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第9話 奔放な旅人

今回はちょっと長いです。明日も更新できるかな?


夕。

日が下る薄青の空の下、灰と黒が混じった長めの髪の上、紺の半袖和服の肩に乗り、もみあげを掴み話す小人。

に纏わり付かれた小さな角が生えた少年は、

何も脅威が無くなった森を歩いていた。


「しかし、なぜ故お共に?」

「あ、ああ……まぁ、面白そうだから?」


(それもあるけど……俺はまだこの人達を完全に信じてはいない。)


そうだ。

信用してはいけない。

信用すればまたいつか貶める。貶めてしまう。また誰かが犠牲になって、足枷になる。



「トラブルメーカーって奴?」

「うぅん、いつもトラブルを起こしているって訳ではないんですが、あまりにもあの日常が暇だったので」


「暇人は思考は似通うのが定番だな……」

「悲しい性ですね……」




「ーーさて」



「町だ」


薄暗い森の闇から体が橙の光に照らされ、その先に見えたのは奥に大きな城が建つ城下町だった。


今まさに団子屋や茶屋などの店屋が少しずつ閉店の準備をしていた所で、まだ町は人で賑わっている。


「ーーあっ⁉︎」


といきなり鬼童丸が声をあげたので、つい肩がびくつく。


「あっ⁉︎なーにどうしたの?」

「忘れた……」

「な、何を……?」

「あなた達と僕の角を隠す帽子、忘れました‼︎」

「……」


それはいい知らせと悪い知らせかと問われれば、もちろん悪い知らせの方だろう。


何故なら俺らは小人と鬼。

言うなれば『人外』の輩なのだ。


そんな輩があんな生身の人間が蔓延る町に入れば何をされるか分からない。


蜂たちのテリトリーにわざと蝶が入り込む様なものだ。


「……」

「……」

「……」

「…よし、もうこのままで行こう」

「おま、マジで言ってるの?」

「仕方ないじゃんか。隠すもんがないだったらもういっそのことありのままの自分を曝け出して堂々と歩けばいいだけのことよ」

「致し方ないですね……」


そして彼らは歩き出す。

行き交う人々の中、人目など気にせず歩いていく。

気がつけば、周りの人間達がこちらを見て何かヒソヒソ話しているのが目につく。

いくら人外と言えど、この世界で妖怪などに関わらない人間などいないのだから、そこまで嫌わなくてもいいのに。


過ぎ行く人々が避けていく。

たった小さな二つの角だけで、たった小さな身体だけで。


さっきから一言も発しない隣の鬼は、ただただ、前だけ向いて歩いていた。


そんな彼が野次馬のような騒がしい民衆の横を通った時だ。

その時その民衆から歓声が上がり、目を向けると、視界に緑の瓶がこっちに向かって飛んできていた。


「ーーうえぇい⁉︎」


俺が叫んだ時、その声に鬼童丸は気づいたのか、飛んでくる瓶を見るなり


「ーーッン‼︎」


と左手で叩き割る。

っとかっこよく決めたつもりだったが、どうやら水のような液体が入っていたらしく、彼が割った勢いで、そのまま中の液体を諸に被ってしまった。


観衆が音とビシャビシャな俺らに視線を向ける。


「っぶね‼︎」


と濡れた瞬間に若と鬼童丸が腰につけていたポーチの中にダイビング。


すると、ポーチの中、息を潜めていると、大きな声と共にそのポーチ全体が大きく揺れる。

そのポーチの中でギュウギュウになって転がりまくる。

直後、やっと揺れが収まったと思った矢先、次に聞こえたのはズドンッという激突音と、


「フオッ⁉︎」


という男の声。

その声の後、人がぞろぞろと歩いてくる足音と、複数人の大きな声が聞こえたと思いきや、次はいかにも親切そうな青年の声と鬼童丸の声。


