第11話 愛故の過ち
修学旅行から帰り、早く書きたかったのもあり、しんどくて全く頭が回らないのもありました。
ーー「あれまぁ?」
「まさかあの小鬼の他に二匹ネズミが入り込んでいたとはねぇ」
と嫌な笑みを浮かべて見下すそいつは、廊下の光を浴びて白く光る髪に、大きなしわ。
そいつは仲居さんだったのだが、所々蛇の鱗のようなものが顔にあった。
そして俺の目に留まったのは、そいつの右手に持っていた白光りする鉈だった。
「チッ、クソ!」
俺は魔ゴムで後方に跳ぶ。
「どこに行くんだい?」
そいつは左腕を伸ばしながら近づいてきた。俺は空中で反射的に忍び寄る手を潜り抜け、左腕の上に着地。
その時、俺の右側の方から風を切る音が聞こえた。俺はすかさず前方に跳び回避したのだが、事を理解をした時には衝撃が全身を襲う。
「コイツ……左腕をッ……‼︎」
そう。その風を切る音とは間違いなくそいつが右手の鉈を振り下ろした音で、俺は左腕に居たのだから、つまり、自ら自分の左腕を切ったのだ。
しかも、その行為から自分の体を犠牲にしてまで俺を本気で殺りに来てる事が分かる。
それは俺に強烈な不快感と恐怖、罪悪感を覚えさせた。
(こいつやべぇ……‼︎)
と感じた時だった。そいつの後ろにまで跳んでいた俺の体を、冷たいすべすべしたものがまとわりつく。
「ッーーしまった‼︎」
それを見ると緑の蛇の尾だった。現状的には捕まったという事。
「おい離せ‼︎」
俺は必死に爪楊枝を刺し、抵抗するが、その度に尾が巻きつける力が強くなる。
「本当にすばしっこいクソネズミだね」
「へっ……本当に化け物なクソババァだなーーア゛アッ」
直後下半身に激しく圧迫され激痛が襲う。
「口を慎め。お前はいま、絶対絶命のピンチなんだ」
と冷たい目線をぶつけ、蛇のように舌舐めずりするように吟味するそいつは、暫く俺を見て何を思ったか、尾で巻きつけたまま廊下を歩いて行く。
そして、ある部屋の襖の前まできたそいつは膝をつき、
「旦那様。お初でございます。此度は珍しい珍味なものを手に入れましたので、ご報告しに来ました」
と話し、襖を開ける。
「……そうかい。どれ、その珍味なものとは……」
「ーー‼︎」
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スッと目を開けると、今起きたのか、目をパチクリする若様がいた。
見渡すと、部屋には自分と彼女しかいない。
「あれ、一寸は?」
「んぅ……おかしいですね。さっきまで居たのに」
すると、若様は小さく開いたままの襖に近づき、廊下を覗く。
「あっち……」
と彼女の声の方向を見ると、その先の廊下は微妙に明るかった。その先から、何かを感じると言うのだ。
「何か起こっているようですね……」
「行こう‼︎」
結構深刻な状況なのにそんな気配を一切感じさせないその無邪気さが彼女の良さだろう。
「……全く、本当元気ですよね」
「寝たからね‼︎」
「どこかの狩人ですか?」
「小人だよ‼︎」
「知ってますよ‼︎もう頼りにしてますからね」
「ツンデレってやつか……」
「ん?行きましょう」
と話し、暗い廊下を歩いて行った。
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ーー「これはこれは……珍しい。あの小人族の"生き残り"じゃないか」
「"生き残り"……?」
その俺の反応を見て、薄ら笑いをこぼす20代後半ぐらいの眼鏡をかけた茶毛の男。
「此奴どう致しましょう」
彼は顎に手を当て、暫く考えた後、
「そうだな、とりあえずは……」
と言い放った瞬間、ガチャンという大きな檻が閉まる音と共に、俺の体は冷たい地面に叩きつけられていた。
