第8話 『刺激』か『退屈』か
やめられないや〜。
止まんない。叫ぶほどに高鳴る〜。痛いくらいがちょうどいい、痛いくらいが良いや。
終わりがないや〜。たまんない。果てしないなこのリズム。
(ドMではありません。)
「はい……?」
「嫌だから、今日お前に世話になるって言ってんの」
その予想外の言葉に終始固まる。
俺は今思っている事をそのまま口に出す。
「な、なんでですか……?」
「なんでって、俺らは旅人。旅人にとって宿屋というのは、体を休めると同時に心にも永遠の安らぎを与えるもの……」
「要は、旅人にとって宿屋は必要だという事です。」
と分かりやすくまとめてくれたのだが、そう言ってもなぜか納得出来なかった。
だが今の状況で断れないのは当然、断れば先程の熊のようになる可能性もある。
それにこの小人らはバカそうだし、このまま上手く利用して…。
「あ、はい分かりました。じゃあーー」
「よし、頼んだ」
「イェーイ、久しぶりの"乗り物"だー」
「乗り物って……」
そう言って俺の体によじ登り、赤い方は肩に、若緑の方は頭に座り、確かに彼らからすれば便利な"乗り物"だろう。
そのまま二人を我が家の前まで運ぶ。
「いや〜ボロいな〜」
「悪かったですね……!一人で住むにゃあこれが良いんですよ」
二人を我が家の机に置いて、置いておいた煎餅を食べながら話す。
「ああ、そういえばあなた達はなぜ旅を?
二人は顔合わせ、赤い方が語り出す。
「俺はなーー」
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「なるほどそれでこんなとこまで…」
「いや〜旅はいいぞ。何故なら世間体に囚われず自由気ままにのんびり、『ありのまま』の自分を見つける事が出来るからな」
「『ありのまま』……」
『ありのまま』。その言葉にいつか惹かれた事がある。
ありのまま、自由気ままに、誰にも縛られず生きれたらどれだけ幸せなことか。
だが世間は許さない。生命は平等で、誰でも救える、そんな世界は存在しない。
いつだって上に立つのは『強者』だけ。
『強者』はいつも奪って行く。
愛したものも、大好きだった場所も、命も、全てを弱者から奪って行く。
あの日だってーー
「ーーおい、どした?」
「あ……いやなんでもないです……」
(ああ、今ボーッとしていたのか。)
「…そういや名前言ってなかったな。俺は御伽 一寸。見ての通りの小人。でこっちは…」
「わたしは小末名 若宮。みんなから若って呼ばれてるわ。貴族生まれの小人。宜しく」
「ああ、宜しく。一寸、若様」
「なんで皆こいつだけ様づけなんだよ」
「いや、なんか彼女は『姫』とか『お嬢様』ってな感じがしますからね」
「いや〜照れちゃうな〜もう〜」
「デレデレしてんじゃないよ」
「ーーで‼︎」
と小さい手を叩き、自信有り気な表情でこちらを見据え、
「単刀直入に言う!俺は何故かお前を気に入った‼︎とりあえず俺としては、もう一人小人ではない奴をお共にしたかった。そこでだ、お前が旅のお共にもしなってくれたら、俺はお前を本気で信頼して、退屈のない日常を約束する。全てはお前次第だ。」
「……」
彼は真っ直ぐ、自分の心に問いかけるように俺の目を見て言う。
その眩しい目をまともに見れず、視線を下に移す。
何も変わらない、『退屈』で幸せな日常か、
自由気ままに、あてもない『刺激的』な旅。
今の現状に満足してはいない。
だが求めようとも思わない。
「どうだ?」
「僕は……」
「分かりました。僕を、あなたの旅のお共に」
理由は無い。ただ少し面白そうだと思っただけ。
この人たちについていけば、なにか変わるかもしれない。
すると、その小人は無邪気に笑って、
「おう。頼んだぜ。鬼童丸‼︎」
とそう言った。
つづく
今回は短いです。
多分次くらい続いて、また7つの大罪編やりたいと思います。
次回もお楽しみにほんじゃバーイ。