声だけでは何も理解出来ないのだが、鬼童丸が安全だと確認するまで迂闊に顔を出せない状態だ。

耳を澄ましてみると、どうやらさっきまでの騒がしい民衆の声やら音が無くなり、何処かに移動した様だ。


「あー……吐くかと思ったわ」

「わたし見てなかったんだけど、なんでそんな濡れてんの⁉︎」

「いや、よく分からんが、鬼童丸が飛んできた瓶を割ったらこの通りよ。てか若はなんでそんなに濡れて無いんだよ」

「あん時は、わたし右肩に〜居たからね。仕方ないない」


とメチャドヤりながら言ってきたのでムカつきました。

げんこつを食らわしてやったがな!






それからしばらくして、移動の揺れが完全に止まった時、鬼童丸がポーチを開け、


「もう大丈夫ですよ、出てきても」


俺と若は鬼童丸の手によじ登り、掌の上に立つ。

すると、その先に、目を丸くし、驚きと興味津々な表情が混じった青髪の青年がいた。


「これは……」

「見ての通り小人です」

「いや〜、今世でお目にかかれるとは。光栄だ」

「……?」

「あ、申し遅れたかな。僕は川口(かわぐち) 彗戒(けいかい)と申します。旅人として日本各地を回ってる途中です。そしてこの子が…」


彼が視線を向けた先に、未表情、無言を貫く桜色の髪に赤のカチューシャをして、フードのようなものがついた白のレインコートと赤のスカートを履いた非常に少女らしい服装の女の子が、三色団子を黙々と食べていた。


「この子は僕の相棒の塚原(つかはら) 千代里(ちより)と言います。まぁ、彼女はこんな感じですけど、仲良くしてやって下さい」


と彼が言った後、こちらも挨拶や自己紹介、一部始終を話し、一緒に三色団子を食べながら今の世相について語り合っていた。


「じ〜〜〜」

「……?」

「若様、何もっと欲しそうな目ェして見てんすかちょっと困ってるじゃないすか!」

「……」


とヒソヒソと話す。


「なんでよいいじゃない。一個だけだから」

「それあなた絶対気づけば二個目行ってるやつじゃないすか」

「うるさいなぁ。食欲がもうどうにも止まんねーんだよーー」


「ーーあの…」








「ーーにしても、さっき言ってた『光栄だ』とはどういう意味だ?」


「……貴方は知ってますか?この日本国における小人の『役割(ありかた)』を」

「いや、全くと行っていいほど」


すると、彼はふむふむと腕を組み頷き、少し沈黙が続いた後、星が出始めた町の空を見上げて話し出した。


「じゃあ僕が知ってる限りのこと、全部話しましょう。良いですか?」


小さく頷く。


「ーー先ずは日本国にいつから小人族が存在し、何をして、何をされてきたか、ですね。

まぁこれは色々な諸説がありますが、基本的に小人族は、人間がある程度知識を得て、それぞれ独特な文化を持ち、小さな町が点々として存在していたころに、"突如"として人々の前に現れたとされます。

その時から小人は何か"不思議な力"を持っていて、人々に『希望』と『絶望』を与えたとも言います。だから人々に崇め奉られ、神となったのが『少彦名命神(スクナビコナカミ)』と言われる国造りの神であり、彼が現れた日から体が異様に小さい小人が現れるようになった。しかしやがて妖怪が現れるようになってからは、人間達は彼らの力に恐れをなし、少彦名命神に助けを求めるが、彼は悪童的で欲深かった為に、妖怪に『希望』を、人間に『絶望』を均等に与えた。それからが妖怪の時代の幕開け。関東の殆どの妖怪が人や土地を支配したという時代。」

「そんな時代が……」

「あとは解ると思いますが……」

「ああ、その後から『妖怪と人間の戦争』が起きるのか」

「そうです。それがあって、今の現状、強い力を持つ小人や妖怪達が、弱く何の力も持たない貧弱な人間達にとって、どれ程脅威的で差別や憎悪の対象で不遇なのかが、過去を見れば解る。だから……」



