無理やりのパートナー 2
〜前回のあらすじを1文で〜
前にフェリン男爵の家で会った男をペアにすることにしたリースは、禁止術式の装置の解除に・・。
しばらく苦戦したが、禁止術式の装置の解除に成功した。男の様子は、解析している時には苦しそうに呼吸を乱して歯をくいしばっていたが、今は呼吸を落ち着かせるように、疲れ果てて寝ていた。
ふぅー、とりあえず安心。
これほどの解析と解除をしたことは生まれて初めてで、上手くいくか、男が耐えられるかが、不安だった。けど、男は苦痛を耐え抜いた。あとは、この男の体調を解析して整えなければならないが・・・もうその力が残っていない。
どうしよう・・・。
そうすると、この男の元々持つ体の回復力に任せることになるが、長い間、魔法具に繋がれていた体はボロボロなはずだ。男の顔を見ると、今までひどかったのだろう。目の下のクマや少しこけた頬などから疲労困憊状態であることがわかる。自力回復は無理そうだ・・。
早く医療魔法師に診てもらい、病院なり休めるところに行かなくては・・・。
けど、魔法は使い果たして、男の人を運べるような筋肉は持ってない。
どうしようか悩んでいた時、背後で蹄の音と馬車の音が止まった。
「あなたは若手の魔法士かしら・・・?どうしたの?」
振り返ると、馬車から栗色のきれいな女性の魔法師と黒髪のハンサムな騎士がこちらの様子を見ていた。
確か、この人たちは美男美女で有名なペアの先輩だ。
助けを求めるかどうか少し悩んだが、思い切って声を出した。
「魔法省の新人のリースと申します。この男性に禁忌の魔法具が着いていて解除したのですが・・・。」
体を診てもらえないでしょうか? と聞く前に、2人が素早く降りてきた。栗色の魔法師はすぐに男に魔法の杖を当てて、魔法で体の様子を診た。速いし、魔法の技術が高い・・。
黒髪の騎士が栗色の魔法師の後ろに立っていて、私に向かって話かけた。
「なぜこの男に魔法具が着いていた?」
あまりの行動の速さに呆気にとられたが、騎士の静かな質問に落ち着くように息を吐いてから答えた。
「この人、フェリン・・”魔法書禁止術式集2”の盗難事件の被害者です。」
「被害者全員保護したと聞いたが?」
「この人だけ残して、です。責任者なら事情を知っています。」
「・・・・そうか。」
黒髪の騎士の眉間の皺が寄った。
魔法省の責任者クラスなど魔法に深く携わる人たちは、魔法優劣主義がある人が多いから、騎士たちには嫌な存在なんだろう。
それでも、騎士としても魔法省の責任者クラスの人は仕事の上司にもなりゆるのだから、そんな露骨に反応しなくてもいいと思うが・・。
栗色の魔法師が息をふぅ〜っと吐いて魔法を止めた。
「・・・とりあえずは大丈夫でしょう。」
確かに、男の呼吸がさきほどよりも少し音がして、落ち着いている。
「ありがとうございます・・・。」
礼をしたけど、疲れてて顔を取り繕えなかったから、いつもの無表情と言われるよりも酷い表情かも?
栗色の魔法師は気にせずに笑顔で首を振った。
「いえ、この人の回復力がすごいのよ。」
「しかし、このままではまずいでしょう。ここでは休める場所がない。」
黒髪の騎士がそう呟いた。
・・・それなら、さらに、ご厚意に甘えさせてもらおう。
「あの、もしできたら、送って行って欲しいところがあるのですが・・・。」
*
先輩方のご厚意により、倒れたままの汚い男を伯爵の屋敷に連れて行った。馬車から降りて、黒髪の騎士が男を軽々とおんぶした。・・すごいな、体が鍛えて引き締まっているから、出来るんだね。
アフロのままの伯爵が外扉の前に仁王立ちで立っていた。
・・・・・・って。アフロのまま?
「まったく、随分大きな犬を拾って帰ってきたものですね。うちでは飼えません。外に放しておきなさい。」
アフロにか、その言葉にか、どちらかにはわからないが、黒髪の騎士と栗色の魔法師は吹き出しそうになったが堪えている。
「この前の事件の被害者で、ペアを約束したの。ペアができたら、最初に会わせるって言ったでしょ。」
そう言うと、伯爵は驚いた様子だった。・・言い出したのはそっちでしょ・・・?
しばらくの間のあと、
「・・仕方ありませんね。客室に寝かせていいですよ。」
伯爵が執事やメイドに目配せをした。執事に一礼をされた後に客室に通された。シワもシミもないきれいなベットに汚いままの男を寝させるとメイドさんたちに申し訳なかったが、騎士は気にせずにそのまま男を寝かせた。・・後で謝ろっ。
一度も目を覚ましていないが、男の顔色は先ほどよりもずっといい。だから、それで先まで思わなかったことが・・つまり、
この人、顔立ちはいいんだ・・・。
栗色の魔法師がベットに座り、再度、魔法で体をチェックした。
「安定している・・。あとは目を覚ましたら、栄養のあるものを食べて、休養すれば大丈夫よ。」
といい笑顔で頷いた。良かった・・。
「けれど・・この生命力の強さに・・ハンサムな顔立ち・・・・素敵・・・・・。」
そう言って、栗色の魔法師の手が眠っている男のボロボロのシャツの中にすっと入った。
え・・?診査は終わったよね・・?
栗色の魔法師は、明らかに、頬は赤くなり、うっとりと男の寝顔を見ていた。って、何しているの!?
「リラン嬢。ここは私の屋敷なのだが・・・?」
伯爵は笑顔を浮かべながら、けれど威圧感を出して言った。
その言葉に、リランと呼ばれた栗色の魔法師はビクッと肩を震わせて、手を引っ込めた。黒髪の騎士も眉間に皺をよせて栗色の魔法師を睨んでいる。栗色の魔法師はバツが悪そうにした。
「ごめんなさい。私・・これで失礼しますわ。」
礼をして早歩きで部屋を出ていった栗色の魔法師。
それに対して、黒髪の騎士は彼女の去った方向を見たままため息をついて、伯爵と私に一礼ずつして静かに部屋を出た・・。
「・・・なんだったの?」
思わず伯爵に聞いた。
「さあ、なんだったのだろうね。」
伯爵にはぐらかされたとわかったので、伯爵を睨んだ。
「なんでアフロのままなの?もう直しているのかと思ったのに。」
「リースからの初ヘアアレンジだもの。それに直すのめんどくさい。」
「・・・・・・。」
どう反応すればいいのか困った・・・。