無理やりのパートナー 3
〜前回のあらすじを1文で〜
ぶっ倒れているペアの男を伯爵邸で寝かせた。
「よぉ。世話になったな。」
男を連れてきた翌日の朝、男の様子を見に来たら、彼はもうベットから起き上がっていて食事をとっていた。食事はメイドさんに頼んだらしい。
・・って、全身の泥を落とす前に御飯!? ・・ま、いっか。それだけ辛かったんだろう。
「・・・そういえば、名前、聞いていなかったね。」
この男をペアにするにも、まず、身分証明書の発行とこの汚い身なりをどうにかしなきゃならないので、伯爵の力を不承不承借りることにする。昨日、そう話し合った。
伯爵にこの人とペアをとろうと思うんだけどと伝えたら、伯爵は寝ている男を一瞥して、ま、ペアとしてはいいんじゃない、と言ってくれた。・・伯爵があっさり認めるなんて珍しい。ただ、それでこの男の名前は?という伯爵の質問に答えられなかった。
・・・あ、聞くの忘れていた。
「シン。こっちからも聞いていいか?」
シンと言った汚い男は、パンを食べながら答えた。
「リースっていう・・」
「・・まったく、男の部屋に一人で入るなと昨晩言っておいたのに、リースってきたら・・。」
話の途中背後に現れた伯爵によって途切れられた。伯爵は半目でこっちを見ていた。
・・・ペアになる人の部屋に様子を見に来て悪いのか!?
ちなみに、伯爵の髪は元に戻した。写真集の腹いせでやったアフロを平気で受け入れられても嫌だ・・。それに、私が直さないといつまでもアフロのままだろう。はぁー、このめんどくさがりは・・。
伯爵はシンを一瞥して「汚い。」と言って指を鳴らしたら、よくタッグを組む仲の良いメイドさん3人組・心の中の自称メイドトリオが現れた。
あまりの早い登場に戸惑うシンは彼女らに囲まれて、食事中にもかかわらず問答無用で化粧室に連れてかれた・・。あ、かわいそうな展開かも?
「まあ、お汚れがひどいこと。それではまずお風呂に・・」
閉められた化粧室からわずかの沈黙の時間のあと、シンらしき悲鳴が聞こえた。
「ちょっ、待っ、そこはいいから!!自分でやるから!!」
「いいから大人しくなさって!」
「まあ、可愛らしい反応だこと!」
「私たちに任せて!」
「やーめーろーーーー!! リース! 誰かーー、 助けてーーーーーー!!!」
・・・賑やかだ。けど、名を呼んで助けを求めてる・・。
心配し化粧室に行こうとしたら、伯爵が手で制止した。
見るものではない、と。
・・・そうだね・・・ごめん、シン。頑張れ・・・。
伯爵とお茶をしてしばらくすると、ニコニコと満足そうなメイドトリオが出てきた。
「楽しい原石磨きでした。」
「まさか、泥の中からサファイアが出てくるなんて。」
「街中の女性がこの宝石を求めて争うでしょうね。」
なに言っているんだろ?
「・・これでいいのか?」
「あっ・・・」
・・え?!うそ・・。
化粧室から出てきた男は、もっさりした汚い長身の男性ではなく、きりっとした青年だった。ボサボサだった髪が、左側の分け目から整えられた短髪より少し長めの青色の髪になっていた。目は鋭いが優しさも含まれている蒼色、整った顔、細身だけどよく鍛えられている肉体。
泥の中からサファイアという表現が理解できる。シンは女性憧れの騎士様と言ってもいいぐらいの外見だ・・。うわ、イケメン・・。
「なんだよ?」
シンは周りがじーっと見てたから不思議そうに聞いた。
「・・・いや、思ったより若くてかっこいいから。」
他に思い付かなかったから、素直な感想を言った。
「ふ〜ん・・・。」
その回答に対して、まんざらでもない感じだ。・・言われ慣れているのか?
! シンが突如まっすぐこっちを見た。何っ!? いきなり、びっくりした・・・。
シンはフッと口元が上がり、
「あらためて、半年間、よろしくな。相棒。」
笑顔でこっちに握手を求めるシンがいた。
・・・自分で言うのもなんだけど、苦しんでいるところに助けた貸しを返せと言った、自分自身でも非情と思う相手に笑顔で握手を求めるんだ・・。嫌味?
・・けれど、その笑顔があまりにもあっさりとまっすぐすぎて、何か暖かく感じる。
・・・たぶん、この人は損得とか打算をするタイプじゃないんだ・・。周りで、初めてかも・・?
・・ん、相棒というフレーズにも気恥ずかしさを感じるけど、とりあえず握手しなきゃっ!
知らず知らずにわずかに笑顔を浮かべて、その手を握り握手したらしい・・。
「・・・シン、よろしくね。」
その光景に周りのメイドたちが息を飲んで驚く。何で?
「どうしたの?」
「「「・・・・リース様が笑っていらっしゃる。」」」
・・・・私が笑うだけで、そんなに驚くこと?
皆にニコっと微笑んだ伯爵が、
「シンの書類を記入しなきゃならないから、2人きりにしてもらえるかな?。」
といい、私を含めた皆を部屋の外に出した。
「・・・・?」
何?
しばらくすると、シンが書類を手にして出てきた。病み上がりに申し訳なかったが、この話は避けられない。
「明日までの手続きだから、今日、魔法省に行けたら行きたいけど・・。」
恐る恐る聞いたら、
「ああ、いいぜ。」
あっさりと承諾してくれた。早歩きのシンを見て、改めてシンの回復力がすごさに気づいた。ただ解除した私でも疲労感が残っているのに・・。
伯爵に馬車の借用をお願いして乗り込む。シンはメイドさんからバスケット3つ分の食事を用意してもらっていた。どうやら、今まで痛みがひどくてまともな食事をしていなく、お腹が空いているらしい。シンはサンドイッチを嬉しそうに食べていた。
そのほのぼのした様子に、頑張って解除した甲斐があったなと心の中で思った。本当に良かった・・・。
「けど、なんていうか・・・お前、愛されてるな。大変そうだけど。」
シンがピクルスをつまみながら言った。
・・・待て。誰に? って一人しかいないか・・。
「それって伯爵のこと?」
少し嫌そうに聞いた。
「ああ。ありゃ、めんどくさいぞ・・。」
「”めんどくさがり伯爵”っていう異名があるもの。」
「ん?いや、”めんどくさがり”じゃなくて、人としてめんどくさい。」
・・・・きっぱりとそう言うけど、シンは伯爵と会ってまだ半日も経っていないよね?
私も伯爵が後見人になって7年の付き合いで、伯爵邸に部屋は与えられているけど、基本的に魔法学校の寄宿舎で過ごした。長期休みは伯爵邸にいたこともあったけど、読書に夢中で、伯爵とあまり交流していなかった・・・。
”めんどくさがり伯爵”は理解していたけど、”人としてめんどくさい”は考え付かなかった。・・・・確かに言えるかも・・・。
すぐに見抜くところを見ると、シンは鋭い観察眼があるのかな?
「”めんどくさい伯爵”から愛情をもらっているなんて・・・かわいそうだな。」
・・・・・っシン!!!
憐れみの目でこっちを見るシンに怒りが湧いたが、病み上がりの相手に拳を出せないので我慢した。