ゆっくり起き上がり、辺りを見ると、普段は鳥などが飼育されている鳥籠のようなのだが、何故だか鳥はおろか、鳥籠には何の装飾も施されていなかった。
外で二人が何やらしゃべっている。耳を澄まし聞いてみる。
「……それでは、私は残りの二匹を探して参ります。"あの方"が戻られましたら、気にせずお過ごしください」
「ああ、頼むよ。」
「あ、それとーー」
「なんだい?」
「くれぐれも此奴に慈悲を与えないでください。此奴ら小人族めは、相当頭が良く、かつ運動能力は高いとされています」
「……そうかい。わかった」
その後、そいつはここを後にし、俺とその男だけの空間になった。
「……」
「……」
暫くの沈黙の後、その男は眼鏡を上げ、こちらを見る。
「君、なぜ此処に来た?」
「……来たんじゃなくて、"迷い込んだ"んだよ」
「ならば早急に此処を立ち去った方がいい。此処から出してやるから」
「……そのまえに一つ聞いていいか?」
「……なんだい?」
「お前は『人間』か?」
と聞くと、彼は顔色一つ変えず
「……僕は『人間』だよ」
直後、俺を掌に乗せた瞬間だった。掌に乗った俺の猛烈な予感と、横の廊下の奥の方から大きな足音。今にもこちらに走り込んでくるぐらいの勢いで来ている事が分かる。
彼は咄嗟の判断で座っていた椅子、彼の腰の影に隠した。
激しい足音で、部屋の襖を一気に開け、入って来たのは、欲望に満ちた淫らな声の女性。
女はそろそろと彼に近づき、彼の頬に手を当て、思いっきり艶めかしい口調に変わる。
「ああぁ、あなた……今日も素敵……」
「僕もだよ。君も綺麗だ」
なんて会話が数分続き、そろそろ勘弁してくれと思っていた時、グッドタイミングで大きな物音がどこかで聞こえた。
女はその音に反応し、
「じゃあなた、行ってくるわね」
と言い、彼の頬にキスをして去って行った。
「ったく、勘弁してくれよ。お前らの睦み合いなんて見たかねぇよ」
「それは見苦しい所をお見せしたね。君ももう早く此処から逃げたほうがいい。彼女にバレれば絶対に殺される」
「お前は嫌じゃないのか?こんな化け物だらけの中に居て」
「それは僕も人間だから嫌に決まっている。こんなのは間違っている」
「じゃなんでーーッ⁉︎」
声を荒げた俺の目に飛び込んだのは、それはもう『残酷』としか言えない光景だった。
彼は膝に掛かっている毛布を上げる。
彼の膝から下は、無かった。
そう、切断されていたのだ。その足の切断跡が、妙に痛々しかった。
「……この足じゃ逃げたくても逃げられない」
「……」
「これが愛の結晶なんだよ。僕と彼女の」
「そんなのは……」
「だからねーー」
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「いや、本当嫌な予感がする。急ごう」
と言って若様が頭の上で指を指すので、長く冷たい廊下を走り出す。
廊下に進むたびに何かにどんどん入っていくような感覚がした。
それが何なのかはわからないが、とにかく何か起きるかは分からないので、精神を集中させ走る。
進むたびに口数も減り、それが逆に集中をさせてくれた。
だが勝負は突然に起きる。
「へ?」
突如彼女が情けない声を出す。奥の廊下の方をみると、上の照明が点滅し、その下に何者かの影。しかもなんか持ってる。
「あれ……やばい奴っすよね」
「うん。非常にめんどくさい奴や」
すると、そいつがゆっくり近づいて来た。俺らは全身の神経を研ぎ澄ませ、身構える。
と瞬間、そいつはいきなり凄い勢いで走ってくる。
「来る……‼︎」
俺と彼女は完全戦闘モードに入る。
「かかって来いやぁぁぁっ‼︎」
つづく
予定ではプロローグ含め3話程度で済ませたかったけどオーバーの4話投稿入ります。
次回もお楽しみにほんじゃバーイ⁇