「……『あなた達は、負けないで下さいね』」


と菅笠を深く被り、お辞儀した。


「……?ああ、負けないよ」


と返すと、彗は優しく微笑んで立ち上がる。


「よし、じゃあ今日は僕が送って行きますよ。この街を出るまで」

「お、恩にきるぜ」


「おい鬼童丸離せ!この緑はわたしが食べるんだー‼︎」

「あなたそう言ってさりげなく白も食ってたし、言ってることと全く違うじゃないすか‼︎」

「……」


「お前ら落ち着けって。たかだか団子一個ぐらい、またいつか食べれるって」

「いやでもこの人一個だけって言って二個目も食おうとしてるんですよ⁉︎」

「違うもーん。わたしの一個は二個だもーん」

「嘘をつくな!」

「何だとっ⁉︎女の嘘は許すのが男っていうものじゃないのか⁉︎」


「おいお前らもういいから早く来い。二人が送ってくれるそうだから」


「はいはーい。ならばじゃんけんで、正式に決めようではありませんか」

「よし来た。公平に決めようじゃない」

「あなたのその歪んだ思想を僕の正義(ジャスティス)でぶち壊す‼︎‼︎」


「じゃーんけーんーー」


「ポン‼︎」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「いやにしても綺麗だな……」


俺らは彗と千代里に連れられ、今舟の上。

どうやら舟下りで町を出るようだ。


その舟の上から見る景色は、夜の暗闇を照らす両側の家と灯台の橙の光が反射し、水面に揺れる木の葉達、月を隠す木々達を柑子色に染め、非常に絶佳な景色だった。


「舟下りは初めてかな?」

「ああ……初めてだ」

「そうですか。僕はもう慣れました。なんせ何十回も乗ってますからね。最初の方はかなり酔いましたけど」


とドヤりながら話す彼にふとした疑問を問いかける。


「なぁ、なんでお前は、旅をしているんだ?」

「……それはですね…。僕は昔からよくフラフラ勝手にどっか行って、その度に何かを拾って来たり、何かを連れて来たりしてらしんです。だから周りから君は『自由奔放』な子だって言われたりしてたんですけど、実はその時から目に見えてるものすべてが不思議で、知りたくてたまらなかったんです。ですが今の自分には、もうそんなこと到底出来ません」

「……どうして?」


「…変わらないものなんかない。時は人を変えるんですよ。いつの時代だって。結局社会の荒波に飲まれ、夢は潰えたんですが、ある時現れた旅人を見て酷く憧れましてね。

まぁ何が言いたいのかと言うと……

『自由』が好きなんですよ。探究心、好奇心という名の『欲望』は、時が経ち社会の現実に押し潰されても、まだこの心の中に、深く根を張って離れないものなんですよ」


彼が放ったその言葉は、彼のこれまでの生い立ちも、欲望も、経験から得た産物。

苦労して来た分だけの価値がある。

きっと彼らはずっと色々な所を回って、色々なものを見て、感じて来たのだろう。


「だから僕は僕よりも過酷なあの子に、世界の『希望』を見せに行く事が今の夢です」


と言って後ろでワチャワチャしている三人を見て、小さく呟いた。


「そうか、じゃまたいつかどこかで会うかもな」

「そうですね」

「よし、じゃあーー」


俺は彼に向けて右腕の拳を上げる。それを見た彼は気づいたのかほのかに笑い、


「これは約束、ですか?」

「違うな。これは……『旅人の掟』だ」


そして二人の拳をコンッと合わせ、





「「『旅人よ、何処までも自由であれ』」」




と言った。



つづく

はい、今回ちと都合により遅くなりましたが、3日に1回くらいの更新になりそうです。

次回もお楽しみにほんじゃバーイ。

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