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プロローグ3.

 


 その島は、宙に浮いていた。

 いや、島というより、それ全体を眺めると、大きなクラゲのような形をしていて、その上には古びた都市があった。山にも似た蔓や苔で覆われた大きなクラゲの辺りは小さな岩や島が、縄で縛られ、一緒に移動していた。

 なぜ浮いているのか、それは僕たち浮空人(ふくうじん)の民にも、あまり知られていない。

 浮空人とは文字通り空に浮く人だ。

 浮空人は元々地上の人間ではあったが、何かが起きて地上を離れ、こうしてクラゲの上に都市を構え、呑気に暮らしている。


 ある日、僕が農業の仕事を終え、一息ついていた頃だった。

 茶髪でスレンダーなスーツの男が二人の大柄の男を連れてやって来て、そいつは少々こちらを見下した態度で僕らの畑に入って来た。

 どうやらそいつは政治家のようだ。というのも既に分かりきっていたこと。僕は古臭い新聞の中で見たことある、ある程度世間に批判的で、過激な思想、革新的なその行為により、若い層に絶大な支持がある。

 そいつはうちの畑を舐め回すように見回した後、ふっと笑って帰っていった。

 最初は「ああ、あいつ嫌だな」程度にしか思っていなかった。


 だがそのわずか5年後、そいつの勢いは止まることはなく、ついに選挙にて大総統までに登りつめた。彼の思想はただ一つ。


 それは『富国強兵』。国家の経済を活性化させ、軍事力を強化することだ。

 なぜ今更なのか。もともと地上に別れを告げて、800年は長らく空中で過ごしてきた今更になって、なぜ軍事力を強化する必要があるのか。

 もとよりこの国は、『我々は高貴な一族』という差別にも似た『偏見』があった。それにも理由がある。

 そして、この空中都市の軍事、技術において、どこの国を差し置いても右に出るものは居なかった。町は先端技術で溢れており、人々もそれに縋って生きている。

 大量の武器や戦力もあり、それが浮空人達にこの上ない優越感を感じさせた。


 結局、それらの意向によって、浮空人が住まうこの国は強大な軍事力をもつ『独裁国家』になってゆく。

 では話を戻そう。なぜ今更なのか。

 それは、こちらが他の国を支配し、跪かせる為には、他の国へ侵略、争いを吹っかける必要がある。そうなれば、地上の人間の軍事力との戦いにより、戦争期間が長引く可能性がある。資源は無限ではない。それには莫大な時間と財費が掛かり、食料や武器の導入にも、他国との友好関係による利益の援助が無いと、例え国最大の力を持ってしても崩壊へ向かうのは目に見えている。


 ーーそこで目をつけたのは、東アジアの島国、日本国である。


 まだ大きな軍事力は育っていない日本国と交友を深め、先端技術を学ばせ、こちら側にとっての有利な立場になってもらおうと。


 だが、皆そこで気付く。

 我々は、今まで人間のみが政治を行い、動かすものだと思っていた。

 しかし、我々は忘れていた。


妖怪達(ヤツら)』がいた事に。


 昔から日本国は、人間以外の『人外』の存在が星の数ほどいる事を、完全に視野から外れていた。

 日本国の妖怪達は人間よりも力が強く、はるか昔から人間との争いによりその存在を世に知らしめ、震撼させた者もいる。


 その為、一歩間違えば一触即発、日本国、いや妖怪と人間の全面戦争になってしまう。

 それらの問題もあり、日本国への談話は、時間とリスクを伴う困難な動きだとされ、結局実行しなかった。


 というのがこの国の情勢、独裁国家なるものの現状だった。


 それから10年後、いつまで経っても変わらない現状に、どんどんと上の苛立ちが積もっていき、ついにそれは起きる。時が経つ度に上は農民や土地を粗末に扱うようになっていく。その様に、今度は農民達の怒りや不満が降り積もり、農民や平民が総出で乗り出し、大きな一揆を起こした。

 僕は彼らにやめるように話を持ちかけたが、もう流れには逆らえず、結局僕も一揆に参加させられることになった。


 そのある日の早朝、各個で一斉に暴動が起こる。僕らは奴らがいる島の中心、大きな宮殿に突撃する。


 結果は一揆軍の勝ち。奇跡ながらに勝ったのだ。

 上の者は全員抹殺。僕は渦のような感情を抱きつつも、湧き上がる民衆をただ見ていた。

 そこでふと気付く。


『あいつ』がいないーー‼︎


宮殿のどこにも、彼の姿はなかった。

きっとどこかでのたれ死んでいるか、どこかへ逃げたかだろう。僕はそれが非常に軽率な判断だったことにまだ気づいていなかった。

 安堵の表情を浮かべ、大きな雄叫びを上げる民衆を再び眺める。



 しかし、その雄叫びも、数ヶ月後に悲鳴に変わことになる。


 全員抹殺したと思われた政府の奴らが、しぶとく島の中心の地下で隠れ潜んでいたのだ。そして奴らは、この世の摂理に反する禁忌を侵してしまっていたのだ。


 それは『遺伝子改変』。そのままの意味で、この世界では禁忌とされている生物そのものの遺伝子、DNA、染色体を改造、融合、調合、錬成することであり、世界では取り締まりが厳しく、それも当たり前である。


 奴らは地下の奥深くで、国に楯突く愚民を弾圧する為、人間をベースに、細胞に鳥の羽の遺伝子を融合させることに成功。その力は非常に強く、背中から鷹であったり、烏であったり、(かもめ)であったり、その姿は様々である。

 故に彼らは禁忌の遺伝子を持つ、『天翔ける禁忌の空人』と呼ばれるようになり、それから奴らの反逆の侵略が始まった。


 僕らは国に逆らい、大量殺人と秩序を破った反逆者として、『堕ちた天空の民』と呼ばれ、奴らと空人の圧倒的な武力弾圧にひれ伏し、多大なる影響と迫害を受けた。


 確かにやったのは僕らだ。だが女、子供、老人でさえ、迫害の対象になり、さらなる混乱を招いた。

 つまりはーー僕の家族、妻、子供、叔母、叔父、兄弟、親、いとこでさえも厳しく取り締まれた。


 僕は理不尽だと、家族は関係ないと、殴られようが、蹴り飛ばされようが、必死になって訴えた。


 しかし、結局それが最悪への引き金になり、



 次の日、いとこが殺されたーー


ーー『怒り』が芽生える。


 そのまた次の日、祖父祖母が行方不明にーー


ーー『怒り』が膨らむ。


 そのまたまた次の日、僕の兄弟が天人に追われ転落死ーー


ーー『怒り』が固まる。


 そのまたまたまた次の日、今度は親と妻がーー


ーー『怒り』が狂える。


 そして最後は……


『怒り』は『激情』へ。


 自らが禁忌へ。


『激情』は『殺意』へ。



ーーそう。




 その日が、僕が人間をやめた日だ。



ーー今回は……

 そんな閉ざされた空中都市に、二人の小人と、一人の鬼と、一人の亡霊が、足を踏み入れてしまうお話。

 

やっと更新出来ました‼︎今回から激情編です。なんか世界観が一気に変わる気がしますが、そこらへんはご了承。

次回もお楽しみに、ほんじゃバーイ。

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