プロローグ2.
『羨望』編でーす。
ーーある町外れ、ある小さな集落に、龍の鱗を持つ緑色の大蛇がいた。
それは大変世にも珍しい鱗を持ち、周りから神の使いとして、駆除の対象にならなかった。
ある日、何も変わらない日々の集落の人々を木の上から見下ろす大蛇は、 その幸せそうな人々の顔を見て心底退屈していた。
別にその大蛇自身、この集落や人々に何の未練や情けなぞ無く、どうでもいいと思っていた。
そんな大蛇を変えたのは、行きとし行ける人々のみが持つ本能、『恋』だった。
そう、大蛇は恋をしたのだ。
相手は参拝中の旅人、美しい美形の顔立ちの僧を一目見た時、蛇でありながら人になった。
大蛇はその僧に一目惚れし、好意を持って近づくのだが、彼はその蛇を見て、「この毒蛇め。何をもって我が前にやって来た」と言い放ち、持っていた杖でその場から追い払った。
その僧の周りには、彼に似合うほどの女が集まっていた。
傷だらけでその大蛇はその事を悔やみ、いずれ気づく。
ーーこの体では駄目であるなら、彼が求めるほどの『人になればいい』
と。
そう考えた大蛇は、通りすがりの旅女を襲い、
殺した。
羨ましく思い、欲した。人間になりたかった。だから女を喰らい、その肉、肌、形質を取り込み、美しい女、人の形を成したのだ。
その夜、集落の宿を借りたその僧に、女がてらに夜這いをかけようとする。しかし、その僧は生憎参拝中の身である為、そのように来られても困る、またいつか会いに来るとはぐらかされてしまう。
だから待った。いつか彼が戻って来ると信じて、会いたいという欲を必死に抑え、ただひたすらに待った。
騙されているとも知らず。
それから幾年経ち、それをすっかり忘れた僧は参拝を終え、大層な美人を連れて町を下って来た。それを見た彼女は、彼を追い掛け、話しかけるも、また軽くはぐらかされてしまい、その女と手を繋ぎ歩いて行ってしまった。
何故、何故故に私では駄目なのか。私はあの女よりも妖艶で、もてなすこともあの女よりもうまく出来る筈だ。なのに何故ーー
と嘆いた時だった。彼女の内なる『欲望』が彼女に囁く。
ーー我が身が駄目であるなら、いっそあの女になればいい。
と思い立った。
彼女はそれが過ちだと知らず、ただ妬ましく、羨ましかった。
その二人が下り、近くの厠に寄りたいと女が言うので、僧はその間に近くの団子屋に寄って行った。
その女が厠に入った時だ。屋根のある厠の天井から何かのとてつもない気配を感じた。
恐る恐る上を向く。
そこにはーー
「ひっ……」
大きな大蛇が人一人飲み込めるほどの口を広げ、こっちに向かってじわじわと近づいて来ていた。
ダラァと伸びる気味悪い舌、鋭く尖り人の体など簡単に貫ける牙。
今にも自分を喰らうつもりだということに気づいたその女は、なす術なく次の瞬間には、跡形もなくその大蛇の血肉になった。
その場に残されたのは彼女の悲鳴と血痕だけ。
『嫉妬』が満たされていく。
その大蛇はすぐにその女に姿をそっくり変え、何もなかったかのように僧に近づき、嘘の体で僧と手を繋ぎ、青空の下の山道を歩いて行った。
ーー今回は……
そんな狂気の『愛』 が棲まう廃旅館に、二人の小人と、一人の鬼が立ち入ってしまうお話。
つづく
今回から羨望編です。
今回は3話で終われるかな?わからんでぇ。
次回もお楽しみに、ほんじゃバーイ!