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第13話 純粋悪の狂乱者


ーー愛とはなんだろう。


 青く澄みわたる春の空を疎く眺めていると、昨夜の事を思い出す。


 あの出来事によって、間違いなく、そう間違いなく『愛』とは何なのかを考えさせられた。

 あれは間違った愛なのだろうか。いや、もしかしたら、本当は愛自体に間違いはないのかもしれない。

 皆それぞれの生き方や個性があるように、それぞれ違った愛し方がある。

 昨夜の蛇女に関しては、幾ら愛と言えど、流石にあれだけの酷い行いをしていれば、当然罰も当たるであろう。


 『愛』……。それが俺の、唯一理解しえないものだ。


「一寸!」

「あ、あ? 何だし」


 隣の小人、若は、ニッと微笑み、


「お腹すいた」


 というもんだから、菅笠を被り、その小さな角を隠した鬼、鬼童丸に、柏餅を買ってくるよう頼んだ。


「あんたら小人の立場を利用してめんどくさい事を押し付けてませんか?」


 とかなんとか言って店屋に寄って行く。数本買った後、夏のような暑い日差しに嫌気がさし、俺ら小人の特権、ポーチの中に入れるという最大の利益がある。


「やっぱり町は暑いな」

「そだね。熱気が」

「あ゛〜。暑いのはキライだ〜」

「あっせベトベトやん⁉︎ おかしくない? その量」


「あー、あっちぃ〜」


 昔から暑がり屋で、夏という季節は好きではない。

 俺は服に篭った熱を出す為に上の赤い衣を脱ぎ、下の黒和服の袖を巻く。

 すると、ある事に気付く。


「ん? なんだこれ……」


 袖を巻いた左腕の手首から肩にかけて、長く薄い"蛇行跡"があった。

 それは今のところ痛みは感じず、ぐるぐる巻きにされたような薄く赤くなっている部分だけが、異様な存在感を出していた。


「どうしたの?」


 若が少々心配そうに近寄ってくる。俺は妙なその左腕に少し困惑しつつも、彼女にゆっくり見せる。


「この左腕の跡……」

「えぇ……何その跡……どうしたの?」

「いや……俺自身まったく見に覚えが無いんだ。いつ現れたのかも知らないし」

「心配だね。とりあえず何かあったら教えてね? わたしで良ければ力になるから」


 とにっこり笑って言うもんだから、彼女の今まさしくキラキラ光る目を見ると、何故か自分が情けなくなって、照れ臭くなった。


「ああ、本当いいよな。お前のそう言うところ。そんなにうまく笑って生きれたらな〜、"羨ましい"わ」

「あら? 珍しいね」


「そうか? 俺は率直な意見をーーッ‼︎」


 その瞬間、俺の脳髄から何か嫌な鋭感がシビビッと来た。

 隣の彼女も、その何か嫌な予感を感じた様子で、二人目を合わす。

 すぐさまポーチから顔を出し、鬼童丸に声をかける。


「鬼童丸……」

「はい、この気配、町中ですが、何か奥の方から強い気配がします。それも"邪悪"な」

「とりあえず行ってみるか」




 町の奥、大きな噴水がある広場に出ると、何やら町人達が騒がしく噴水の周りを囲むように、集まっていた。


「な、なんの騒ぎだ?」


 鬼童丸は人々の間をすり抜け、人前に出る。


そこにはーー


「……っ⁉︎」


 それは見るも無残な人の屍達。しかもこれまた酷い殺り方だ。

 噴水の近くの椅子に二人、体があらぬ方向に曲がっている男の屍と、その後ろで勢いよく噴き上がる噴水は、多分彼らか他の犠牲者のものだろう、普段の噴水の綺麗な水の柱ではなく、赤い水柱に変わっていた。


