動揺した様子、震えた声で言う。



「なぁみんな、気の所為かな、

 ケツからなんか生えてんだけど」


 彼の手に握られていたのは、ガムの様な、見るからにゴム質の黒い長い物体。

 これはーー



「え……」





『ええええぇぇぇえェェエェェ⁉︎』





 つづく

久々更新。これからも忙しいので、気長に待ってくれたらなと思います。

次回もお楽しみに、ほんじゃバーイ⁇

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