「うぅえっ……」


 後ろの方から嗚咽が聞こえる。流石にこれには俺も強烈な不快感を受けざるを得なかった。


「だ、誰がこんな事を……?」


 鬼童丸が小さく呟くと、隣の男が震えた指で噴水の前を指差す。


「あ、彼奴だ……」


 男の指差す先に、高らかに鼻歌を歌いながら赤い水柱を見上げる男が一人。

 その男がこちらを向く、その顔は全面赤、その中央から橙の渦巻模様があるお面で、そのお面から二つ大きな黄色の角が生えていた。

 服は雀色の和服を中に、上から白のどこかの地方で流行っていると言うパーカーを着て、手には黒のグローブ。どこから見ても異質な容姿のその男。


「赤く角の生えたお面……白のパーカーに黒のグローブ……溢れ出る純粋なる憎悪……。そうか‼︎ 奴は……」


 鬼童丸が険しい表情を浮かべ、吐き捨てるように言う。


「秩序と規則を破り、破壊と殺戮を繰り返す狂乱者……『寸鉄殺人鬼(すんてつさつじんき)』の……帆雲(ほぐも) 時影(しえい)……‼︎‼︎」


 その次の瞬間だった。鬼童丸が放った後、男の右側の野次馬達の中から一人の小さな子供が飛び出す。彼の震える手には少し錆びついた包丁が握られていた。

 彼は男に向け今にも途切れそうな細い声を上げる。


「と、父さんを……よくも……」


 あの死体は彼の父方だったのか。その小さな体から、皮肉な憎悪の念が伝わり、あたりを緊迫させる。

 彼は男に向け包丁を引き、刺し掛かる。


「よくも‼︎」

「やめろ少年ーー」





 そう叫んだ刹那、彼の動きが止まり、何かが刺さる音が響き渡る。


「え……?」




「……‼︎」


 彼の左胸に視線が集まる。

 そう、刺さったのは男ではなく、彼がさっきまで持っていた、包丁だった。


「なんで……」


 膝から倒れ、地面は赤く染まる。俺は怒りと悲しみの目で彼を見つめる。

 その後彼の光を失った目から、一粒の光る水滴が頬を伝い落ちていく。





「何してんだてめええぇェええェ‼︎」

「ーーッ⁉︎ 一寸‼︎」


 気が付けば無意識に体が動いていた。左腕の魔ゴムを、こちらを向いた男のお面に引っ掛け、閃光のように男に急接近する。


「ーーフッ‼︎」


 見事に俺の渾身ドロップキックが炸裂した。男は頭から後ろに倒れーー





「おー、イタイイタイ」


なかった。上半身は後ろに曲がっているが、すぐに立ったまま上半身を起こす。


「なっ⁉︎」


 まったく効いていないのを察知し、後方へ下がる。


「いや〜、これは私も予想外。まさかこんなところで、いつぞやの『懐かしの姿』を再び見ようとはね」


 こちらを見下し、そう言う男。俺は爪楊枝を前に構える。


「お前はなんだ……? なぜこんな事を」

「決まっているじゃないか。私の『理想』を否定しからさ」

「理想……?」

「知らないのかい?私の『理想』は……

"完全なる人間どもの隔離、支配"だよ。

今の人間どもは妖怪を毛嫌いし、ましてやこのような汚い人間どもの巣など作って幸せそうにしている。だがその幸せも、元は妖怪のお陰であるというのに、この様だ。だから図に乗り過ぎた人間どもは、始末しなければね……‼︎‼︎」


 完全なる悪。溢れ出る憎悪の意。歪みの感情だ。


「いやしかし、油断していたとはいえ、まさか一撃食らうとは。なかなかやるね君」

「……」

「だがね、君では私を殺れないよ。その体では、君は十分『弱い』。弱すぎる。足元にも及ばない。だからここで殺してしまいたいが、生憎それにも値しない。そうだな……君には頑張って貰わないとね。私を止める『救世主』になるように」


 と言って横を通り過ぎていく。男の歩く音が止まった時、男が後方で話しかける。


「そうだ。君、名はなんと言う?」



「御伽……一寸」


「御伽……オトギ君……。ではまた何処かで会おう、オトギ君! 次会う時までには、十分私を止めれるようにせいぜい頑張るんだね。」


 男は黙って後ろで見守っていた鬼童丸と若の横を通り過ぎ、


「次に会った時は容赦しない。男だろうが女だろうが、私の欲望の邪魔をするものはなんであろうとーー『殺す』」


 と言って人の波に消えていった。






「ったく。世の中イかれた奴も居たもんだぜ」

「確かに彼はイかれていますが、巷では、かつて数多の妖怪を従えていた有力な武将の頭首だったことで有名らしいです。そんで多分彼がああなってしまったのも、全部人間達の所為だと。一寸、聞いていましたか? 帆雲は初めてあなたを見て『懐かしの姿』と言ったのを」

「ああ、聞いていた。俺を懐かしの姿と言ったことからして、少なくとも小人について何か関わっていた……」

「そして彼はあなたを殺しはせず、あなたに『救世主』になれと言った所を考えると、やはり小人に関して、少し違う感情を抱いている……」


「本当、思想も私服も救済不可能だぜ……」


 町外れのベンチに座り語り合う。


「……」


 隣の彼女は、先ほどの光景が相当記憶に残ったのか、いつもの彼女からは想像もつかないような暗い表情になっていた。

 それもそうだ。あんな地獄を見せられれば、普通の少女には相当精神にくる。

 ふと、昨夜のあの死体だらけの部屋を思い出す。


(いやなもんまた見ちゃったな……)


 俺は優しく彼女に菅笠を頭に被せ、


「よし、行こうか。俺らも止まってはいられないし」


 立ち上がり、蹴伸びする。隣の彼女を見ると、少し微笑み返して、


「うん」


と頷いた。




つづく

来週からめっちゃ忙しくなるのであまり更新出来ません。ごめんなさい。次回もお楽しみにほんじゃバーイ。

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